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「キャーハッハッハッ。あんたも見習いになったの?おっかしーっ」


「うるせえっ」


鬼かお前は?人の不幸を喜ぶな。


ウェンディはヘスティアが天界に戻れなくなった事を喜んだ。落ちこぼれ仲間が増えたのだ。


「あなたが火の神様ヘスティアね?」


「そうだ」


ウンディーネがヘスティアにそう聞くとぶっきらぼうに答えるヘスティア。


「違うわよ。元神様よ。きゃーはっはっはっ」


「なんだとーっ」


ウェンディとヘスティアはギャーギャー言い合いを始めた。久しぶりのバトルだ。


「離れろ離れろ。この辺火の竜巻でボロボロになるぞ」


と、皆で退避すると火柱だけが上がり、暴風が吹かない。風は出ているようだけど暴風までにならないのだ。


セイは慌ててウェンディの所に戻った。


「どうしたウェンディ?どっか悪いのか?」


「あ、あれ?」


「どうした?」


「風が思ったように出ないの」


嘘だろ・・・


そういえば最近ウェンディは怒ったり、パニックになっても暴風を出していない。全部グーで攻撃してきていた。


「お前、まさか見習いですらなくなったんじゃないだろうな?」


そう言うとサーっと青ざめるウェンディ。


それを見てセイも青ざめる。これではアネモスの信仰心が戻ったとしても加護の風を吹かせる事が出来ない。


「ど、どうしよう・・・」


ウェンディはさっきまで天界に帰れなくなったヘスティアを仲間になったと喜んで大笑いしていたが、今度は自分が見習いですらなくなってしまったのではないかと泣き出した。


「セイ、私、見習いですらなくなっちゃったぁ」


そう言ってセイに頭をくっつけて泣くウェンディ。


「すまん、俺の力が足りないばっかりに」


セイは自分を責めた。まさか、見習いからまだ下に落ちるとは夢にも思ってみなかったのだ。こんな事ならもっと急いで神に戻す事に専念すれば良かったと。


「どうしよう、どうしよう」


セイの胸に身体を預けて泣くウェンディ。


ウェンディはもしかしたら普通の女の子になってしまったのかもしれない。これでは自分も元の世界に帰る事は出来ないだろう。もし帰れる事になったとしてもこんな何も出来ないやつが普通の女の子になったら一人で生きていけるわけがない。


「大丈夫だ。俺がずっとお前を守って生きていくから」


お互いの寿命がどうなるかまではわからない。自分が先に老いて死ぬようならサカキ達に託すしかない。それまではずっとこの世界でウェンディを守ると心に誓ったセイ。


「ぐすっぐすっ。本当?そんな契約してないわよ」


「これは契約じゃない。約束だ」


そう言ってウェンディを抱き締めたセイ。ウェンディも抵抗せずにセイに抱きしめられていた。


「おーいっ。俺様の事はどうすんだよっ」


「ヘスティアはまだ間に合うかもしれない。神に戻せる方法がアクアかガイヤの教会に残ってるかもしれないから先を急ごう」


皆をひょうたんに戻らせ、アクアの王都に向かうことに。


「ウンディーネ、またな」


「どこに行くの?」


「アクア王都の教会だよ」


「ふふっ、じゃあ私は先に行ってるわね。国の中央に噴水があってそこに教会があるからそこで待ってるわ」


と、言ってスッと湖に消えていった。イフリートみたいな瞬間移動なのだろう。


ぬーちゃんに乗ったウェンディは不安なのかセイの背中にぎゅうっとしがみついたままだ。


「よぅ、ウェンディだけずっと守ってやるとかなんなんだよ?」


前に乗っているヘスティアが拗ねる。


「お前はボッケーノでちゃんと信仰されてんだろうが。無断で他の神のテリトリーに入ったペナルティだとすればそれの許しが出たら神に戻れる可能性が高いだろ?ウェンディは能力すら使えなくなったんだぞ」


