第7話~忘れていた幸福との再会~
今話は神々の話から少し逸れてます。
次回からは平常運転に戻るので、
ご安心を
第7話
???「刻蝋値君。……だよね?」
自分と同年代程の魔法使いの女性に声をかけられた。
刻蝋値「おう……えっと、君は……誰だ?」
時々施設で見かけた女神だったが、全く記憶の中に
居なかったため、こんな反応になった。
女神「……やっぱり昔のことすぎて、忘れちゃったよね。
覚えてる? 中学2年生の春頃の陸上大会で会ったの」
刻蝋値「ち、中2の、陸上大会?……待てよ、昼休みの
時に……」
~回想~
刻蝋値「はーー! どいつもこいつも遅すぎだろ。
どーせスロトレばっかりやって、筋収縮速度を
無駄に低下させてるんだろうな~。救いようのねぇ
馬鹿ばっかりだぜ!!」
当時、陸上クラブに所属し、圧倒的な俊足を誇っていた
刻蝋値少年は、対戦相手が遅すぎることに対する不満を
惜しみ無くぶちまけていたのだ。
女の子「あ、あの!」
刻蝋値「あん? なんか用か……(おおっ、可愛い!)」
前髪を揃え、耳まで隠れたショートヘアーの整った
顔立ちの女の子が立っていた。
女の子「君、刻蝋値君だよね? 試合見てたよ。
すっごく速いんだね!」
刻蝋値「……ああ、サンキュ。つっても、俺が速い
と言うより、周りが遅い気がするけどな」
女の子「ううん、君が速いんだよ。そこでさ……」
刻蝋値「なんだ?(もしや……告白か!? いや……流石に)」
女の子「私に速くなる方法教えてほしいの」
刻蝋値「んん? 部活なり、クラブなりで練習して
ねーのか?(まー、この顔に告白する訳ねーよな!)」
女の子「……それじゃあ勝てない。顧問は40年前の
非効率な筋トレばかりさせてくるし、クラブのコーチも
長距離の人と同じような距離を走らされるの」
刻蝋値「は? 何だそのクソ非効率な組織!
何とか訴えてそいつらから金奪えねーかなー?
ってか、お前なんて名前だ??」
女の子「あ、良い忘れてたね。私は亜相疾美よ」
刻蝋値「はやみ……あ、去年の冬大会で2位だった子
じゃん! そっか~……そんなに才能があっても、
環境が伴わなかったら上り詰めれねーよな」
はやみ「だから、刻蝋値君の技術を教えてほしいの!」
刻蝋値「……いいぜ」
はやみ「え? 良いの!?」
刻蝋値「おう、後でジュース奢ってくれるなら、
ガチで教えてやるぜ」
はやみ「やったぁ!」
刻蝋値「じゃ、早速簡単なフォームチェックをするぜ」
十数分程の練習を経て、昼休みは終わった。
~閉会式までの間~
刻蝋値「よう!」
はやみ「あ! 刻蝋値君!」
刻蝋値「試合、見てたぜ。優勝おめでと!」
はやみ「ありがとう! はい、これ」
見るからに活力が湧いてきそうなエナジードリンクを
渡された。
刻蝋値「マジで!? やっすいお茶とかカンコーヒーで
良かったのに!」
はやみ「ぶっちぎりで優勝出来たんだもの、
安いくらいよ!」
刻蝋値「そっか。感謝の気持ちとして受け取っておくぜ。
それにしてもこれは俺も嬉しいな」
はやみ「良かった……」
刻蝋値「ってことで、サービスだ! 筋トレの極意を
教えてやるぜ!」
はやみ「え! 本当!?」
刻蝋値「マジだ!」
と、その時
大柄な男「おい」
刻蝋値「何だよオッサン。可愛い子と話してる俺に
嫉妬か?」
男「たわけ、ウチの生徒と何話してるんだ? 他校との
接触は禁止なんだぞ」
刻蝋値「ハッ! 俺ぁ、クラブ所属だから、
学校代表じゃありまへーん!!」
男「チッ! それにしてもはやみ、何だあの走り方は?
