落とし穴
「ウェンディ、お前そのヒステリックにすぐに怒って暴風出すのやめろよな」
「誰がヒステリックなのよっ」
「そういうところだ。怒ってばかりいたらそのうち眉間にシワが刻まれんぞ」
「しっ、シワなんて出来るわけないじゃないっ。私は神よっ」
「元神だろ?この先わからんぞ」
そう言うとサーッと青くなるウェンディ。
「わ、わかったわよっ」
「お前さぁ、もう少し風を上手くあつかえないのか?クラマみたいに加減して出すとか。魔物の被害より風の被害の方が大きいから住民は敬うどころかお前の事を恨んでるみたいだぞ」
「しょうがないじゃないっ。風の加護とはそういうものなのよ」
そういうものとか開き直んな。
「クラマはあの嫌な空気だけを吹き飛ばしてたじゃないか」
「うっさいわね。細かいことをグジグジと。この小姑っ」
こいつ・・・
「お前が皆から感謝されて信仰心を持ってもらえないと神に戻れんだろが」
「あんた達がやってくれるんでしょ?」
こいつ何もわかってないな。
「いいか、よく聞け。俺たちが活躍して皆が風の加護に感謝して信仰心持ったとするだろ」
「うん」
「で、お前が神に戻ったとする」
「うんうん」
「で、またお前が暴風を吹き荒らして恨まれて見習いに降格してやり直しするはめになるんだぞ」
「えっ?」
「次また俺の所に来ても協力しないからな」
「なんでよっ」
「お前の性格が治らん限り無駄だからだよっ。そもそもこの世界と俺らは関係ないだろうが。だまし討ちみたいに巻き込みやがって」
小姑みたいにと言われてムカついて怒鳴りながらそう言ったセイ。
「何でそんな事を言うのよ」
ぐすっ
ちょっと泣きそうになるウェンディ。
「あーっもうっ。泣くぐらないなら努力しろっ。時には暴風も必要かもしれんが毎回そればっかじゃダメだと言ってるんだよ」
「じゃあどうすればいいのよ」
「力加減を覚えろ。俺は風のコントロールのやり方なんぞしらんからクラマに教えてもらえ」
「嫌よっ。何であんな奴に教えて貰わないとダメなのよ」
「いいか、クラマのじっちゃんは神に匹敵する存在だと言っただろ。お前の代わりにクラマのじっちゃんがここで魔物を全部封じ込めてみろ。お前は見習いどころか不要になるんだぞ。それでもいいのか?いいならクラマのじっちゃんに全部やってもらうからな」
「やっ、やめてよっ」
「なら言うことを聞け」
「わ、わかったわよ」
「ということでクラマ宜しくね」
「セイも小娘に甘いのぅ。代わりにお主がここの神になれば良いではないか」
「何で俺が神様になるんだよ」
「ここの世界は中々に面白い。皆儂らが見えるしあの嫌な空気以外汚れてもおらん。元の世界はワシのうちわでも祓えん汚れた空気になり寄ったからの。お前がここの神になるならこのままワシらもいてやるワイ」
クラマが居た元の世界は田舎とはいえ大昔に比べたら空気は汚れてるからな。クラマのじっちゃんを都会に連れてってたら死ぬかもしれん。
「クラマ、俺は帰るんだよ。神器の件も気になるけど、分家のやり方も気になるし」
「確かに奴らはセイとは違って妖怪や幽霊を問答無用に滅するやり方しかせぬからの」
滅しないとダメな時もあるけどそればっかりしてると人間が恨みを買っていくばかりだからな。それに怨霊になった幽霊を祓うだけじゃ恨みの念も残ったままだし。だからこそせっかく祓い屋をやると決めたのにいきなりこっちの世界に連れて来られたからな。
「仕方がない。小娘よ、これからはワシのことを師匠と呼ぶのじゃ」
「嫌よっ」
「なんじゃとーーっ」
またギャーギャーと言い争いし始めるウェンディとクラマ。沸点の低いクラマもまだまだ修行が必要なんじゃなかろうか。
ブォーブォーと風合戦を始めた二人を海の方へ放り出したセイ。船も見当たらないしそこで好きに暴れてくれ。
やれやれと窓を閉めるとピンポーンとチャイムが鳴った。誰か来たらしい。
「はーい」
「こちらにセイという方はいらっしゃいますか?」
「はい、自分ですけど」
やってきたのは身なりをピシッと決めた二人組だ。
「なんのご要件ですか?」
「セイ様がこちらの屋敷を譲渡されたのは間違いないですか?」
「はい」
「では、こちらが税の請求になります」
「は?」
「持ち家には税金が掛かるのはご存知ですよね」
「税金?」
応接室で詳しく話を聞くと二人は国の税務官らしく、この屋敷の税金を払えと言ってきた。
「ちなみにいくらですか?」
「月に金貨2枚でございます。こちらが計算の元となる資産表でございます」
ここは高級別荘地であり、土地にも建物にも多額の税金が掛かるようだ。
「い、いまそんなにたくさん持ってないんだけど」
「かしこまりました。支払い期限は来年の1月末でございます。それまでに金貨24枚をお支払い下さい」
「え?金貨2枚✕4ヶ月分じゃないの?」
今9月だから12月まで4ヶ月。
「こちらは年払いになっておりますので1月から計算されます」
