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死者の書  作者: 立花 葵
千夏
13/13

ちーちゃん

 ちーちゃん。

 大好きなちーちゃん。

 私のちーちゃん。

 側に居るだけだ幸せだった。

 願わくば、その恋い焦がれる瞳を私に……。

 

 無理な事は分かってる。だから側に居させてくれるだけでいい。それ以上の事は望まない。

 でも時々妄想するの。

 もしもちーちゃんと結ばれたらって。

 

 子供の名前も考えたの。

 男の子と女の子。二人の名前から一文字ずつ取って千明(ちあき)夏美(なつみ)

 狭いアパートに住んで。皆んなで並んで寝るの。


 そして子供達が大きくなって、寝室が狭くなったらちっちゃなお家を建てて……。

 おっきな幸せは少ないけど、毎日ちいさな幸せはある。

 そういう、温かかな毎日を過ごすの。


 でも……もう……ちーちゃんに会えるのは思い出の中だけになっちゃった。

 会うたびに、涙が溢れて……とても苦しいよ。

 でも、ちーちゃんの思い出は、私を幸せにしてくれる。


 愛するちーちゃん。

 愛しいちーちゃん。

 私は何度でもちーちゃんに会いたい。何度でも会いに行くよ。


 ……アイツは違うみたいだけど。

 ちーちゃんに会うのが嫌なんだって。アイツは自分が一番だから、ちーちゃんが居なくなった事より、ちーちゃんを失った自分を哀れんでる。ちーちゃんを失った自分が可哀想で可哀想で仕方がないみたい。


 でも安心して。ちーちゃんが愛した男は、一生ちーちゃんを求め続ける。彼の中で、ちーちゃんは生き続ける。ちーちゃんを忘れるなんて、そんな事はさせない。一生可哀想な自分を哀れんでいればいい。

 いつか、ちーちゃんの所に行くその日まで……。彼の心はちーちゃんのもの――




 ◆




 ふと、誰かが座った。

「……やっぱりこうなったのね」

 女は振り返ると事なく、それが誰か言い当てた。

「ようこそ、春菜明美さん」


 振り返った女を、怒りに満ちた瞳がギロリと見上げた。

「私は死者の書。説明は必要かしら?」

 首を振る春菜へ、女は問いかけた。

「貴方の望みを、伺いましょう」


「……殺して。……殺してほしい奴がいる! アイツに……あの男に、相応しい死を!!」

「……そうね。貴方にはそれしかないわね」

「私には……、ちーちゃんの対価は払えない……」


「では貴方にとって、奪う命に見合う価値のものをいただくわ」

「そんなものはない……。私の大切な人を……愛する人を殺したのよ!! 私の目の前で!!」


 春菜は更に目を吊り上げ、噛み締める歯が悲鳴を上げた。

「ちーちゃんがアイツを好きだから我慢してたけど……大嫌いだった! 何時も何時も自分の都合ばかりでちーちゃんを困らせて……。その挙げ句! ……アイツの命に価値なんてない!!」


 女は身を屈め、春菜の肩から一本の髪の毛を摘み上げた。

「これでいいかしら? ただ、お釣りは返せないの。だから貴方がそれを了承してくれればだけど……」

「お願い……。アイツを、苦痛と苦しみで嬲り殺して……!」


「いいわ。契約を交わしましょう――」



〈千夏・完〉

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