カウンセリングの実際
「定期的な健康診断は、やらないよりはやった方がいいよ。
絶対」
その黎は、そう断言する。
「大人の探索者も、こまめに診て貰うべきなんだけどね。
面倒くさがって、実際にやっている人はほとんどいないようだけど。
心身ともに、ダメージっていうのは細かいのが蓄積していく場合もあるわけで」
エネミーと対戦している時というのは、意外に頭に血が昇っていることが多い。
そうした時は理性的な判断力も要求されているので、冷静な部分も残したまま、興奮状態にある、という日常生活ではまず経験しない、よくわからない状態になることが多かった。
そういう時、体内ではアドレナリンなどのホルモンも大量に分泌されているのか、痛みはほとんど感じない。
エネミーをすべて始末し終えた後になって、どこかに負傷していることに気づくというパターンは、意外に多かった。
そうした、痛みに対して鈍感になっている時に、自分でも気がつかないうちにダメージを受けている場合もあって、そういうのは定期的に検査をしてみなくてはなかなか発見できないのだという。
特に頭部に対する打撃は、比較的軽い打撃であったとしても、何度も繰り返して受ければ、致命傷にもなりかねない。
重要な器官の血管に損傷ができていないのかどうか、外から診察しただけでは判断できない疾患はそれなりに存在する。
「だから、三ヶ月に一度、全身をスキャンされるわけか」
佐治さんは、感心したような口調で感想を述べた。
「面倒だけど、安全のためには仕方がないのかな」
「それに加えて、今度は聞き取り検査、ですか」
香椎さんは、そういう。
「なにを聞かれるのか、よくわからないけど」
「だいたい、世間話をして終わるみたいだけど」
黎はいった。
「なんか重要そうな兆候とかが見つからなければ」
「その、重要そうな兆候ってなによ?」
佐治さんは、黎に訊き返す。
「具体的に」
「普通のカウンセリングと同じような感じだと聞いているけど」
黎は答える。
「鬱になりかかりの人とか、専門家が見ればある程度はわかるそうだし。
そういう危なくなさそうな人は、多分これが大半だと思うけど、なにか心配なこととか変わったことはありませんでしたか、とか、そんなことを訊ねられてそれで終わりらしい。
人数も多いし、不安要素がなさそうな人は、どんどん形だけになるみたいだね」
「カウンセリングから」
香椎さんは黎の言葉に頷いた。
「そういえば、うちにも月に何度か来ているよね。
スクールカウンセラー」
「来ているね」
黎は頷いた。
「そういうフォロー、うちの学校は割とやる方だし」
毎日常駐しているわけではなかったが、月に何日か、そういう人も学校に来て生徒たちの相談を受けつけていた。
メンタル面だけに限って相談を受けつけているわけではなく、生徒たちからの相談をしっかり聞いた上で、必要であれば外部の機関にも相談して対応をしていく場合もあるという。
守秘義務が徹底しているのでこれまでそのカウンセラーが具体的にどういった問題を解決してきたのか、智香子自身は漠然とした噂でしか知らなかったが、教師にも相談できない悩みを受け付ける窓口を学校側が設けていることは確かな事実だった。
幸いにして、智香子自身がそうしたカウンセラーに相談をする必要があるような悩みを抱えたことは、これまでに一度もない。




