いつか誇れるくらいには人生はよくできている
「だから、生きてほしい!」
カシャッ。シャッターの音が鳴る。
「はい、おっけー。あぁ、田淵君また目を瞑ってるねぇ。もう寒いんだから早くしてよー。」
「俺写真写り悪いから写真撮られるの嫌って何回も言ってるじゃないですか、もう撮るのやめましょうよ。大体斎藤先輩くらいなもんですよ後輩の写真撮ってるの。」
先輩は高校生活の思い出として、仲良い後輩の写真を撮って回っていた。できるだけ自分が先輩の高校生活という思い出の中に居座りたい。できるだけ自分が先輩の中で特別な存在になってほしい。できるだけ先輩と多くの時間を過ごしたい。その一心で写真を撮る時に目を瞑り、写真に映るのを渋っていた。俺は先輩が好きだった。人として尊敬していた。
「うーん、確かに私くらいかもしれないけどさぁ..自分で言うことじゃないかもだけど、お世話になった先輩へのお礼として1枚くらい写真撮らせてよー。」
キーンコーンカーンコーン。昼休み終わり5分前のチャイムが鳴る。
「ほら、時間になりましたし授業遅れちゃいますよ。生徒も移動してますし、俺こんな中写真撮られるの恥ずかしいです。もう行きますね。」
「えぇー..明日はちゃんとしてよねー。」
嬉しかった。また明日も先輩と話すきっかけができた。そう思った。俺は急ぎ足でクラスへと戻った。席に座るといきなり友達から話しかけられた。
「おい田淵!斎藤先輩と何してたんだよ!」
「別に何もしてねぇよ。齋藤先輩、仲良かった後輩全員に写真撮影頼んで回ってるらしくて、それで俺も頼まれただけだよ。」
「なんだよ、やたら長い時間先輩に呼ばれったきり帰ってこなかったから何してんのかと思えば..。」
斎藤先輩は生徒会長も務めていて、性格も良く、明るい完璧な人だという印象が殆どの男子生徒の頭の中に染み付いている。
キーンコーンカーンコーン。全ての授業が終了し、放課となった。パンでも買って帰ろう。そう思い、駅前近くの人気の無いパン屋でメロンパンを買った。駅で食べようと思っていたが、駅までの通り道の公園で泣きながらベンチに座っている斎藤先輩の妹を見かけた。ユミちゃんだ。何度か話したことがあるくらいの仲だった。声をかけていいのか分からなかったが、何か重大な悩みを抱えているのかもしれないと思った俺は公園まで走り、声をかけた。
「ユミちゃん、大丈夫?」
声に気づき、涙を拭い、こちらを向いた。綺麗だった。心拍数が上がったのが分かった。そんなユミちゃんの顔見ていると咄嗟に足が動き、ユミちゃんの隣に座った。
「あっ田淵さん、ごめんなさいこんなとこ見せちゃって。」
「そんな気にしないで。俺も迷惑だよね。でもなんか放っておけなくて。俺で良かったら聞くよ、話。」
ユミちゃんは下を向いて何かボソボソと独り言を言っていた。その後、顔を上げて一言。
「ううん、大丈夫ですよ。」
その言葉を発すると同時に、また涙が零れていた。大丈夫ではないのだろう。人の言葉の裏には様々な感情や意味が篭っている。でもそれは本人にしか分からないものだ。本当は辛く苦しいことに悩まされているのではないか、そう思ったが俺は
「そっか。」
と一言だけ残して公園を去った。