「チェッ。俺様も一生守ってやるとか言ってくれよ。ウェンディだけズルいぞ」


「俺の一生なんてあっという間だろうが。お前も神に戻す手立ては探してやるから」


こうしてセイ達は大急ぎでアクアの王都に向かったのであった。


「今日は辿り着けなかったな。思ってたより遠いわ」


流石に2番目に古い国だけあって広大な領地を持つ国のようで、ここに来るまでいくつもの街があったが、王都ではなさそうだったのだ。



今日の到着は諦めて森の中に降りて野営をすることに。しかし、ウェンディは暗く沈んだままだ。


飯の時にサカキ達にからかわれても怒ったりせずにぐすっと泣きべそをかいてセイにしがみつく。


「サカキ、やめとけ。冗談で済まない状況なんだぞ」


「そう言ったってよ、今までとなんにも変わんねぇじゃねーか。それにセイも覚悟を決めたんだろ?」


「覚悟?」


「ウェンディにプロポーズしたじゃねーかよ?」


は?


「プロポーズ?」


「一生守ってやるとか言ったろ?あれがプロポーズでなくてなんだってんだよ?」


「ちっ、違っ。あれはプロポーズじゃないっ」


確かに守るとは言ったが結婚してくれとかの意味ではない。


「あんた、わたしと結婚するつもりだったの?」


「ちっ、違うっ。人間と神の結婚なんてあるわけないだろうがっ」


「神じゃなくなったかもしれないじゃない」


「そ、そうだけどっ。そうだけど、そういう意味じゃないって」


慌てふためくセイをクスクスと笑って見ているタマモ。


「サカキ、あんまりからかうんじゃないよ。ウェンディが本気にしたらどうするさね?」


「まぁ、別にいいんじゃねぇのか?ウェンディが本当に人間みたいになったのならな。ウェンディなら何があってもセイを見る目は変わらんだろ」


「それはそうかもなしれないねぇ。あの娘は良くも悪くもセイを怖がったりしないだろうからね。しかし、元神とくっつくとか笑えるねぇ。あたしゃリタあたりとくっついてくれりゃいいと思ってたんだけどね」


