父親
焼き鳥が美味しそうな匂いを放ち出すとヘスティアもこっちに来た。下手に可愛がりを止めに入るよりこっちの方が早い。
「イフリート、お前はこれを食え」
大きな塊で焼いたのをイフリートに渡してやる。これはタレだ。
「ゴフッ ゴフッ。大変美味であります」
サカキが殴ってもダメージを受けなかったイフリートでもヘスティアに殴られたらダメージ受けるんだな。まだゴフゴフ言ってるし。
「お前はイフリートに甘過ぎるんだよっ」
「そんな雑な扱いしてたらイフリートは俺の方に来ちゃうぞ」
「ほぅ、イフリート。お前はセイの眷属になりたいのか。おもしれぇ・・・」
「セイ様、お戯れはお止め下さいっ」
ヘスティアに凄まれたイフリートは顔から出る冷汗でシュウシュウいっている。
「ヘスティア、前にも言ったけどイフリートをイジメるな。神らしく慈愛を持って接してやれよ」
「うるせぇなぁ。俺様にもタレのやつくれよ」
「シャンパン飲むか?シュワシュワしてて口がスッキリするかもしれんぞ」
正式にはシャンパンではないが、いちいちスパークリングワインと言うのも面倒なのでシャンパンと言っておく。この世界でそもそもシャンパンとはとかウンチクを語るやつはいないだろう。
「おっ、これ旨いぞ」
ヘスティアがそういうとウェンディもグラスをぐいっと目の前に出してくる。
「次からは自分で注げよ」
甘やかすとずっと注がされるからな。
焼き鳥もお代わりは自分で焼けと言って勝手に食べさせている間にイフリートに大まかな地図で説明を受ける。
「今はこの辺りです」
「そうか。竜巻で飛ばされたと思ったけど前には進んでたんだな」
「はい。想定していたより先に進まれています」
「わかった。ありがとうなワザワザ来てくれて」
「いえ、いつでもお呼び下さい」
「俺は呼べないだろ?ヘスティアに頼まないと」
「大丈夫です。セイ様の呼び出しは聞こえますので」
マジ?
「じゃあ、次からはヘスティアが寝てから呼ぶよ。多分ちょくちょく進路を確認すると思うから」
「ぜひそうして下さい」
イフリートは懇願するような目で俺を見てから帰っていった。
「なんじゃお前ら。ワシが調査しに行っている間に先に飲みおってからに」
「ごめんごめん。で、クラマ。なんかいた?」
「蛇がおる。デカいから気を付けるんじゃぞ」
「討伐した?」
「離れておるからそのままじゃ。狩った方がよかったか?どういう存在か判らんかったからそのままにしてきたんじゃが」
「白いの?」
「そうじゃ」
白蛇は元の世界だと神の使いだったりするからな。
「了解。襲ってくるようなら狩ろうか。そうじゃなかったら放置だね」
クラマの話ではこの島は人がいないようなので放置しても問題ないだろう。
皆が勝手に飲み食いしている間に魔物図鑑でお勉強をすることに。
この図鑑はかなり分厚いし色々と載っている。写真ではなく手書きのイラストみたいだし、作画というか絵のタッチがそれぞれ違うな。落書きみたいなやつもあるし。
ペラペラとめくってへぇっとか言いながら図鑑を眺めるセイ。
あ、ここから魔魚が載ってる。しかし名前が・・・例えばこれだ。
【マギョロ】
イラストはマグロにサメみたいな口になっている。魔魚のイラストはどれも同じ人が描いているのかカラーで上手だ。イラストも名付けもハコフグの帽子を被った人が担当したんじゃなかろうか?
【ぎょぎょぎょ】とかもはや何かわからんしな。
あっ、人魚も魚人も魔物扱いにされてんのか。図鑑に載ってるわ。
どちらにも血肉は猛毒だがあえて摂取し、毒を乗り越えた者には不老の力が与えられる、と書いてある。不老不死ではなく不老か。
これ、記載は猛毒だけにして不老の項目は消してくれないかな。もしくは毒に耐えても魔物に変身するとか。忘れないうちに書いておこう。
しかし、猛毒が本当ならもしヒョウエがラームの寿命を憂いでマーメイ達に血を頼んだらまずいな。帰ったら警告しておこう。前にマーメイが助けてくれて重症を負った時に俺の口に付いていたのはマーメイの血だったのだろうか?飲んではいないが体内に入った可能性も捨てきれないしな。猛毒だったらヤバかったかも。検証するには血を貰わないとダメだし、これは猛毒と魔物に変身でいいな。
蛇のページを探して確認する。結構蛇の種類も多いな。しかし、白いのは載ってないから変異種なのかな?
