幼馴染みが『美少女』とか夢見すぎ
以下、旧あらすじの一部を掲載
最近(2020年4月ごろ)、小説のタイトルからして『幼馴染み』って存在・関係にネガティブなイメージが定着しそうな勢いを感じました。
というわけで、『幼馴染み』ってキーワードから自分なら『こういうのでいいんだよ!』と思うようなシーンを、思いつきで形にしてみました。
オチらしいオチも用意できませんでしたが、ちょっとだけ『ふふっ』と思っていただけるストーリーを意識しております。
――以上、作者のお遊びになりますが、お付き合いいただけるのであれば大歓迎です。いらっしゃいませ~!
「――なぁ、これ見てみ?」
俺は自室のベッドに寝ころびながら、さっきまでいじっていたスマホの画面を向ける。
「ん~?」
すると、ベッドの側面を背もたれにしてマンガを読んでいた幼馴染みが、気の抜けた返事をしながらイヤホンを片方はずして顔を上げた。
夏も真っ盛りで、蝉がジージーワシャワシャうるさいからって音楽聴いてたのに、よく俺の声が聞こえたな、こいつ。
「……なんだこれ? ごちゃごちゃと文字ばっかじゃねぇか?」
「あれ、お前『オンノベ』知らなかったっけ? ウェブ小説の無料投稿サイト最大手で、だいぶ前から書籍化もバンバンされてる有名なとこなんだけど」
「悪いが俺は小説よりマンガ派だから。文字ばっか読んでて何が楽しいんだっつの……」
「ちなみに、お前が今読んでるマンガの原作がここ出身の作家な」
「……え、マジで?」
さっきまでぼーっとした面構えだったのに、マンガに戻しかけた目を丸くして振り向くお前のリアクションが『マジで?』だよ。知らずに読んでたのかよ。
俺が見ていたのは、正式に言うと『オンリー・ノベライズ』ってサイト名だ。略して『オンノベ』って言えば、だいたいの奴には伝わるくらい認知度は高い。
大半が素人作家の好き勝手書いた小説がぶち込まれてる闇鍋サイトなんだが、中には『なんでお前プロじゃねぇの?』ってくらい面白い小説が投稿されてたりするからバカにできない。
このサイトが開設されたのは十五~六年くらい前らしいけど、出版社がプロの原石に目をつけだしたのが約十年前。
そこから人気上位作品を多くの出版社が次々と青田買いしていって、今じゃ『オンノベ小説』ってカテゴリーまで生まれたくらい有名になった。
……まあ、言っても元が『素人中心』の投稿サイトだから、出版された作品でもアラが目立って『面白くない!』ってたたかれる作品も多いんだけど。
中には現役のプロや元プロの作家も書籍化目当てに投稿してるみたいだが、紙とウェブじゃ勝手が違うのか『プロ』の肩書きが通じない場合もままあるらしい。
「ってかお前、小説とか読めたのか? 前の期末テスト、国語でギリ赤点だったろ?」
「バカにすんな! ギリセーフだっただろうが! テストに出るような小難しい話とかまぎらわしい言い回しとかが読む気になれないだけだっつの」
「……なるほど、お前が読める程度にゃハードル低い小説ばっかなんだな」
「は? マンガしかまともに読めねぇお前に言われたかねぇっつの」
さっきから失礼にも程があんだろ、こいつ。
俺と大して成績変わんねぇクセして、なんで上から目線なんだよ。
何年同じ教室で同じテスト受けて見せ合ってきたと思ってんだ、お?
「で? その『ボンジョヴィ』が何だって?」
「俺がいつ洋楽やハードロックの話したんだよ……。『オンノベ』、な? いいから、ここのランキングに載ってるタイトル、読んでみ?」
「めんどくさ……えぇっと? 『横暴な美少女幼馴染みに振り回されてうんざりしてます』、『ずっと片想いだった幼馴染み(美少女)に振られたら気づけばハーレムに』、『勇者やってる美少女幼馴染みがイケメンに寝取られたので復讐します』……なんだこれ」
さっきからずっと向けたままだったスマホ画面に並ぶタイトルを読み進めていく内、どんどん幼馴染みの顔がひきつっていく。
だよなぁ、気持ちはわかるぞ。
「『オンノベ』って大半が素人だからか、サイトの中で人気が集中する『流行りジャンル』があるんだよ。ほとんどが一時的なブームで終わるんだけどな」
「……そのブームの真っ最中にあるのが、『幼馴染み』ってことか?」
「そ。厳密には『美少女幼馴染みざまぁ』だけどな」
汗ばんできた体に襟元をバサバサ扇いで風を送りつつ、上半身を起こしてベッドの上であぐらをかく。
ついでにさっき精神的にマウント取られた腹いせも込めて、今度はこっちが物理的に見下ろせるよう幼馴染みの背後を取ってやった。
その状態でスマホを幼馴染みの目の前に持って行き、こいつのつむじ越しに画面をスワイプして適当に下へスクロールしていく。
