だからウェンディの加護なんていらないって言ったのに
泣きながら愚痴るサム。
どうやらマーメイに何度も付き合えと言っては逃げられているようだ。魚人と人魚は寿命が相当長いかわりに数は少ないようで、それに繁殖可能なのは話せるまで生き残った者のみ。だから出会いは貴重らしい。
「なんでマーメイ達に嫌われてんだよ?」
「お前は弱っちいから俺が守ってやると言ったら、うるさい近寄るなと」
もしかして、沖に威張り散らす嫌な奴がいるとか言ってたのはサム達のことなのか?
「お前、人魚達より強いんだよな?マーメイ達にお前らは弱いとか言ったのか?」
「言ってる。事実だからな」
やっぱり。
「マーメイはプライドが高いからそんな風に言われてムカついてるんだと思うぞ。それとマーメイ達を守らせている俺の仲間は強大な力を持ってるから攻撃しようとするなよ。お前達を敵と認識したら一飲みでやられるからな。俺の仲間は海坊主っていうやつでな、もし敵対しそうになったら俺の知り合いだといえ。そしたら攻撃しないから」
「そんなに強いのか」
「強いというよりデカいんだよ。お前らの群を丸呑みするぐらい余裕で出来るくらいにな。マーメイ達は寝るときに海坊主の中に入って寝ているから起きている時間に探しに行ってみろ」
「わかった。色々とすまん」
こいつ酒飲んでから随分と素直になったな。初めの印象とぜんぜん違う。
そして魚人達は海に帰って行った。オーガ島へ向かったのかもしれんな。
「無事に解決して良かったじゃないか」
「そうだね。グリンディルが魚人だと教えてくれなかったら戦闘になって討伐してたかもしれないよ。ありがとう」
「あたしの事はディルで良いって言ったろ?」
「ギルマスがヤキモチ焼いて俺に愛称で呼ぶなって言ったんだよ」
「ハッハッハ。マモンもカワイイところあるじゃないか」
「それだけ愛されてるってことだよ」
「それは女冥利に尽きるねぇ。人間になったかいがあるってもんだよ」
そう言ってご機嫌になったグリンディルはまたサカキ達と飲みだした。
冷めてしまった風呂に少しだけ浸かり、湯を流してぬーちゃんにバスタブをしまって貰う。
「ん?なんだこれ」
バスタブを片付けると白いハンカチみたいな物が落ちている。
【うぇんでぃ】
それは幼稚園児みたいな文字で名前が書かれたパンツだった。
「ぬーちゃん、悪いけどウェンディに持って行ってやって」
そう言って渡すと物凄く嫌そうな顔で咥えて持っていった。
日が登り始める前に出発。早め早めに宿泊場所を見付けないとダメだからな。
まだグースカ寝ているウェンディはグリンディルが後から落ちないように支えている。ヘスティアは俺が後から抱えている。
日が登ってしばらくするとヘスティアもウェンディも起きたようだ。
「・・・見た?」
後からそう声をかけてくるウェンディ。
「何を?」
「ぬ、ぬーちゃんが咥えてきたものよっ」
「お前、もう少し字を練習しろ。幼稚園児みたいな字だったぞ」
「人のパンツ見といてなんなのよーそれっ」
「お前、魚人達が来てる時、もしかしてノーパンだったんじゃないだろうな?」
「はっ、履いてたわよっ」
嘘だな。背中がめっちゃ熱くなってきたから真っ赤っ赤になっているのだろう。
「ぬーちゃんに脱いだパンツなんて運ばせてやるなよ。めちゃくちゃ嫌そうだったんだぞ」
「脱いだやつじゃないっ」
「こらこらセイ、女の子にデリカシーの無いこと言うもんじゃないよ」
セイはグリンディルに怒られてしまったのだった。
大海原を駆けると何もないから退屈だ。初めは広いなー大きいなーとか思ってたけどずっとそれだと飽きてくる。
「腹減ったぞ」
「降りる所ないんだよ。それに曇って来てるから雨になるかもしれん。こんなところでずぶ濡れになるの嫌だから我慢しろ」
二人共寝ていたし、薄暗いうちから出発したからセイ達も朝ごはんは食べていない。恐らくもう昼過ぎだろうけど降りる所がまったく見当たらない。だんだんと厚い雲に覆われているし風も出てきてるから海も荒れている。船も出せんなこれ。
ポツ ポツ ザーーッ
と言ってる間に雨が降り出した。
「セイ、どうするんだい?」
「これはどうしようもないねぇ。降りるところもないし」
ウェンディにはワイバーンマントを着せてあるからそんなに濡れないだろう。ヘスティアも雨がなんてへっちゃらそうだ。
「セイ、寒いのか?」
「濡れてる所に風を受けてるからな」
「雨をなんとかしてやろうか?」
「え?ヘスティアって天候も操れんの?」
「いや、こうするんだ」
と、上空に炎というか熱の塊を出して雨を蒸発させてくれる。
「凄いなヘスティア。さすが神様だ。俺達の上だけ太陽が出たみたいだ」
「よっ、よせよ〜。こんなの朝飯前だぜ」
雨が届かないどころか熱がここまで伝わって暖かくもなるし素晴らしい。それに照れたヘスティアも暖かい。でっかいカイロみたいだ。
「なっ、何よ。ヘスティアばっかり褒めて。そんな私にもできるわよっ」
「なに対抗しようとしてんだお前、やっ、やめっ」
ゴォォォぉっ
ウェンディは雨雲そのものを吹き飛ばした。これはこれで凄いな。
「やるじゃん」
「えっへん。当たり前でしょ」
ポッカリと雨雲に穴が空き、上空だけが晴れ渡る。
ん?
