移動中の会話
「冬馬、〈バッタの間〉で面白いことをやってたなあ」
全員で校舎へと引き上げていく最中に、勝呂先生がそんなことをいい出した。
「あれなに、スキルかなにか?」
「いえ、ちょっと〈杖〉を」
智香子はそう答える。
「こう、集中して連続使用していただけで」
「ああ、〈杖〉の方か」
勝呂先生はそういって頷いた。
「やろうと思えば誰にでもできるんだろうけど、実際にやるやつはあまりいない。
そんな使い方だな、あれは」
「でしょうねえ」
智香子も、大きく頷く。
「あんな場所でなければ、そもそもあんな使い方をしてもあまり意味がありませんし」
全周をエネミーに囲まれている〈バッタの間〉という特殊な空間さからこそ、体全体をすっぽうりと放電で覆う、という方法が生きていくる。
迷宮の他の場所では、エネミーとはほとんど遭遇戦になるわけで。
あんな形で体全体を放電で覆っても、なんのメリットもない。
「ま、そうだよなあ」
勝呂先生はそう認めた後、
「で、なんであんな真似したの?」
と、智香子の意図を訊ねてくる。
あんな奇手に頼らなくても、今の智香子の実力ならば、あのバッタ型などは普通に駆逐できるはずなのである。
「それは、ですね」
智香子はそもそもの動機、いろいろな方法を試して新しいスキルを生やしたい、という希望について説明をする。
「ふうん」
しかし勝呂先生は、その内容にあまり興味を持てないようだった。
「自分で考えて行動するのは大切だと思うけど、ちょっと的外れかなあ」
「そうですか?」
智香子は首を傾げた。
「そうだよ」
勝呂先生は即答した。
「もっと確実に、使えるスキルを生やせる方法が伝わっているんだからさ。
偶然新しい方法を発見するよりは、まずはそっちの方を試してみるのが確実だろ?」
「はぁ」
智香子は、はっきりとしない返答をする。
「でも、今使っている〈杖〉だけだと、あまり威力があるスキルは生えないみたいで」
「ちゃんと成長すれば、電撃系でもそれなりの殺傷能力が出てくるんだけどな」
勝呂先生はそういって頭を掻いた。
「ああ、委員長。
雷属性以外のアイテム、今在庫ある?」
「もう少し待てば、どっと増えるはずなんですけどね、在庫」
千景先輩は即答をした。
「ぼちぼち、最上級生が部活を引退していく時期ですから」
「ああ、もうそんな時期なのな」
勝呂先生は気の抜けた口調でそういった。
「そうだな。
そしたらなんかよさそうなアイテム、この冬馬に優先的に回してやってくれ。
こいつら、扶桑さんとの提携のきっかけを作った功労者なわけだし」
「それは別に構いませんが」
千景先輩はそういった。
「でも、〈雷撃〉以上の〈杖〉系のアイテムとなると、初心者には扱いが難しい物ばかりになるんですが」
「なに、その辺はこいつがしっかりやるだろう」
勝呂先生は気軽な口調で断言した。
「放っておいてもあんな工夫を考えて実行するやつだ。
考えなしになにかするとも思えない」
「それもそうですね」
千景先輩も、あっさりと勝呂先生の言葉に同意をする。
「それとは別に、冬馬さん。
あなた、確かオフィスアプリが扱えるとかいってたよね。
よかったらうちの委員会も手伝って貰えない?」