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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十五年度、智香子、中等部一年生編〕
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奇妙な性質

 橋本先輩は十階層相当だといっていた。

 なるほど、クマ型もスイギュウ型も普通に出て来る。

 そして、そうした大型のエネミーも先輩方は手慣れた様子で落ち着いて片づけていく。

 智香子たち一年生は、まだそうした大型のエネミーを独力で倒すことは難しかったが、先輩方にしてみれば手慣れた作業だったのだろう。

 連携も、個々人の動きも、妙に手際がよかった。

「そっちいったよ!」

「はい、貰います!」

 軽い口調でそんな合図を交わしながら、サクサクとエネミーを倒していく。

 まるで昼休みにバレーボールでもやっているかのように、緊張感がないやり取りだった。

 いや、先輩方にしてみれば、それなりに緊張感を持って挑んでいるなずなのだが、傍目にはリラックスして動いているように見えた。

 そんなわけで、智香子たち一年生は、ほとんどやることがない。

 少なくとも、エネミーと直接交戦をする機会はなかった。

 智香子たち一年生が出る前に、ごく短時間の間に先輩方が片付けてしまうからである。

 智香子たち一年生四人の仕事はといえば、せいぜい時折ドロップするアイテムを回収することと、それに、形式的に背後を見守ることくらいだった。

 アイテムは、それなりにドロップした。

 ただ、ドロップする頻度は迷宮の他の場所とさして変わらないように思える。

 ドロップするアイテムの種別は、武器や装身具に見える物がほとんどのようだ。

 迷宮内で、特に浅い層でドロップしやすい武器といえば、鉄製の短剣がもっともポピュラーな物で、というか智香子の経験からいえばほとんどがその短剣だったが、この〈武器庫〉と先輩方が呼んでいる場所では、その短剣はまったく出ず、その代わりに智香子がこれまで見たことがないような代物が頻繁にドロップされる。

 剣とか槍とか、あるいは杖とかは形状からして用途も推察しやすいのだが、それ以外に用途が想像しにくい代物も頻繁にドロップしていていた。

 装身具、といわれればそう見えないこともない、しかし実際にはなんなのかよくわからない一連のアイテムは、ほとんどが智香子の〈鑑定〉スキルでも正体がわからなかった。

 そうした装身具らしいアイテムの中で一番多くドロップしたのは、直径十五センチほどで中央がぽっかりと穴の空いた平たい円盤で、先輩によると、それの正体や具体的な使用法はまだ誰も解明していないということだった。

 出没するエネミーが他と変わっている、ということはないのだが、ドロップしやすいアイテムが奇妙に偏っている。

〈武器庫〉と呼ばれるこの近辺は、間違いなくそうした性質を持っているようだった。


「武器や装身具らしいのばかりがドロップするのはいいんだけど」

 予定通り、三十分ほどエネミーの相手をしてから迷宮のロビーに戻った後、智香子たちにそういった。

「そういうアイテムのほとんどが、癖が強すぎて使いにくいものか、それとも、それ以前に効果や使い道がよくわからないアイテムなんだよなあ」

 どうも、委員会がこの〈武器庫〉の場所を積極的に外部に秘匿している、というよりは、

「こんな情報を公開したところで、誰の役にも立たないだろう」

 という諦観の方が先に立って、これまでその場所を広める人が出てこなかったらしい。

「でも、惜しいっすね」

 佐治さんがそういって、回収したばかりの例の円盤の穴に指を入れて、そのまま回転をさせた。

「これなんか、いっぱい出ているのに。

 使い方がわかれば、儲けもんですよ」

「使い方、なんていうのが本当にあるのならね」

 橋本先輩は、笑みの形に口の端を歪めてそういった。

「その円盤なんて、〈武器庫〉に入ればいくらでも出てくるから。

 それの使い道がわかるようだったら、まとめてやってもいい」

 先輩方はどうも、この円盤も他の場所で出るコインと同じく、形状にはあまり意味はない、単なる金属の塊と考えているようだった。

 智香子がその場で組成などを確認してみると、どうやらこの円盤はほとんど鉛でできているらしい。

 大きさと薄さの割には、持った時に重く感じたはずだな、と智香子は納得する。

 そして、ふと佐治さんの方に目を向けて、智香子はあることに気づいた。

「……まだ回っている」

 佐治さんの指の周りで、いくらも勢いを減じる様子もなく、例に円盤が回り続けている。

「佐治さん、それ、どれくらい回してる?」

「回しているんじゃなくて、勝手に回っている」

 佐治さんは、その円盤に視線を固定しながらいった。

「勢いをつけたのは最初だけで、今はなんも指動かしていないし。

 ええと、三分?」

「もっと長い」

 そばにいた香椎さんが指摘をした。

「五分以上は経ってる」

「これ、ひょっとすると」

 黎が、意見を述べた。

「慣性とか運動量とか、ともかくそういうなにかを減衰させることなくそのままにしておくような機能があるのでは?」

「わぁ」

 橋本先輩が、驚いたような呆れたような、気の抜けた声を出した。

「まいったなあ。

 今まで、誰もこれのそんな性質に気づかなかったのに」


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