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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十五年度、智香子、中等部一年生編〕
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お盆の前

 お盆に近づいていくと一年生たちも集まりが悪くなった。

 いや、一年生だけではなく、他の学年の先輩方や引率役の人たちまでもが少なくなりはじめる。

 それも当然なことで、この頃は世間では、里帰りとかバカンスとかで地元を離れる人が多くなる時期でもあった。

 特に松濤女子は裕福な家庭の子が多く通っていることもあったため、十日とか二十日、あるいはそれ以上の長期間で海外や国内の避暑地に行ってしまう子などが普通に存在していた。

 そんなわけで迷宮前のロビーに集まる人数も、気づくと普段の三分の一以下にまで減っていた。

 それだけ減っても相当数の人数がいるあたり、松濤女子探索部の規模を物語っているのだが。

 智香子と黎も、そんな少数派の一年生の中に含まれていた。

 智香子は両親ともに実家が都内にあるため里帰りの必要がなく、さらにいえば両親ともに仕事が生きがいタイプの人間だから、長期休暇をとってどこかでのんびり過ごすという習慣がない。

 黎の方の事情はよくわからないが、本人は、

「家の場合、いろいろ特殊だからねえ」

 とぼかしたいい方をしていた。

 基本的に黎は自分の家族のことを離したがらない傾向があったし、智香子の方もそのことに気づいてから深く詮索をしないように心がけている。

 ここしばらく智香子は黎と同じパーティに入る機会に恵まれなかったが、その期間に黎は〈肉薄〉、〈多段斬り〉、〈浮足〉という三つのスキルを習得していた。

〈肉薄〉は、エネミーとの距離が近くなればなるほど与えるダメージが大きくなるスキル。

〈多段斬り〉は、同じエネミーを複数回攻撃する場合、回数を重ねるたびに与えるダメージ量が大きくなるスキル。

〈浮足〉は、戦闘時のフットワークが軽快になるスキル。

 だ、そうだ。

 どれも戦闘用、それも近距離戦闘に特化したスキルであり、そのことについて黎本人は、

「なんだかなあ」

 と呆れていた。

「これじゃあまるで、喧嘩しか能がないみたいじゃないか」

 一方の智香子はといえば、あれから新しいスキルは習得していない。

 ただ、〈ライトニング・ショット〉がいつの間にか〈ライトニング・バレット〉に変化していて、効果と飛距離とが大幅に改善されている。

 気がついたらそうなっていた、という感じであり、智香子自身はスキルが変化していたことにしばらく気がつかなかった。

 スキルを生やしたりレベルアップした際、わかりやすくファンファーレが鳴ったりするゲーム的な演出はこの迷宮には望めないらしい。

「おや、チカちゃんとレイちゃんじゃないか」

 二人でそんなことを話していると、佐治さんから声をかけられた。

「なに、二人とも居残り組?」

「そうです」

「そんなとこだね」

 智香子と黎は、軽い調子で返答をする。

「それより、聞いた?」

 なにを、と詳細を確かめる前に、佐治さんは先を続けた。

「〈白金台迷宮〉の方で、特殊階層が発見されたらしい。

 なんでも、人数が必要な階層で、うちにも声がかかるかも知れないってことだ」

「特殊階層」

 智香子と黎は、そういって顔を見合わせる。

「講習の時に習ったけど、実際に出たって話はこれがはじめて」

「〈白金台〉かあ。

 場所でいえば、すぐそこなんだけど……」

 素直に驚く智香子と、なんだか歯切れの悪いいい方をする黎。

「その報せ、誰から伝わってきたのかわかる?」

 続けて、黎が佐治さんに聞いた。

「名前まではわからないけど、うちの卒業生から回ってきたって聞いたけど」

 佐治さんではなく、うしろから別の人が黎の疑問を引き取る。

「卒業して大学のサークルに入った人が、そこで見つけてこっちに知らせて来た、ということみたい」

「大学のサークル?」

 智香子が、首を捻る。

「あるんだよ。

 ここみたいに、迷宮に入るためのサークルが、あちこちの大学に」

 佐治さんが、智香子の疑問に答えてくれた。

「〈白金台〉の近くの大学っていうと……」

「多分、城南だと思う」

 なぜだかため息混じりに、黎がそう答えた。

「あの辺、迷宮探索をしているサークルがある大学はいくつかあるけど、一番活発に活動しているのが城南だし」

 確率的に見て、ということかな?

 と、智香子は思った。

 しかし、城南。

 結構な難関大学だったと思う。

 そんな大学にも、迷宮を探索するサークルが存在するのか。


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