姫様に謁見
さて、服も剣も時間掛かりそうだな。ウェンディとヘスティアも服作りに参戦してるから放置しててもいいか。しかし、街中をウロウロしてたらまた面倒な事に巻き込まれそうだし。
「ぬーちゃん、黒豚でも狩りに行こうか?」
「うーん」
と、外に出てタッパの村方面に向かおうとするとギルマスが走って来た。
「どうしたの?」
「迎えがっ、王家から迎えが来たから探しに来たんだっ」
「もう行かないって言ったよね?」
「お前を追い返した門番がどうなってもいいのかっ」
「え?」
「不手際の責任を取らされるんだぞっ」
「連絡来てなかったのあの人のせいじゃないじゃん」
「それでもだっ」
あー、もうっ。あいつらの不手際だろうが。しかし、よく確認しに行かなかったとはいえ、怪しい男を城に入れないという職務を果たした門番が処分とかになったら可哀想だな。
「わかった。城に行くから迎えの人いらないって言っといて。ぬーちゃんの方が早いから」
と、ぬーちゃんと空を駆けて城に向かった。
「姫様に呼び出されている冒険者のセイだけど」
とても機嫌の悪いセイ。
「こ、これは今朝は大変失礼しましたっ」
「それはもいい。ここの門番のグラノルさんは?」
「セイ様を追い返した責任を取り、現在謹慎させております」
「グラノルさんの上司を呼んで貰える?」
「はっ」
そして警備隊長がやってきた。
「お呼びでございますかっ」
敬礼してセイにそう言う。
「グラノルさんを謹慎させてるの?」
「はっ、セイ様のお申し出を確認もせず追い返したとのことでござましたので」
「今日ここへ来ることは門番に伝えてあると聞いて来たんだけどね、グラノルさんは知らなかったみたいなんだよ。その連絡を受けててああいう対応だったの?それともまだ連絡来てなかったの?」
「そ、それが・・・」
「どっち?」
「連絡の方が遅く・・・」
「だろうね。なら、グラノルさんが謹慎する必要ないよね?誰が謹慎させたの?隊長?」
「あの、その、姫様がたいそうお怒りになられて」
「姫様が命令したんだね?」
そこで黙る隊長。
「解った。姫様の所に案内してもらえるかな?」
「はっ」
そして騎士が出迎えにきて姫様邸へと案内された。王城とかはまた別の建物で王家の敷地は無駄に広い。それぞれの王子や姫の邸宅が別々になっているらしい。
「セイ様、誠に申し訳ありませんが剣とナイフをお預かりさせて頂きます」
「渡してもいいけど、剣は抜いちゃダメだよ。俺以外の人が抜いたら力を奪われる剣だから」
「その様な剣は聞いた事がございません。誠に勝手ながら武器あらためはさせて頂きます」
「あっそ。俺は忠告したから死んでもこっちのせいにしないでね。あと、何で出来てるかとか調べようとしたらバチ当たるから余計なことはしない方がいいよ」
と警告して渡した。まぁ、剣を抜いて誰か倒れるだろうけどもう知ったこっちゃない。
セイは結構ムカついていた。アクセサリーを宝石店から取り上げ、無理やり人を呼び付け、連絡の不手際を現場に押し付けたクソ姫に。
「どうぞ」
と案内されて姫様のいるところに。その部屋はとても広く、姫様のところまでは距離がある。そして一応頭を下げてはいるが無表情のセイ。
「顔を上げよ」
無視するセイ。
「顔を上げぬかっ」
「ハイ。何か御用ですか?」
「貴様っ、姫様に向かってなんて口をきくのだっ」
失礼な態度を取るセイにバッと護衛が槍を向けるとぬーちゃんが首から降り、元の鵺に戻る。セイもそれを止めなかった。
「うわぁぁっ、コイツ姫様の御前に魔物を持ち込みやがった。皆、姫様を守れっ」
一瞬にして大勢の護衛がセイとぬーちゃんに槍先を向ける。
「我のセイに武器を向けるか貴様ら。死ねっ」
ぬーちゃんは毒を吐いた。即死級ではなく痺れ毒だ。セイを巻き込むのを防ぐ為である。
ぬーちゃんは毒を吐くと同時に、セイを背中に乗せ上に飛ぶ。
毒を吸ってバタバタバタっと倒れる護衛達。
「姫様、呼び出しておいて武器を向けるなんて酷い扱いですね」
ぬーちゃんに乗って上からそう言ったセイは気付いた。
ん?あれが姫様?
