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03 仲間(2)

 異世界では実世界でできなかった魔物モンスターと戦うことや人気がないところでのキャンプ、魔法といった幻想的な要素、子供から大人まで自分にあった仕事を支援してもらえるほか、なにが得意なのか調べてくれる検査機関まである。


 昔の人たちは、魔法とか魔物とか空想のなかで楽しんだり、ゲームと呼ばれる機械で架空の世界で楽しんだとか…そんな風に考えると、大変だったんだなと思ってしまう。


 検査期間は年齢関係なく見てくれる。しかも無料で。何の職業に向いているのかどんなジョブ(主に戦闘系に関する職業のこと)に向いているのか教えてくれる。何度でも。


 自分たちでもそうだった。


 冒険者に憧れていたぼくらは、学校で禁止されていたため成人に近い時期に合わせて学級全員見てもらうことになっていた。冒険者になれるのは成人から1~3年以内の年齢に限られていたからだ。


 冒険者になるというのは簡単じゃない。いくつかの筆記試験から実施試験、武器を使った特訓や職業に対しての情熱、誇り、相手に対しての欲望、自分に対しての欲望と細かいところまで調べられる。その中でも最もポピュラーで多くの希望者が多い冒険者はさらに厳しいものでもあった。


 冒険者になるにはジョブを最低1つ習得しておく必要があるからだ。実世界のように大人や警察といった対策のプロが守ってくれるわけじゃない。兵士や傭兵と最低限の力と知識がある人もいるけど、実世界と比べると比較的に穏やかな人はいない。


「プロになるには経験と感覚、コツが必要となる」誰しも同じように言うのだ。冒険者になってもなれなくてもその先は冒険者の方が難しく、1か月は生き延びれば素質があるというほどだ。


「あー冒険者は厳しいや。思っていたよりも…」


 幼いころからの憧れを一瞬にして踏みつぶされるかのような圧迫感に押し込まれてしまうほどに。武器の使い方、先生との戦いの訓練。疲労の悲鳴を上げる毎日。なによりも素質を求められるこの業界で、自分は認められるかどうか必死だったのもある。


 違うクラスで毎日、冒険者として適任だった。という報告を聞かれるたびに自分は上手く合格しているのか疑い戸惑う。クラスメイトから冒険者になっていくという少しずつ砂のように袋からこぼれ、袋の中に取り残されるかのような不安に抱き付かれる毎日だった。


 結果、自分は冒険者には慣れた。結果通知に何度も目を疑ったほどだ。けれど、自分に合うジョブは「残念ながら適任したジョブは満たされませんでした」と書かれていたときは最悪的な気持ちになった。


 そのとき、結果報告が着た時には自分以外の半数以上が冒険者として道を歩んでいた時だったからだ。冒険者としての素質があるものの、どのジョブも適任しなかったという通知から自分は真っ暗闇に包まれた。


 冒険者=ジョブなしは、武器も扱えず仕事も採取といったお客さんからの素材集めやお使いの手伝いといった雑用しか頼まれない。将来的に安定しない職業となり得るものだった。


「あいつ、冒険者もらっておきながらすっぴんだとよ」


 クラスメイトですでに冒険者になった…先だった者たちから非難が浴びせられる。そうなりたくてなったわけじゃないのに。


「すっぴんって…ダセーな」


 すっぴん…ジョブを持たないものをこう呼ぶらしい。ちなみに、職業に安定しなかった者や、選ばなかった者たちにはニートと呼ばれるだとか。どうでもいいよね。


「きっと、「たすけてーしにたくないよー」って言うぜ、あいつ」


 そんなどこかの村人のような発言はしない。……したくはない。ジョブが定まらないのなら、武器は持てない。装備も着れない。お金で装備も買えない。


「――ッ」


 舌打ちした。


「やってもしないであきらめようとしているんだ!」


 クラスに入ってくる大剣を担ぐ男が現れた。そいつの名はカイル。昔から仲良しだった友人だ。


「メイロもなに突っ立ってんだ! 言い返せよ! 先生が言っていただろ、素質は努力してでも得られる。冒険者として続けていたらちゃんとしたジョブが決まるかもしれない。見つかるかもしれない。そうだろ!?」


 カイルに説得されるなんて思わなかった。確かに、ジョブも職業も成長と努力で変わる。あきらめちゃだめだよね。友人に説得されて立ち上がるなんて、なんかー不愉快な気持ちになる。けど、胸が熱くなる感じがした。


「メイロ! 行く宛てがないのなら、俺のところに来るか? いま、メンバーが俺含めて3人いる。パーティは4人まで申請することができるからな」


 自分は走り出していた。冒険者という名だけで判断して、あきらめようとしていた気持ちが吹っ飛んでいた。カイル…に話しかけられていなかったら諦めていただろう。


 カイルの右胸にそっと拳を当て「ありがとう」といった。


 カイルははにかみ「なーに」と自分の背中を強く叩き、「俺は前衛として盾役としてパーティを守る。傷つけられている仲間に助けだせず戦士として名が廃れるからな」と強気の発言した。


