食べた夕日は
夕日を食べたことがあります
ほんとうですよ
誰も信じてはくれませんが
食べた夕日は
西空に浮かぶ赤いすじ雲を身にまとっていました
大きさはちょうど片方の掌に乗るくらいで
私の脈打つ心臓の一番大きくふくらんだときと同じくらいでした
表面は雲からにじみ出た雨粒で艶めいていて
触れた温もりは近づく夜の口づけのように冷たかったです
そう
冷たかったのです
夕日がまとっていた赤をはぐと
ついにその姿を目にすることができました
白に見紛う黄色の身は
雨水を蓄えていた空にずっといたからでしょうか
その奥深くまで雨水がしみ込んでいました
触れた指が濡れてしまうほどに
海の底からすくいあげた白い砂のように
みずみずしかったです
しかし不思議でした
西の空にいたときは 直視しがたいほどに眩しかったのです
だというのに
私の掌の上では まるで庭に咲く花のようにぼやけていただけなのです
目の前にかざしましたが
遠くの蛍光灯のほうがずっと目に痛かったのです
研いだばかりの包丁を刺しこむと
まるで海に手を浸したときのように
なんの抵抗もなくその身に刃が通りました
夕日の中身も
花びらのように淡い白黄色でした
切り分けた夕日を 天の川のような銀色のフォークで刺して
一口
かじるといとも簡単にその身は割れて 水がはじける音がしました
本来雨の日に私の上へと降りかかってくるはずのそれらは
そのとき私の口の中で溢れだして
さっぱりとした甘味を残して のどの奥へと流れ去りました
その甘さに驚きました
夕日は
私の舌の恋人になったのでしょうか
ずっと舌に乗せていたいほど 心地よい甘さを残したのです
今年ももう、時雨が降りはじめましたね
夕日が、おいしくなる季節です
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
批評批判大歓迎です。もっと私自身の思い描く世界を表現したいので、感想酷評、友人への紹介も期待しています。
長編の作品を幾つか載せる予定ですが、いずれもまだ先は長そうです。
平成三十年六月十五日までは、月に一度は詩を載せるつもりなので、気が向いたらお読みください。
繰り返しますが、本当にありがとうございます。