「ぬーちゃん、降りて」
ぬーちゃんもそんなに強い毒は出していないからもう降りても大丈夫だ。姫様を守っている護衛も戦闘体制になっているけど倒れてないからあそこまで毒は行っていないのだろう。
「それはなんという魔物じゃ?」
「俺の仲間ですよ。魔物ではありません。いつもは大人しくて可愛いのにいきなり槍を向けるから怒ったんですよ」
「殺したのか?」
「殺しましょうか?お望みならこの城の全員ぐらいすぐに出来ますよ」
「では殺しておらんのじゃな?」
「そのうち目を覚まします。それより、もう気分が悪いので帰っていいですか?その護衛から向けられている殺気がムカつくんですよ。ぬーちゃんも次はもっと強い毒を出しそうですからね」
「お主ら剣をしまえ。お前らの敵う相手でないわ」
姫様がそう命令すると隣にいる護衛が渋々剣をしまったので、ぬーちゃんを首に巻き付かせる。
「では、顔を見せて呼び出しに応じたということで。それでは」
と帰ろうとすると。
「待てっ。あのような見事な宝石を手に入れたのはお主であろう。どのようにして手に入れたのだ」
「仕入れ先は秘密です。それにそのアクセサリーは子供のあなたには似合いませんよ」
姫様は幼い子供だった。10歳にもなってないのではなかろうか?
同じ歳くらいの姫なら怒鳴り散らしてやろうかと思っていたが、子供だったので怒鳴るのを止めたのだった。あんなワガママ姫にしたのは周りの大人が悪い。
「お主は怒っておるのか?」
「当たり前だ。宝石店からアクセサリーを取り上げる。断ってるのにしつこく呼び出す、挙げ句の果てにそっちの連絡不備を現場の責任にして謹慎させるとかどんな神経してんだっ。誰だ姫様にこんな教育をしているやつはっ」
「貴様っ・・・」
姫様の隣にいる護衛が再び剣に手をやる。
「お前、直属の護衛なんだろ?お前が姫様をこんなクソにしたのは?このまま成長したらどんなクソ女になるかわかってんのかっ」
「姫様に向かってクソだと?」
「お前らがクソにしてんだよっ。相手が姫様だろうとなんだろうと間違ってることは間違ってると言え」
セイはタマモ達にそういうふうに育てられた。曽祖父達に厳しくされて反発して言ってはいけないことを口にした時にものすごく怒られたのだ。そういう積み重ねがあって、タマモ達はきちんと自分の事を考えて叱ってくれたのだと段々とわかっていく。
「そうか、お主は妾をクソ女と申すか」
「いいえ、今はただのクソガキです。クソ女になるのはもう少し先です」
「女ですらないと」
「はい。あなたは子供です。立場上、子供のあなたに周りの大人は媚びへつらうでしょう。それがあなたをそうさせるのです。もう少しマシな側近を仕えさせることをおすすめします」
「セイよ、貴様はなぜ妾に媚びへつらわないのじゃ?」
「自分はボッケーノの国民でもありませんし、姫様に世話になった覚えもありません。媚びへつらう必要がありませんよ」
「褒美とか欲しくはないのか?」
「人に褒美を与える前に庶民から献上という名のカツアゲをお止め下さい。欲しかったらちゃんと金払え。庶民の生活舐めんな。そのアクセサリーも仕入れ代金かかるんぞ?泥棒かお前は」
段々とエキサイトするセイ。
「わ、妾は支払いをするつもりであったのだっ」
「庶民にそうさせない身分だろお前?それくらい分かれ。だからクソガキだと言うんだ。献上させるなら御用達店からしろ」
「あの店は褒美として王家御用達店に指定する予定じゃ」
「あの店がそれを望んでいるのか?それならいいけど、あの店はすでにヘスティア御用達店だ。今更王家の御用達店になっても喜ぶとは思わんけどね」
「あんなの宣伝であろうがっ」
「ならそう思っとけ。俺はヘスティアが気に入ってくれたアクセサリーを作ったあの宝石店にしか宝石を卸さない。次に欲しい物があるなら金を払え。次に献上とかさせやがったらヘスティアにバチ当ててもらうからな」
「そんな事が出来るものかっ」
「ヘスティア、聞こえてるか?」
「聞こえてたぞ。あのクソガキにバチ当てたらいいのか?」