「どこもかしこも美少女美少女……どんだけ『幼馴染み』に期待してんだよ、って思わねぇ? ここまで同じ単語ばっかだと、逆に笑えてくるだろ?」
「あ~……、たしかに、な……」
こういうタイトルの場合、十中八九――ってか百パー男主人公+女幼馴染みで、作者もたいがい男が多い。まさかの百合展開って作品もあるかもだが、少なくともランキングじゃ見ねぇからいいとして。
自分の創作だから理想をぶち込みたい、って作者の思惑もあるんだろうけど……実際に『幼馴染み』がいる身としては非現実的きわまりない設定なんだよな。
たぶん、鏡があれば俺もこいつと同じ微妙な顔つきになってんだろう。ってか、自分でも口角がひきつってんのがわかるわ。
「それに美少女っつっても、本文に書かれてる特徴もどっかで聞いたことあるのばっかなんだよな。白い肌とか、長いまつげとか、大きい目とか、通った鼻筋とか、ピンク色の唇とか……もうアパレル店でポーズ決めてるマネキンでもいいんじゃね? とか思うわけよ」
「……やけに詳しいな、お前?」
「暇だったから適当に読んだんだよ。どんだけ読んでも無料だし」
一通りサイトのランキングを見せた後、幼馴染みの頭を囲んでいた両腕をはずしてスマホの電源ボタンを押す。
ぽいっ、と枕へスマホを放り出してから両腕を後ろにつくと、今度はあぐらをかいていた足をのばした。
その拍子に幼馴染みの右肩に俺のかかとがかすった。
「――いてっ!」
「あ、悪い」
「……とか思ってねぇだろ、お前?」
「なんだっけ? ほら……不可抗力? ってやつだろ? ちょっとくらい大目に見ろって」
一瞬だけ不機嫌そうな顔で振り向いた幼馴染みだが、すぐに視線をマンガに戻した。
俺は俺で、投げ出した足を幼馴染みの両側でぶらぶら動かす。
……ってか、やっぱあちーな。
窓開けて扇風機つけてでこれとか、日本の夏ってマジ拷問だわ。
「…………おい、さっきからバサバサうっせぇぞ」
「服の中に風送ってごまかしてんだよ、気になるんならまたイヤホンを耳につっこめばいいだろ?」
「はぁ、せめてうちわくらい使えバカ。あとエアコンもさっさと直せ」
「しゃーねーだろ、急に調子が悪くなっちまったんだか、らっと。サンキュ」
また襟元をバタつかせながら胸元に風を通して涼んでいたら、見かねた幼馴染みが床に落ちてたうちわを投げてよこしてきた。
ありがたく受け取って手首をプラプラ揺らすと、よほど効率的に風が顔に流れてきた……まあ、気温も湿度も高いからか、結局浴びてんのは熱風なんだけど。
ちなみに、扇風機は一応お客だからってんで幼馴染みに譲っている。おこぼれで恩恵をもらってる足だけはかなりマシだ。
あ゛~、俺ってやさしー。
「……やっぱ俺、今日は帰るわ」
「何? 扇風機と氷つき麦茶じゃ不服かよ?」
「ったり前だろ、こんな蒸し風呂状態で長居できっか。お前ほどじゃねぇけど、こっちももう汗だくなんだよ」
「悪かったな、汗っかきで。マンガはどうする? 俺はもう読み終わってるけど」
「借りてく。新刊が出たら俺が買うから、そん時に一緒に持ってくるわ」
「りょ~か~い」
そう言うと、幼馴染みは両手で閉じたマンガを鞄に突っ込み、残っていた麦茶を一気飲みする。……氷まで流し込んでガリガリかみ砕くくらいなら、ちょっとずつ水分補給しとけよな。
幼馴染みが持って行くマンガは俺が買ったもんだが、その前の巻はこいつが購入している。一つのシリーズを交互に買って貸し合うことで、マンガ代を節約してんだよな。
美少女かどうかは置いといて、こういうとき幼馴染みってのは便利だ。俺らの場合は家も隣同士で、返してほしけりゃ互いの部屋に乗り込めばいいから、物の貸し借りがめっちゃお手軽だし。
その点で言えば、『オンノベ』の登場人物ってバカだよな。わざわざ嫌われるようなことしなくても、そこそこ仲良く付き合ってれば後悔なんかしなくてすむのに……。
「――あ、そういえばさ~」
「……まだ何かあんのかよ?」
鞄を肩にかけて部屋から出ようとした背中に声をかけると、ちょっと不機嫌そうな幼馴染みが肩越しに振り返った。
ん、っと反動をつけてから体を持ち上げ、両肘を膝に乗っけて体重をかけ前屈みになってから、純粋な疑問をぶつけてみる。
「お前、途中からマンガが一ページも進んでなかったけど――ついにマンガも読めなくなったか?」
「っ! ――誰のせいだ!」
瞬間、幼馴染みはぱっと表情を変えてマジギレし、俺をどやしつけてから扉を叩きつけるように閉めた。そのまま乱暴な足音をたてながら階段を下りていき、玄関扉を勢いよく開けた音がする。
にやにや顔で百パーからかったのは事実だけど、そんな怒らなくてもいいだろうが……。
ビビるやらあきれるやらでちょっと固まってた体を脱力させ、さっきまで幼馴染みが独占していた扇風機をこちらに向ける。