ウソん・・・
あの奥様。住まない屋敷の税金払うの勿体ない無くてここをくれたんじゃ・・・
ちなみに払えなかったらどうなるのかを聞いたらこの屋敷は競売にかけられるらしい。しかし、幽霊が出ると言われているこの屋敷は売れないだろうとのこと。その場合は屋敷を取り上げられた挙げ句に借金だけ残るらしい。そしてそれを払えない場合は借金奴隷として売られることに・・・
「わ、分かりました」
「ぜひお願いしますよ。私達もお若い人を借金奴隷として売りたくはございませんので」
税務官が帰った後、ウェンディ達が帰って来た。二人共びしょ濡れじゃないか。
「何怖い顔してんのよ?」
「いいからさっさと風呂に入ってこい。風邪引くぞ」
金の話をウェンディと妖怪達にしても無駄だ。これは俺がなんとかするしかない。これは多少無茶しても高額な依頼をこなさないとだめだな。
「キャァァァァっ!何であんたも入ってくんのよっ」
「ワシもびしょ濡れじゃからじゃろうがっ」
クラマはウェンディと同時に入ろうとしたみたいだな。ウェンディは爺さんが一緒に入って来て叫んだってところか。面倒だから放っておくか。
セイはぬーちゃんを呼んでギルドに何かいい依頼が無いか探しに出たのであった。
「あ、セイさん。お屋敷は落ち着きました?」
「住めるようにはなったんだけどね・・・」
リタに税金のことを説明した。
「やっぱりあそこはそんなに税金高いんですねぇ」
「借金奴隷なんてなりたくないよ」
「ギルドと違って国の税金取り立ては容赦がないですからねぇ」
そうなんだ・・・
「割の良い依頼を回してあげたいんですけど、今出てるのは似たりよったりですねぇ」
リタはまだ掲示板に張り出してない依頼書をペラペラとめくっていいのがないか確認してくれる。だがほとんどが薬草採取やゴブリン、ウドー討伐だ。日銭にを稼ぐには十分だが借金返済には程遠い。そこへギルマスがやってきた。
「よう、借金神」
誰が借金神だ。
「ギルマス、聞いてくれよ。税金高いんだよっ」
「貴族がすることを疑わんからだ。あんな一等地にある別荘をなんにもなしにポンとくれるわけねぇだろが」
「だってさ、家宝のサファイアを断ったら家をくれたんだよ。そんな裏があるとは思わないじゃん」
「そのサファイアもイミテーションだろうよ。家宝の宝石なんぞ日頃身に付けてる訳ねぇだろが」
そう言われても俺に宝石が本物か偽物なんて見抜けるわけないだろが。
「貴族ってそんな人達なのか?」
「自分が損するような事はせん。相手が庶民なら尚更な。貴族相手の仕事はより気を付けにゃならん。まぁ、難癖付けて報酬払わんよりまともだったと思え」
「報酬もらうより高く付いてんだけど」
「それぐらい稼げん額じゃねえだろ」
「何匹ゴブリン倒さないといけないと思ってんだよ」
「なら、特別にいいのを紹介してやる。ちょっと来い」
と、ギルマスの部屋に連れて行かれた。
「特別ってなに?」
「ダンジョンだ」
「ダンジョン?」
「そうだ。実は手付かずのダンジョンがあってな。そこの調査をしてもらいたい」
「報酬は?」
「まぁ、それは調査内容によりけりだ。最低でも金貨1枚になるぞ」
「割がいいのか悪いのかわかんないね」
「ギルドから出る報酬はまぁしれてるな。が、美味しいのはそこじゃない」
「ん?」
「ダンジョンってのはな、魔物もバンバン出るがお宝が眠ってるんだよ」
「お宝?」
「ダンジョンてのは魔物の一種だ」
「そもそもダンジョンってなに?」
ギルマスはダンジョンに付いて詳しく説明してくれた。
ダンジョンは洞窟のようになっていて中に入ってきた人間や動物を食べる魔物らしい。普通の魔物とは違って自ら襲いに来るわけではなく、人間や動物が欲しがる物を餌に呼び寄せて死んだら栄養を吸収するらしい。
「お宝って何?」
「金銀や宝石が多いな。後は貴重な薬草とか魔物から取れる魔石や肉とかだ。ある程度ダンジョンの調査が済んだらギルドから情報を冒険者共に開示する。そこから出たお宝はギルドで買い上げて転売するからこっちも儲かるって寸法だ」
「なんでまだ手付かずなの?」
「そいつは危険だからに決まってんんだろ」
「新人にそんな事をさせるなよ」
「お前らなら大丈夫だろ。アイテムボックス代わりのそいつもあるしよ」
手付かずのダンジョン探索は日にちが掛かるらしく、食料と水を持ち込むのが大変らしい。調査が進んだら安全ポイント毎に食料と水の販売所と出張買取所をギルドが出すとのこと。
未調査のダンジョンは当たりだとお宝がザクザクらしいがハズレだと全くということもあるらしい。
「ちょっと考えるよ」
「まぁ、無理にとは言わねぇけどよ。借金奴隷にならなきゃいいな」
そうニヤッと笑いやがる。
俺ってウェンディの信仰心を上げるために異世界に連れてこられたんだよね?それなのになぜ命がけで借金を返さにゃならんのだ・・・
はぁ〜と大きな溜息を付くセイなのであった。