俺が高校3年で優勝を飾ったフォームを忘れたのか?」
はやみ「……先生、私はあなたの走り方では遅かった
から、彼にフォームを習い、優勝しました」
男「たわけ! 録にフォームを練習していない小娘が
口答えするな!! そんなに自由になりてぇなら、
俺に100m走で勝ってみろ。……勝てるのならな」
はやみ「くっ………」
刻蝋値「おーおーおーおー、聞いてりゃ得意分野で
マウント取ることしか出来ねぇチキンかよ!」
男「あ? 何が言いたい?」
刻蝋値「高校レベルしか通用しねぇお前じゃ、
誰も速く出来ねえって事だ! 後、さっき、
お前自身がそれを認めてたよな」
男「ぬぅ……!!」
刻蝋値「ここからが本題、俺と勝負しろ! そして、
俺が勝ったら、部員へ昔のやり方を強要するのを
止めるんだ」
男「……余程恥をかきたいらしいな。良いだろう」
~グラウンド~
スターター「set」
両者とも今にも飛び出しそうな前傾姿勢になる。
ピストル『パァン!!』
スタートは若干刻蝋値が早い。
刻蝋値「よっし、このままストレート勝ちだぁ!」
筋トレ歴4ヶ月にして、スクワット、デッドリフト
150kg、ベンチプレス100kgの筋力を生かした
加速が刻蝋値を前へと進める!
男(ふん、お前がイキれるのは30mまでだ。
高校大会優勝者の本気、侮るなよ!!)
いくら筋力があるとは言え、まだまだ細く、
軽い刻蝋値では、空気抵抗による加速力の
低下が無視できないのだ。
誰しもが、このまま顧問が追い抜くと
思っていた時だった!
刻蝋値(ばーか、鬼ごっこで気絶しながらも
100人取っ捕まえた俺の心肺機能
舐めんなよ!!)
全く減速すること無く、顧問より僅かに早い
トップスピードで、一気にゴールへ近づく。
男「……!!……何故、追い付けぬ! ぬおおおっ……!!」
今さら力むも既に遅し。
結果を見てみれば、刻蝋値の方が1秒早くゴールし、
高校新記録より0.5秒遅かった顧問の男は惨敗を
喫した。
刻蝋値「ぜぇ…ぜぇ…さぁて、約束は守ってもらうぜ!」
驚きと歓声のガトリングを浴びながら、
嘗ての栄光にすがる男に言ってやった。
男「くそがぁ!!」
何と、教師でもある男は、悔しさから、
涙目になりつつ殴ってきたのだ。
刻蝋値「何やってんだよ、全く……」
軽く間合いを取りつつ、空手の前足蹴りで鳩尾に1発入れてやった。
男「ヴッ!!!オロロロロロロロ………」
刻蝋値「今の正当防衛だから、変な罰とか
止めてくれよーーーー!!」
よく不平等な罰を与えられがちだったので、
大声で叫んだ。今件に関しては、特に罰則も
与えられずに済んだ。
~閉会式後~
はやみ「うん、色々教えてくれて本当にありがとねっ!」
刻蝋値「おう、頑張れよ!」
はやみ「……もう、会えないの?」
刻蝋値「……いーや、俺も陸上部に転部する
かもしれんわ。折角の数少ねぇダチになったし、
互いの成長も見てぇしな!」
はやみ「!、うん。また会おう、約束だよ!」
刻蝋値「おう! 最後にこれ、やるよ」
はやみ「え、これってトレーニングルーティーン……良いの?」
刻蝋値「こんなの頭に叩き込んでるから、いつでも
書き出せる! じゃーな、また今度!」
………結局俺は3日後に車に引かれ、帰らぬヒトに
なった。まぁ、その直前にいじめっ子3人に大怪我
させていたから、どっちにしろ会えなかったと思う
がな………………。
~回想終了~
刻蝋値「はやみ……こんなところで約束を果たすとはな」
はやみ「もう……ニュースで報道されたときは
悲しかったんだよ!」
刻蝋値「悪ぃ悪ぃ。けどなんではやみまで神に
成り上がったんだ?」
はやみ「……ちょっと恥ずかしいから、また今度ね」
刻蝋値「そっかー……因みに俺は、筋力のつけすぎで
神域に達したぜ!」
はやみ「刻蝋値君らしいね……その不思議な姿といい」
刻蝋値「だろ? まぁ、この話しは置いといて、
俺はアポフィス神に任務完了報告をしに行くぜ」
はやみ「え、アポフィス神と会っているの!?
……アポフィス神って、どんなお姿なの?」
刻蝋値「最っっっ高にカッコいくて、イカしてるぜ!!
はやみもついでに会おうぜ。着いてきな!」
はやみ「うん!」
第8話に続く。
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