02 仲間(1)
遠い田舎に古いお城がある。昔、名の知れた王様が住んでいたのだが、夜な夜な奇妙な声に悩まされ、王様は自分を陥れようとしているのではないかと、部下たちを次々と拷問していきました。
残された王妃様や一部の部下、家族は命がらカネラ村に避難しましたが、残された王様は自分がしたことを悔い、自ら命を絶ったという。
そんな噂が囁かれ、お城はすっかりと寂れ、ボロボロに崩れてしまった。見事だった綺麗な石像や石ブロックの建物は崩れてしまい、昔の跡かたが見られない状態に沈んでいました。
「これって…まさに――」
唾を飲み込む。カイルが言いかけたが、まさに廃墟そのもの。城っというものだから楽観的に少しは人が住んでいると思っていたのだが、まさに廃城そのものだった。
人がいなくなり見捨てられた建物は重圧で押しつぶすかのように圧倒的な存在で、立ち入る人々を拒絶するかのように威圧感を押してくる。
そんな城の上空は灰色の雲に覆われ、今にも雨が降りそうな天気だった。
ここから少し離れたカネラ村の上空は晴れている。ここだけ異常なのだ。誰もいなくなったからなのだろうか、幽霊が出る殻だろうか、王様の恨みが詰まっているだろうか、城が寂しがっているのだろうか。様々な不気味な想像を思い浮かべる。
足が動けない。震えてしまい力が出ない。ここは、実世界ではない。異世界アーリンだ。融合した世界といっても、歴史先生曰く「世間からは融合したのだと言っているが、実際は二つの異なる世界が次元という時と時の狭間にできた歪みのようなものが何かの原因で通れるようになってしまったからだ。その結果、異世界アーリンで魔法が使え、科学が存在しないし使えない。実世界アースでは科学が存在し、魔法が使えない。融合したのであるのなら、どちらも存在するか消滅しているかだ」と言っていた。
二つの世界が融合した世界ではない。実世界アースではない。魔法が存在する異世界。組合によって学生だが冒険者として所属している自分らにとっては本来、大人から始まるであろう魔物の討伐、資源の採集、お使いなどが子供であるぼくらにも与えられている。
異世界の文化と実世界の文化は異なる。だけど、一緒になって。行き来している間に、みんな――
「どうした寝ていたのか?」
「あ、いいや そうだね ごめん」
ぼくは我に返った。なにを難しいことを考えているのだろうか。つい癖だ。歴史先生が言っていたことをいま、思い出して何になるんだ。
それに、ここは異世界にして幽霊は一種の魔物として扱われ、弱点が存在している。実世界だと特別な専門家か決まりであるお札や塩などで対策が行われるが、異世界だと魔法というものが存在している。
魔法で戦うか聖水を浴びた武器で戦うかで幽霊を倒す(?)ことができる。いわば浄化することができるということだ。この大きな違いは武器となる。
どういう理屈なのかわからないが、文化は通じ、魔法と科学というものが存在しあえるわけじゃないという。
(----なにを考えているんだ! 集中しろ! 集中するんだ!!)
頭を抱え、今なすすべ気を必死で頭に思い浮かべる。異世界とか実世界とかどうでもいい。いま、なにをするのかを考えなくちゃ。じゃないと、パーティが死んでしまう。誰も死なせたくはない。異世界と実世界の死は違うから。誰も死なせてはいけない。自分は、パーティの唯一のサポートできるメンバーだ。
奥の曲がり角を曲がるカイル。そのあとを追うシエルとイース。互いに確認しあって、奥の部屋、通路の安全を確認しつつ、進んでいく。
(みんな、慎重だ)
後ろを歩く自分は感心する。今年の4月から晴れて冒険者となってから2か月はたった。当時は、みんな与えられた役割になじまず、何度も失敗しては戦闘不能に陥って、お金を払って初めて宿屋のありがたさや装備の大事さ、役割がパーティを支える大事な役割だということ。
お金や文化、環境は実世界とは異なる。けど、休日しかみんな一緒に遊べる機会がない。みんな忙しい。そんな中を大事な時間を使って、一緒に大人になるまで冒険しようと約束した。
経験を積めば少しは戦い方や役割を覚えていく。ギルドマスターのアスカさんはそう言っていた。アスカさんの言うことはいつも正しい。さすが先輩だけあってすごいと思う。
自分もアスカさんのようにパーティを支えれる人になりたいと願ったほどだ。
「っし!」
先頭にいたカイルが立ち止った。後方に合図を送る。ちょうど角を曲がる前で足を止めていた。角を曲がった先にはゴブリンらしき背が小さく緑色の肌をした子鬼が二体ほどいたからだ。
互いになにか話し合っているようで言語でしゃべっている。あいにくゴブリンの言葉を知らないから、聞き取ることは難しい。
カイルが静かに尋ねる。
「どうする? たたかうか?」
「いや、今回の依頼はこの城を調べることだ、無駄な争いで命を粗末にしたくはない。それに、もし幽霊がいたら、気づかれる。それに、ゴブリンの仲間がいる可能性も高いからな」
