ウラウド王国散策
「あれ?買い物に行かなかったのか」
宿に戻ると俺の部屋に3人とも居た。
「散々見て回って可愛いのが無いとふてくされてるのさね
「まぁ、田舎の国だからアネモスやボッケーノとは品揃えが違うんだろうね」
「茶色とかくすんだ緑とかばっかり」
「汚れの目立たない服ってやつかな。ご飯は?」
「食べた」
「なら、ぬーちゃんと二人で食べに行こうか?」
「行くわよ」
食ったっていったじゃん・・・
タマモはひょうたんに帰った。疲れたらしい。
街に出て酒屋を見つけてはトウモロコシの酒を買い占めていく。後はタマモ用にシャンパとかだけど、リンゴのシャンパとか蒸留酒とかあったのでそれも買い占めていく。
あ、タコス屋なんてあるじゃん。
「あれ食おうか」
「何あれ?」
「タコスってやつだ。軽食だけどお前等食ったならちょうどいいだろ?」
タコスはテレビで見たことがあるけど食べるのは初めてだ。味が想像つかないのでとりあえず4つ頼んだ。ドリンクはサイダーみたいなやつ。
「結構美味しいね。トマトの酸味となんか色々入ってるけどわかんないわ」
みなペロッと食べたので追加を頼んだ。
「おっちゃん、この皮はなんで出来てるの?」
「お前らは違う国から来たのか?」
「そう。もう明日出るから街の様子を見ておこうと思って」
「そうかい。ならたくさん食ってきな。これはトウモロコシの粉で作った皮だ。こうやって具をたくさん挟んで食うと旨いだろ」
「うん、軽食にぴったりだね。トウモロコシの粉とかどこで売ってるの?」
「食料雑貨の店にいけばどこでも置いてるよ」
食料雑貨の店か。これ食べたらそこに行こう。
教えてもらった店に行き、トウモロコシの粉が欲しいと言ったら量り売りのようなので一袋分購入。約30kg入っているらしい。
「お客さん、荷車とかないのかい?」
「これに入れるから大丈夫」
とアイテムバッグを見せる。
「あんた若そうなのに随分と金持ちなんだね」
「冒険者で一山当てたんだよ。あと何か面白いもの売ってない?」
「売ってるのは野菜とか肉とかお菓子とかだよ」
お菓子の言葉に反応したウェンディはここの全部とか言いやがった。クッキー、ビスケットに加えて飴もあった。これ多分べっ甲飴だな。一度に作って割ってあるやつだ。
「これ全部買っても大丈夫?」
「いいけどこんなに食べるのかい?」
「旅の途中だから買える時に買っておかないとダメなんだよ」
「あー、旅人なのかい。珍しい髪色してると思ったんだよ」
「そうみたいだね。黒髪ってこの国にはいないね」
アネモスとボッケーノにもいなかったが。
「王様は黒髪ってウワサがあるけどあんた王様じゃないだろうね?」
「違う違う。ただの冒険者だよ」
「そりゃ王様がこんな店に来るわけないねぇ。ま、ここのお菓子全部買って行っておくれ。旅のお供ならしょうがないからね」
「ありがとう」
お支払いは銀貨1枚とちょっと。トウモロコシの粉はかなり安いようだ。
肉はあるからいいけど、ベーコンとソーセージは仕入れておこうと肉屋でも買い占めしていく。
「もう見るところなさそうだね。なんか欲しい物あるか?」
「宝石店に行く」
「宝石なんて山程持ってるぞ」
「見たいのっ」
ちょーめんどくせぇ。宝石なんか袋にザラザラ入ってんのに。
そして宝石店に入るなり、ウェンディのアクセサリーを見てすぐに特別室に案内された。これ、何も買わずに出れないやつじゃん。
「いやぁー、お若くていらっしゃるのに見事な宝石を身に着けていらっしゃいます」
「フフン」
コイツもしかして褒められたくて宝石屋に来たんじゃなかろうな?