 いつのまにかパーティとして入っていたのは驚きだったが、カイルの言葉になんだか救われたような気がして自分はいま、このパーティで一緒に同行するようになった。


 それから城に忍び込む2か月の間に戦い方と魔物の特徴など調べ、それぞれのジョブの特性から技術を学び鍛えていった。


 自分は相変わらずすっぴんの状態だったが、先生からある特異能力ユニークスキルがあることを告げられ、自分はみんなのためにやれることを見つけ出すことができた。


 その特異能力ユニークスキルとは――


**


現在。


 オークの目の前にしてカイルが一人突っ切る。オーク1体を相手にカイル単独では無茶だ。オークの怪力は今の自分らでは防ぎようがないし、下手したら防具は砕けるか吹き飛ばされるか、最悪死ぬかもしれない。


「待て、詠唱がまだだぞ!」


 自分は叫んだ。


 シエルの魔法がまだ詠唱を始めたばかりだ。このままだとカイルはオークの攻撃をかわすかしないと…。


「うおおお!!」


「やばい! オークが気づいた!」


 カイルの大剣と重い鎧の音は静かなこの場所ではひどく目障りに近いほどの音が激しくなる。静かに歩いていても防具の音だけは防ぎようがない。


 オークはひどく荒れている。まるで酔っ払いが喧嘩を吹っ掛けるかのようなしぐさをとりカイルたちに牙をむく。


技能アーツは2つしかないけど、これに頼る!」


 2つって……えっ。


 カイルはオークの斧をすかさずかわす。間一髪だった。頭部がかすかに切られた。オークの斧は勢いを殺さず思いっ切り壁を突き破る。


「ゲッ! あぶねーな」


 ぽっかりと空いた穴に思わずカイルが汗をかく。見た目の斧は職人さんなどでそこらへんで使われるような形状をしたものだが、オークの怪力ではその斧が不気味に光って見える。


「ファイアボルト!」

「シールドフォース!」


 シエルが唱えた。片手に杖、もう片方に魔法書を持ち、二つの魔法を同時に詠唱するといった神業を披露した。それぞれ武器は違えど発動する魔法はどんな魔法使いのジョブでも一歩手前に行く。


 シエルはクラスメイトの中でも魔法使いとして最初に名を上げた魔法使い。他のパーティや熟練のパーティ、プロのパーティからも要請を受けたらしい。シエルは誰とも拒否し、カイルが率いるパーティから抜け出すことは一切しなかった。


「お前らが危なっかしいから、抜けるにも抜けねえんだよ!」


 と言っていたシエル。どうだが、案外心配性なのかもしれない。


 シエルが発動した魔法のうちひとつ〈火炎の稲妻ファイアーボルト〉。杖から発動する魔法。杖の先端を向けた対象に向かって炎の球が発射される。炎の跡を残していった後が稲妻のように電流を発していたことからこの名がついた。命名はシエルだ。


 魔法や技能は見つけたものが名前を付ける。決まった名称はなく、その人が「この技は俺のだから、これを○○と決まりだ」というようにその人が見つけた名前で決まるのだ。


 だから、同じような技能や魔法があっても名をつけた人のものになるため喧嘩になるのはよくある話し。ちなみに、ゲームのように認定されることはない。


 この魔法・技能は同じ攻撃だから、このネーミングねというように共通する訳じゃない。


 魔法書で発動した〈盾の強化力シールドフォース〉は、対象とした範囲内の味方…すなわち自分が敵じゃないと思う人物をターゲットに発動する補助的な魔法だ。


 防具(ガンドレッドや盾など)の性能を上げる効果を持つ。また、ひび割れや錆びていても一時的に魔法のオーラによって壊れることを防いでくれたりもする。


「おっ! サンキューな、シエル」


「少しは考えて動け!」


「悪いぃ! シエルなら大丈夫かなーって」


「少しは自重しろ」


 オークの斧が振り下ろす。カイルは剣でその斧の怪力を防ぐ。ぐっと重力が増したかのような重みが床へと押しつぶされる。


「っぐ……強化したっていうのに結構きついな… おめー(オーク)も火傷を負っておきながら意外と平気な顔をしているなよな。仲間が泣くじゃねーか」


 カイルは「グフフ」と笑った。


 オークはピクっと動き、一歩後ろへ下がった。


「その反応、気にしているな! 俺の反応を…」


 オークは再度構える。言葉を理解しているのかそれとも…


「ほーれほーれどうしちゃいまちたか?」


 幼児的な言葉で挑発してやがる。あれほど悪乗りするなと言ったはずなのに。


((オークよ…さっさとそのバカ(カイル)を踏みつぶしてください。))


 シエルと息があったようだ。バカノリするカイルを一度死んで理解させた方が早いという結論がついたからだ。


 オークが慎重に構える。


 なにを慎重にしているのか理解できない。オークであろう者がカイル(バカ)の攻撃を見極めようとしているのはなぜなのか。


(!?)


 オークが首から下に当たった火傷の跡を気にしている。汗が流れる度にかすかだが片目をつぶろうとしている。主に胸の間だが火傷の跡がある。〈ファイアボール〉の影響で火傷を負ったが、致命傷的だったのだろうか。


「あーそっちがいかねーのなら、俺が先に手を出すぜ!」


 カイルは腰に下げていた小さな革製のカバンから小瓶を取り出し、大剣にそそぐ。とろとろとした液体が床に伝わる。


 シエルの合図で炎をつけ、大剣は一面焼け野原になる。そう。これが――カイルの切り札。名付けて――


「ただ油で着火しただけの燃え上がるファイアソード

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