寝ている間にされていたこと
翌朝、ウェンディは起きてきたがヘスティアが起きてこない。
ベーコン達を貰ってホクホクのセイは奥さんにまた来ますと言い切って子供達とバイバイして飛び去った。
「あなた、これでバッグ作ってね」
「大騒ぎになるかもしれんぞ」
「田舎なんだから大丈夫よ」
「一応、ケビン用の短剣はお前が持っとけ。何かあった時に必ずご利益があるはずだ」
「ハイハイ、あなたも心配性ね。もしあなたがいないときに賊がきたらぶっ飛ばしてあげるから」
そう奥さんが言うと、カントは賊が可哀想になるなと笑った。
カントの奥さんの秘密がわかるのはまだ先のお話である。
「ヘスティア、いい加減に起きろよ。お前、寝たふりじゃなくて本当にまだ寝てるだろ?」
いつもよりヘスティアが重いのだ。重いといっても軽いけど。しかし、良く寝てるな。落っことさないようにしっかり持ってないと。ちなみに赤いマントは昨日寝るときにアイテムボックスにしまったままなのでヘスティアはいつもの格好だ。ちなみにマントはヘスティアが脱ぐと裏地のウロコが固まるのでそのままの形なのがおもしろい。まるでそこに透明人間がいるような感じなのだ。
あんまりしっかり持つとお腹とか素肌を持たないとダメなのでなんか恥ずかしい。こんな時に目を覚まされたらまた変態扱いされてしまう。
そして昼まで寝ていたヘスティアは飯休憩の時に起きた。
「あれ?もう出発したのか?」
「とっくにだ。いつまで寝てんだよ?もう昼だぞ」
「そういや腹減ってるな」
「サンドイッチでいいか?奥さんにもらったハム食べたいんだよ」
「ならそれで頼む」
サンドイッチなら砂婆を呼ぶまでもないので材料だけぬーちゃんに持ってきて貰って作っていく。ぬーちゃんは肉と言うだろうから角有り肉を挟んでやった。ハムも肉なんだぞ?
「俺様もそれ食べたい」
「わたしもー」
ハムよりステーキサンドか。
俺は奥さんのハムと卵きゅうりだな。
また食いさしを食べさせられるのは嫌なので切ってから渡した。ぬーちゃんはそのままだ。
うん、このハムも旨いねぇ。お店やってくれた買い占めに行くのに。
皆がうまうまと食ったあと、ヘスティアは赤いマントを着て寝た。
良く寝るな?ドワーフの酒をどれだけ飲んだんだろ?まだ酒が残ってるのかもしれん。
マント越しにヘスティアを後ろから持ち移動する。そして夜まで寝たヘスティアはめし食ってまたすぐに寝たのだった。
テントを出して皆で寝る。
そして寝転ぶなりヘスティアが抱き着いてきた。おかしいな?能力使ってないのにエネルギー不足か?これほど起きないならその可能性が高い。いつもは俺が寝て意識がなくなってから来るのに。
「なんでヘスティアがセイに抱きついてんのよ?」
「多分、エネルギー不足だ。お前も自分ではよくわかってないかもしれんが、この前こんな感じだったんだぞ。お前達はエネルギーが不足したら俺に補充しに来てるんだよ」
「どういうこと?」
「ちょっとこっちに来て座れ。エネルギー流してやるから」
ヘスティアをちょっと離してウェンディに妖力を流す。
「なんか流れてるのわかるか?」
「う、うん。なんか温かいものが入ってきている気がする」
「でも細い感じだろ?今のお前は人間に近いからか本当に少しずつしか流してやれん。ヘスティアならもっとバンバン流れるんだよ」
「へぇ」
「それでな、絶対に変に思うなよ」
「何が?」
「いいからちょっと来い。こうしたらもっと流れるんだ」
と、ボサっとするウェンディをくっと抱き寄せて妖力を流す。
「なっ、何すんのよっ」
「いいからさっき温かいものが流れたと言ったろ?いまどんな感じだ?」
「ど、どんな感じなんて恥ずかしくてそんなのわかんないっ」
「今更何言ってやがる。寝たらいつもこんなんなんだぞお前」
「え?」
「こうやって一緒に寝てたらいつも俺に乗っかって寝てるんだよ。降ろしても降ろしても乗っかって来るんだ。疲れている時は特にな。お前も本能的に俺にエネルギーを補充しに来てるんだよ」
「いつもエネルギーくれてたの?」
「いや、こうやって意識して流したのは最近だ。ぬーちゃんに聞いたらくっついてたら寝ている時でも勝手に少し流れてるらしい。お前達は本能的にそれを感じ取ってんだと思うぞ。で、どうだ、こうしてる方がたくさん流れている感じがしないか?」
「す、する」
「この前、抱っこしたまま朝まで寝てたのはお前がこうしてくっついてきたからだ。ウロコを変形させるのにエネルギーを大量に使ってたみたいだからな。こうして流しているうちに俺も寝てしまっただけだ」
「エッチな事をしようとしたんじゃ・・・」
「お前にするか。というよりお前達にも誰にもせん。特にお前らは女神で俺は人間だからな。いくら可愛くても美人でもそういう対象じゃない」
