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滅亡予報は気まぐれに

序章 とりあえず状況説明

「私はイザリアの使徒です。

 突然ですが、ブローネはあと十日で滅びます。

 我らが主が、そうお告げになられました」


 ある日突然、私の母国ブローネに滅亡が告げられた。


 いや、滅亡が告げられたというより、滅亡が決定したと報告されたと言った方が正しいのかもしれない。

 なぜなら“イザリアの予言”に外れはなく、それに告げられた滅亡を、防ぐ手段はないと言われているからだ。


 とはいえ、我らがブローネ帝国は滅亡に至るほどの問題を抱えているわけではない。


 食物は豊かで水は豊富。外壁と優秀な立地、そして強固な結界まで揃えたブローネを攻めることの出来る国は周囲になく、治安も環境もさほど問題ない。

 だとすれば、滅亡の原因となりうるのはただ一つだ。


 “転移者” この世界にはそう呼ばれる存在がいる。


 伝承によると、彼らは“神”の祝福を受けた特別な存在で、不老の体を持つなど、一般人とは体の作りからして違うらしい。

 百年に一度だけ世界に生まれ落ち、それぞれ固有の“祝福能力”を神から与えられ、やがて人々を導く存在となるそうだ。


 この国の滅亡を予言したイザリアも、「予言」の祝福を持つ転移者だ。彼女はこの世界の住人を多く従え、”イザリアの使徒“と名乗らせて、彼らを遣いに出して予言の結果を報告させているようだ。


 そんな「英雄」にも「化け物」にもなれそうな彼らだが、このハレス世界にはとある理由で、その転移者がやたらたくさんいる。

 それも一人や二人ではない。何百何千という数の転移者が、別の世界からこの世界に“転移”して来ているのだ。


 一人で世界を変えてしまうような存在が、何人も一つの世界に集まれば、当然その世界は壊れ始める。彼らの抗争の流れ弾で村が滅びるし、持ち込んだ異世界の文明で簡単に人々の生活を変えてしまう。

 

 おまけに、彼らの一部はこの世界の一般人達を、自分達の好きなように生かしたり殺したり出来る虫けらように考えているそうだ。

 実際、転移者によって滅ぼされた都市や国の数は計り知れない。

 そのためか、我らのブローネ王は転移者から国民を守るため、結界を張って彼らを国に入れないようにしていた。


 話を戻すと、今回のイザリアの予言は、ブローネが転移者によって滅ぼされることを予言しているのではないかと予測出来る。


 転移者は、その特別な祝福能力で、普通の人間が数千人集まっても出来ないことを当然のように達成し、それぞれの世界で最強の名を欲しいままにしていたはずだ。


 そんな彼らから国を守るには、一般人では何人いても力不足だ。こういった場合は、やはり同じ転移者に頼る他ない。


 だがブローネは結界のせいで転移者と縁遠く、国の内部に転移者と戦うことの出来る存在が一人もいない。


 王の補佐官であるアムスさんは、この問題をどうにかして解決しようと、秘密裏に転移者召集作戦をとった。

 国の中で代表者を決め、その人にブローネのために戦ってくれる転移者を集めて来てもらおうという作戦だ。


「そこで私の出番というわけですね? 私にブローネを救ってくれる転移者を、連れて来て欲しいと!」


「そうです、メルナさん。ブローネへの忠誠が高く、優秀な魔術師であるあなたこそ、代表者にふさわしいと判断しました」


 アムスさんは人を見る目がある。ブローネの一般魔術師だった私の優秀さを見抜き、宮廷魔術師に採用してくれたのも、このアムスさんだった。


「実は転移者の居場所にはアテがあるんですよ! ちょっと遠いですけど、ペガサスの馬車を借りられれば、三日程度で着くと思います」


「それは素晴らしい。普段のあなたからは想像も出来ない優秀さです」


「余計な一言入ってません?」


「ですが気をつけて下さい。このブローネの結界の外に出れば、あなたを転移者から守るものはなくなります。一撃で山を崩し川を蒸発させる彼らへの対応は、常に命の危険を(ともな)います」


 私の問いに、彼は全く反応してくれない。本当に私の才能を見抜いて代表に選んでくれたのか、不安になってくる。


「大丈夫ですよ! 攻撃魔法は一つも覚えてませんが、私の優秀さがあればなんとかなります!」


 なんだってやってみなければわからない。それに今は、やるだけやってみなければブローネは滅ぶのだ。


「相変わらず気合だけは十分ですね。けれど、その無鉄砲さが、時に何かを救うこともあるでしょう。それでメルナさん。その転移者の居場所のアテというのは、どこの事でしょうか?」


「”グリモアス大図書館“です! 知識と魔術の宝物庫、魔術師達の夢の場所と言えばここでしょう!」


 あの場所は、その噂を聞いてから一度は行きたいと思っていた特別な場所だ。そこでは世界中の数億を超える魔術書が、ただ一人の転移者の元で管理されているらしい。


「“賢聖司書”ノーベルですか、彼は正直おすすめ出来ませんが……。まあ、背に腹は変えられないでしょう。気をつけ下さいね」


 アムスさんはいつもほとんど表情を変えない、ロボットのような人物だが、この時だけは珍しく不安そうな顔を見せた。


「な、なんですか、脅さないで下さいよう! それともノーベルさんについて、何か知ってるんですか?」


「いえ、噂で彼は、『情報中毒者の変人で、人の心の分からない臆病な機械人間』だと言われていたものですから、まぁ単なる噂でしょう。気にすることはありません」


「へぇ、それって……。なんでもないです」


 危うく「それってアムスさんみたいですね!」などと言いかけたが、ギリギリで踏み止まった。


 私にとって、例えノーベルさんがどんな人物であろうと関係ない。いずれにしろ、私が彼の協力を得られなければ、ブローネに未来はないのだから。


「さて、繰り返しますが、この件はあなたの知り合い意外には内密にお願いします。これはブローネで混乱が起きるのを防ぐためです。

今、国民の方々には、もしかしたらブローネが滅びるかもしれないという情報だけが伝わっています。

出来れば彼らにバレないように、転移者を連れて来て下さい」


 私はブローネの南東地区に住んでいるが、アムスさんに言われて、ここの一部の人間以外には、転移者召集作戦ことを話していない。


「そのため、もしあなたが結界の外で死ぬことになっても、こちらでは事故死とさせて頂きます。構いませんね?」


「問題ありません。私はまだまだ死ぬつもりはありませんから。なんとしてでも、生きてブローネに転移者を連れて来てみせます」


 かくして私は、ブローネの結界の外に出た。目指すはグリモアス大図書館。行きも帰りも、命がけの旅が始まった。


 ***


 この時、私は知らなかった。


 アムスさんの嘘も、ブローネ王の異変も、国にもう転移者が侵入していることも、これから私に襲いかかる数多の危機も。


 まるで予言のように、全ては、とっくの昔に始まっていたことなのだ。

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