賊討伐
「ここか。確かに岩の洞窟みたいになってるね」
「毒撒くー?」
「いやまだ待って。みんな戻って来てからだね。しばらく上から見ておこう」
上空からは見えにくいけど、なんとなく様子を伺いながら戻って来るやつがいる。あれが賊のなのだろう。
まぁ、ぬーちゃん達にとって賊だろうがなんだろうか人間相手に何かある訳はない。サカキもちょっと力を出したら人間を引き千切ることも可能だからな。
辺りが明るくなってきたのでそろそろ行動開始だ。警戒するのは人より虫だな。
「クラマ、出てきて」
「ん?ワシが何かするまでもないじゃろ?」
「ぬーちゃんの痺れ毒で一網打尽にするよ。クラマは毒の風をあの穴に送り込んで」
「見張りはどうするんじゃ?」
「クラマならここから風で送れるだろ?」
ぬーちゃんに痺れ毒を出して貰ってるのをクラマが風をコントロールして送り込んでいく。見張りはあっさり倒れたので近くまで寄って奥へ奥へと痺れ毒を送る。
「クラマ、下に降りずに中に入るよ。アリかなんかが襲って来るかもしれないから」
クラマが風で中に溜まった痺れ毒を風で散らしてから入っていく。
途中で何人も倒れている。こんなにいたんだ。まるでゴキブリ駆除しているみたいだな。
一人一人を式神で拘束していき、奥の広間だと思われる所に近付いた時に矢が飛んできた。
セイはマントでそれを防ぎ、クラマは風で払い落とす。ぬーちゃんはこんなの平気だ。
「何だ貴様らはっ」
「毒弱すぎたー?」
「いや、違うと思う。ここに来るまでの奴らは倒れてたから」
もう今から毒を出したら巻き添えを食らうから無理だな。
「お前等毒使いみたいだがあいにくだったな。俺達に毒はきかん」
勝ち誇ったように言ってるけど効いた方が怪我せずに済んだのに。
「サカキ、あとよろしく。死なない程度にね」
サカキも毒は効かないから下に降りても大丈夫だろう。
「死なねぇかどうかは奴ら次第だな」
「虫使いってやつがいるみたいなんだけどそいつは生け捕りするから。あとはまぁ、死なない程度にね」
人を殺しに来る奴は殺される覚悟を持っとかないとね。サカキに人殺しはして欲しくないけど、平気で人を殺しにくるような奴は人じゃない、魔物と同じだと割り切ることにした。
こうしてサカキど話している時も矢は飛んでくるけど、クラマが全部風で落としてくれている。
サカキはダンッと下に降りて腕をぐるぐる回す。剣を抜いた奴がゾロゾロ出て来たけどビンタ一発で壁に打ち付けられて失神していく。いや、死んでるかもしれんな。
一応生きてるのを確認して拘束していくセイ。
「うわぁぁぁっ。コイツらバケモンだぁっ、矢も剣も何もきかねえっ」
もう蜘蛛の子をちらしたように逃げまどう賊達。そんな逃げ方したらサカキのスイッチ入るぞ。弱すぎて退屈してんだから。
サカキは石を拾って逃げる賊の足目掛けて投げていく。あーあー、足首とか千切れてんじゃん。ぬーちゃんの毒で倒れてたら痛い目に合わずに済んだのに。
足を吹き飛ばされた奴とかを拘束してポーションを口に突っ込んでいく。
「くそっ こうなったら」
虫使いと思われる奴は犬笛みたいなのを吹いたと思ったらアリが絨毯かと思うくらい湧いてきた。
「サカキ、鬼火で燃やして。俺はこっちのをやるから。そのチクチクしてんの毒アリだからな。それを操ってるのはあいつだ。殺すなよ」
「イラ付くことしやがんぜ」
そう言ったサカキは鬼火をそいつの顔にぶつけた。
「うぎゃぁぁぁっ」
あーあー、のたうち回ってんじゃん。笛を落としたらアリにたかられてるけど死なないだろうな?
