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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十五年度、智香子、中等部一年生編〕
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御前

 当日の朝、松濤女子探索部の有志が〈白金台迷宮〉のロビーに集合した。

 松濤女子だけでも数百名以上のオーダーになるわけだが、さらにそれ以上の、大勢の人間が〈白銀台迷宮〉に押し寄せていて、かなり混雑している。

 迷宮周辺のゲート付近の様子は〈松濤迷宮〉とほぼ同じレイアウトであったが、この人出だけが智香子が知る迷宮の様子とは違っていた。

 プラカードを持った公社の職員らしき人がそのゲート付近で、

「〈特殊階層〉行きをご希望の方は……」

 的な呼び込みをすると、その大勢の人たちがぞろぞろとそちらの方に吸い込まれていく。

 ってことは。

 と、智香子は疑問に思った。

 この人たちの全員、とはいわないけど、ほとんど全部がその〈特殊階層〉が目当てなわけ?

 なかば、呆れが入った疑問だった。

 これだけの大人数が、一度に同じ階層に入る……ということは、実質的には同じパーティとして活動することになるわけで。

 それだけの人数を必要とする攻略とは、具体的にどんなものなのか。

 智香子にはうまく想像ができなかった。


「特殊階層って、いつもこんな具合なんですか?」

 智香子はそばにいた青島先輩と松風先輩に訊ねてみた。

「さあ」

 先輩二人は、揃ってそういって、首を傾げる。

「特殊階層の攻略なんてのに参加するの、これがはじめてだし」

「そもそも、迷宮に入るのに他の人に助けを求めるってこと、聞いたことがないし」

 つまりは、かなり例外的な事態である、ということだった。

 なんにせよ、これだけの人数が、それも智香子たち一年生などよりも確実に長いキャリアを持つ人が大勢参加しているのだから、そんなに大きな危険はないのだろう。

 かなり変わった事態であることは、確からしいのだが。

「どんな伝手からうちの方にまで声がかかったんですか?」

 ついでに、智香子は以前から気になっていたことを訊いてみる。

「ああ、それね」

 青島先輩が答えてくれた。

「この春に卒業した先輩が城南に入って、その先輩経由で」

「強くてかっこいい先輩だったな」

 松風先輩も、そういって頷く。

「わたしらは御前って呼んでいた」

「ごぜん?」

 今度は、智香子が首を捻る。

「ああ、葵御前っていってな。

 戦闘系のスキルを五つくらいしか持っていなかったけど、滅茶苦茶強かった」

 なぜか、智香子のうしろでジュースを飲んでいた黎が盛大に咳き込みはじめた。

「専用の、柄がチタン合金になっている薙刀を愛用していてなあ」

 智香子は、黎の背中をさすりながら先輩たちの話を聞いている。

「こと近接戦闘において、あの人には誰も敵わなかった」

「それでいて、凄い美人だったしなあ。

 こう、すっと切れ長の目をしていて」

「あれでうちの理事長の孫だかひ孫だっていうんだから、マンガみたいだよなあ」

「理事長の?」

 智香子が黎の背中をさする手を止めて、訊き返す。

「松濤女子の経営って、確か……」

「そう。

 今時珍しい、親族経営ってやつ」

 青島先輩がいった。

「もうかなりのお年になる理事長が、なかなか引退してくれないんで困っているとも聞いているけど。

 ただ、経営的にはかなり安定しているからなあ」

「迷宮という資金源を持っていることもあるけどね。

 って、噂をすれば」

「御前が来た!」

 先輩方の視線を追って振り返ると、そこに長大な薙刀を手にしたスリムな体型の女性が立っている。

 ボディスーツ型の、体のラインがはっきりと出る保護服を着ていたので、無駄な贅肉がほとんどついていないこともはっきりと判別できた。

 薙刀を〈フクロ〉に収納していないのは、その人が〈フクロ〉のスキルを持っていないからだろう。

 先輩方はさっき、その人は、

「戦闘系のスキルしか持っていない」

 といっていたばかりだった。

「二人とも、久しぶりですね」

 その女性は、そういって微笑んだ。

「は!

 どうも!」

「ご無沙汰しております!」

 青島先輩と松風先輩が、身を固くして答える。

 わあ。

 と、智香子は思う。

 この先輩たちが緊張しているところ、はじめて見た。

「そちらは、新入生?」

 その女性、葵御前は智香子たちの方に視線を走らせてから、そういう。

「それから、黎も。

 もう随分顔を合わせていませんね」

「はい」

 驚いたことに、黎までもが緊張した面持ちで、一礼をする。

「お久しぶりです。

 葵姉さん」

 えええええ。

 と、智香子は心の中で驚きの声をあげた。



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