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何かが口に

「タマモ、お前達にとってセイってなんなんだ?」


「セイはあたしに取っちゃ可愛い子供さね。まぁ、他の妖怪にとっては光ってとこかね」


「光?」


「そう。あたしらは人間から忌み嫌われたり怖がられたりする存在。元々人間のそういう感情から生まれたと言われているからね。昔はそれでもよかったんだよ、人間はあたしらが見えてたからね。恐がらせたり困らせたりからかったりすんのが生きがいだったのさ」


「今はどうなんだ?」


「次第に妖怪を見える人間が減り、あたしらが封印されている間に見える人間なんてほとんどいなくなったのさ。それでもいたずらしたりとかみな続けてたけど気付いてすら貰えない。怪我をさせても殺しても気付かない」


「俺達と似てんだな」


「まぁ、妖怪にはタチの悪いやつも多くてね。ただ食うだけの奴は人間も動物もお構いなしに食ったりもするからあんた達とは違うよ。あたしもサカキも鵺もタチの悪い妖怪だから封印されてたんだけどね」


「セイはお前らに何をしたんだ?」


「別に。たまたま封印を解いちまって出て来たあたしらをかまってくれただけさ。忌み嫌うことも恐れることもなく、ただ嬉しそうにかまってくれたのさ」


タマモは嬉しそうにそう言った。


「特にあたしと鵺には懐いてね。そりゃあもう可愛かったんだよ。あたしの事をママって呼んでしがみつかれでもされた日にゃ、この子の為になんだってやってやるさとなるもんだろ?」


ヘスティアは子を持った事がないからその気持ちを理解はするが実感はない。


「サカキにとっちゃ初めは面白いおもちゃみたいなもんだった。天下無敵の酒呑童子様に怖がらずに遊びのように向かってくる。サカキが小突いてもまた向かってくる。もっと楽しめるように体術を教えこみ自分に挑戦させる。セイの成長を一番楽しみにしてたのはサカキだろうね。クラマも剣術を綿が水を吸うように覚えるセイを良くシゴイてたよ。何百年かぶりの弟子が可愛くて仕方がないのさ」


「ぬーちゃんは?」


「鵺は生まれて初めてセイに愛情ってのをもらったのさ。鵺は世の厄災だからね。この中で一番人間を殺したのは鵺じゃないかね。初めは殺そうと思ってなかったみたいだけど鵺は厄災として人間から常に攻撃されてたから段々と人間は敵だと認識して厄災そのものになっていったのさ。そんな鵺を遊び相手として可愛がったのがセイなんだよ。お互い寂しさを埋めあった仲とでも言うのかね」


「他の奴らはどうなんだよ?」


「セイは妖怪にとって生きづらくなった世界からみなを救ったのさ。妖怪の里を作ってね。そこは妖怪にとってとても居心地の良い場所でね。常に満たされてるんだよ。そんな場所を用意してくれたセイ自身は母親からも人間の社会からも弾かれ生きづらく過ごしていたんだ。でもウェンディがここに連れて来てくれた。あの娘はセイの光さ」


「ウェンディがセイの光・・・。その割にはタマモはウェンディを死んでないか見てこいとかあっさり言ったよな?」 


「死んでたらもうあたしら含めてこの辺り一帯消滅してるさね。あの娘は怪我ぐらいはしてると思ったけどチラッと火傷したくらいとは呆れちまったけどね」


タマモはウェンディが無事だとわかっていて自分を向かわせた事をヘスティアは理解した。解った上で自分を向かわせたのだ。その意図はわからないけれど。


ヘスティアはチラッとセイを膝枕しながら頭を撫で続けているウェンディを見る。セイをタマモ達ですら見たことがないモノにしたのはウェンディ、それを止めたのもウェンディ。