魔物であっても毒蛇系とそうじゃないのがいる。これは普通の蛇と同じだな。違うのは大きさだ。なにこれ?
【ビッグポイズンスネイク】
全長30m、猛毒(毒を吐く)※美味
最後の美味も気になるけど、毒を吐くとかぬーちゃんみたいだな。落とすのは革、毒袋、肉か。そこそこ情報が載っているところをみると討伐が無理な訳では無さそうだ。
「セイ、一人で何を見てるんだい?」
「あぁ。魔物図鑑。ギルマスに貰ったんだよ。面白いよねこれ」
「マモンもそれでよく勉強してたね昔」
「ギルマスって他のギルドのギルマスより色々と詳しいよね」
「あいつは真面目だからね。自分で確かめたのもあるしよく他の奴らからも話を聞いているから」
「へえっ」
「他の奴らは自分たちのテリトリーというか生まれ育った近くでしか活躍してなかった奴の方が多いんじゃないかね」
「移動手段が限られているからそうだろうね」
「アンタが知り合ったギルマスはみな冒険者上がりかい?」
「え?違う人もいるの?」
「いるさ。というよりもっと上の奴らは冒険者をやったこと無い奴の方が多いんじゃないかねぇ。アネモス本部の一番上の奴とかもそうだよ」
「現場を知らないと適切な指示とか無理そうだね」
「組織運営は出来ても対策とかは現場に丸投げだからね。まぁ、冒険者なんて掃いて捨てる程いるんだから上の奴らは冒険者が死んでもなんとも思ってないだろ」
「確かに誰でも銀貨1枚でなれるみたいだからね」
「そうさ。冒険者ギルドなんてダラッと生きてきた底辺の奴らが行き着くゴミ捨て場みたいなもんさ」
酷い言われ方だ。
「でもね、そういう奴らがいるからこそ街の安全が保たれているのさ。馬鹿ばっかりだから強い魔物にでも突っ込んで行く。そして生き残った奴は強くなるだろ?そしたらもっと強い魔物に突っ込んでいく」
「ギルマスもそうなの?」
「馬鹿の頂点かも知れないねぇ」
「酷いねそれ」
「まぁ、馬鹿は馬鹿なりに一生懸命生きてれば人の上にも立てるようになるって事さ」
「俺も馬鹿の一員だね」
「セイは冒険者になりたくてなった訳じゃないだろ?目的があってやむを得ず冒険者をやってるんだから」
「それが今じゃ特別ランクなんかになったよ」
「神様従えてんだから当然だよ」
「従えるとか人聞きの悪い。お守りと言って欲しいよ」
「そうだね。アンタ父親みたいだからね。神が人に甘えるとか信じられないよ。イフリートもあんたの眷属みたいになっちまってるし」
「あれはヘスティアから逃げてるだけだよ。俺はセーフティネットという奴だね」
「セーフティネットねぇ。そのネット、ウェンディにも張ってやった方がいいんじゃないのかい?」
「え?」
「あのまま寝ちまったら炭火に顔を突っ込むんじゃないかねぇ」
焼き鳥を焼いてる前でぐらんぐらんしているウェンディと既に横になって寝ているヘスティア。
やばっ
「こら、寝るならテント張ってやるからそこで寝ろ」
セイは慌ててウェンディを起こしに行った。
起こしてもそのまま寝たウェンディをセイがおんぶしながらテントを張ってる姿を見たグリンディルはセイのことを本当に父親みたいだねと思っていた。元とはいえ、神であるあの娘らがなんの警戒もせずに寝るんだからねぇと感心していた。
セイはテントにマットレスを敷いて二人を寝かせ、ウェンディの口から焼き鳥を出してから毛布を被せた。なんとなくカニ臭いのはウェンディのだ。
「あれ?サカキ達は今日はあんまり飲んでないね」
「あぁ、ジリジリ近付いて来てやがるからな」
「クラマの言ってたヘビか?」
「いくつも気配があるから他のを引き連れてきてんのかもしれんぞ」
連日寝るときに魔物の襲撃か。寝不足になるなまったく。
俺には蛇の気配なんてわからないけど、ぬーちゃんも起き上がってるし、こりゃいまから戦闘だな。白蛇は神の使いかもと考えたけど神はここにいるし、襲いに来るなら敵だ。
「グリンディル、悪いけどウェンディ達を見ててくれる?」
「毒には気を付けなよ」
「毒のエキスパートはここにいるから大丈夫」
そうしてセイ達はヘビとの戦闘になっていくのであった。




