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アクアの食堂にアーパス顕現

「ね~、これは?」


と何度も聞きにくるウェンディ。2つ持ってきて並べられても違いがよくわからん。


アクアの服はウラウドと違ってカラフルなので気に入る服がたくさんあるようで二人ともご機嫌で選んでいる。ヘスティアは自分の事が店員に見えるのが嬉しいのか、やめろよぉとか店員さんのお褒めの言葉にテレテレしていた。頼むから熱を発して商品を燃やさないでくれよ。


そして夕暮れになってやっとお会計。


「〆て金貨3枚と銀貨は・・・おまけしちゃいますっ」


この店は貴族向けの服屋ではない。そこそこ高級ではあるが庶民向けの店なのだ。どんだけ買ったんだお前ら?


ホクホク顔の店員さんは銀貨分数枚をおまけしてくれた。


ヘスティアにこの店で着替えろと言って着て来たのは赤地に細かく色鮮やかな模様が入ったワンピース。エロい服はやめろといったのに胸元を強調するかのようなデザインだ。ウェンディは青系にカラフルな模様が入ったワンピースで淡い青のボレロみたいなのが付いたタイプ。まぁ、服の事はわからんがよく似合ってはいる。


他の服は全部アイテムバッグにしまって店をでた。恐らく二人が身に付けている高価な宝石を見て何でも買うと値踏みされたのだろう。太っ腹な旦那様で幸せな奥様達ですねとか言われたから二人共奥さんか婚約者かと思われたのかもしれない。薬指に指輪はめてるからな。


どこの成金だ俺は?



晩飯を食うことになり、サカキ達を呼び出す。


「ここはどんな酒が名産なんだろうな?」


「さぁな」


「へぇ、セイが服を選んでやったのかい?よく似合ってるじゃないか。これならあたしがこれから付きそう必要はないさね」


さらっと次からも付き添わないよと言うタマモ。




晩飯は小綺麗な店を選んで入り、メニューを見ていくと結構海鮮料理がある。近くに海があるのかもしれない。


カルパッチョって生魚かな?料理の名前はよく知らないので適当に頼んでいく事に。



酒はワインがメインで蒸留酒もあるようだ。丁寧に酒の強さとか甘口とか辛口とかも書いてくれてある。ちょっとこの甘口のシャンパンを飲んでみよう。


「えっ?セイも飲むの?」


ウェンディがビクッとして嫌そうな顔をする。


「うん、二十歳過ぎたからね。少し飲んでみようかと思って」


お盆生まれのセイは少し前に二十歳になっていた。


「そういや、セイの誕生日過ぎちまったじゃないか。お祝いしてやろうと思ってたのにうっかりしちまってたよ」


「いいよお祝いなんて」


「何を言ってるんだぃ?人生区切の日だろ。少し遅れちまったけどお祝いにするさね。砂婆も出て来な」


とタマモが砂婆も呼び、店の人にケーキを頼んだ。


そしてハッピーバースデーを歌ってくれるタマモ。他のメンバー達はそんな歌を知らないのでタマモの独唱だ。


そしてセイはケーキのロウソクの火を吹き消さされた。


「セイ、おめでとうっ!大人になったセイにかんぱーい」


なんか照れくさいけどこういうのは嬉しいものだ。そして、他の客からさっきの歌はなんだとか何してんだ?とか声をかけられる。この街の人達はどうやら気さくにこうやって声を掛けてける文化のようだ。


タマモが男達に囲まれてこれは誕生日を祝う歌だと教えると楽器を持った人達も集まって来てゴニョゴニョしたあと、演奏付きの大合唱となった。


照れくさいのを通り越してもう恥ずかしい。


「ほら、こんな綺麗所に囲まれた幸せなあんちゃん、一緒に飲もうぜ」


と見知らぬ人に肩を組まれて飲まされるハメに。


「ちょっ、ちょっと」


グビビビビっ


「俺は酒はそんなに飲めっ」


グビビビビっ


ほらほらっと飲まされるセイ。初めは抵抗していたが甘めのシャンパンはとても美味しく、抵抗せずに自ら飲むようになったセイ。


「タマモ、暴れたらお前のせいだからな。ちゃんと面倒みろよ」


「わかってるさね」


楽しそうに飲んで見知らぬ人と肩を組んで知らない歌を一緒に歌い出したセイを見てタマモは目を細めて微笑んだ。あのセイが見知らぬ人間とこんなに打ち解ける日が来るなんてねぇと思っていたのだ。


「お嬢さん、僕と踊りましょう」


と、ヘスティアの手を持った若い男。


「お、俺様が踊んのか?」


「そうですよフロイライン、さっ」


そしてウェンディも手を取られて連れて行かれる。タマモは男達を警戒したが、別に悪さをするわけでもなく単に踊っているだけだ。女好きそうだけど無理矢理なんかする感じではなく、ちゃんと女性を丁寧に扱っていた。


