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04 仲間(3)

 ――適任のジョブがなければ装備を買うことも着ることもできない。もし、ジョブを無視して装備を身に着けてもその能力を得ることは叶わない――


 昔、誰かがそう言っていた言葉だと先生が言っていた。


**


 実世界から持ってきたオリーブオイルを使って剣に注ぎ火をつけたお手製の〈ファイアソード〉。本来なら火炎属性と呼ばれる炎・熱・太陽などの属性をもつとされる魔法で武器に宿して発動するものだが、カイルはまだ未熟だ。習得することも火炎属性の魔法もまだ見習いだ。


 だから、あえて道具を使って自ら剣を熱するという発想に至ったんだろう。


「俺の剣が火を噴く前にさっさと降参したらどうだ?」


 オークに通じるか、バカ。言語が異なる種族にそんなことを言ってもわかるわけない。


 ああ…オークも戸惑っている。斧を構えてはいるが、相変わらず魔物との言語がよくわからない。しいて言うなら言語を理解して互いに平和的に解決出来たらいいと思う。


 こうやってただ進みたいだけの理由で殺すなんて、相手からしてみれば人間という生き物は理不尽で欲張りな生き物に見えているんだろうな。


「グオオオ!」


「やばい! これ以上騒ぎを起こすとゴブリンたちが駆け付けてくるかもしれん。さっさと片付けるぞ!」


 オークの気合か大声を上げる。気の重みなのかカイルの足が震えているのが見える。緊張か見えない束縛か、心の弱さか、いつだって突然の気迫は押されてしまうものだ。


「〈ファイアボール〉!」


 シエルが魔法を撃った。弾速は遅いかもしれない。カイルの横をすれオークの方へ一直線へ進む。オークに当たればダメージは期待できる。


 斧を大きく振り払う。放った〈ファイアボール〉は野球如く跳ね返されてしまった。まるでテニスで軽く払うかのように跳ね返された。


「二度目は効かないよね」


 シエルはわかっていた様子。ただ打ってい見たそんな顔をしていた。


「イース、怖がっていないでカイルのフォローしたらどうだ?」


 そういえばイースの姿がない。戦闘になってからすぐ横にいたはずなのに姿が見えなくなっていた。


「ぼ、ぼくも…参加しないとダメ?」


 曲がり角に顔をひょっこりと覗き込む。怖がっているようで声が小さく弱気だ。


「カイルだけでは、勝てない。君の技能アーツが必要だ」


「……わかった。1度だけだよ、ちゃんとフォローしてよね、助けてよね」


 そう言ってゆっくりと近づく。自分たちの前に出て剣を構える。小さい剣がイースの腰から抜く。短剣だ。銀色の鋼をもち天使のような羽をもつ少女の絵が施された少しレアな武器。


 イースは“誇り”と称して、ずっと使うことをためらっていた。先生から報酬としてもらったものなのだが、もったいないことと魔物に対しての恐怖からか短剣を使うことなく、ずっと魔法で後ろからサポートしていた。


「メイロ」


「なに?」


「2回ほどスキルを使えるか?」


「まあ、別に大丈夫だけど」


「俺が少し時間をかける。その間、カイルとイースの支援を頼めるか」


 自分はうんと頷くなり、シエルは魔法の詠唱を開始した。


 自分はカイルたちに伝えることなく、スキルを発動する。このスキルがすべての物語の始まりであり、武器もジョブも決まることがなかった欠点でもある。


 スキル名はなく、ただ〈指定した範囲に“印”を書き込むことによって対象者にその印の効果を付与する〉といったものである。これはデメリットも大きく、指定した範囲で味方だけでなく敵にも通用してしまうため、使い勝手が難しいもの。


 そのためか、カイルやイース、シエルが他のパーティからのお誘いがあっても自分だけはいまだに誘われることはない。一定の範囲で敵味方なく効果を得る。そんな人材を誰ももとめていないのだ。


「スキル発動」


 手を上げ指で文字をなぞる。指定した個所に指で囲むかのようにある程度の大きさを宙に描く。囲った線の中に書き込む印を描き、親指で押すようにして弾けば効果が表れるというものだ。


