導く者と覚悟
寒い日が続いていますね
皆さんも体調には気を付けましょう。
「エリスのスィスィアにしてくれ!」
俺はそう叫んだ。静かな部屋でただそれだけ響いた。
エリスは何も言わない。アモンも何も言わない。
そして…
ぐー…
なにかかわいらしい音が響いた。
俺ではない。緊張でそれどころではない。エリスも、反応的に違うかも。
ということは…
「ごめんごめん。お腹なっちゃった」
アモンが笑いながら言った。悪魔ってお腹すくんだ。
「エリス。ごはんよろしく」
「え?まさか食べていくのですか?」
「そりゃそうだよ。早く準備してね」
「うーん…わかりました」
そんなやりとりをして、エリスは水洗い場に向かった。
そういえば、まだ朝だった。いきなり色々起きすぎて忘れていた。
「ふう…」
俺は一息ついた。なんだか一気に気が抜けた。
「どうしたんだい。人間」
アモンが俺の顔を覗きこみながら言ってきた。
「気が抜けただけ。あと、俺の名前は壮馬だ」
「ごめんごめん。名前覚えるの苦手でさ」
アモンがふざけたように言ってくる。悪魔ってこんな感じなのかな。
「ところでさ、ソーマ」
アモンもエリスと似たような発音。この世界ではこれが普通なのかな。別にいいけど。
「何だよ」
「きみ、エリスのスィスィアになると言ったよね?あれ、本気?」
「本気だ」
「なるほどね」
アモンが真剣な表情で聞いてくるので、俺も真剣な顔で答えた。
「それは、彼女の正体を知ってもかい?」
「正体?」
「そうだよ。なんで彼女がこんな状態になっているのか。もちろん、理由があるんだよ」
アモンが笑いながらも、真剣に言ってくる。
「エリス、というよりも…エリスの親に問題があるんだ」
アモンの顔から笑みがなくなった。
ふざけている奴が真剣になる。それは本気の時だ。
「エリスは、人間じゃないんだ。だからと言って、悪魔でもない」
「人間でも、悪魔でもない?」
「彼女は、この世界の種族の血が入っている。ウォールディザスターなんだ」
もはやなにを言っているのかわからない。それは単純に俺が馬鹿なのか。馬鹿であってほしい。
「だから彼女はどこに行っても疎まれる。彼女は一人で生きていくか、あるいは…わかるよね?」
俺はなんとなく、その先の言葉をわかってしまった。
「…スィスィアを用意して、道具として使う…」
アモンは小さくうなずいた。肯定の意味だろう。
「僕たちは、血なんてどうでもよかった。誰の、どの種族の血が混ざっていようと、魔法適正さえ高ければそれでいいんだ。でもね、彼女の中でもっとも多く混ざっている血が、彼女の最大の足枷になったんだ。それが…君達人間さ」
アモンはあきれたように言う。
「それに、むしろ僕たちは歓迎したかった。なにせこの世界の全ての種族の血を有しているなんて彼女だけなんだ。でもね、全ての血が混ざっているということは、僕たち悪魔と対立する種族の血が混ざっているんだ。いくら血は気にしないとは言え、そこに引っかかる悪魔もいるんだ。それで彼女をこちらに歓迎することが出来なかったんだ」
「なるほどな。でもさ、そんな少数の悪魔の意見を取り入れたのか?」
「いや、その辺の悪魔なら別に問題なかったんだ。ただ、あの方が否定しているんだ…」
「あの方…?」
「それは…んぐ!?」
アモンがいきなり口を閉じ、苦しみ始めた。
「お、おい!どうしたんだ?!」
「んんん!!」
アモンは口を開けたくても開けられないみたいな感じになっている。
そして、現れた時みたいに光の粒子につつまれ始めた。
瞬く間に消えてしまった。
俺はその光景を、ただ茫然と見ていた。
「何だったんだ?」
「お待たせしました。ってあれ?アモン様は?」
何も知らないエリスが戻ってきた。
「いや、突然消えたんだ。俺も何が起きたのかわかっていない」
「そうなんですか…せっかく用意したのに…」
本当に何も知らないのだろうか?あんな横で話していたのに。
おそらく、アモンが気を使って聞こえないように魔法を使ったのだろう。
ということはエリスに聞かれたくないことである。俺も何も聞かないでおこう。
しかし、とても貴重なことを聞けた。
エリスはこの世界の全種族の血が混ざっているウォールディザスターであること。
そして、その血のせいでこんな悲惨な人生を歩んでいる。
でも、悪魔にとっては魔法適正値が高いため、歓迎したい。しかし、とある悪魔のせいでそれができない。
ざっくりまとめるとこんな感じか。まんまな気がするが…
「仕方ないですね。アモン様に用意した分、どうしましょう?」
昨日の紫の物体が3人分あった。
なるほど。エリスには悪魔の血が混ざってるから食べれるんだ。
でも、残して捨ててしまうとエリスが悲しむよな…
「俺が食べるよ…」
このあと、気絶したのは言うまでもない。
(またここかよ…何なんだよ…)
俺はまた、夢の中にいる。
また、何も見えない夢の中にいた。
何度も何度も同じような夢を見ている。この夢を見せる意味って何なんだ?