そう言うとトンっとセイの胸を押して離れたウェンディ。
「そうよっ。私達は神でセイは下僕なんだからねっ。こうして触れるのもおこがましいのよっ」
「ハイ、ハイわかったわかった。もうお前も寝ろ。俺は少しヘスティアにエネルギーを流してから寝るから」
セイはヘスティアの頭に手をおいて妖力を流す。
ウェンディはコロンと横になってその様子を見ていた。
(セイは寝ている時にこんな事をしてくれてたんだ)
そして、しばらくしてセイが寝転ぶとヘスティアがコロコロと転がってセイに抱きつきに行った。セイはそのままエネルギーを流しているようだった。
ふーん
なんか見ていても面白く無いので反対を向いて寝たウェンディだった。
翌朝
「うーん、スッキリしてやがんぜっ」
ウェンディもヘスティアと同じように目覚め、昨日寝る前にエネルギーをもらったからか自分もスッキリしていた。
セイはもう起きて朝ごはんの用意をしている。
「おはよう」
「お前がちゃんと起きて挨拶するなんて珍しいな?雨でも降るんじゃないのか?」
「うっさいわねっ」
セイの作った朝ごはんのスープはベーコンとじゃがいもだけの簡単なやつ。それでも美味しかったとウェンディは思ったのである。
オーガ島に向かってぬーちゃんが飛んでいると雨が降ってきた。
「ほれみろ、お前が珍しいことをするから雨が降ってきたじゃないか」
「わたしのせいじゃないでしょっ」
セイは憎まれ口を叩きながらウェンディにマントを着てろと渡して来た。ワイバーンの装備はケビン用にあげてしまったのでセイはマント無しだ。
ウェンディはマントを自分では着ずにセイに着せてその中に潜り込み、ピッタリとくっついた。これで二人共大丈夫。
オーガ島に着くなり、
「ヘスティア、海水でいいから沸かして」
もう初夏だが空中で雨に濡れると寒い。セイは結局ウェンディが潜りこんだ為にマントの前を止めることが出来ずにベショベショになっていたのだ。
セイはぬーちゃんにバスタブを出して貰って海水を桶で汲んでいる。それをヘスティアが沸かしたとたん服を脱ぎだした。
「なっ、何脱ぎだしてんだよっ」
「寒いから早く浸かりたいんだよっ。こっち見んなっ」
「せっかく沸かしてやったのになんて言い種だよっ」
「悪かった。でもそっち向いとけっ」
セイは服を脱ぎ散らかしてタオルで隠して風呂に入った。そしてぬーちゃんも浸かってくる。
「ぬーちゃん、これ海水だけど毛がガビガビになったりしない?」
「うーんなるかもー」
「じゃ、ヒョウエ達に挨拶したらすぐに帰ろうか?」
「もう帰んのかよ?」
「改めて来たらいい・・・ うわぁぁぁぁっ。なに入ってきてんだお前っ」
「間にぬーちゃんがいるからいいじゃねーかよ。沸かしたの俺様だぞ?」
もちろんヘスティアはいつもの神服を着たままだ。
「後で入れよ」
「マントは脱いであるからいいじゃねーかよ」
「わっ、私もっ」
「ウェンディっ。お前は服を着たままはいんなっ」
ビシャっ
「わっ」
突然冷たい水が降ってきた。それは海水をかけて来たマーメイだった。
「この前はなんで逃げたわけっ」
「怒ってどっか行ったのお前だろ?」
そしてオウオウしながら風呂に入ってきた。煮魚にならないだろうな?
「あったかーい」
「風呂だからな」
「なんだよ、入って来んなよ。ぬるくなっちまっただろうがよっ」
マーメイにはヘスティアが見えていない。
「ヘスティア、待て待て。マーメイがマース煮になる」
ぬるいと言ったから沸かしなおすはずだ。
「えっ?あんたもしかして女神と風呂入ってるわけ?」
「ぬーちゃんと入ってたら入って来たんだよ。ヘスティアから離れとけ、煮魚になるぞ」
そう言うと、尻尾でビッタンと行かれた。
「魚言うなっ」
また怒ったマーメイは風呂から出て海に消えて行った。風呂からうっすらと出汁の匂いがするのは気のせいだろう。
セイはぬーちゃんと一緒に出て拭き拭きして服を着る。
ブルルンつ
「ぬーちゃん、どうせやるなら服を着る前にしてくれたら良かったのに」
「ごめーん。我慢できなかったー」
ヘスティアに乾かしてもらったら塩々になったのでヒョウエにまた来ると言いに行くとサカキが飲んでた。お前はいつ出たんだ?
「このまま残るか?」
「帰ったらなんかあるのか?」
「ギルマスとグリンディルを呼んで飯食うつもり。向こうの予定もあるから今日じゃないかもしれんけど」
「そうか、グリンディルも来るか。なら帰るか。またここに寄るんだな?」
「ああ。来るよ。ちょっと島を調べたいし、ヒョウエにも相談があるから」
「なら帰るわ。ヒョウエ、またな」
「おうっ」
セイはギルマスのマモンに相談してから試そうと思ってるのであった。