そんな重いものいりません
「落ち着いて、落ち着いてっ」
「なんなのだこれはっ」
「それを調べて欲しくて来たんじゃないか。調べた結果はどうだったの?」
モニターみたいな所を見せてくれるティンクル。何が何かさっぱりわからないけど、各項目が棒グラフの様になっていて、全ての項目が低の所まで伸びていた。
「判定が低なのはわかるけど、これはどういうこと?」
「あり得んのだ」
「低すぎるってこと?」
「違うっ。全ての項目に反応が出るなんてことはないのだっ」
よくわからないので詳しく説明してもらうと、回復、治癒、毒消、病気の全ての項目、それらすべてが低と出ているとのこと。所謂万能薬というものに該当するらしい。
「万能薬はあるとは言われていたが、製法は不明。尚且つ私ですら初めて目にするのだ」
「全部のポーション混ぜたら出来るんじゃないの?」
「そんな単純な作り方で出来るならとっくに巷に溢れているわっ」
そりゃそうだな。
効能の違うポーションを混ぜると効能を打ち消したり毒になったりするらしい。各ポーション研究者があらゆる配分で試してダメでまだ配合に成功したものはいない。物語的にそういうものがあったと言われているだけだそうだ。
「じゃあ順番に飲んでいけばいいんじゃない?」
「それもダメだ。身体が十分にポーションを吸収してその効果が消えてから別のを飲まないと体内で毒になったりするからな。概ね6時間くらい開けて飲まねばならんのだ」
これも薬と似たような感じなんだな。
「じゃあこれは効能は低だけど一度に複数の症状に効く貴重な物ということだね?」
「そうだ。製法を教えろ。金ならいくらでも・・・、いや、お前は金に執着していなかったな。仕方がない」
とティンクルは白衣と上着を脱ぎだした。
「ちょっ、ちょっ、何するつもり?」
「私の初めてを対価にやろう」
「いえ、結構です。そんな重いものくれようとしないで下さい」
鈍いセイでも服を脱ごうとして言われたらなんの事か察しが付く。
「女にも興味がないのか?自分で言うのもなんだが、私はなかなかの器量良しだと思っているのだがな」
確かにティンクルは顔立ちが整っている。しかも今日はメガネ姿だ。白衣メガネ娘というか女性は特定の人に需要が高いかもしれんけど。
「なら、あちらの男性作業員から好きなのを選べ」
「そちらはもっと興味がないので結構です」
「なら何が欲しいのだっ」
「どっちにしろ製法は知らないし、入手方法はアネモスのギルマスに相談してからじゃないと話せない」
スライムがダンジョンになるなんて誰も知らないだろうから教えていいかどうか判断しかねる。そもそもダンジョンと交渉出来ることすら秘密事項って言われているからな。
「おーしーえーろーっ」
また胸ぐらを掴まれる。
「だから無理なんだって。許可が出たら入手先は教えるから。あとそれあげるから研究してみて。ここで作れるようになった方がいいでしょ?」
「それはそうなのだが・・・。ヒントの一つでもくれはしまいか?」
「ごめん、製法は検討もつかないや。それを出したのは魔物だとは言っておくよ。どんな魔物かは秘密」
その後も物凄く詰め寄られたがセイは口を割らなかった。
そして、バビデの所に逃げるようにして戻ったらウェンディが物凄くご満悦の顔をしているが、ヘスティアとバビデは呆れた顔をしている。
「出来たの・・・か?って、お前どうしたんだ?ぶつけでもしたのか。腫れてるぞ」
「セイ、聞いてくれよ〜、ウェンディの奴が言うことを聞かないんだぜぇ。みっともないからやめろと言ってるのによぉ」
バビデが無言で無理やり作らされた防具の型を見せてきた。
それは、ウェンディサイズの女性型マネキンのトルソーみたいなもので、ちゃんと女性らしくでっぱっていた。
「もしかしてこれに合わせてウロコを胸当てにしたの?」
「そうだ」
どうやらウェンディはその防具を服の下に着けているらしい。あの膨らみは腫れているのではなくて防具なのか。
「どうっ?ヘスティアにも負けてないでしょ?」
「おまえ、あんなの脂肪の塊とか言ってたじゃん。気にしてたのか?」
「うっさいわねっ」
図星か。身長にも胸にもコンプレックスもってたんだな。
「ウェンディ、ちょっと何度かジャンプしてみ」
とその場で跳ねさせてみる。
