エロい目
虫の魔物の巣窟という場所だけあってワラワラ出て来てたくさんムカデの素材が集まった。朝になってクラマが出て来て、向こうの穴から嫌な空気が流れ出てくると言ったから巣なのだろう。ムカデの魔物は危険かもしれないけど、貴重な素材を落とすみたいだから巣もそのままにしておいた。
そしてゆっくり目にぬーちゃんが駆けて半日ほどでアクアの王都らしきところが見えた。今までの街より遥かに大きいから間違い無いだろう。
門に並ぶ行列も長い。ボッケーノに入る時みたいに揉め事もごめんなのでぬーちゃんをひょうたんに帰らせ、ウェンディとヘスティアの3人で並ぶ。
なんかヒソヒソ言われているけど無視だ。
「もう立ってるの疲れた」
「どうしようもないだろ?」
「俺様も身体が重くて疲れたぞ」
ヘスティアは前みたいにずっと宙に浮いていられないようで、普通に立っていた。
「もう少しだから我慢しろ」
行列が全く動かないなら座ってもいいけどゆっくりと進むからそれも出来ずに動いていく。
「おんぶ」
「無理だ。このクソ暑いのにおんぶなんか出来るか」
ブラックドラゴンのマントは遮熱効果があるので、日傘代わりにウェンディと自分の上で日陰を作っているが、ムワッとした湿気はなんともならない。そんな所にウェンディをおんぶしたら背中がえらいことになりそうだ。
ぶーたれるウェンディにうるさいと言いながらようやく順番が来た。
自分の冒険者証とウェンディの冒険者証を出す。
「もう一人分はどうした?」
え?
「そっちの半裸の奴の分だ。幼女と娼婦連れとか何もんだお前?」
「もしかしてこの娘の事が見えてる?」
「当たり前だろうが。お前ら怪しいな?まさか奴隷商じゃないだろうな?こっちへ来いっ」
また犯罪者扱いされて別室に。
「お、オイ、コイツらみんな俺様の事を見てんぞ?」
「お前、降格して皆から観える様になったみたいだぞ。みんなエロい目で見てるだろうが」
そう言うと真っ赤になって胸を腕で隠すヘスティア。
「エロい目で見んなっ」
「俺じゃないよ。他の男達だ。なんかチラ見されてると思ったらお前の事が見えてたんだよ」
それにしても娼婦と間違われるとか酷いな。
「マントの前を止めとけ」
ヘスティアが慌ててマントの前を閉めるとチッと舌打ちする男達。しかし、改めて見ると半裸にマントって痴女みたいだな。
「ヘスティア、ここを出たら服に着替えろ」
「わ、わかったよ」
冒険者証に犯罪歴が無いことを確認された後に何も持ってないヘスティアが疑われる。
「こいつは何者だ?なぜ身分証明書を何も持っていない?」
と聞かれても説明が出来ない。神様だと説明しても信じないだろう。
「俺の仲間だ。身分証明は途中で落としたみたいだ。こいつはボッケーノの住民だ。俺とウェンディはアネモスからボッケーノ経由でウラウドを通ってここまで来た。別に怪しいものじゃない」
「怪しい人奴はみなそう言うのだ」
はぁ、仕方が無い。身分を楯にとるか。マモンが特別ランクにしてくれたのはこういう時の為でもあるんだな。気遣いに感謝だ。
「門番さん、職務を全うしているのは理解している。が、これ以上失礼な扱いをするならそれ相応の対応をさせてもらう。俺の冒険者証を裏面もよく確認して、意味が分からなかったら冒険者ギルドに確認しろ」
「なんだと?」
「いいから。俺のことをよく確認せずに追い返した門番とかどうなったか聞きたいか?お前の家族達が露頭に迷う羽目になるぞ」
そう凄んだら誰かが確認しにいったようだ。
待っている間は暇なので、アイテムボックスを探すとお菓子が出てきたのでウェンディとヘスティアに食べさせる。
「お茶飲みたい」
「水ならあるぞ」
「お茶が飲みたいのっ」
仕方が無いので水筒の水を急須に入れて狐火で沸かすことに。直で炙って割れないだろうか?
「俺様が沸かしてやろうか?」
「こんな細かいのもできるのか?」
「当たり前だろ」
と、急須の中の水を瞬時に沸かしてくれた。あっという間にすぐに沸くヘスティア♪ってやつだ。
二人にお茶を入れて自分は冷たい水を飲むことに。
「お水頂戴」
ウェンディとヘスティアは結局冷たい水を飲んだ。なんのためにお茶を淹れさせたのだ?
