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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十五年度、智香子、中等部一年生編〕
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嫌悪感

 七十年以上も大勢の人が挑んで、それでもまだまだ果てが、終わりが見えない迷宮とは、いったいなんなんだろうか。

 智香子の中にそんな疑問が浮かんだ。

「あれは、つまり迷宮は、ってことだが」

 智香子と似たようなことを考えていたのか、秋田さんがそういった。

「正体はわからないが、実際にそこに存在する物として扱うしかないんだろうな。

 結局のところ」

「ま、〈所沢迷宮のエース〉なんて破格の探索者が現れて、それでもどうにもならないんだからね」

 一陣さんもそういって、両腕を広げる。

「あの人が出現して以来、最深階層の到達記録は毎日何百階層って単位で更新されているってことだけど、深い階層にいけばいくほど例外事項が増えてますますわからないことが増えていくってことだし」

 なんだかよくわからないけど、厳然としてそこにあるもの。

 結局のところ、迷宮とは、いまだにそういう曖昧な説明しかできない代物でしかなかった。

 これは智香子だけではなく、現代人のほとんどが、そういう浅い理解しかできていない現実がある。

 そのよくわからない代物の中に毎日大勢の人たち、探索者たちが入っていき、そこで得た資源なりアイテムなりを活用したり売買していく。

 また、そうした迷宮産の資源を利用した製品が開発され、市場に出回っていく。

 迷宮とはなにか。

 その命題を十分に理解していなくても利用をすることは可能だったし、結局のところ、人類は経験則として迷宮という不可解な代物とのつき合い方を学んでいる最中であると、そういえる。

 ここまで長い年月にわたって利用してきている以上、迷宮も鉱山や油田など、資源を産出する自然物と同然に認識されている。

 つまり、一般的にはということだが。

 考えてもわからないことに対しては、積極的に思考を閉ざす。

 そういうバイアスは、かかっているのだろうな。

 と、智香子は思う。

 あるいは、難しいことに関してはそれを専門に研究している人たちがなんらかの結果を出すまで、判断を保留する。

 そういう風に考えるのが、一般的な態度なのだろう。

 特に大人の人たちは、普段から多くの問題を抱えている。

 自分の生活に直接関わってくるようなこと以外に思考や感心を割く人は珍しく、どちらかというとそういう人は変人扱いをされているような気がした。


「ま、そこまで深い階層のことは、おれたち駆け出しにはほとんどかんけいないけどな」

 秋田さんは、そう続ける。

「仮に、おれたちがそんな深い階層にまで足を踏み入れることがあったとしても、それはこれから何年も先のことになるはずだ」

 葵御前と早川さんを除いて、この場にいる人たちはすべて今年の春になってから探索者として活躍をしている。

 一年も経験を積んでいない以上、「駆け出し」という表現はかなり適格といえた。

「今日はウサギ狩りをやっているけど」

 佐治さんがいった。

「ふかけんの皆さんは、普段はもっと深いところにまでいっているんですよね?」

「深いところっていっても、おそらくそちらとあんまり変わらないと思う」

 それまで黙ってなりゆきを見守っていたアリスさんが口を開いた。

「まだ二十階層まで届いていないし。

 ヒト型が出てくるところまではいてない」

「ヒト型、か」

 香椎さんがいった。

「二本足歩行をするエネミーの総称、でしたっけ?」

「そう、それだ」

 秋田さんが身を乗り出した。

「あいつらはスキルも受かってくるし知恵も回る。

 人間とは違う種族だけど、変に仕草や行動が人間くさい。

 対応するのに難儀するし、それに、精神的にもきついもんがある」

「ああ、聞いています」

 黎が秋田さんの言葉に頷く。

「ヒト型を倒せるかどうかが、探索者として初心者の域を抜けられるかどうかの試金石になるという」

「それは、罪悪感ということでしょうか?」

 香椎さんが、誰にともなく確認をする。

「罪悪感というか、ヒトによく似た生物を殺すという行為に対する嫌悪感だと思う」

 秋田さんは真面目な表情でそういった。

「罪悪感、というと、なんというか道徳感とか正邪の意識とか、そういう、なんかまっとうな基準があって、そこから逸脱をするような感覚だと思うんだが。

 おれが感じたのはもっと動物的な嫌悪感、生理的な気持ち悪さで、そこまで知性的な判断でそういう感覚を得ていたわけではないと思う。

 ヒト型以外のエネミーを殺すときにも同じような気持ち悪さは感じるんだが、ヒト型の時はその気持ち悪さがもっと増幅をされる気がする。

 少なくとも、その気持ち悪さに耐えきれずに探索者を辞めるやつがいたとしても、おれはそいつを軽蔑する気にはなれないね」

「気持ち悪い、かあ」

 佐治さんは秋田さんの言葉に大きく頷いた。

「なんか、わかるような気がする。

 それに耐えられることが偉いというわけではないし、耐えられなかった人が優れているというわけでもない。

 単純に、向き不向きの問題だよね」

「ああ」

 秋田さんは、頷く。

「探索者個々人の、精神的な構造の問題だ。

 体質と同じようなもんで、本人の意思でどうにかなるような問題でもない。

 草原のやつがこの問題にぶつかっていたが、かえってそんな性格であったこと幸いしてレアな〈テイム〉のスキルを得た。

 迷宮では、どんな要因がいい方に転がる原因になるのか、よくわからん」



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