セイの中に潜むもの
「ウェンディっ 奥に逃げろっ」
「うっ、動けないのっ」
ウェンディは恐怖で固まったのかそう言った。
セイはウェンディを抱えて奥へと飛ぶ。
そこにドラゴンの腕が入ってきた。
ザシュッ
「危ねぇっ」
間一髪で爪が届かない所でセーフッ。
「ウェンディ、もっと奥へ行けっ 俺が食い止めるっ!」
ドラゴン爪が何度も届きそうで届かない所でガシュガシュしている。
「ひっ、一人であんな暗いところに行くの嫌っ」
そういってしがみついたまま離れないウェンディ。サカキやヘスティアが気付いてヘルプに来るまで持てばいいけど、トンネルの入り口が崩れ掛けている。このまま入って来られて崩れたりでもしたらどうなるかわからん。
「ウェンディ、少しでいいっ下がってろ」
セイはメラウスの剣を抜き、ガシュガシュしている指を斬った。
ンギャァーーオッと叫び声が聞こえたあと腕が引っ込んだ。良し、メラウスの剣で斬れるからなんとかなる。
ドゴンっ
そう思った瞬間にドラゴンの顔が突っ込んできて天井からパラパラと石が落ちてきた。ヤバいな。
しかしなんちゅうデカさだ。トンネル入り口いっぱいドラゴンの顔。隙間から明かりが入ってくるけど暗闇に近くなった。
ハフーンと鼻息を掛けてトカゲの様な目で俺たちを見るドラゴン。
「残念だったな、お前はこれから痛い目にあうんだよっ」
このままにしておくとトンネルごと壊されて侵入してくるかもしれない。そうでなくても口が開くくらいのスペースになればブレスを吹かれるかもしれない。ここは痛みを与えて退散させるしかなさそうだ。
セイは少し開きかけた口の中を斬る。
ゴトンっと、大きな牙と小さな牙がバラバラと落ちた。
ちっ、口の中を狙ったはずなのにガチンと締めた牙に当たった。しかし、牙が斬れるということはあの鼻面も斬れるはずだ。
メラウスの剣に妖力を込めてドラゴンの鼻先に斬撃を食らわす。
バシュバシュバシュバシュつ
シュウシュウシュウシュウ
「何っ?」
ドラゴンはサカキのように斬られた所を瞬時に再生した。そして牙をむき出しにして怒りをあらわにする。
もう牙も再生されている。
ゴウッ
口を少し開けていきなりブレスを吐いたドラゴン。全力ではないが火炎放射器のような炎がセイを襲った。
「キャアっ」
セイは両腕て顔をガードしワイバーン装備で被害を免れたが、炎はセイを通り越して後ろにも回る。ウェンディの火吹きウサギの毛皮の防具はそこまで耐炎性が高くはない。後ろに回っだ炎がウェンディを襲う。ウェンディはポンチョを焼かれ、顔にも火傷をおった。
プツン
「キサマ・・・ウェンディに何してくれやがったんだ」
みるみるうちに膨れ上がるセイの妖力。メラウスの剣もその力を帯びて全ての光を吸い込むような黒から目を開けてられないような光を放つ。
「ゲッ、なんだあのデカいのは」
セイの膨れ上がった膨大な妖力はサカキ達に緊急事態発生の信号となりトンネルを見た。まばゆい光がトンネルから出てそこに顔を突っ込んだドデカイドラゴンの姿が見えた。
「ヘスティア、あいつを殺れっ。ヤバい」
「だっ、ダメだ。あいつはエンシェントだ。殺っちゃダメなんだよっ。いつの間に出やがった」
「ヤバくてもなんでもいいっ、早く殺れっ。セイがヤバいんだよっ」
しかし、タマモもぬーちゃんもクラマも何も言わない。もう手遅れだ。きっとウェンディに何かがあったに違いないと悟る。あそこまで瞬時に膨れ上がった妖力は自分達が行ってどうにかなるもではないと。
「皆、ここから離脱するよ。巻き添えを食らわないうちにっ」
タマモがそう言った瞬間、クラマもぬーちゃんもバッと離脱した。
「ちょっと、あんたらセイを見殺しにする気かいっ」