「……やっぱ、こっちの方が涼しいな」
そんな当たり前の独り言をこぼして、俺はしばらく電化製品のありがたみをかみしめていた。
「――ただいま~」
「おかえり~、お袋」
「って、あんた家の中で何やってたの? 汗だくじゃない」
「別に何も。あいつが部屋にきてただけ」
「あいつって……隣の家の男の子? 幼馴染みなんだから名前で呼んであげなさいな」
「幼馴染みだからいいんだよ。あっちもだいたい『お前』呼びだし」
「……まあ、あんたたちがいいならそれでいいけど、後でシャワーくらい浴びてきなさいよ」
「ん~、そうする~。あ、コップとか流しに置いとくから」
「はいはい……まったく、飲み物出す気遣いができるんなら、エアコンくらいつければいいのに」
「しょうがねぇだろ、急にエアコンの調子が悪くなったんだから」
「……ふ~ん? 今朝は調子がよすぎて腕をさすりながら起きてきたのに?」
「…………たまたま、あいつがきてから調子が悪くなったんだよ」
「何それ? それと、家の中だからってブラウスのボタンもちゃんと留めなさいよ、だらしない」
「あ! やっべ、忘れてた!」
「――ん? っていうかあんた、そんなかわいい『ブラ』なんか持ってたっけ? あんたの下着ってグレーのスポブラばっかでしょ? ほら、中学から急に大きくなっちゃってぴったりのサイズを探すの面倒だ、って」
「ぅ……わ、悪いかよ!?」
「悪くはないけど……そっか~、高校生になってようやく色気が出始めたわけね。母親としてはお隣の子の口調が移って『俺』とか言い出したときにはどうなることかと思ったけど、ちょっと安心したわ」
「うっせぇ! 大きなお世話だっつの!!」
「これで言葉遣いもマシになってくれたらねぇ……ま、いざってときにはあの子にもらってもらいなさいな。小さい頃だって、あんたの方からずっとひっついて遊んでたんだし、向こうも満更じゃないかもよ?」
「~っ! 風呂! 入ってくる!!」
「はいはい、ごゆっくり~」
これ以上お袋に言われっぱなしにさせまいと、逃げるように脱衣所へ駆け込んだ。
大きなため息とともに肩を落として横目で洗面台の鏡を見ると、まるで幼馴染みが帰る直前で見せたような火照った顔が、恨みがましくにらんでくる。
一度大きく深呼吸して、さっき閉じたばかりのボタンをはずしていき、湿ったブラウスや腰の部分を少し折り込んでいたスカートを洗濯かごへ乱暴にぶち込んだ。
「――っ。やっぱ、通販なんかで買うんじゃなかった」
そして、俺には似合わない真っ赤な下着を身につけた自分を見つめ、最大サイズでもまだ窮屈なそれをはずそうと背中に手を伸ばした。
……ホント、幼馴染みが『美少女』とか、夢見すぎだよな。
……というわけで、『俺ちゃん(♀)』と『俺くん(♂)』の青春でした~!
こちとら『いや~、若いっていいね~』ってリアルに言っちまう年齢なんだから仕方ないんです! もう一度言おう、『こういうの』でいいんだよ!!
とまあトチ狂ったおっさんの汚い叫びはさておき、ここまで読んでくださった方々に少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
ちなみに、ジャンルが『恋愛』ではなく『ヒューマンドラマ』に設定したのは、『俺ちゃん(♀)』の性別ミスリードが成立しなくなるためです。
短編ではたびたび『ヒューマンドラマ』ジャンルにお世話になってますが、拙作の場合は割とジャンル違いな内容も多いため、ご迷惑をおかけしています。これからもよろしく!(反省ゼロ)
もし億劫でなかったら、お一人様につき★を五つほどご用意しておりますので、お好きな数だけ↓にある☆のところへはめてってください。何かの封印が解けたり解けなかったりします。
以下、★の評価基準を一例として記載します。
・★★★★★
全体的に面白かった/R18で書け(※書けません)などなど
・★★★★
『俺ちゃん(♀)』がかわいい/『俺ちゃん(♀)』の使用済みコップはどこ?(※ありません)などなど
・★★★
『俺ちゃん(♀)』ママがいい味だしていた/むしろ『俺ちゃん(♀)』ママ×『俺くん(♂)』ルートは?(※ありません)などなど
・★★
『俺ちゃん(♀)』は制服ではない! ジャージだ!!/メインの『俺くん(♂)』NTR描写を入れ忘れてない?(※ありません)などなど
・★
実は『俺ちゃん(♀)』の部屋のエアコン(ベッドの下)に潜んでいたのは自分だ/本当は『俺ちゃん(♀)』パパ×『俺くん(♂)』が正規ルートなのでは?(※ありえません)などなど
ご参考までにどうぞ~。
(一度やってみたかったんですよね、評価クレクレ! 結果を見る前から背筋がぞわぞわするので、もう二度としませんね!!)