水筒の浄化を切ってお茶を入れて冷えたお茶を飲もうとしたらそれも取られた。
まだ待たされるみたいなので、ヘスティアが買った服を出して着替えさせる事に。しかし、ニット服、ブラウス、Tシャツ。何を着せても胸が強調されてエロい目で見られそうだ。
「なっ、なんだよ?」
「お前、何着てもエロいな」
「そんな目で見んなっ」
「中に入ったらエロくない服を買え」
何を着せてもそう見えてしまうのでマントで痴女スタイルに戻した。
そしてようやく確認が終わったようで俺を見張っていた門番が青ざめた。
「誠に申し訳ございませんでしたっ」
「俺はいいけど、ヘスティアを娼婦扱いしたことを謝って。そうしないとバチ当たんぞ」
「お連れ様。大変申し訳ございませんでした」
ちゃんとごめんなさいができたので不問にして中に入った。
「セイ、娼婦ってなんだ?」
「知らなくていいよ」
多分門番は娼婦ではなく愛人かなんかと理解したのかもしれないことも黙っておく。
結局入国料金も払ってないけどまぁいいか。しかし、ガイヤでも同じ事になるかもしれないので、とりあえず中央の冒険者ギルドに行ってヘスティアも登録してしまおう。
「すいません」
「はい、受注ですがご依頼ですか?」
「いや、一人メンバーを追加したくてね。これは俺の冒険者証、で追加はこっち。初登録だから」
流石に受付はGランクの事を知っていたようで走ってギルマスを呼びに行ったのだろう。
「お前が特別ランクのセイか?いいところに来てくれた」
「俺は依頼を受けに来たんじゃないよ。登録をしに・・・」
「強壮剤を捕ってきてくれんか」
「それ、シーバスってSランクの人達が明日あたりに持ってくるよ」
「なに?」
「昨日そいつらとあって強壮剤持ってたから。明後日にここで待ち合わせしてんだよ」
「フィッシャーズと会ったのか?」
「フィッシャーズ?」
「シーバスのパーティ名だ。アクア唯一のSランクパーティだ」
「パーティ名まで聞いてなかったわ。そんなに急いでんの?」
「ポーションが出来るまでに3日はかかる。お偉いさんの娘がヤバいから少しでも早くポーションが必要なんだ」
「全くないの?」
「重症だからキツイ奴を特別に作らにゃならんのだ」
(ギルマス)
(なんだ?)
(出処を秘密にできる?)
(なんのだ?)
(多分俺の持ってる薬なら治る)
(なんだと?)
(内緒に出来るなら薬をあげる)
(それは本当か?)
(疑うなら別にいいけど)
(いや、頼む。本当に生きるか死ぬかの間際なんだ)
(じゃ、これ。10粒入ってる。一つで効くと思うから。残りは他の人がいざという時に使ってくれたらいい。口に含んでぷちって潰せばいいら)
ギルマスはケースを開ける。
(宝石か?)
(ポーションだよ。詮索は無用。さ、早く持って行って。明後日また来るから)
そう言うとギルマスは明後日に待っていると走って行った。
ヘスティアの冒険者証を作ってもらって銀貨1枚のお支払い。受付の人に風呂付きの宿を紹介してもらって移動した。
アクアは水の街。街中に水路が張り巡らされ、そこをゴンドラが行き来している。テレビで見た外国の街中のようだ。
「あれに乗ってみる?」
「うんっ」
ウェンディとヘスティアが返事をしたので宿に行けるかどうか聞いてみると、直接フロントロビーまで行けるとのこと。ゴンドラの人はウェンディとヘスティアの手をとって乗せてくれたがべたべたと肩とか触るんじゃないぞこら。
ゴンドラは思ったより安くてチップ込みで銅貨30枚を支払った。
宿のフロントまで続く水路から入り、取り敢えず3日分予約。ツインを二部屋取ろうとすると混んでいるらしくダブルが一部屋しか取れないとのこと。しかもかなりいい部屋で一泊銀貨10枚だ。
「そこ3人で泊まってもいいの?」
「はい、エクストラベッドを入れますので」
「じゃ、そこをお願い」
同じ部屋でまずいかな?とか思ったけどテントで一緒に寝ているから今更だな。
部屋に入るとウェンディが好きそうな可愛くてカラフルな部屋だ。予想通り私ここーっとか一つしかないベッドにポンポン跳ねている。エクストラベッドは後から入れてくれるのだろう。
見習いですらなくなったかもとあんなに落ち込んでいたのに、記憶回路に異常があるやつは幸せだな。
「じゃ、服を買いに行くか。タマモー、タマモー」
何回呼んでも出て来てくれないタマモ。お前が行けという事なのだろう。
仕方が無いのでうんざりする服選びに行くセイなのであった。
「ヘスティア、エロくないのにしろよ」
「わかってるよっ」
「長いスカートだぞ。生足見せてたら皆にエロい目で見られるぞ」
「いちいちうるさいなっ」
しつこく小姑の様に言うセイをうっとおしがったヘスティアはあっちに行ってろとセイを追い払った。これはセイの作戦勝ちである。
セイは疲れた男性客用に用意されている机と椅子のあるところで魔物図鑑を確認することにした。素材をリスト化してあるのと、イラストがあるものは討伐済なのだ。
後はトンボみたいなのとセミみたいなのが各種だな。難しそうなのはナナフシみたいなやつか。擬態されていると探すの面倒だな。襲って来るやつは鬼蜘蛛の巣で簡単に捕まえられるんだけどな。
どうやら魔物は人を襲って来ないのもいるみたいだから、本当に単なるデカい虫で死んだらアイテムに変わる為の存在みたいだ。この世界を作った大神は何を目的として魔物というものを作ったのだろうか?
はて?そう疑問に思い出したらとても不思議になってきたセイなのであった。