「違うっ。あたしらが巻き添えを食らったらセイが後で悲しむだろっ」
グリンディルの叫びにタマモがそう答えた。
その時にトンネルが爆発したかのようにして巨大なドラゴンが吹き飛んだ。
そしてそこから出て来たセイはまばゆい光を纏いながら凍り付くような禍々しい殺気を放っていた。
ブルッ
それをみたヘスティアは初めて恐怖というものを感じた。
「あ、あれはセイなのかよ・・・」
エンシェントドラゴンは吹き飛ばされた後、離脱しようとしたがセイの殺気を受けて動けない。
「お前、誰に何したかわかってんのか?」
言葉を話せないドラゴンであってもセイが怒っているのは十分に理解した。生まれてこの方、この世に自分より強いものなどいない、自分は世界の頂点だと思っていたエンシェントドラゴン。ウェンディやヘスティア達よりもはるか昔からこの世界の頂点として君臨してきたエンシェントドラゴンは恐怖した。
セイの禍々しい殺気に怯えた他のドラゴン達もギャーギャー騒いで逃げ惑う。
「うるさい」
セイが騒がしいドラゴン達をうるさいと言って妖力がこもった剣を一振りすると遥か上空を飛んでいたにも関わらずドラゴン達は両断されて肉や皮等に姿を変えて落ちていく。
「タ、タマモ、セイはどうしちまったんだよっ」
「セイの中に潜む何かが出たんだよ」
「何かが・・・?」
「セイには色々なモノが混じっているのさ。何が出てくるかあたしたちにも分からない。それに実際に出たのは初めてさね」
「な、なんなんだよあれは?」
「恐らくマガツヒ」
「マガツヒ?」
「荒ぶる厄災の神さね。セイがあのまま怒り狂ったマガツヒのままならこの世界にとって厄災になるかもしれないねぇ」
「も、元に戻してくれよっ。もし厄災になんかなっちまった敵になっちまうじゃーねかよっ」
「今はセイであってもセイじゃないからね。あたしらの声も届かないんじゃないかね。攻撃はされないとは思うけどね」
タマモは淡々とそう言った。セイをあそこまで怒らせたあのドラゴンが悪いのだと言いたげに。
「そ、そんな冷たい事を言うなよ。なんとかしてくれよっ。セイと敵対なんかしたくねぇっ」
「だからさっさとあのドラゴンを殺れって言ったんだっ」
サカキはヘスティアに怒鳴る。
「あ、あいつはエンシェントドラゴンは大神の眷属なんだよ」
「何?」
「あいつはこの世界を作った大神の眷属なんだっ」
「ならなんでそんな奴がセイ達を襲ったんだい?」
「多分、ちょっかいかけただけだ。俺がイフリートにやらせてたみたいに」
「まぁ、そんな事はどうでもいいさね、それより大神の眷属とやらはもう殺されちまうよ。あの様子じゃセイは封印する気もなさそうだしね」
セイはエンシェントドラゴンに止めを刺そうとしていた。死を覚悟したエンシェントドラゴンはボロボロと泣いている。
ー大神の部屋ー
ふむ、このままではあいつは殺されそうじゃな。かといってワシがあそこに出向く訳にはいかんし、これはまずいのぅ。相手の実力を測れずにちょっかいをかけるからじゃ。
しかし、ウェンディに力のある奴を連れて来させたのはいいがまさかあそこまでとは驚きじゃ。まだワシにも読めんことがあるとはの。
「ヘスティア、ウェンディが死んでないか見て来ておくれ。もし死んでたらもう全てを諦めな」
「ウェンディは死んでねぇよ。そんなの俺達にはわかるんだっ」
「なら行ってきておくれ。ウェンディが無事だと解ったらセイの怒りも収まるかもしれないよ」
タマモはそう言ってヘスティアをウェンディの元に向かわせた。
「ウェンディっ無事かっ?」
「だ、大丈夫。それよりセイが、セイがっ」
「止めてくれっ。セイを止めてくれっ。頼むウェンディっ!」
ヘスティアはウェンディの手を引っ張ってエンシェントドラゴンに止めを刺そうとしているとセイの元に連れていく。