「当店自慢の物をお持ちいたしますのでぜひご覧下さいませ」
と、あらゆる高そうな物を持ってくる。値段も付いてないから人を見て値付けするのだろうか?
「うーん、可愛くないのばっかり」
ウェンディもヘスティアもお気に召さないようだけど、これは?これは?と持ってくる。
「ごめんね、どれも気に入らないみたいだからまたね」
素人目でも明らかに品質が劣るのがわかる。持ってる宝石の方が断然色も綺麗だし、透明度も高いのだ。
「そうですか。誠に残念でございます。身に着けてらっしゃる品質よりも良いものは当店では・・・。ちなみにこれはどちらでご購入を?」
「これはボッケーノのダンジョンから出たやつだから購入したわけじゃないんだよ。加工はやってもらったけど」
「宝石の出るダンジョンなんてあるのですか?」
「ダンジョンから出るのは大半は鉱石なんだけどね。時々こういうのが混じるんだよ」
「もしかしてまだお持ちとか?」
「いや、もうこれだけ」
「何いってんの山程あるじゃない」
またお前はいらぬことを言う。
「山程?」
「あ、いや。確かにまだ持ってるんだけど卸先が決まっててね、ごめんね」
「そうですか。それは残念でございます」
特別室にまで案内されたけど何も買わずに出たのだった。
晩飯は肉がいいと皆が言うので焼肉屋みたいな所に行くことに。店に入る前にサカキ達を呼び出して入店。
「ジャンジャン持ってきてくれ」
酒だけ飲むなら山程買ってあるのにと思いつつも頼んでいく。クラマとヘスティアは炭酸割が気に入ったようで何回もお代わりをしていた。肉はまぁ、自分達で焼肉したほうが旨いな。
寝たウェンディをおんぶして宿に帰って寝かせる。こいついつも食ったら寝てるけど風呂入ってんだろうな?
セイは大浴場に浸かって身体を癒やす。旅の途中はグリンディルがいないので湯船には浸かってなかったのだ。
「はぁ〜生き返るわ」
「失礼ですけど旅のお方ですかな?」
「あ、ハイ。アクアに行く途中でここに寄りました」
「そうでしたか。お若いのにこの宿に泊まられているところをみるとどこの貴族でらっしゃいますかな?」
「いえいえ、自分は庶民ですよ。冒険者で一山当てただけのなんちゃって小金持ちです。風呂付きの宿を希望したらここを勧められたんですよ」
「そうでしたか。私はここの国の者ですがたまにはこうして風呂に入るのに泊まりにくるのですよ」
「地元なのに豪勢ですね。貴族の方ですか?」
「まぁ、そのようなものです」
話し掛けてきた男性は20代後半に見えるが話し方は老紳士のようだ。
「この後は何かご予定はありますかな?」
「いえ、寝るだけです」
「私は上のラウンジで少々飲むつもりですので宜しければご一緒にいかがです?」
「俺、酒飲めないんですよ」
「あっはっはっはっ。私もですよ」
ん?ラウンジって酒飲むところだよな?
「酒ではないお勧めの飲み物があるので少しだけ付き合って下さい。外国の話を少し聞かせて頂きたいのです」
「わかりました。少しだけなら」
そうして最上階のラウンジに移動する。かなり薄暗いラウンジの一番奥の目立たない席を指定してそこに座った。
「お待たせ致しました」
お勧めの物を試して欲しいと言われてお任せしたら、ワイングラスに入った赤い飲み物が運ばれて来た。薄暗い中で見るとまるで血のようだ。
「どうぞ」
血の臭いはしないから血ではないだろうと一口飲む。
「あっ、トマトジュースですね。凄く飲みやすくて美味しいです」
自分の知っているトマトジュースはもっとドロッとした感じだが、これはスッキリとしていて甘みと酸味がとてもバランスがよい。
「お気に召して頂いたようで何よりです。ここのトマトジュースは丁寧に濾してあるのでスッキリとしていて美味しいのですよ」
濾してあるのか。へぇ。
「そういえばまだ名前を伺っておりませんでしたね。私はウラウドと申します」
「俺はセイと申しま・・・ウラウドさん?」
「はい。ここの王をしております」
「えっ?王様って姿を見せないと聞きましたよ。というかなんで王様が街の宿に泊まってるんですか?」
「実はあなたを調べに来たのです」
「え?」
「まぁ、その様子だと本当に立ち寄られただけのようで安心致しました」
「どういうこと?」
「あなたはパンパイアスレイヤーですね?」
「えっ、はぁ。まあ捕縛しましたけど」
「私もバンパイアなのですよ」
なんだと?