 線の長さは決まっておらず発動するまで範囲は定まっていない。しかも、どこに出現するのかは弾いた場所がうまく着点しなければ発動する場所がずれてしまう。


「〈強化〉」


 五角形に囲った線に〈強化〉という文字を書き込む。弾き効果が発動する。


 発動した場所はちょうどオークとカイルが戦闘交える箇所に発動した。緑色の発光とともに床に五角形の中に〈強化〉という文字が浮かび上がる。


「ファイアソード!」


「グオオオ!!」


 カイルとオークの武器同士の衝撃が走る。強化されたお互いの能力値はオークの方が一歩上手だが、それを武器につけた炎で押し上げる。


「てやっあ!!」


 足を思いっ切り踏み込みオークの攻撃をはじき返す。斧とともにオークが軽く宙に浮く。その瞬間を狙ってシエルの魔法が直撃する。


「コンボ! 〈氷結の稲妻フロストライトニング〉!」


 電流属性の〈サンダー〉と氷結属性の〈ブリザド〉を組み合わせた技。シエルが放つ唯一無二のスキル。〈合体魔法コンボマジック〉。


「〈束縛〉」


 すかさず好機を逃さず自分はもう一つの〈印〉を発動した。対象の動きを封じる〈束縛〉。範囲はカイルを含めてしまったがこれもシエルの策略。


「ぬお!」


 〈束縛〉と書かれた紋章(五角形の中に文字が書かれている魔法陣のようなもの。以降、紋章)のようなものが描かれる。無数の棘、鎖が紋章から出現し、対象を動けない範囲で捉えることができる。


 敵味方なく動きを封じるため集団戦では不向き。


「ごめんよ、オークさん」


 イースの止めが入る。短剣でオークの頭部をつく。紋章の中に飛び込みオークに向かって悲しく静かに謝りそして、とどめを刺す。


 オークは一瞬何を思ったのだろうか。動きが止まったようにも見えたが、いや…束縛で封じられているから身動きは取れないはずだけど。気のせいだな。


 ガッ! 短剣がオークの頭部を貫く嫌な音が鳴り響いた。束縛の紋章によってすぐさま、イースも鎖や棘によって縛り上げられ、身動きが封じられる。握られていた短剣は静かに引き抜き、ボロボロと涙を浮かべ、悲しむイースの姿が残された。


 紋章の効果が消滅すると同時に、オークの亡骸だけがその場に残された。


「あーあぶねえな。相変わらず敵味方なく発動するそのスキルどうにかできないのかなって思ってしまうよ」


「ごめん」


 自分の素直な謝罪にカイルは思わず拍子を抜いた。すぐに謝れるなんて思いもしなかったんだろう。


「あーなんていうか…すまん」


 なぜかカイルも謝った。謝る理由もないはずなのに。


「イース、大丈夫か?」


 自分は問いかけた。イースは虚ろな顔をしながら自分たちに聞いてきた。


「オークさんを殺してよかったのだろうか。家族のこと友人のこと明日のこと、きっとオークさんはこんなところでぼくらに攻撃を仕掛けてこなかったら明日を迎えることができたかもしれない…」


 イースはそう語って、自分たちに本当はどうするべきだったのかと心に疼きがはしる。


「それじゃ、あのまま任務を終えずに帰るか、ゴブリンたちを殺すのかどっちだ」


 仕度を終えたシエルが聞いてきた。思わずイースのぐっと言葉を濁す。


「そういうことじゃなくて」


「イース! これは誰にでも言えることだが、安全で安心して事が進むことはない。もし、俺らが倒れたらだれが助けてくれる? カイルも俺もメイロもイースもみんな生きるために戦ったはずだ! それをいまさら返してどうなる? いまは、オークに勝った。ただそれを祝うことだけだろう」


