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第7話 -慟哭 V-

俺達は駅へついた。それぞれ帰る電車の時刻を確認する。電光掲示板の時刻表を見ると俺が乗る電車の方が、先に来るみたいだ。

だが、二人と俺は帰る方向が反対の為、俺は見送る為に二人が乗る電車のホームに付き添った。

ホームに差し込む夕日が眩しい。電車が来るまでは、まだ時間がある。俺たち3人は、備え付けのベンチに座り、ただ黙って電車を待つ。

何故黙っているのか。それは、まだ真奈美のご立腹が収まっていないと言うのも原因の一つなのだが…。

なんとも居心地が悪い。せっかく楽しい時間を過ごしていたのに…。そう考えていると、徐に真奈美が口を開いた。


「遼ちゃん。」


「ん?どうした?」


「ごめん、ちょっとあっち行ってて。」


「あ、うん。わかった。向こうにいるから。」


ここで、真奈美に逆らうのは得策ではないと考えた俺は、少し離れた自販機の傍で、背もたれにして立っていた。

一体何を話しているのだろう。会話の内容がもの凄く気になるが、二人の会話は全く聞こえない。俺は何か気に障る事でもしたのだろうか。

色んな事を考えながら、二人に気づかれないように時折目を向ける。俺の方からは真奈美の背中と、神妙な面持ちをした香奈が見える。

俺は夕暮れの中、行き交う電車を眺めながら二人の会話が終わるのを待った。


席を外してどれくらい経っただろうか。再び二人に目を向けると、丁度二人の話が終わったらしく、真奈美が立ち上がって俺の方へ向かって来ていた。

俺はサッと背を向ける。カツカツと真奈美の足音が近づいてくる。足音が止むと同時に、真奈美が背後から俺に声をかける。


「遼ちゃん、ちょっといい?」


駅に着く前の剣幕といい、ホームについてからの沈黙といい、この気まずい雰囲気の中、正直振り返りたくはなかった。しかし呼ばれたからには振り返らないわけにはいかない。

俺はゆっくりと真奈美の方を向いた。真奈美を見ると、どうやら落ち着いているようだ。俺は内心胸を撫で下ろした。

その後、奥にいる香奈に目を向ける。香奈は俯き、泣いている様にも見えた。

視線を戻すと、話し掛けてきた真奈美はいつもの明るい表情ではなく、俺もあまり見たことの無い真剣な表情だった。俺は、真奈美の問いに答える。


「あっ、ああ。」


何を言われるのかは分からないが、俺は何を言われてもいいと覚悟を決めていた。無論、内容次第では俺も反論するつもりではいたのだが。

しかし、次の瞬間、真奈美の口からは俺が全く想像していなかった言葉が飛び出してきた。


「あのね…。率直に聞くけど、遼ちゃん、香奈の事好き?」


俺はその言葉を聞き、一瞬にして動転した。突然の質問に頭の中の整理も出来ず。そもそも何故真奈美がその質問を俺に投げかけてくるのかが理解できなかった。

確かに俺は香奈の事は好きだが、そんな事は真奈美に言ったこともない。俺は、真奈美に動揺しているのを悟られまいと、語気を強めて答えた。


「えっ?なに?お前何言い出すんだよ、突然。さっきまで怒ってたかと思えば、いきなり訳わかんない事言い出すし。さっきからお前おかしいぞ?」


しかし、真奈美は俺の言葉に微動だにせず、真奈美も更に真剣な表情で、語気を強めて切り返してきた。


「私、冗談で言ってるんじゃないの。遼ちゃん、香奈の事どう思ってるの?」


真奈美は真剣な眼差しで俺の答えを待っているが、俺は自分の気持ちを悟られたくない一心で誤魔化した。


「香奈ちゃんの事は好きだよ。勿論、お前の事もな。妹みたいに思ってるよ。」


そういうと、真奈美はさっきまでの真剣な顔から一変、今にも泣きそうな顔で俺に訴えてきた。


「本当にそれだけ?それだけなの?」


真奈美の真剣すぎるといっていい程の表情と言葉から、冗談ではない事を悟った。

俺は、真奈美の気持ちを汲み取り、真奈美に正直に自分の気持ちを伝えた。


「真奈美…。正直に言うよ。俺、香奈ちゃんの事が好きだ。いつかお前には話そうと、そして香奈ちゃんにも自分の気持ちを伝えようと思ってたんだけど…。」


そう話をしていると、真奈美は急に下を向き何かを呟き始めた。


「…なんだ。」


俺は真奈美の言葉を聞き取ることができず聞き返したが、俺の声は真奈美には届いていないようだ。

真奈美はそのまま再び呟いた。


「やっぱり、そうなんだ…。」


「えっ?」


次の言葉は、俺の耳にもしっかりと届いた。


『やっぱり、そうなんだ。』


ちょっと待て、真奈美が発したこの言葉の意味はなんだ?やっぱりってどういう事だ。真奈美は俺の気持ちがわかってたのか?しかも、なぜ俯き(うつむき)ながらそんな事をいう。もしかして、真奈美は俺の事が…。