シエルはおとなしい。カイルに提案し、みんなに促す。
「たしかに…」
イースが小声で相槌を打つ。
ゴブリンとはいえ今の自分らにとっては雑魚そのものだが、ゴブリンもまた人間と似た部分がある。自ら考え行動し、活動する。そこら辺にいる野良のゴブリンよりも頭がいい。
野良のゴブリンは仲間を大切にするが故、弱点や隙を見せやすい。自分らのように限られたパーティ(友人)からなのだろうか絆が深いのだ。倒すのは安易だが、一匹でも逃すと復讐としていつ訪れるかわからないほど危険な敵となる。
それと異なり野良ではないゴブリンは非常に統率が良く、たとえ仲間が殺されようとも振り向くことなく相手を殺しにかかるということだ。それに、お城や古い地下牢など隠された罠などの作動にも敏感で、こちらの攻撃場所を察知して罠を起動してくることもあるほどだ。
(見習いの頃はそれで、一気に全滅したのはいい思い出だ)
ゴブリンは統率が取れる分だけ、彼らは強い。弓や剣といったものも扱うし、人間と同じように生活している村も存在しているほどだ。どこかの漫画のようなゴブリンは弱いという印象は違うのだ。
「別の方角から進もう」
カイルの合図に自分らは別の場所から中へ入ることにした。もと来た道を戻り、出入り口である窓へ向かった。扉は施錠されており、開けることができなかったからだ。
廃墟となれば、どこにいっても窓は開いている(割れている)。最初に来た無謀者がしたのかもしれない。でもそのおかげもあって、こうして簡単に入ることができたわけだ。
「大丈夫か? イース」
小刻みに震えるイースを心配した自分は声をかけた。幽霊という部類を最も苦手とするイースは、嫌々ながらもついてきたのだ。そんなシエルを気遣わないとヒドイ奴だと言われそうだ。
「うん、大丈夫だよ。今はみんながいるし」
イースの震えが一瞬止まった。明るい笑顔を作った。けど、それはすぐに元に戻った。無理をしているのだろうか。無理しているのだろう。自分はどうにかできないが、せめてのサポートで攻撃が当たらないようにしてあげるだけだ。
「次の角があの部屋と通じるはず…」
角を曲がるとハッとカイルが後ろから着ていたシエルたちを止めた。角を曲がった先にいるのがヤバい奴だと心底悟ったのだ。長年の戦いの経験が殺気だったのだ(2か月もたっていないけどね)
「あいつはヤバい!!」
カイルが一瞬にしておとなしく震えるほどヤバい奴。そいつの姿を確認しようと顔を出す自分。そこにいたのは大きな鎧に身を包み、顔は豚。赤い瞳。少し濃い肌色。身長よりも長いほどの斧を片手で持つオークの姿があった。
オーク。ゴブリンよりも知能は劣るが、自らの出張が強く他者と共存を選ぶことはないと言われる種族。言葉もゴブリンよりも濃く、オークの言語を理解できるものはエルフだけといわれている。
オークの身のこなし、重い鎧でも武器でも軽々と持ち上げ回避できるほどの身軽さ。どこかの漫画や小説のような知能が低いだけの敵モンスターとは全く異なる生物だ。
「あいつに勝てたことは一度もないんだ!」
急に弱気になるカイル。無理もない。ゴブリンをようやく倒せるようになってまだ1か月もたっていない。新米である自分らがいきなりオークを倒せるかどうかと他者に尋ねられれば3:7だ。3が生存率、7が死亡率だ。
ここで全滅したら、復活は到底不可能。復活ができるのはシエルが扱える魔法のみだ。しかも膨大な魔力が必要とくる。一人呼び出すだけで1日以上はかかる。そんな場所に1人でいるのは到底不可能だ。
「じゃあ、先ほどのゴブリン討伐へ向かうか? それともこの任務は放置するか――」
自分の提案をカイルは蹴った。
「いや、せっかく俺が誘ったんだ。せめて、オーク…いやゴブリンだけでも倒さなきゃ、ギルドに汚名を負ってしまう」
責任感という奴か。このパーティのリーダーはカイルだ。このパーティでやろうと提案したのもカイル。ギルドに入ろうと決めたのもカイルだ。ギルドの先輩アスカに恋思っているカイルにとって、逃げるという選択肢は辞書に載っていないのだ。
「じゃさ、ここはメイロの出番っていうことで」
ポンと肩を叩かれる。シエルはヤル気満々だ。あれから(2か月前と)比べれば強くなった方。全滅を覚悟に最後あがくために成長するためにシエルはカイルの的役を任せ、自分は全面的なサポートに集中するようにした。
この時ばかりしか自分の力は発揮できない。お荷物的なポジションだ。唯一魔法も技能も与えられなかった自分に、与えられた特異技能を用いて仲間を支える。
魔法も技能も習得できないことをクラスメイトの前で露見され、イジメられハブられ一人だった自分を唯一声をかけてくれたシエルたち。どんな時でも置いていくことはしない彼らを支えたくて、自分は魔法や技能を覚えるという選択肢を捨て、このスキルを持ち入り、”魔法と技能がすべてではない”と証明するために――。