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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十五年度、智香子、中等部一年生編〕
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書類の必要性

 佐治さんが実質的にその権利者となることを断ったのは、別に無欲だからではなかった。

 この円盤の特殊な効果、これがかなり大がかりな物理法則の改変に相当するということを理解していたからである。

 この原理が解明されれば、慣性制御になるかエネルギーの保存法則になるのか、あるいは摩擦を大幅に軽減する効果になるのかはわからなかった、ともかく人間がそうした技術を手に入れれば、応用できる範囲はかなり広範になる。

 そのことは容易に想像できたが、反面、

「それだけ大がかりな研究が、すぐに結果が出るもんかなあ?」

 という疑問も抱いた。

 基礎研究だけでも数十年とか、現実的に考えると、そんなコースなのではないか。

 それだけ長い時間をかけてようやく、なんらかの実利が生じたとしても、その時はこの自分がかなりの高齢になっているか、それとも老衰で死亡している可能性が高い。

 そんな淡い期待に縋るよりは、自分の権利を放棄してそのまま自由に研究をして貰った方が、いっそ気楽に思えたのだ。

 なにより、この円盤の効果を発見したのはあくまで偶然であり、それも他人からようやくそのことを指摘されて、その効果の不自然さに気がついたという経緯もあった。

 ともかく、こんな状態で自分になんらかの権利がありますと知らされても、佐治さんとしてはまるでピンと来ることがなかったのだ。


「それじゃあ、書類にはそう書いておくね」

 橋本先輩は、特に反対することもなく、軽い口調でそういった。

「実は、うちの部活中にこの手の発見をした人たちは、ほとんど権利を放棄しているんだよね」

 やっぱりか、と、佐治さんは思う。

 なんらかの利潤を追求して迷宮に潜る、専業の探索者であればともかく。

 学校の校外活動中に、

「可能性としては、将来大金が転がり込んでくるかも知れません」

 という権利を貰ったとしても、素直に喜べない気がするのだった。

 そうした目的をはじめから持っていたわけではなく、あくまで偶然によってそんな発見をしたとしたら、なおさら素直に受けれることが出来ないだろうな、と、佐治さんはそんな風に思う。

 橋本先輩はしばらくパソコンに向かってなにやらタイプしていたが、しばらくして、

「これでよし」

 誰にともなくいって、リターンキーをパン、と小気味よく叩いた。

 すると、教室の隅おかれていたプリンターが唐突に作動をし、A4の用紙をプリントアウトしはじめる。

「それ、一枚は勝呂先生のところに、もう一枚は迷宮ロビーにある公社の窓口まで持って行って」

 ノートパソコンを仕舞いながら、橋本先輩はそんなことをいう。

「これ、お役所に提出する書類なわけですよね?」

 智香子が、橋本先輩に訊ねる。

「どこか間違っていたら、再提出とかするんじゃないですか?」

「そんときは、そんとき」

 橋本先輩は、軽い口調でそういった。

「駄目な時には、先方から連絡があるから」

 後は、一年生たちに任せるつもりのようだ。


「メッセンジャー役は別にいいんだけど」

 廊下を歩きながら、智香子はぼやいた。

「こんな種類、いちいちプリントアウトして提出するよりも、メールかフォームで済ませればいいのに」

「そういいたくなる気持ちも、わかるけどね」

 黎が、そういって智香子を宥める。

「今でも、ファクスとかが現役で使われているところも多いからなあ。

 こうい仕組みは、なかなか変わらないよ」

 ファクスって、なに?

 そういおうとして、智香子は思いとどまる。

 思い返してみれば、昔、そんな機械があったような気がする。

 確か、紙に書かれた内容を、電話線を通して転送するような機械だったはずだ。

 智香子は現物を見たおぼえがなかったが、ネットが普及する以前は、かなり普通に使われていたらしい。

「ファクスかあ」

 佐治さんが、そういった。

「そういうのが昔あったとは、聞いているけど。

 でも、実物が使われているところを見たことはないなあ」

 まるで、智香子の考えをそのまま代弁してくれたような内容だった。

「紙の書類を必要とする。

 そんな傾向は、そんなにすぐには改まらないでしょうね」

 香椎さんが、そんな感想を述べた。

「電子データだけでは心細いと感じる人は、特に年配の方には多いようだから」



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