この一瞬で、俺の頭の中に様々な思いが過ぎった。


そんな中、俺達の横を一本の電車が通り過ぎ、そして停車した。

煌々と差し込んでいた夕陽は停車した電車に遮られ、電車はホームに長い影を落とした。


俺は、俯いたままの真奈美にどんな言葉をかければいいのかわからなかった。

しかし、真奈美の問いに対して自分の気持ちを全て話そうと心に決め、俺は改めて口を開いた。


「実はもう随分前からなんだけど…。」


そう話し出した瞬間、真奈美はいきなり顔を上げた。その上げた顔には、満面の笑みが毀れていた。

そして、


「やっぱそうなんじゃ〜ん!!」


と、いきなり大声を上げたかと思うと、俺の両肩をパンパンと叩き、振り向くや否や香奈の名前を叫びながら駆け戻っていった。


えっ?一体何が起きたんだ?


もう、何がなんだか分からない。俺は一人、ポツンとその場に取り残される。再び香奈の下へ戻った真奈美は、さっきの笑顔で香奈と何やら話をしている。一方の香奈も、先程迄の泣きそうだった表情とはうって変わってすごく嬉しそうな顔をしている。


だが、状況が全く分からない俺は、ただそこに呆然と立ち尽くすしかなかった。


ホームには乗車を促すアナウンスが響き渡る。


俺は未だに頭の整理ができない。とりあえず二人を眺めながら立っていると、真奈美が大きな声で俺を呼びつけた。とりあえず俺は二人の元へ向かう。真奈美は満面の笑みで、香奈は笑顔の中にも少し照れた表情を浮かべながら俺を見ている。

しかし、俺の頭の中はそんな二人に全く対応できる状態ではなく、このわけの分からない状態を整理すべく、真奈美に話しかけた。


「真奈美、ちょっと待ってくれ。さっきから一体なんなんだ?俺には状況がさっぱりわかんねーよ。急に怒り出したかと思えば、変な質問はしてくるわ、いきなり笑い出すわ。どういう事か説明しろよ。」


すると、突然香奈が、俺の話を遮るように話し始めた。


「遼さん、ごめんなさい。真奈美をそんなに責めないであげてください。全部私のせいなんです。私がはっきりしないせいで…。そのせいで、真奈美を怒らせてしまって…。」


そういうと、香奈の顔がまた、今にも泣きそうな顔になっていた…。

しかし、その言葉は更に俺を惑わせた。


「えっ?か、香奈ちゃん、どういう事…?」


俺が尋ねると、真奈美が俯いた香奈に目をやり、そして俺を向けこれまでの経緯を話し始めた。


「まず、最初に遼ちゃんに謝らなくちゃ。ごめんね。今日の事なんだけど、本当は私達、遠出するとかじゃなくて遼ちゃんに会うのが目的だったの。もちろん、いろんな所にも行きたいってのもあったんだけど。でも、今日は遼ちゃんにどうしても確認したい事があったから…。」


「もしかして、その確認したい事っていうのは、さっき俺に聞いてきた事なのか?」


「うん、そうよ。これで大体の察しはついたでしょ?わざわざ遼ちゃんに会いに来て、あんな質問までさせて。香奈ね、遼ちゃんの事が好きなのよ。ねっ。」


香奈に目を向けると、目を潤ませながら小さくコクリと頷いた。


俺は香奈のその姿を見て、『えっ!』声を上げて目を丸くした。驚きを隠せないというのは、正にこの事だろう。衝撃的発言を耳にすると、固まってしまう事をこの時実感した。俺は驚きの余り、その場に立ち尽くすしかなかった。すると、俺を見かねた真奈美が、再び話し始めた。


「公園で私が二人の傍を離れたの、あれもワザとなの。私がいたら香奈もゆっくり話ができないだろうし、本来だったらあの場所で香奈も遼ちゃんに言うとはずだったの。でも、話を聞いたら、ちょっとしたハプニングがあったって聞いて。話もそんなにできなかったって言うし。」


「た、確かにそうだったけど…。」


「それで、さっきのおみやげ屋さんで香奈に話を聞いたら、結局は肝心な事は伝えてないって言うし、既に諦め気味だったから、私それで怒っちゃって。折角ここまで来たのに、自分の気持ちも伝えないまま帰っちゃうって私は嫌だったから。まぁ、これってお節介なのかもしれないけどね。だから、ホームに着いたときに遼ちゃんには悪かったけど、ちょっと離れててもらって香奈と話をして、そして遼ちゃんにもあんな質問をしちゃったの。」


