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リーゼロイ当主は負けた

セイ達がボッケーノの姫様とゴタゴタしている頃、アネモスの第2回目の予算会議が荒れていた。


「なぜ、ご理解頂けないのですか?もう猶予はございませんっ。今年は現在まで雨が少なく、野菜の生育も悪いと報告が上がっているではないですかっ。このままだと夏野菜がほとんど取れなくなってしまいます」


「それに付いては、今年の特別予算から水魔法使いに水を供給させたではありませんか」


「そんな付け焼き刃がどれだけ持つと思っているのですか。この異常は今年だけの事ではないのですぞっ。これが毎年続き、やがてもっと酷くなってからでは遅いのですっ」


リーゼロイ家当主は何度も繰り返し、大雨を伴う暴風の必要性、それに備える街作りの予算確保を訴える。徐々に賛同するものが出だして来てはいるものの、このままでは反対派に押し切られてしまう。なんとかせねば・・・


ガチャ


そこへ、宰相がいきなり予算会議に現れた。実質王に変わって国を運営する権力を持つ者だ。


「皆様に連絡事項がございます。この度王室より特別予算の確保を命じられました。それにより現在の予算配分を見直す必要が出て参りました」


おぉ、さすがは陛下。ようやく防災に備えた街作りへの予算確保を命じてくださるとは。


「このことにより、これとこれの実行は来季予算及び中期予算から削除します」


削除されたのは孤児院への援助や庶民達の祭りへの寄付、地方領地への交付金など、中央の貴族には影響の無いものばかりだった。


「特別予算の確保は何に使われるのでしょうか?」


他の貴族から質問が上がる


「それはまだお伝え出来ません。それと、各種税金を来年度から10%上げる事になり、その税収も特別予算へ組み込まれます」


「その特別予算は防災の為の・・・」


「そうではございません」


宰相はそれだけを言い残して予算会議の場を去っていった。


もう、無理だ。あの様子ではさらに色々と削られる可能性すら出てきた。元の予算に組み込まれていない物を通すのも難しいのに。


リーゼロイは覚悟を決める。もう王に直訴しかないと。



後日、王に献上したいものがあると連絡を入れ、謁見の申込みを行った。



「リーゼロイ家当主、献上品とは何か?」


「こちらにございます。とあるものから当家に献上されましたが、王家に献上するに値するものと思い参上いたしました」


リーゼロイは赤い宝石の入ったケースを渡した。それを確認する宰相。


「ボッケーノの鑑定書?なんだこの品質は」


「はい、ボッケーノでは宝石の出るダンジョンがあり、運良く手に入れた者が当家に献上いたしました」


「その者はどのような者だ?」


「それは当家との約束で身分を内密にする事になっております」


「陛下にもお伝え出来ぬ内容だ申すのかっ」


「はい。これは男同士の約束にございますので。もし、どうしても身分を明かせとご命令になられるのであれば献上は取り下げさせて貰います」


このようなやり方は不敬罪を問われてもおかしくない。が、王が宝石を気に入りさえすればこの条件を飲むはず。


王は宰相に見せろと命令した。


頼むっ、陛下のお目に止まってくれ。


「リーゼロイ」


「はっ」


「余もどのような者がこれを手に入れ、其方どのような繋がりがあるのか気にはなるところではあるが、男同士の約束を破らせるのはいかんの」


「はっ、ご無礼な事を申しましたことを深くお詫び申し上げます」


「よいよい。お前ほどの地位の者がそこまで言うのじゃ、本件はこの見事な宝石に免じて不問に致す」


「ありがとう存じます」


「で、何が望みじゃ?」


王にこちらに下心があるのは見透かされている。それは想定済。


「はい。私に上がって参った報告では、このアネモス国に異変が起きているとのこと。暴風が吹かなくなって10年近く経ちました。お陰で安寧な生活を送れるようにはなりましたが、反面危機も訪れております」


「どのような危機じゃ?」


「水不足並びに強い魔物の活発化であります。水不足は山に水を蓄える能力を奪います。そこに雨が降ると一気に街に流れ込み、大洪水になる恐れが高いのです。また魔物の中には空を飛ぶ非常に強い魔物がおります。もし、それが出現したら、城壁を超え国民に多大なる被害が出るでしょう」


「そのような報告がなぜ貴様に入る?」


「私の娘は魔物に襲われ亡くなりました。その調査依頼に冒険者ギルドの報酬の一つとして嘆願がございました。役所にこのことを伝えても取り合って貰えないので予算関係に携わる貴族に伝えて貰えないだろうかと」