そうするとヘスティアがプークスクスした。
「なっ、何よっ」
哀れ胸の膨らみは下にずり落ち、腹の膨らみとなっていた。
「お前、面白い身体してんな。フタコブ腹とか初めて見たぞ」
「えっ?あーーーーっ。なんてことさせるのよーーーっ」
めっちゃ怒るウェンディだけど、作ってるのは防具だ。あんなの役に立つか。
怒ったウェンディは胸元から防具を取り出してセイに投げつけた。
「バビデ、俺が言われた通りの形にするから装飾かウサギの毛皮を貼り付けて可愛くしてやってくれ」
「セイ、お前ウロコの形を変えられるのかよ?」
「出来るよ」
は?というヘスティアを放置してバビデと防具作成にかかる。本当は全身の防具にしたいけど無理なので冒険者が通常身に着けているタイプにしてもらった。
「これさぁ、こんな線を入れることはできる?」
「夏毛を使えば色の濃さ違いがあるから出来るがみっともなくないか?」
「あんな形の防具で満足そうな顔してたんだから今更だ」
と、胸当てに若干の膨らみを持たせて、火吹きウサギの夏毛である薄グレーの毛皮をベースに濃い目の毛皮と組み合わせて線を入れてもらう。
「面白いなこのデザイン」
「目の錯覚を利用したんだよ。ウェンディ、これを着けて鏡を見てみろ」
ウェンディが身につけた防具は正面から見るとちゃんと胸があるように見える。そう正面から見たらの話だ。
「きゃーっ!これっ、これにするっ」
ウェンディの思考回路は浅い。これで喜んでくれたから完成だ。ブーツもこれに合わせて夏毛で作り直し。おまけに尻尾も作ってもらった。
「耳もいるか?」
「いらないわよ」
ぼんぼり尻尾はいるくせに耳はいらんのか。
まぁ、これだけでもアリスの案内役みたいでなかなか可愛くはある。しかし、今着ている服にはあまり合わないな。
追加でウロコの盾を作ることに。作るのは亀の甲羅型だ。戦闘でやばそうならこれをかぶらせよう。
「ウェンディ、明日服を買いにいこうか。神服じゃなくなるけど、その防具に合う服が必要だろ?」
「今から行くっ」
「明日だ、明日。早く欲しけりゃ早く起きろよ」
そして晩飯もそこそこにウェンディは先に寝たのであった。
「セイはウェンディに甘ぇよなぁ。自分から服を買ってやるとか言うなんてよぉ」
「拗ねんな。ヘスティアの為にドラゴン狩りまで行ったろうが」
「そうだけどよぉ」
酒を飲みながら愚痴るヘスティア。
「それになんで膝枕なんてしてんだよ?ずっとウェンディの頭撫でてるしよ」
「撫でてない。多分ウロコの加工でエネルギーを消費しただろうから補充してんだよ。そうしないとまた寝ている時に乗って来るだろうが。ヘスティアも消耗したら補充してやるよ」
「なら今補充してくれよ」
「消耗したらって言ってんだろ?」
「チェッ」
拗ねたヘスティアは飲むピッチが早くなっていく。
そして、寝ているときにウェンディはまた抱き着いてきた。エネルギーがまだ補充したりないのだろう。しかし、このままにしたらまた起きた時に変態扱いされるからな。
セイはウェンディをゴロンと向こうにやり、手の上に頭を乗せるだけにしたのであった。
朝起きるとウェンディもヘスティアも乗っている。場所の取り合いをしたのか、こんがらがったまま乗られているのだ。
二人まとめてゴロンゴロンと向こうにやり、一人でラジオ体操をしたのであった。
今日は一日お買い物。面倒なのでタマモに出てきて貰った。
「タマモお願い。俺はこれに付き合えるほど忍耐力がない。この防具に合う服を見繕ってやって。ウェンディの好きに選ばせたらフリフリとか合わないの選ぶから」
「ヘスティアのはどうすんだい?」
「燃えてもいいなら一緒に選んでやって。最悪ハニーフラッシュしてもマントがあるからすぐに隠して神服にチェンジ出るだろうし」
セイは今になって気付く。今着ている神服の上に服を着ればハニーフラッシュしても問題無いのだと。燃えてもいつもの服に戻るだけなんだよな・・・。いや、考えないでおこう。ドラゴン狩りに行ったのが虚しくなってしまう。
セイは服は脱いで着替えるものと思い込んでいたが、ヘスティアは人間と理が違うのだ。ブーツも着けたり消したり瞬時に自由自在にしているではないか。
今更気付くとは俺もウェンディが感染ったのかもしれん。
そう思いながら延々と服屋で座っていたのであった。