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第11話 -慟哭 Ⅸ-

それから幾年もの月日を経て、真奈美の電話をきっかけに僕らは再び繋がった。

しかし、その繋がりは、俺にとってはあまりにも残酷だった。



香奈が… 死んだ…。



理解ができない。俺の頭の中では『何故』の二文字が無限に浮かんでくる。


俺は訳もわからず声を荒げて、電話越しに真奈美を怒鳴りつけた。


「オイ、香奈が死んだってなんだよ!何年か振りに電話してきたと思ったらわけわかんねー事言いやがって。そんな訳ねーだろっ!馬鹿いうのも大概にしろよ!」


すると真奈美も涙声で怒鳴り声を上げて返してきた。


「遼ちゃんの馬鹿っ!冗談でこんな事言うわけないじゃない!香奈…本当に…本当に死んじゃったんだよ…。」


今の声で目が覚めた。ここまで泣きじゃくって電話してくる真奈美が、冗談なんていうはずがない。これは現実なんだ。

事故なのか、病気なのか…。これだけ混乱している中でも、どこか冷静に判断しようとする自分がいた。


混乱と、突如の虚無感の中、俺は精一杯の声を振り絞り、真奈美に聞いた。


「香奈は…。香奈はなんで死んだんだ…。」


泣き続けていた真奈美は、俺の問いを聞くとゆっくりと泣くのを抑え、話し始めた。


「実は、数ヶ月前に香奈から突然電話がかかってきたの。すごく久し振りだった。香奈が結婚して引っ越してから、私達も最初は連絡取ってたんだけど、そのうち次第に連絡も減っていって。ここ数年は、香奈と全然連絡とってなかったの。久しぶりだったから、最初はお互いの近況を話したりして盛り上がってたんだけど、私が結婚生活の話を切り出したら、香奈急に黙っちゃって…。すると、突然遼ちゃんの話を持ち出してきたの。」


すると、真奈美はその時のことを、詳しく話し出した。



『そういえば、遼さんって元気にしてるのかなぁ?』


『どうしたの、香奈?急に遼ちゃんの事なんて。』


『ううん、真奈美ちゃんと話してたら、なんか急に昔の事を色々思い出しちゃって。まだ東京にいるのかなぁ?』


『うーん、どうなんだろうね?まだ東京にいるんじゃない?何年か前まではちょくちょくこっちに帰ってきてたけど、今こっちにいるって話は聞かないし。私も全然連絡取ってないしね。』


『そっかぁ。まだ、東京にいるんだ。結局そっちに帰って来なかったんだね。』


『香奈と別れてしばらく経ってからだけど、前に遼ちゃんに一度こっちに帰ってこないのかって聞いたことがあって。ちょうどその時はこっちに戻れるタイミングだったらしいんだけど、戻る理由も無いからって断ったって言ってたわ。』


『…そうだったんだ。』


『ま、もう長いことなんの連絡もないし、今頃東京でよろしくやってんじゃない?』


『そうだね…。もし…、もし、あの時私が遼さんを待ってたら、今頃一緒になれてたのかなぁ…。』


『香奈…、本当にどうしたの?何かあった?』


『あ、ううん、大丈夫。変なこと言ってゴメンね。最近ちょっと色々と上手くいってなくて。ちょっとした現実逃避ってやつかな。どれだけ過去を振り返ってもどうにもならないしね。今を頑張らなきゃ。』


『そ、そう。それならいいけど。』




「そして私たちは電話を切ったの。これが香奈との最後の会話だった。それから数ヶ月が経って、今日、香奈のお母さんから電話があって、香奈が死んだって教えられたの…自殺だったって…。」



…自殺。



全く持って予想もしない言葉が、俺の心を深く突き刺した。そして俺は、それ以降真奈美と何を話したのか殆ど覚えていない。

自分が愛した人の自らの死。何がそれほどまでに彼女を追い詰めたのか、今となっては解らない。

例え過去の事であっても、自分に手を差し伸べる術はなかったのか。彼女を救う手立てはなかったのか。

いくら考えたところで、今となってはどうにもならない…そんな事はわかっている。ただ、溢れんばかりの自責の念が、俺の胸を締め付ける。


1本の電話が、時として人と人との心を繋ぎ、そして人と人との心を離し、過去と今とを結びつけ…。


そして、大きな傷を残す。



- あの時あなたを待っていたら… -



俺には今でもあの言葉が忘れられない。

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