穴があいた所に周りから雨雲が流れ込みだし、それが次第に渦のようになっていく。
「ウェンディ、お前こんなのやったことあるか?」
「ある訳ないじゃない」
「じゃ、この後どうなるか知らないんだよな?」
「知るわけないでしょ」
とっても嫌な予感がするセイ。ヘスティアの熱とウェンディが吹き飛ばした雲の穴に雪崩れ込む雨雲の流れてでどんどん渦巻いていく。
「セイ、ヤバイよこれ」
グリンディルも空の異変を見てそう言う。
「そうだよね・・・」
テレビで見たことがある竜巻の前兆のような感じだ。
「グリンディル、ウェンディを支えてしっかり掴まって。ぬーちゃん全速力でここから離脱してっ」
セイもヘスティアの上に被さりぬーちゃんにしがみつく。グリンディルも同じ体勢を取った所でぬーちゃんは一気に駆け出した。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
後からゴーーッという音が聞こえてくる。もう絶対に竜巻になっているはずだ。
巻き込まれたら洗濯物太夫のようにぐーるぐるだ。
「俺様の熱でなんとかしてやんぜっ」
「あんなの吹き飛ばしてやるわっ」
「バカっやめろお前らっ。竜巻にエネルギー与えんなっ」
といったのにぶっ放しやがった。
「ほら消え・・・イヤーーっ。逃げて逃げて逃げてっ」
言わんこっちゃない。
強大なエネルギーを補充した竜巻が荒れ狂い、ドンドン竜巻仲間を増やしていく。
何本も空から柱のような物が降りてきた。
「うわーーーーっ」
セイ達はそのうちの一つに飲まれて飛ばされてしまったのである。
「どこだよここ?」
ぬーちゃんの懸命の走りで被害は最小限に抑えられたが完全にどこにいるのかわからなくなってしまった。まだ頭の中がぐるぐるしていて目が回ってる感じだ。
「ウェンディ、大丈夫か?」
「俺様の心配はしねぇのかよ?」
「ヘスティアは最悪瞬間移動して逃げられるだろ?今のウェンディは人間と変わらんからな」
そういうとプクッとむくれた。
どうやらウェンディは目が回って気絶しているだけのようなのでホッとする。グリンディルも問題なさそうだ。
「ぬーちゃん、どこも痛くないか?」
ぬーちゃんは地面に落ちるときにクッションになってくれたのだ。
「へーき。それよりお腹空いたー」
地面に落ちたのは不幸中の幸いかもしれん。海に落ちたらウェンディが溺れてたかもしれんからな。
「飯にするか」
今更ジタバタしても仕方がないので飯にすることに。
「今日はここで飯食ったら泊まろうか。ぬーちゃんも疲れてるだろうし」
「そうだね。腹が減っては戦は出来ぬってことだね」
グリンディルは冒険慣れしてるだけあって全然動じてなかった。
今日は焼き鳥にしよう。
「よぉ、面白ぇ事になってやがったな」
「サカキ、ひょうたんの中から見てたらそうかもしれんけど、竜巻に巻き込まれたこっちは大変だったんだぞ」
飯の準備をしていたらサカキとクラマが出て来た。
「ちょっと周辺を見てきてやるわい」
クラマが周りを確認しに行ってくれた。
「ヘスティア、イフリートを呼んで場所を確認してみてくれ。ここがどこかわからん。進む方向とか教えて貰って」
そういうとイフリートを呼んだヘスティア。
「お呼びでございますかセイ様」
「呼んだのは俺様だっ。誰が主人だと思ってんだこの野郎っ」
先に俺にひざまずいたイフリートのケツを思い切り蹴飛ばしたヘスティア。このまま可愛がられるみたいだ。
すがる目で俺を見るイフリート。今のはお前が悪いから助けてやれん。
イフリートが暴行されている間にせっせと鶏肉を焼くセイであった。