「サカキもタマモもいい加減にしろよ。俺はこんな幼児にそんな気なんてなんにもないんだから」


そう言った瞬間にゴスっとウェンディにグーでいかれたのだった。


痛いより、少し元気が戻ったウェンディにホッとするしたセイだった。



今夜も鬼蜘蛛に巣を張ってもらって寝ることにした。


そして、夜中に何か大きなものが巣に掛かったようで鬼蜘蛛が動いた気配で目が覚める。


「どうした?」


んー、ンー、とうめき声がいくつかする。

初めは動物か大きな魔物がかかったかと思って見に行くと既に蜘蛛の巣に雁字搦めにされて何かわからないのが6つ。


「鬼蜘蛛、巣を切るぞ」


と断ってナイフに妖力を少し込めて雁字搦めの巣を切っていくと人だった。


「この魔物めっ」


巣から出ると同時に鬼蜘蛛を攻撃しようとしたので下っ腹を殴って気絶させた。杖を持っているから魔法使いだな。他の塊も冒険者達だろう。


「おい、今から助けてやるけど俺たちは敵じゃない。いきなり攻撃するようならこちらも攻撃する。何もしないならこちらも何もしない」


そう声を掛けてから鬼蜘蛛を下がらせて顔のあたりを切った。


「お前は誰だ?」


「俺は冒険者のセイだ。お前らも冒険者だな?攻撃してこないと約束できるか?」


「これは魔物の仕業じゃないのか?」


「俺の仲間に虫の魔物の捕獲をさせていた所にお前らが掛かったんだ。あいつもお前らをとって食ったりしない。巣を外しに来ただけだ」


「ツバスをどうした?」


「あの魔法使いのことか?俺の仲間をいきなり攻撃しようとしたから気絶させた。後で回復薬を飲ませるから問題ない」


「殺したんじゃないんだな?」


「ちゃんと生きてるぞ。で、お前らは何もんだ?」


「俺はシーバス。アクアのSランク冒険者だ」


へぇっ。Sなんだ。通りで巣を外した後の行動が早いと思った。


まずシーバスと名乗った男を外して、次にダーツ(男)、パールフ(女)、ガッシー(男)、チーヌ(男)を救出した。


ツバスという女魔法使いに万能薬を含ませ、顎を下から押してプチッとする。


「もうすぐ目を覚ますと思うから心配すんな」


「おい、なんでこんな危険な所で野営なんかしてやがったんだ?」


ダーツと名乗った男が突っ掛かってくる。


「ここは危険なのか?」


「当たり前だ。虫の魔物の巣窟なんだぞっ」


「お前らは素材を取りに来たのか?」


「そうだ。夜行性の魔物の採集依頼を受けて来た」


「なんの魔物?」


と、図鑑を出して教えてもらう。これか・・・


シーバスが指を指したのは大きなムカデの魔物だった。ハンドレッドレッグ。なるほど百足か。そのまんまだな。えーっと、捕れるのは、毒袋、牙、強壮剤?


「なんのアイテムが必要なの?」


「強壮剤だ。いまアクアで病が流行っていてな。そのポーションを作る材料になるんだ。しかし、お前魔物図鑑を個人で持ち歩いてんのか?」


「ポーション研究者に素材収集受けてるから調べながらやらないとダメなんだよ。虫の魔物って図鑑とちょっと違ったりするからどれが正解かよくわからないんだよね」


と九十九神のスケッチを見せて図鑑と見比べて貰う。


「なんだよこの精巧な絵は?」


「こういうのが得意な仲間がいてね。ある程度溜まったらガイアの本部で図鑑の改定をする予定にしているから。ここで知ってる情報があれば教えてくれよ。虫の魔物はよく知らなくてね」


そう言っている時に大物が掛かったようだ。


そこに行くと長くて巨大な塊が動いている。少し切って確認するとムカデの足が見えた。


「これ、ハンドレッドレッグ?」


「そうだ」


「じゃ、殺すのちょっと待ってね。スケッチしてもらうから。おーいぬーちゃん。ごめんね起きてこいつを眠らせて」


寝ているぬーちゃんを起こして痺れ毒で眠らせてから巣を切っていく。その様子をSランクパーティ達が目を丸くして見ていた。


九十九神に隅々までスケッチしてもらって完了。


「もう討伐していい?」


「あっ、ああ」


ナイフで頭を刺すと毒袋みたいなのに変わった。


「これ毒?それとも強壮剤?」


「それは当たりの強壮剤だ。こんなにでかいやつは久しぶりだから強壮剤もたくさん取れたぞ」


「大きさも色々あるんだね。じゃ、はい」


「えっ?」


「これ捕りに来たんでしょ?だからはい」


「おっ、お前これ高くで売れるんだぞ。倒したのはお前だろうが」


「アクアで薬が必要なんでしょ?俺の取集依頼リストに乗ってないからいいよ。持って行って」


「仮にも俺たちはSランクだ。見知らぬ格下の冒険者にただで獲物を譲ってもらうわけにはいかん」


「そう?なら俺たちもアクアに行くから後で虫の魔物の情報を頂戴。金より情報の方が嬉しいから。それとアクアの王都まであとどれぐらいあるの?」


「俺たちなら走って2日って所だ」


「了解。じゃ、3日後にギルドで待ち合わせでいいかな?それともまだ採集するの?」


「いや、今回はこれだけあれば大丈夫だ。それより本当に3日後に来れるのか?俺たちですら最短で2日は掛かるんだぞ」


「大丈夫。アクアの冒険者ギルドっていくつかある?」


「あぁ、王都には5箇所ある。王都の中央ギルドに来てくれ」


「了解。じゃ、3日後ね」


回復したツバスを連れて訝しがりながらもシーバス達は闇に消えて行った。確かに人間離れした速さだなあいつら。



そうこうしているうちにどんどんムカデらしきものが巣に掛かる。狐火の明かりに寄ってくるのだろうか?


それをせっせと討伐してアイテムを回収していくのであった。






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