「セイッ。やめてくれっ。そいつを殺さないでくれっ」
ヘスティアに声をかけられてセイは少し止まりかけたがそのまま剣を振り下ろそうとした。
「何やってんのよーーっ」
その時にウェンディが叫けぶと、ピクッと振り下ろしかけた剣が止まった。
「弱い者イジメはやめなさいよっ」
そして振り向くセイ。
「ウェンディ・・・お前火傷は?」
「あれぐらい治癒出来るの知ってるでしよっ」
「そうか、大丈夫だったか」
そう言ってセイはウェンディに近寄り抱き締めた。
「ちょっ ちょっ 何すんのよーっ」
ウェンディはふんぬーっとセイの抱擁を拒否する。
「ゴメンな」
セイはそう言って頭をクシャクシャと撫でた後に気を失ったのであった。
「セイ?どうしたのよっ。ねえっ、セイっ」
「へぇ、ウェンディがセイを収めちまったよ」
「また犬と間違えてんじゃねーか?」
「ふふっ、そうかもしれないねぇ」
「セイーっ」
ぬーちゃんは倒れたセイの元へ駆け寄って行く。
タマモ達もセイの元に向かった。
「セイがっ、セイが目を覚まさないーっ」
そう言って大泣きしているウェンディ。耳にふぅーしようがなにしようが苦しそうな顔をしたまま反応を示さない。
「サカキ、クラマ、里の皆のフォローをしてやってくれおくれ。セイは鵺とあたしで見ておくから。グリンディル、ヘスティア今日見た事とあたしが話した事は誰にも内緒だよ。もちろんセイにもね」
「こんな事を誰かに言える訳ないでしょ・・・」
「分かってる」
タマモはぬーちゃんにドラゴンが落としたアイテムの回収をやらせてエンシェントドラゴンに近付いて行った。
「あんた、あたしのセイに何をやらせてくれたんだい?」
妖狐のタマモから妖気と殺気が混ざった禍々しい物がエンシェントドラゴンに向けられる。
タマモから放たれるその禍々しい殺気はセイのものと似通っていた。
「いいかい?セイにちょっかいかけようなんざあたしが許さないからね。次は噛み殺してやるから覚悟しておきな」
タマモに凄まれたエンシェントドラゴンはもう関わりたくないと尻尾を丸め込み頭を下げた。
そして、自分の体からブチブチブチと鱗を剥ぎ取りその場に置いてうずくまる。
「タ、タマモ・・・。そいつは勘弁してやってくれないか・・・」
その様子を目の当たりにしていたヘスティアは少し声を震わせながらそう言った。
「セイが止めを刺すのを止めたんだ。あたしがやるわけないだろ?ほらトカゲ、さっさと何処かへお行き。グズグズしてると噛むよっ」
そう言われたエンシェントドラゴンは飛び去った。
「タマモ、お、お前は・・・」
「これも内緒さね。ほらウェンディ、いつまでも泣いてんじゃないよ」
タマモはそう言ってセイとウェンディを背中に乗せてトンネルへと向かう。そしてマットレスの上にセイを乗せ、人の姿になり膝枕をしながらセイの頭を撫でた。
「タマモ、セイはど、どうなったの?」
ウェンディは泣き顔のままタマモに話しかける。
「あんたの為に怒り過ぎて疲れちまったんだよ。ちょっと代わりな」
タマモはそう言ってウェンディと膝枕を交代した。
ウェンディは言われた通り膝枕をしてセイの頭を撫でる。そしてその横にアイテムを回収し終わったぬーちゃんがペタっとくっついた。
ヘスティアは何も言えずその姿を見ているしかなかったのだった。
ーエンシェントドラゴンの巣ー
「大馬鹿者がっ。見習いになっているとはいえ神であるワシの娘にチョッカイをかける馬鹿者がどこにいるっ」
エンシェントドラゴンは大神に説教を食らっていた。
しかし、まさかウェンディがあれを止められるとは思わなんだな。
大神はセイの頭を優しく撫でるウェンディを見てウンウンと頷いていた。