第52話~気がつけば、食い散らかされている~
決戦…………開始!
52話
刻蝋値「……………………」
嵐前は、いつも静かだ。今現在も、敵が息を潜め、
物音を立てずにこちらを攻め入る隙を伺っている。
刻蝋値(けどよ、全ての音は消せねぇし、侵入を未然に
防ごうと隙を伺っているのはこちらも同じだぜっ!)
刹那、刻蝋値の姿が銀色に変わった。更に間髪入れず、
周囲の景色を投影することで、事実上透明になった。
刻蝋値(聞こえるぜ、お前らの動揺の音。ここは既に
俺の術中だ)
刻蝋値は既にアガートラームの特性・粒子の無限生成を
行使しており、更には自らも同化していた。
刻蝋値 (ナーヴ・バーリアー)
いつの間にやら空気に紛れて敵兵に侵入させていた
粒子を操作し、神経細胞の中心部で急膨張させること
で、運動神経を破壊した。
敵軍達(あれ? 動けない…………。やられた!?
消えたアポフィス側の偵察兵の仕業か!?)
気づいた時には既に遅し。攻撃も防御も
何も出来なくなった。
刻蝋値「プルートさん、後はよろしくお願いします」
そして無力化した兵士は、ラーが来る前に捕虜に
してしまうのだ。
~ラー軍拠点~
ラー「ふん、切り込み隊が消滅したか。こやつらの
生死に興味はないが、死に方の詳細は重要だな。
アポフィス、どんな方法でこやつらを殺した?
生体兵器か? 物理兵器か? それとも生物兵器…………
可愛い可愛いゴキブリを羽ばたかせたか??」
極悪と表現するのが最も相応しい表情で、
自軍の兵の死に方を、アポフィス達の戦法を
考えている。
軍師「ラー様、只今切り込み隊の詳細が
報告されました!」
ラー「離してみろぉ…………」
軍師「ごくっ……! 切り込み隊は…………裏切りの
瞬間移動術士・プルートによって捕虜にされた
模様です!」
ラー「プルート…………ゴミがまたしても私に
歯向かうのか? 何故生きているのだ?
取り柄が無いくせに」
軍師「は、はぁ……」
ラーの情緒不安さに、軍師まで突然殺されないかと
不安になってきた。
ラー「全軍突撃だ。肉壁で奴等の兵器を使い物に
ならなくするのだ!!」
軍師「分かりました!(この神は終わっている
…………さっきの話を聞いてなかったのか)」
最早先程のプルートについての話を聞いていなかったらしく、色々と記憶が混濁している様子も伺える。
~戦場~
刻蝋値「来た来た」
刻蝋値は、軍勢を出来るだけ引き付け、自ら作った
力場を通過される寸前で、内部に居る者達全ての
神経を切断した。
刻蝋値「ここまでが限界だな。後は実力行使だ」
次は力場から大量の槍を生成し、漏れた軍勢に
飛ばしていく。槍は彼らの急所こそ外せど、
動きを司る身体部位を確実に破壊していった。
刻蝋値「コイツらは洗脳とかされてなさそうだな。
相応に感情を感じる」
どうやら笑ってしまうくらい噂が流布している洗脳兵は、
この中には居ないようだ。
刻蝋値「プルートさん、もういっちょ連れ帰って下さい」
次の瞬間、大勢居た兵士達が忽然と消え去った。
~ラー軍本拠地~
軍師「…………第2軍、投入せよ!」
~戦場~
刻蝋値「…………あいつらがそうなのか。何一つ感情を
感じねぇ」
目の光は一筋も無く、口は半開きだ。
刻蝋値「ただ、見覚えのある奴も見えねぇな」
そう言いつつ、一定数が力場に入ったタイミングで、
神経を破壊した。
刻蝋値「予想通り、神経で動いてねぇなっ!」
今度は全身を粒子でがんじがらめにし、
身動きを取れなくした。
刻蝋値「この攻撃は消耗する…………プルートさん、
コイツらは重要な存在です。アポフィス神にも
お伝えください」
そしてプルートの転送魔法で捕虜達は消えた。
刻蝋値「…………懐かしい顔ぶれだな。なぁ、ホーク。
随分と鍛えたんだなぁ…………」
アガートラーム同化状態から戻りつつ、
体つきが逞しくなったホークを誉めた。
ホーク「…………」
刻蝋値「けどさ、そんな青白い顔になってよ、
はやみが見たらさぞ悲しむだろうなぁ…………」
その表情には、誇りや尊厳、喜びはおろか怒りすら
感じられない。
刻蝋値「俺が出来るだけ面倒見てやる。……けど、
ダメな時はその時だ。恨んでも文句は言わねぇよ」
笑顔で死闘の宣言を行った。同時に、ホーク達は
襲撃を開始した。
第53話に続く。
たいっっへん遅くなって申し訳ありません。
ネタが思い付かなかったのと、気分転換に
連載を始めたシリーズが妙に起動に乗り、
ついついそちらに過集中してしまいました。
このシリーズもラストは決まっているので、
エタる心配だけはありません故、ご安心を。
ただ、投稿ペースはこんな感じになると思います…………