「違う! そういう意味じゃなくて!! いーよ。もういーよ」


 イースは黙って自分たちから離れていく。入ってきた窓から戻るかのように自分たちの横をそれ帰ろうとしている。自分はイースの肩をつかみ、言った。


「待てって」


 けど、強引に押さえつけた手はイースに本当の意味で立ち止ませれる言葉を自分は持っていなかった。待てといったけれど、イースは黙って自分の手をはたいて、帰ろうとする。


「イース! 待てって!! シエルはああいったけど、自分たちはオークとかゴブリンとか共通とした言語を持ってはいない。もし、あのとき会話が通じたらオークを殺さなくてもよかったのかもしれない。シエルたちもきっと同じ気持ちのはずだよ」


 自分は精一杯の気持ちで引き止めた。共通する言語がない。魔物に対して優しい気持ちを持つことができるのはイースただひとりだ。ただ素材だけを狩るような連中じゃなくて、心の底から魔物のことを理解しようとしている。そういうことができるのは自分が知る限りイースだけだ。


 だから、ひとりで帰すわけにはいかない。


「だからって、殺すことはないんじゃなの…あのとき、ぼくが止めを刺さず〈束縛〉だけで済んでいたら、オークさんは生きていたのかもしれない。だから、あの時の選択は間違いだった…」


 イースの言っていることもよくわかる。確かに止めを刺したのはイースだが、あの雰囲気では止めを刺せといったような状態になっていた。


 どうかしていたのかもしれない。けれど、オークは狂暴かつ飢えている連中だ。あのまま野ばらしにしておいたらどうなっていたのかもわからない。だけど、イースをせめてこのまま自信を責めないようにと願いたい。


「メイロにはわからないかもしれないけど実は――」


 カッと短剣が壁に突き刺さった。イースの真横。あと一歩進んでいたら命中していた。投げ入れた短剣はイースのものじゃない。少し古くさびれている箇所はある物の磨かれており最近まで使われていた形跡が残されていた。


 短剣を引き抜く。


 そこに2体のゴブリンがイースに向かって剣を振り下ろそうとしていた。


「あぶない!」


 っく…紋章が間に合わない。〈禁止〉か〈無効〉で敵味方なく動きを封じることができる。けど書いていても間に合わない。


「まにあわ―――」


「俺に目を向けろ!!」


 カイルが大声を上げる。気迫のオーラという衝撃波が放たれる。


 ゴブリンたちの剣はイースをギリギリ避ける形で地面をついた。カイルの自信へ目標を強制的に向けさせるアーツが起動したようだ。まだ、習得して日が浅いのによくとっさに発動したものだと心の中で感心する。


「俺の友達を傷つけるなよ!!」


 カイル単身でゴブリンたちに迫る。ゴブリンたちの攻撃に当たりもせず一回の斬撃で圧倒的に戦闘不能にする。出血多量と一目でわかるほど腹から切られた傷から中の内臓がこぼれていた。


「圧倒的だな…」


「おうよ!」


「さすが、ゴブリン2体に2週間はかかっていたとは思えない素早さだよ。いつもそんな風だと助かるんだけどな」


 シエルの釘が刺さる。カイルは「経験が生かしたんだ、普段は経験が生かされていないだけだ」というもシエルから焼け石に水だぞとツッコミを入れられた。


 イースが何もできず、ただじっと立ち止っていた。


 目の前に倒れ、もう死んでしまっているゴブリンたちにご丁寧に合掌する。その姿を見た自分たちも同じように合掌し黙とうする。


「イース、あまり無茶なことはするなよ。それに話しを聞いていたんだが、魔物と言葉が交わせる。そんなスキルがあったら、イース習得してみたいと思うか」


 シエルの言葉に対して、イースは頷いた。


「そうか、ならまずは魔物たちの観察含めて言語と動作について学ぶことにしようか。俺もそうして見習いたいしな」


 イースは再度頷いた。先ほどの虚ろな顔も悲しいかもない。いつもの顔に戻っていた。


「さっさと、任務をこなして、来週からは魔物の観察でもしようかね」


 シエルの提案にイースも自分も返事をする。


 カイルに至っては「魔物を観察するんだったら、餌とかトイレとかも調査しようぜ」


 と言っていた。どこが抜けているのか理解しているのかカイルのつかみどころがまだ不明点だ。

 

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