「それはね…」
いきなり声が聞こえた。
ということは…
「またあんたか…」
「あら…もう驚かないのね?」
「なんか…色々慣れた…」
「そうなのね…なら今度は違う方法で現れましょうか?」
「いやどっちでもいいけど」
俺は半分呆れながらそう言った。
「なーんだ、つれないなぁ」
声の主の口調が変わった。声色は一緒なのに。
「いきなり話方を変えないでくれ。ややこしくなる」
「話し方変えてないわよ?」
「そうさ。僕たちは二人で一人だけど、結局は二人だからね」
やはり、声は同じ。しかし、口調が違う。
本当に二人いるみたいだな。
「どっちか一人で話してくれないか…ややこしい…」
「わかりました。では、今回は私が…」
「ちぇ…わかったよ…私は帰るよ」
荒い方が帰っていった。どうやら優しい方が残ったようだ。
「これだけ言っておくね。キミ、彼女のスィスィアになる覚悟してくれたね!ありがとう!」
荒い方がそんなこと言った。
「それであいつを、エリスを助けれるならなってやるさ」
「ありがとうございます。エリスは、もうご存じだと思いますが常に嫌われてきました。種族関係なく…しかも、人間たちは悪魔と契約をさせ、無理やり魔法使いにさせられ、それだけでは飽き足らず、スィスィアを設けられ、やりたくもないのに殺人を行っていました。エリスはそれが嫌で人との関わりを断つために、あのような生活をしているんです」
優しい方が説明口調みたいに長々と話す。知りたいことが知れてよいのだが、いきなりすぎて怖い。
「じゃあ、エリスと最初出会ったときに名乗らなかったのは…」
「警戒をしていたからでしょう。エリスという名前も偽名にすぎません」
「は?」
偽名だと?
「エリスとは罪という意味があります。エリスは自分の本当の名前を隠し、自らが罪人だからということで、エリスと名乗っているんです」
「ということは、俺もまだ信用されていないんか…」
ちょっと落ち込んじゃうな。俺は覚悟を決めて、スィスィアになろうとしているのに。
「それは違います。彼女も、エリスとずっと名乗っているので自分の本当の名を忘れているのです。もしくは、知らないふりをしているのかもですが…そこはわかりません」
「なんで偽名なんて使っているんだ?エリスは教えてくれそうにないからさ」
なんとなく、エリスに聞いた方がいいと思うが、教えてくれそうにないし。
「そうですね。それは彼女は、その名前をくれた親を恨んでいるから、とだけ言っておきます」
親を恨む?あのエリスが?
あんな優しい奴が親を恨むなんて考えられない。
「信じられないでしょうけど、今はそれしか言えないんです。すいません」
優しい方の奴が申し訳なさそうにしている。どうやら本気のようだ。
しかし、まだ気になることがある。
「偽名あるなら初めから名乗ればいいような気もするが…」
「エリスの名は、実は知れ渡っています。とある罪人の影響で」
「なるほどな。それは警戒するよな」
そんな状態なら誰だって警戒する。
「今のところ私が話せるのはここまでです。あなたは、それでもあの娘のスィスィアになってくれますか?」
おそらく、この質問をするのは、エリスのスィスィアになると、全種族を敵に回すことになるということである。明らかに無謀だ。生存率0%。それでもお前には、その覚悟があるのか?そう聞かれている気がした。
しかし、俺の中で答えが決まっていた。
「あああ、それでも俺は、あいつの、エリスのスィスィアになってやる!俺が、あいつを、こんなふざけた呪縛から解き放ってみせる!!」
俺は叫んだ。それが本心であり、覚悟である。
「わかりました。ならスィスィアの契りを行ってください」
「やり方は?」
「エリスに聞けばわかります」
それ以上は何も言わないということか。
「最後に一ついいか?」
「なんでしょうか?」
「お前たちは何者だ?敵か?味方か?」
「私は、私たちは、導く者。敵でも味方でもありません」
そう言って、声の主は消え、俺は目を覚めた。
エリスの設定モリモリ問題が発生しつつあるかもです。
でも頑張ります。
次回もなるべく早く投稿しますのでお楽しいに。