近寄るとこっちまでアリにやられそうなので狐火で虫使いにたかってるアリを炙っていく。虫使いもちょっと焼けてるけどまだ死なんだろ。
アリが燃えたのを確認して近付き、ポーションを飲ませた。
「おまえが虫使いだな?詳しくはギルドか衛兵に調べてもらうから」
「お前ら何もんだ」
「お前らが言ったバケモンだよ。ここには何人いた?素直に吐いたらこの拘束だけで済ませてやる。下手に隠したり反抗的な態度を取るなら焼いては治しを繰り返して喋るまでやる。ここには何人いた?」
「くっ・・・33人だ」
「ぬーちゃん、数えて来て。ついでに集めておいてくれると助かる」
ぬーちゃんははーいと返事をして賊を咥えて集めて来てくれた。
「32いるー」
「お前を入れて33だな?」
「そうだ」
「じゃ、お前らここで待っとけ」
歩いて帰るの面倒だから街まで戻って誰かに引き取って貰おう。走って半日ならコイツら歩かせたら一日掛かるからな。
「あと毒は効かないのは解毒薬があるのか?事前に飲んでおくと予防出来るとか」
「予防薬だ」
「お前が作ったのか?」
「そうだ」
「すごいじゃん。その製法を教える気があるか?」
「教えたらどうなる?」
「命は助けてもらうように言ってやるよ。というか毒の予防薬とか作れるなら賊なんかする必要ないだろ?それに虫操れるとかすごいじゃん」
「虫使いを馬鹿にしないのか?」
「なんで?虫ってほとんど本能しかないから操れるのって凄いぞ。蜂とか操れるなら農家にも役立つし」
「フンッ、お前みたいな奴がいたなら俺も賊なんかやらずに済んだろうな」
「まぁ、理由はどうあれ罪を犯したのは償わないとね。ちなみにお前等人殺しはしてるか?」
「殺しや女子供を拐うような事はしてねぇつもりだ。アリの毒にやられて死んだやつはいるかもしれん。この前ここを嗅ぎつけた奴は噛まれたみたいだからな」
どうやら殺そうとして仕掛けた訳ではなく侵入者を撃退するのにアリが自動的に襲ったようだ。
「そいつらは助けたよ。それと良かったな俺達が強くてお前等人殺しにならずに済んで」
こいつ、特殊能力持ってるのに哀れだな。更生してくれるなら仕事たくさんあると思うけど。
外に出ると明るくなっていた。そしてこの岩場の周りに蟻塚がたくさんあった。どうやら元々ここはアリの巣だったかもしれない。生態系に影響でるかな?と思いながら蟻塚を全部焼いておいた。
そして街に戻って完了報告をする。
「もう終わったのか?」
「33人縛ってある。その拘束は俺しか解除出来ないから、早めにここに連れ帰って来て。あとこれは虫使いの笛」
「これ使って操っていたみたい。その虫使いは能力高いんだよね。毒の予防薬とかも自分で作ったみたいだし。罪は償わせないとダメだけど、更生メインでやってくれないかな?アリも自然に居るやつみたいだし予防薬作れる奴がいたら助かると思うよ。あと蜂とか操って貰ったら効率よく果物や野菜を実らせることに繋がるし」
「いや、盗賊は鉱山奴隷、首謀者は斬首刑と決まってるんだ」
「そうなのか・・・。そうだ。俺の報酬って何くれんの?」
「金貨10枚の依頼達成金、賊を奴隷として売った金だ」
「それいらないから虫使いを俺にくれない?」
「は?賊を許せというのか?」
「逃げた事にしてくれたらいいじゃん」
「しかし・・・」
「賊は縛ってあるからハバロイ達が討伐したことにしてくれたいいよ。俺が討伐に行ったのギルマスとハバロイしか知らないだろ?虫使いはこの国には戻さないから」
「どうするつもりだ?」
「違う国で働かせるよ。あいつはきっと役に立つから。本当はここで更生させて働かせるのが一番いいと思うけどね」
「わかった。そいつはギルドで引受ける。後は俺が何とかする。その時にお前の名前を使うがいいか?」
「あぁ、何か俺は貴族と同等の身分になってるるんだっけ?」
「そうだ。それを使えば減刑することも可能だろう」
「了解。任せておくよ。じゃ、討伐隊を向かわせて。半日で付くんでしょ?俺は虫使いだけ連れてここに戻ってくるから」
と、セイはもう一度アジトに向かったのであった。
「おい、お前等、こいつの事は喋るな。首謀者は逃亡したことにしろ」
セイは盗賊共にそう伝える。
「もし喋るようなら今斬って全員死んだことにする。好きな方を選べ」
セイは皆が見たことがないすべてを吸い込むような黒い剣を抜いた。
「お前はどっちだ?」
「しゃ、喋らねえっ」
スっと、近くの岩を切って見せる。
「遠慮しなくていいぞ。この剣なら岩でもこの通りだ。痛みを感じる前に真っ二つに斬れるからな。さ、お前はどっちだ?」
剣を首に当てて聞く。
次はぬーちゃんに鵺に戻ってもらって頭を甘噛みさせながら聞く。既に全員喋らないと言っているのにも関わらず一人一人、脅しながら聞いていった。こういう奴らは口先ではなんとでも言う。お前は減刑してやるから喋れとか言われたら喋る可能性が高いので恐怖を植え付けていくのだ。
仕上げはサカキにやってもらおう。
「サカキ、コイツら本当に喋らないと思うか?」
いきなり出て来た大男。剣で切りつけても剣が折れ、逃げたら足を石で打ち抜かれた男達は失神しそうになる。
「んー?どうかなぁ?俺様が聞いてやろうか」
サカキは悪鬼の姿に戻った。それを見た賊達は漏らす勢いで震えている。
「お前ら余計な事を話したいなら頭から食ってやろう」
耳元でそう囁かれた賊はお漏らしをして失神した。
「サカキ、もういいぞ。トウモロコシの酒を山程買っておくわ」
「おう、飯になったら呼んでくれ」
サカキはひょうたんに消えた。
「さ、虫使い。俺と一緒に行くぞ」
虫使いはこれから何をされるか恐怖で固まっているのでぬーちゃんが咥えてポイと積んだ。
王都に戻る直前に虫使いにマントを被せて姿を隠してギルドに入いる。
「じゃ、ギルマス後は宜しくね。今日もあの宿に泊まってるから、賊達を連れ帰ってきたら呼びに来て。拘束を解くから」
「わかった。迅速に解決してくれて助かった」
「どういたしまして」
とセイは手を振って宿に戻ったのだった。