「いや、あの横に立ってずっと俺に殺気飛ばしてくる奴だ。多分俺がこの部屋を出たら部下に斬らせるつもりだろ。命令されたとはいえ騎士が俺に斬り掛かったらぬーちゃんも次は殺すだろうからな。バチは命令したやつに当たるべきだと思うぞ」
「解った」
そう返事をしたヘスティアは護衛騎士の鎧を溶かした。
「ぐわぁぁぁっ」
瞬時に溶けた金属が護衛騎士を襲う。あの様子じゃ大火傷をしただろう。ヘスティアに人殺しをさせる訳にはいかない。
「ほら、これ飲めば死なずに済むぞ」
と近くにいた騎士にポーションを渡した。ギルマスから貰った奴だ。
ポーションを飲まされた護衛騎士の火傷は治ったが、溶けた鎧が変形し身動が取れなくなっている。脱ぐことも出来ないだろうから頑張って鍛冶屋にでも外して貰え。
「姫様、別にお前だけが悪いんじゃない。ちゃんとお前の将来を考えて物事を教えてくれる大人がいないからそうなっている。今からなら矯正がきくと思うからちゃんとしたやつを王様にでも頼んで配置してもらえよ」
「そこに火の神ヘスティア様がおられるのか?」
「いるよ。ヘスティア、ネックレス貸して」
と言うと外して渡された。
空中からいきなり見事な宝石の付いたネックレスにあ然とする護衛達。
「ほらな。これがヘスティアのネックレスだ。こういうのは大人でスタイルのいい美人にしか似合わんのだ。お前も大人になってから着けろ」
「やっ、やめろよ〜。スタイルがいいとかお前やっぱりそんなふうに見てんのかよ〜。変態じゃねぇかよぉ」
そうテレテレするな。熱いじゃないか。
「ほら返すぞ」
今の出来事を見て本当に何かがそこにいると理解した護衛やお付きの者達。護衛騎士の鎧があんなに一瞬に溶けるなんて魔法でも考えらないし、確かに見事な宝石のネックレスはヘスティアセットとして飾られていたものと全く同じだった。
それまでセイのすること、言う事をずっと黙って聞いていた執事が初めて口を開く。
「セイ様、誠に申し訳ございません。姫様がこのようにワガママにお育ちになられてしまったのは教育係の私の責任でございます」
「当たり前だ。お前が教育係ならお前の責任だな。バチ食らうか?」
「ハイ。甘んじてヘスティア様のバチをお受け致します」
「待て爺っ。セイ、爺がバチを当てられたらどうなるのじゃっ?」
「さっきの鎧みたいに溶けるだろうね。まぁ、姫様のお前をクソガキにしたんだからしょうがないな。お別れを言え」
「嫌じゃーーっ!爺が死ぬなんて嫌じゃーーっ」
「ごめんなさいは?」
「えっ?」
「お前が欲しがったそのアクセサリーな。仕入れ代金を払ってお前に献上したら店の経営に影響が出るぐらいの金額になるんだ。それでお店が潰れたらあそこで働いている人とか死んでもおかしくないんだぞ」
「どういうことじゃ」
「お前は皆が納めた税金で何一つ不自由なく暮らしているだろ?庶民はな、一生懸命に働いて暮らしているんだ。働かなかったらすぐにお金が無くなり食べるものもなくて生活が出来なくなるんだよ。お前のワガママは人を殺すと覚えておけ」
「妾のワガママが人を殺す・・・」
「そうだ。軽い気持ちで言ったワガママが人を殺すことになるかもしれないと知っておけ。それを解った上でワガママを言うなら本当のクソ女になれるぞ」
「すっ、すまぬ・・・、ごめんなさい」
「そうか。ちゃんとごめんなさいを言える子はいい子だ。爺、ちゃんとこういうことを教えていけよ。姫様って国の仕事もするようになるんだろ?」
「はい。この度は誠に申し訳ございません。私からも深くお詫び申し上げます」
「爺、このアクセサリーセットは返しに行かねばなるまい。妾にはこれを購入出来る程のお小遣いはない」
「かしこまりました」
「すでに献上された物はもらっとけ。返されたら店が困るわ」
「しかし、店が潰れるのかもしれないのじゃろ?」
「その宝石は俺が卸した。献上品になると聞いたから俺も卸代金は請求してないから心配すんな」
「この見事な宝石の代金を請求してないじゃと?」
「そうだ。だからもうもらっとけ。そしてそれを見るたび今日の事を思い出せ。そうしたらいい姫様になれるかもな」
こうして姫様の所で暴れたセイ達はお咎めなく終わり、執事に別室で少し話をしたいとお願いされたのであった。