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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十六年度、智香子、中等部二年生編〕

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打ち合わせ

「君たち、イレギュラーについてどれくらい知っている?」

 続けて、〈スローター〉氏はそんなことを訊ねてきた。

「月に何度か遭遇して、対戦した経験もあります」

 智香子が即座に答える。

「ヒト型以外なら、ということですが」

 実際、部活のパーティがイレギュラーに遭遇することは決して珍しいことではない。

 月に一度あるかないか、という割合ではあったが。

「それは、その階層に出てくるはずがないエネミーという意味でのイレギュラーだな」

〈スローター〉氏は、そういって大きく頷いた。

「普通は、そっちのことを指す言葉ではあるんだが」

「今回のは、違うわけですか?」

 世良月が、〈スローター〉氏にそう訊ねる。

「イレギュラーであることには間違いはないんけど、おそらく、君たちが想像しているような連中ではないと思う」

〈スローター〉氏はいった。

「かなり特殊な、経験を積んだ探索者でも持て余すかも知れない連中だ。

 かなり格上のエネミーを相手にすることを前提にして動いてくれ」

「格上」

 黎が、神妙な口調でいった。

「ヒト型ということは」

「スキルも使う、知恵もある」

〈スローター〉氏は、そう続ける。

「動物型のエネミーを相手にする時とは、なにもかもが違う。

 人間を相手にするつもりで、戦う。

 それくらいの気構えでいてくれ」

「そんなのがうろついているんですか」

 佐治さんが、のんびりとした口調でそういった。

「それは、うかうかできないなあ」

「ヒト型を相手にする時のセオリーは、なにか教えられている?」

〈スローター〉氏は、智香子に顔を向けて確認した。

「スキルを使用するから、〈杖〉とか特殊な装備品を持ったエネミーを優先的に叩くようにする」

 智香子は即答する。

「という程度でしたら」

「うん。

 それがわかっていれば、いい」

〈スローター〉氏は、また頷く。

「頭で理解していても、いざ対面した時、体が動かないと困るんだけど」

「善処します」

 黎は、そういって大きく頷く。

「その他に、注意事項はありますか?」

「相手は、あくまでエネミーだから」

 少し考えてから、〈スローター〉氏はそうつけ加えた。

「二本足で道具やスキルを使っていても、人間以上の速度で反応する。

 二本足歩行をする野生動物を相手にしているようなものだと、そう思っておいて」

「手が着けられませんね」

 香椎さんが、そう感想を述べた。

「こちらに有利な条件がひとつもない」

「ちなみに、おれがさっき遭遇したのは、猫がそのまま直立歩行をしたようなエネミーだった」

〈スローター〉氏は、そう説明した。

「かなり素早い。

 見つけた即対処しないと、あっという間にやられる可能性が大きい」

「同じタイプのエネミーがまた来るってことですか?」

 佐治さんが、片手を揚げて質問した。

「それについては、なんにもいえない」

〈スローター〉氏は、ゆっくり首を振ってそういう。

「なにせ迷宮内でのことだから。

 保証となるものは、なにもないよ。

 ただ、スキルがロックされたりした場合、特定のエネミーを倒しきるとそのロックが解除される場合がある。

 だから、同じヒト型がまた現れる可能性も大きい」

「それは、経験から出た見解ですか?」

 香椎さんが、そう訊ねる。

「経験と、他の探索者から聞いた内容を総合して判断した傾向だ」

〈スローター〉氏は、平坦な口調で説明をした。

「あくまで傾向で、必ずそうなるという保証もないわけだけど。

 でも、一応知っていることをこうして伝えておけば、君たちも心の準備ができるでしょ?」

「なんか、聞いていると相手をするのがかなりしんどそうなエネミーなんですけど」

 それまで黙ってやり取りを聞いていた柳瀬さんが、はじめて口を開く。

「でも、前情報を持たずにいきなり遭遇するよりはマシかな」

「おれもできるだけのことはするつもりだけど」

〈スローター〉氏は、そう続けた。

「正直、たった一人でこの人数をカバーしきれる自信はない。

 君たちは君たちなりに動いてくれ」

 この〈スローター〉氏としては、こちらの実力を測りかねている部分も大きいのだろうな。

 と、智香子は推測する。

 使えるスキルの数や累積効果など、表面的なスペックだけではなく、とっさの場で的確に判断して動けるのかどうか。

 そうした見えにくい部分まで含めた実力は、少し行動を共にしただけでは把握しきれるものではない。

 かなり丁寧に知っていることを説明してくれてはいるが、〈スローター〉氏としてはこちらの松濤女子組に期待している部分は少なく、自分一人だけでこの場の危機を切り抜けるくらいの心構えでいるのだろう。

 こうして説明をしてくれた理由として、智香子たちが肝心な時にパニックを起こし、〈スローター〉氏の足を引っ張ることを防止するため、ということもあるのだと思う。


「では、行こうか」

〈スローター〉氏は、そういった。

「正体まではわからないが、こちらにエネミーの群れがいる。

 数は二十体弱で、移動の仕方からすると、まだこちらの存在には気づいていないみたいだ」



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