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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十六年度、智香子、中等部二年生編〕

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戸惑い

 当惑する智香子たちを尻目に、世良月はさっさと自分のスマホを取り出してなにやらフリックしはじめる。

「あの人、普通に頼めば応じてくれますよ」

 などといっていた。

「いや、でも」

 黎が、心なしかこわばった表情で世良月にいった。

「相手は、第一線の探索者でしょ? 

 お邪魔じゃないかな?」

「それをいったら初心者のくせに勝手について行っているわたしはどうなるんですか?」

 世良月は、そういい放つ。

「師匠、自分が苦労して来たからか、他の探索者の育成に関するお願いはまず断ることがありません。

 それに、同行するといってもせいぜい一時間程度のことですから、そこまで邪魔になることもありません」

「せいぜい一時間程度、ねえ」

 香椎さんも、そんなことをいいはじめる。

「確かに、今のわたしたちの体力だと、それくらいしか迷宮に居続けられないよねえ」

「増してや、普段からそんなハードな仕事をしている人に同行するとなると、ね」

 佐治さんも、そういって頷いた。

「いっしょにパーティを組む、というより、実際にはほんのちょっと、ごく短い時間だけ、つき合って貰うって感じになるのかな」

「そうです、そうです」

 世良月は、なぜか満足そうな表情をしてそんなことをいった。

「師匠とわたしたちの実力差は歴然としているのですから、変な遠慮をすることはありません」

「いや、そこで月ちゃんにしたり顔をされてもなあ」

 柳瀬さんが、呆れた口調でそういった。

「こっちはあくまで、頼む立場でしかないわけだし」

「返事はすぐ来るもんなの?」

 香椎さんが冷静な声で世良月に確認する。

「師匠が迷宮に入っていなければ、すぐ来るんですけどね」

 世良月は即答する。

「この時間帯だと、望み薄ですね。

 今日の深夜か、遅くとも明日の朝くらいに返答が着くと思います」

「あれからまたすぐ、迷宮に入ったのか」

 佐治さんが、迷宮のある方角に顔を向けてそういう。

「なんというか、タフな人だなあ」

「ぶっ続けで何時間も迷宮に入り続けるなんて、普通の人はしないからなあ」

 柳瀬さんも、呆れ顔でそういった。

「わたし、初心者もいいところだけど、そのことだけは断言できる。

 そういうこと普段から普通にやっているってだけでも、月ちゃんのお師匠さんはただ者ではないよ」

「確かに」

 佐治さんが大きく頷いた。

「心も体もタフでなければ、そんなこと長く続けられるわけがない」

「師匠にいわせれば、それも全部慣れなんだそうですけどね」

 世良月は、そういった。

「で、師匠の許可が降りたら、皆さんはいっしょに迷宮に入るということでいいんですね?」

 すでにかなりの実績をあげている探索者に対して遠慮する気持ちは強かった。

 が、智香子たちにしても断るべき理由はない。

 世良月を除いたその場にいた全員が、ほぼ同時に大きく頷いた。


 世良月から、

「〈スローター〉氏が快諾した」

 との連絡を受けたのはその日のかなり遅い時間になってからだった。

 件の〈スローター〉氏は、世良月が予想していたとおり、そんな時間まで迷宮に入っていたらしい。

「熱心な人だなあ」

 と、智香子は半ば呆れながらスマホの画面を確認する。

 あの人、他にやることないんだろうか?

 それはともかく、そんなわけで数日後の放課後、智香子たちは〈スローター〉氏に同行して迷宮に入ることに決まった。

 扶桑さんの会社とは別に、以前に城南大学の人たちとパーティを組んだことがあるので、智香子たちにしてみても、校外の探索者とともに迷宮に入った経験がまったくないわけでもない。

 しかし、今回の場合、相応の実績を出している、かなり特殊なタイプの探索者に同行する形になるので、これまでとはなにかと勝手が違うだろうな。

 とも、智香子は想像している。

 その〈スローター〉氏と親しいらしい世良月にしてみれば、

「そんなに興味があるなら、実際に探索者として動いている現場を見てみればいいのに」

 程度の軽い気持ちで提案している気がする。

 しかし、智香子にしてみると、これまでに校外の人たちとパーティを組んだ時とは、まったく別の意味で緊張していることを自覚していた。

〈スローター〉氏は、実績を出しているということの他に、これまで知っている探索者の誰よりも真剣に迷宮に向き合っている人に思えたからだ。

 こういういい方もなんだが、

「たかが部活」

 程度の軽い気持ちで探索者をしている自分たちが、そんな〈スローター〉氏に負担をかけてもいいんだろうか?

 そういう気持ちを、智香子は抱いていた。



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