「ふむ。なるほどのぅ。それをワシに直接聞かせたくてこれを献上したのじゃな?」


「はい」


「良かろう、別室に参れ」


王が別室で話をするのは異例。それほどあの宝石を気に入ったのだ。



しかし、リーゼロイは驚愕の事実をそこで聞かされる。


「まだ本件は貴様の胸にしまっておけ。出るかどうか分からぬ物に備えるよりも確実に起こる事に備えるのが先決なのじゃ」


リーゼロイは心の中でセイに侘びた。スマン、もう予算確保は不可能だ・・・




ー冒険者ギルドー


「セイの屋敷で今晩飯か、解った。グリンディルも連れて行った方がいいんだな?」


「サカキが楽しみにしているからね」


当然リタにも声を掛けたので3人で来る事に決定。



「ぬーちゃん、肉を確保しに行こう」


と、まずは黒豚の所にいくと角無しが混ざっている。角なしも確保しておくけど食べないかもしれんな。


ちょうど半々くらいの数を狩り、角有りの方にいくと角無しと角有り混じりだった。こっちは浄化していったのに、もう角有り比率が高い。やっぱり強い魔物が出るスピードがかなり早くなってるな。


で、肉の出るダンジョンのゴミ捨て場をにこそっと行き、角無し肉と鶏肉を交換して貰った。めっちゃくれたからしばらく鶏肉に困らんな。試しに肝や鳥モツ、軟骨とかある?と聞いたらそれも大量にくれたのだった。ダンジョンにとっては角無し肉の方がいいのだろう。



砂婆と式神で焼肉と焼き鳥の準備をしているうちにギルマス達が来た。


「ギルマス、相談事と報告事があるんだ」


「またとんでもねぇことだろ?」


「当たり」


「まず報告から聞くわ」


「ダンジョンの正体が解った」


「何っ?正体だと?」


「そう。これを魔物図鑑に載せるかどうかなんだけどね」


「先に正体を言えっ。ダンジョンが出来る仕組みが解ったんだろ?」


「そう。ダンジョンってねスライムなんだよ」


「は?」


全く状況が飲み込めないギルマスにボッケーノでの出来事を話した。


「まじかよ。信じられん」


「でね、オーガ島でヒョウエの許可が降りたらダンジョン作ってみようかと思うんだよ」


「あそこにダンジョンを?」


「ダンジョンってさ、何をメインに出すかそれぞれ違うけど、役に立つものばっかりだよね?鬼達は強いからダンジョン探索も出来るだろうけど、栄養価の高い餌をやったら俺でなくても交渉出来る気がするんだよね」


「どういうことだ?」


「ダンジョンはスライムって言ったろ?あいつら単に栄養があるものを食いたいだけなんだよ。だから魔物肉を食わしてたら交渉できるんじゃないかなって。人間は生きてると食わないけど、魔物なら生きてても食うんだよ」


「そうなのか?」


「これは実験済。で、人間が魔物を倒すとアイテムにかわるけど、魔物同士で殺し合いしてもアイテムに変わらずに消えるだろ?だからスライムが魔物の肉を食おうと思ったら誰かに与えられないと食えないんだ。動物より魔物肉の方が遥かに栄養価が高いみたいだから魔物を餌にしてやればダンジョンが罠を仕掛けて人が死ぬのを待つより楽なはずなんだ」


「おいおい、それがマジなら冒険者がダンジョン探索しなくなるぞ」


「そう。だから普通の人間が来ないオーガ島で実験したいんだよ」


「でもよ、初級ダンジョンは肉を出してるじゃねーか?」


「多分、味は外で倒したやつと変わらないけどダンジョンが出す肉には魔物にとっての栄養価はほとんどないんじゃないかと思ってる。人間には関係ないだろうけどね」


「そういうことか・・・」


「逆に宝石とか貴金属とかはダンジョンにとって何の価値も無いんだろうね。だから魔物肉をやるだけでザラザラ出してくるんだと思う。これを出したらまた魔物肉をくれると思って」


「これは報告するわけにはいかんな」


「やっぱりね。あとさ、俺が餌やって作ったダンジョンは万能薬をくれたんだよ。ボッケーノのポーション研究所で調べて貰ってわかったんだけどね。そこの人にダンジョンから出たって教えていいかな?」


「ダメに決まってるだろっ」


「でもさ、いいポーションがあれば助かる人多くなるだろ?」


「お前は世界中のポーション生産関係者を失業させるつもりかっ」


結局全て秘匿扱いになってしまったのであった。


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