ウラウドからアクアへ
ねぼすけ二人組を叩き起こす。今日はチェックアウトしないといけないからだ。
ウェンディとヘスティアを二人もおぶれないというのに起きやがらん。ぬーちゃんは宿では猫サイズのままにしてある。他の客が驚いて騒ぎになるからだ。
どーするよこれ?
仕方が無い。抱っこ紐の出番だ。
ウェンディを抱っこするわけにはいかない。人から見えてるから、こんなのを抱っこしてたらなんだコイツら?と思われてしまうのでウェンディはおんぶ。それでもなんだコイツ?とは思われるだろうけど。
人から見えないヘスティアを抱っこするが前を向かせると抱っこ紐があっても不安定だし、見た目に宜しくない。
仕方がなく、前向きに抱きつかせて紐で固定する。人前で半裸の女の子を縛って抱きつかせるなんてことをさせるなよ。
ウェンディをおんぶすると右肩にウェンディの顔、左肩にヘスティアの顔が乗っているので自分がキングギドラになった気分だ。
チェックアウトして離れた場所でいつものぬーちゃんに戻って貰い、まずウェンディを荷物のように乗せる。ヘスティアの抱っこ紐を外しておんぶに切り替えた。
「セイー、お腹空いたー」
朝飯食ってないからな。
「タコスでも食べる?」
食べ納めというやつだ。
「うーん」
昨日行ったタコス屋で2つというと、俺様も食う、私も食うだと。いつ起きた?
タコスを4つにしてもらって朝飯だ。朝に合わせているのかさっぱり系のタコス。柑橘系の果汁が爽やかだ。
「肉食べたい」
確かにこれ野菜ばっかだしな。
「おっちゃん、肉入りのある?」
「そいつぁ、昼からだな」
仕方が無いので肉を出して炙っていく事に。
「お代わりっ」
とウェンディ達も言うのでタコス3つ追加。そこに肉を乗せてやった。そしたら何回お代わりすんだよお前等?というぐらい追加で頼んでは肉を乗せたのであった。
冒険者ギルドに行くと賊を乗せた荷馬車が待っていた。俺を見るなりカタカタと身を寄せ合って震える賊達。
「もう一人にも会わせてやろうか?」
とサカキを呼ぼうとすると凄い勢いで首を横に振る。
「ハバロイ、この捕縛してあるの解いていいか?」
「あぁ、頼む」
その様子を見ていたハバロイに聞いてから術を解いた。
「ギルマスが部屋で待ってる・・・」
「了解」
そう返事して中に入るとギルマスの部屋に通された。
「セイ、コイツは賊と無関係だということにしておく」
「そうなんだ。まぁ、それはこの国の人が決めてくれたらいいよ。どこまで悪いことをしたのかも知らないし」
「こいつはギルド職員にして働かせることにしたからな」
「この度はありがとうございました。セイさんが特別配慮をして下さったそうで」
「今回は犯罪者として囚えない事になったみたいだけど、罪を犯したことはなんか代わりで償えよ」
「わかってます。毒の予防薬をここで作って恩返しをしていきたいと思います。償いは休みの日に畑作業を手伝っていきます」
「そうか。お前の能力は人を困らせるんじゃなくて喜ばすのに使え。料理屋とかのGを追い出すとかも喜ばれると思うぞ」
「わかりました。畑作業が無いときはそれをやらせて頂きます」
「あとさ、毒の予防薬の作り方教えてくんない?ボッケーノにポーション研究している知り合いがいてね、そいつに教えてやりたいんだよ」
「喜んで」
聞いてもよくわからなかったので紙に書いてもらった。ティンクルならこれでわかるだろう。
「じゃ、ギルマス。俺たちはもう出るよ」
「またここに寄ることもあるか?」
「どうだろうね?アクアからガイヤに行ってから帰るつもりにしてるから、帰りもこのルートなら寄るよ」
「そうか。出来れば寄ってくれ。他国の様子も聞いておきたいからな」
「約束は出来ないけどなるべくそうするよ」
そしてセイ達はウラウド王国を旅立ったのであった。
「バットさん、あのセイという人はなんだったんですか?」
「特別ランクを持つ冒険者だ。何もかも異次元な奴だな。ハバロイも上を目指すならいい経験になっただろう」