「まさか、国民にチャームを掛けて飼ってるのか?」
「いえ、チャームなど使っておりませんし、私は血も吸っていませんよ」
「じゃあなんのために?」
「私はバンパイアでありながら人間に恋をしてしまいましてね。そうあれは300年以上前の事です」
そしてウラウドは思い出を語り、愛した人が安心して暮らせる場所として作ったのがウラウド王国らしい。元々は小さく貧しい村だったそうだ。
「その人との子供とか出来てここに子孫がいるの?」
「いえ、その方は他の方と結婚なさいました。私はただスコシ話しをしたり見ていただけです」
「なんで?」
「そばに居るとどうしても自分の中に入れてしまいたくなる衝動が抑えられなくなると思ったからです」
「血を飲むという意味?」
「はい。バンパイアは餌として血も吸いますが、気に入った者は大事にいたします。こう見えても悪魔の端くれですから契約は守るのです」
「契約?」
「はい、気に入った者には希望を聞きます。大抵は殺さないでと言われ、私は殺さない代わりに対価として血をもらいます。これで契約が成立です」
「無理矢理な契約だな」
「はい。仰る通りです」
「で、惚れた相手となんか契約したの?」
「私は彼女に幸せになって欲しいと願いました。彼女はこの村がずっと平和に暮らせるようにと願いました。これで契約が成立です」
「その契約に従って国を作って守ってるわけだね?」
「その通りです。しかしあなたが現れた。バンパイアを殺した者はなんとなくわかるのです。なので私を討伐しにきたのかと警戒をしておりました」
「全く気付いてなかったよ。それに殺したバンパイアもごめんなさいをしたら、更正する道を探そうと思ってたけど最後まで悪意を捨てなかったから討伐したんだ」
「そうでしたか。では私はどうされますか?」
「悪さしないなら別に何もしない。良いやつも悪い奴もどの種族にもいるからね。種族でどうこうする気はないよ。ただ俺は人間だから、人間に悪意を持って攻撃してくるやつは排除する」
「なるほど。悪魔を種族と見るわけですね?」
「種族がなんなの?と聞かれたらよくわからんけどね。こうして普通に話しが出来てるからいいんじゃない?それにこの国はいい国だと思うよ。食べ物飲み物も安いし、門番とかもピリピリしてないから安心して暮らせているんだろうね」
「私は彼女との契約は守られているでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
そう嬉しそうに微笑んだウラウド。それ、契約じゃなしに、約束だと思うぞ。
それからもう一杯トマトジュースを頼んで話を続けたのであった。
「セイ殿、最後に忠告だけ」
「何?」
「バンパイアは各地に紛れております。人と混じって生活をしているものもおれば、人を襲っているものもおります。私のようにあなたの存在に気付く者も多いでしょう」
「魔界だっけ?そこには帰らないの?」
「出入り出来るゲートはほとんどありません。大概は召喚といって魔界からこちらへの片道のゲートなのですよ。人間の作ったゲートに興味本位で通って帰れなくなった者が大半です」
「そもそも人間がお前等を呼んだのか。前のバンパイアもそうだったみたいだしね」
「ハイ。そのことを知って頂いただけで結構です。パンパイアをどうなさるかはセイ殿にお任せ致します」
ウラウドとの話はここで終わった。恐らく見付け次第、むやみに討伐しないで欲しいとの思いかもしれないな。
部屋に戻ったセイは色々と考え込んでしまったのであった。