もし自分が怪我をしたらセイはあそこまで怒ってくれるのだろうか?いや怒ってはくれるだろうけど見たことがないモノになるまでは・・・


「ズルいじゃねぇかよ・・・」


ヘスティアはそう呟く。


「まぁ、セイはあんたのことも好いてるさね。一緒に風呂入ったりしたんだろ?」


「しっ、してねーしっ」


「ふふっ、そうかい。でもあんまりからかってやるんじゃないよ。セイとあんた達とはことわりが違うんだからね」


「セイもその気になればこっち側に来れるんじゃねーのかよ」


「そんな事はあたしがさせないよ。セイが心からそれを望まない限りね。あの子は人間さ。何が混じってようと何の血が混じってようと人間として生まれ、人間として死んでいくのが幸せさね」


タマモはそう少し悲しそうな顔で言ったのだった。


ウェンディはタマモとヘスティアが話している内容は聞こえてはいない。またグリンデイルも聞くべきではないとその場を離れて、ドラゴンの各種アイテムを整理していた。



「あんた、ペンの九十九紙だったね、今描きあげたのを見せな」


九十九神が描いた一枚のイラストをペッと取り上げて見るタマモ。


「これは他の奴らに見せる訳にはいかないからあたしが預かっておくよ。他のはセイが起きたら渡してやりな」


タマモが取り上げたイラストはマガツヒになったセイの姿だった。




ウェンディは心配そうにずっと膝まくらをしながらセイの頭を撫でている。自分の為に怒って何者かに姿を変えたセイ。元に戻っているのにまだ何をしても起きないのだ。



「ふう、なんとか収まったわい」


そう言ってクラマとサカキが出て来た。


「みな震えあがってただろ?」


「震えあがるどころの騒ぎじゃねーよ。下級の奴らなんか死んでんじゃねぇかと思ったぜ。ぬらりひょんのやつまで失神してやがったからな。本当に役に立たねぇ野郎だぜまったく」


「セイはまだ目を覚まさんのか?」


「あぁ、ウェンディに頭を撫でられてるのが心地いいんじゃないかねぇ。きっと起きたくないんだろうよ」


タマモの感覚ではもう目覚めていてもおかしくはない。しかしセイは穏やかに幸せそうな顔で眠り続けているのを見てそう言った。


サカキはタマモの言葉にもう心配はないのだろうと理解し、酒の用意を始める。


「おっ、祝杯をあげるのね。お腹すいちゃったから肉をたくさん焼いて欲しいわ」


とっくに戦利品の整理が終わっていたグリンディルも参加しにきた。


「ならよ、そのドラゴンの肉を食ってみねぇか?それだけありゃ勝手に食ってもセイのやつも怒らんだろ」


「それ乗った!わたしもドラゴン肉なんて初めてだから楽しみっ」


かなりボン・キュッ・ボンに戻ったグリンディルは若い女の子口調で話してドラゴン肉をサカキの所に持って行った。


「あれ?タマモは食べないの?」


「ちょいと情けなく失神したぬらりひょんの顔でも拝んでくるよ。ウェンディ、ヘスティア、セイを頼んだよ」


そういってタマモはひょうたんに入っていった。


「ジジイ、賭けるか?」


「何をじゃ?」


「ぬらりひょんがどうなるかだ。俺は噛み殺されるにこの酒を賭けるぜ」


「そんなもん賭けになるか。ワシもそれに賭けるからの」


そう言った二人はクワバラクワバラと肩をすぼめたのであった。





ポタッ ポタッ


「セイ、いい加減起きてよ・・・」


そう呟いてウェンディの顔から落ちた雫がセイの顔に流れていく。


「うっ・・・」


その雫がセイの頬を伝い、口の中に入った時に反応を示した。


「セイっ」


「ウ、ウェンディ?」


目が覚めたセイの目にはウェンディの顔が映った。


こいつ、膝まくらをしててくれたのか。それに顔に落ちた雫の感触・・・また泣いて・・・んのか?


「はぁーっ はぁーっ」


下をむいてセイを見つめるウェンディの様子がおかしい。


「お前どうしたん・・・」


「もう我慢出来ないーーっ」


そう叫んだウェンディはドラゴン肉が焼ける香ばしい匂いのする方へ走っていった。


「おっ、おまっ、俺の顔によだれ垂らしてんじゃねーーーっ」


雫の正体がよだれだと悟ったセイは顔を拭い、肉に駆け寄ったウェンディの頭にチョップをしたのだった。




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