「おにーさん、私と踊ろう」


そしてセイも若い女の子に手を取られる。


「俺は踊りなんか知らないぞ」


「いいからいいから。こうやって手を繋いで適当にフンフンと動いているだけでいいから」


セイは言われるがままになり、くるくると回され酔いも回っていく。


そしてサカキやクラマも少し年配の女性に誘われて踊らされた。タマモには男達がズラッと並ぶ。


「私とご一緒しませんか?」


と砂婆も老紳士に手を取られた。ぬーちゃんも踊らされている。ぬーちゃんは器用に後ろ足だけで立って踊るので男女問わず人気だった。着ぐるみと踊るような感覚なのだろう。


しばらくそれが続いたあとまた飲み会に戻る。


「あんちゃん、外国から来たんだろ?どっからだ?」


「アネモスからだよ」


「アネモスーーっ?」×たくさん


「随分と遠い所から来たんだな。アネモスってどんな国なんだ?」


皆は外国の話に興味津々で聞きにきた。そしてアネモスやボッケーノの話と神の加護の話をする。


「へぇっ、神の加護ってそういうもんだったのか」


「アクアの加護は雨みたいだね」


「おー、延々と降ったり全然振らなかったりとか気まぐれな神さんでよ」


「あなた達がそう望むから」


「わっ」


いきなりセイの横にウェンディサイズのオカッパの女の子が座ってそう言った。


「ゲッ、アーパス」


ヘスティアがその少女を見てそう叫んだ。


「あんた、何しに来たの?勝手に人のとこに来ちゃダメなはずじゃない」


淡々と無表情で話す少女はどうやら水の神様アーパスのようだ。通称ウジ神様。


「わ、悪かったよ。もうアクアに入ってるの知らなくてよ、罰がなんか知らねぇけど天界に帰れねぇんだよ。この通り力も落ちてて皆にも見えてるみてぇだしよ」


こっちの会話にざわつく店の人達。


「あ、あんちゃん。アネモスではこういう芝居とか人をからかったりするのが普通なのか?」


(アーパス、お前がここにいるのを皆に言ってもいいのか?)

(どうせ誰にも見えないし声も聞こえないから大丈夫)


「あー、今ここに水の神様のアーパスが顕現したんだ。皆には見えてないだろうけど」


「うっ、嘘だろ?」


「いやマジで。小柄でおかっぱの女の子だよ」


まるでスズちゃんみたいな見た目だ。だからなんかとても懐かしい気がして思わずセイはかまってしまう。


「アーパス、なんか食べるか?」


「何それ?」


「これはカルパッチョだったかな。魚にオリーブオイルと塩で味付けされてる」


「食べたことない」


「天の実ぐらいしか食べたことないだろ?気持ち悪かったらペッてしていいから。それともこっちのフライを食べてみるか?」


なんとなくスズちゃんと接しているような気になったセイは水の神様に食べ物を勧めてみた。


「どうやって食べるの?」


「口に入れるだけだよ」


そう言うと口を開けたのでまずはエビフライを口に入れてみる。


「美味しい」


セイがフォークで指したエビフライが宙で消えた事に固まる店の人達。


そしてアーパスはカルパッチョや他のフライも食べて、セイが飲んでいた甘口のシャンパンも飲んだ。


「外界の食べ物ってこんなのだったのね。皆ズルい」


「お、おいあんちゃん。本当にそこにアーパス様がいるのかよ?」


「いるよ。実はそこのウェンディは風の神様、そっちのヘスティアは火の神様なんだよ。二人はいま力が落ちてて皆にも見えてるけど、アーパスは見えないだろ?俺たちは二人の力を取り戻す為に何か情報がないかアクアまで調べに来たんだよ」


「あんちゃんは何者だ・・・?」


「冒険者だ。元々はウェンディの力を取り戻す為になったんだよ。ちょっとヘマしてヘスティアの力まで落としちゃったからダメな冒険者だよ」


「そんなことを言うなよ。俺様が悪かっただけなんだからよぉ」


「ヘスティア、今ボッケーノにドラゴンが出たらどうすんだよ?」


「セイがなんとかすりゃ済む話だろ?俺様は人間がどうにも出来なくなったときに噴火させなきゃなんねぇけど、なんとか出来るならする必要ねぇだろ?」


「なら、俺達が戦えなくなるまでにヘスティアの力を戻す方法を見つけにゃならんな」


「おうっ」


「あ、あんちゃん、ドラゴンをどうにかするってなんの話だ?」


「魔物ってね、神の加護が無いとどんどん強い魔物が出てくるんだよ。ヘスティアの加護は火山の噴火でね、ドラゴンを全滅させるだけの威力があるんだ。その威力のせいで人間も巻き添えを食うから、ぎりぎりまで噴火を起こせないんだって。アクアはアーパスが頻繁に加護の雨を降らせているからそんなに強い魔物が出てないんじゃないか?」


「た、確かに。人間がどうにもならないような魔物なんて出たことはねぇ」


「それ、アーパスが頑張って加護の雨を降らせていてくれているお陰だからな。雨は時に水害をもたらすけど、神のせいにすんなよ。それがなかったらもっと大きな被害が出るんだから」


「そ、そうなのかよ・・・」


「嬉しい」


そう呟いたアーパスはセイの手を握った。


「あなた私の眷族になって」


「ご、ごめんね。俺はウェンディと契約してるから」


「そうよっ。セイは私の下僕なのよっ」


「落ちこぼれは黙ってて」


「キィーーーーッ」


「おいおい、黙って聞いてりゃセイを独り占めしようとしやがって」


「落ちこぼれは黙ってて」


「なんだとーーっ」


あー、またややこしくなってきたな。


ざわつく店内と、女神同士で一触即発になりかけているこの現状をどうしたもんかとセイは二日酔いの様に頭が痛くなったのであった。





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