「アリの毒にやられた者たちはどうやって助かったんだ?」
「あいつが持っていたポーションなのか何なのかわからない物で全員その日のうちに回復したぞ」
「あのアリの毒は特殊で普通のポーションでは毒が消せないのに・・・」
「冒険者になって1年足らずで世界初の特別ランクになるような奴だ。人間の範疇を超えてるんだよ」
「そうか。俺はそんな奴に凄いと言われたのか」
「そうだな。お前の犯した罪は消えんが償う事は出来るからな。お前の力はあいつが言ったように人が喜ぶ事に使ってくれ」
「わかった。必ず人の役に立てるように生きていく」
その後、セイが持ち帰った毒予防薬は画期的な発明と認められ、各地にウラウドの虫使いの薬として広まって行くのであった。
「なぁ、ヘスティア」
「なんだよ?」
ウラウドを出たセイはヘスティアに話しかけた。
「お前、ねぼすけになったよな?俺の知らないところでなんかやってるのか?」
「別に何もしねーぞ」
「ウェンディは前からだけどヘスティアがウェンディ化してんぞ」
「ウェンディ化とか言うなよ。単になんか眠くなるんだよ」
「それでもさ、寝てて起こしても起きないのは異常だと思うぞ。神のままあんまり外界に居すぎるのまずいとかないのか?」
「そんなの知らねぇよ。それにお前らがアクアに入ったら天界に戻るから心配すんな」
「まぁ、そうだな。戻ったらちゃんと休んでおけよ」
心配というより、二人の子守が大変なのだ。
アクアまで野営の際にはちょこちょこ魔物を倒すが、後は空を淡々と進む毎日。二人は退屈なのかよく寝ていたので紐が大活躍だ。もう二人とくっついているのも照れくさくもなんともなくなった。常に顔が横にあるしな。なので寝る時も普通にくっついてきてエネチャージして寝る生活。セイは充電器のような存在になっていった。
「そろそろアクアに入るんじゃないか?」
低めの山を超えたあたりからムワッと湿気が増えた。夏の盆地って感じだ。
「そうかもな」
「じゃ、今日はここで早めに野営して、翌朝にヘスティアは天界へ戻れ」
「わかった」
ヘスティアの奴、少しの間離れるだけで寂しそうだな。アクア見学はなるべく早めに終わらせるか。
夜は皆が出て来て河原で宴会にした。夏のバーベキューって感じだ。サカキブルドーザーに川の横に風呂を掘ってもらってヘスティアに沸かして貰う。
ん?
なんかいつもより時間がかかった気がする。やっぱり力が落ちてんのか?毎晩のようにエネチャージしてるけど全然足りてないのかもしれない。
絶対に入って来んなよと念を押してから浸かる。はぁ、ウラウドを出てから初めての湯船だ。パーティメンバーに水魔法を使える人がいたらいいな。やっぱりグリンディルがいたほうが良かったな。
そこにブーンと羽音がする。カブトムシが飛んで来たような音だ。この世界のカブトムシとかどんなのかな?
と、音のする方に目をやると虫と目が合った。
「うわぁぁぁぁっ」
セイの目が合ったのは大きな蚊みたいな虫だった。
手で追い払おうとしてもブーン、ブーンと羽音を立てながら注射針のような口を伸ばして来る。
「狐火っ」
ボッとその虫を燃やすと注射針のような物に変わったからこいつは魔物だ。
急いで服を着て戻るとこっちにも来ていたのかたくさん針が落ちていた。
「この世界の蚊はデケェな。おかけでいつの間にか刺されているよりわかりやすくていいぜ」
いや、こんなに血を吸われたら貧血どころか死んでしまいそうだ。
「ぬーちゃん、虫にしか効かないような弱い毒は出せる?」
「出せるよー」
ということなので、それを出してもらってクラマに拡散してもらった。
さて、一晩中これをやるのも無理だから蚊取り線香みたいなのが欲しい所だ。
試しに枯れ木にぬーちゃんの毒を染み込ませて燃やすとその煙で飛んで来た虫の魔物が死んだのでこれで寝ている時はなんとかなるかな?
同じ物を何本も作ってテントの周りに差し、寝るときに火を付けることにしたのであった。