「そうだったのか…。」


「遼さん、本当にごめんなさい…。」


「香奈ちゃん、大丈夫だよ。もう全然気にしてないから。」

俺は香奈に笑顔で答えた。すると真奈美は、


「こうやって会う機会って今は殆どないから、こういう時にはっきりさせておきたいじゃない?二人の気持ちも分かってるのに、ウダウダしてても時間が勿体無いじゃない。」


と、笑顔で言った。しかし、俺は真奈美の発した一言が気になって、


「おぃ、ちょっと待て。二人の気持ちがわかってるって言ったけど、俺はお前に香奈ちゃんが好きだなんて一言も言ってないぞ?」


と小さな苛立ちを含ませながら言った。すると真奈美は、手を握り締め人差し指を立て、その指を左右に振り、『チッチッチ』と言いながら答えた。


「あのねぇ。遼ちゃんは確かに一言もそんな事を言ってないけど、見てりゃ大体わかるわよ。」


「よく言うよ!どこでわかるっていうんだよ!」


俺は自分の気持ちを真奈美に見透かされたのが恥ずかしかったのか、声を荒げて言った。しかし真奈美は、そんなのお構いなしといった感じでニヤニヤしながら答えた。


「そりゃぁ、香奈に対する態度だったり、いろいろあるじゃない。あとは、女の勘ってやつよ。」


「態度はともかく、なんだよ、女の勘って…。」

そんなにわかり易く態度に出ていたのだろうか?どうも、『女の勘』とやらには納得がいかない…。

俺はブツブツと小言を言う。真奈美はそんな俺を見ながら宥める。香奈は二人のやり取りを見ながら微笑んでいた。気がつくと、三人はいつものように戻っていた。


すると、ホームでは電車の最終乗車案内が流れた。三人の間に淋しさが漂う。しかし、会えないわけではない。俺はゆっくりと、そして笑顔で二人に声をかける。


「もう、時間だね。電車乗らなきゃな。また、こうやって3人で遊ぼうな。次は変な事企んでくんなよ?」


そういうと、二人は笑顔で頷いた。そうかと思うと、真奈美がまた、何かを思いついたかの様に突然声を上げた。


「あっ!肝心な事忘れてた!」


「な、何なんだよ、急に。っていうか、お前の急にはもう慣れたけどな。」


「遼ちゃん!私たち、もう帰るんだから、最後にちゃんと言いなさいよ!」


「えっ?ちゃんと言えって何をだよ?」


「何をじゃないわよ!ちゃんと香奈に『付き合って』って言いなさいよ!何も言ってないでしょ?」


真奈美は突拍子もない事を言い出した。俺はさすがに戸惑った。


「えーっ!今かよ!?っていうか、もうお互いわかってるから別に言わなくてもいいじゃないか!」

さすがに俺も照れくさかったのもあり、そういう台詞をいうどころではなかった。


「言わなくてもいいじゃないわよ!もー、わかってないわねぇ。女の子って、そこが大事なのよ!始まりは大事なのっ。香奈も言ってほしいに決まってるじゃない。ねぇ?」


香奈に目を向けると、若干苦笑い気味だったものの、その後俺の方を見ると俯きながら少し恥ずかしげに、


「ちょっと、言ってほしいです…。あっ、でも無理ならいいんですけど…。」


と答えた。その後、真奈美も畳み掛けるように、


「ほらねっ、言ったでしょ?女の子はちゃんと言ってほしいものなの!ほら、早く言って。電車の時間もないんだから!」


と俺を急かす。真奈美に言われるのは癪に障るが、香奈が言うのであればと、恥ずかしい気持ちもありながら、でもちゃんと伝えようと、香奈の目を見て伝えた。


「なんかドタバタして、こんな感じになっちゃったけど、俺の気持ちはさっき言った通りです。俺、香奈ちゃんの事が好きです。付き合ってください。」


そういうと、香奈は瞳に涙を溜めて、しかし真っ直ぐ俺を見つめて、


「はい。」


そう答えた。そして、真奈美と香奈は俺の目の前で大きく喜び抱き合った。すると、ホームでは出発のベルが鳴り出した。二人は慌てて列車へ飛び乗った。

列車に乗った二人はくるりと振り向き、俺に手を振った。そして、二人を乗せた列車のドアは閉まった。俺は二人に向かって手を振り返し、二人を乗せた列車を最後まで見送って帰路へとついた。

なんとも騒がしい感じではあったが、こうして俺と香奈は付き合う事となった。


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