サイコダイブをしてきた男
星原ルナ、人生初のSFジャンルに挑戦してみました。
暖かい目で見てもらえると嬉しいです(汗)
真夏の太陽は沈み、満月のやわらかな光が町を照らすある日のことだった。廊下で姉貴にバッタリ会った。
「あら、おやすみなさい」
「おう、姉貴、おやすみ」
姉貴にそう告げて自分の部屋に戻った俺は、パジャマに着替え、真っ先にベッドの中に潜り込んだ。寝付きは割りと良いほうで夏真っ盛りの日でさえ、簡単にぐっすり眠れる。
布団の中に入った瞬間、俺は夢の中へと誘われていく。
数時間経った頃、俺の前に見知らぬ男が現れた。いかにも何かのセールスマンをしていそうな出で立ちをしている。見た目は三十代そこそこって感じだろうか。
俺が「どちら様ですか?」と尋ねると、男はこう答えた。
「君の夢の中に、サイコダイブしてきた男だよ」
訳のわからないことを言う人だなと思った。そもそも、質問の答えになっていないし。
「意味がわかりません。ていうか、サイコダイブってなんですか」
「他人の夢の中に潜り込むチカラのことだよ。そして私は『サイコダイバー』なのだ」
「ますます意味がわかりません」
「サイコダイブの能力を持った者のことだよ、わかるかい?」
得意げに話す男に、俺は不信感を抱いた。サイコダイバー? 夢の中に潜り込む? 聞いたことのない単語ばかりで本当の話か怪しく見えてしまう。
「じゃあ、それが本当かどうか、証明できるんですか?」
「フッ、訳のわからないことをいうねぇ、君は。私は今ここにいる。それこそサイコダイブしてきたという証明じゃないか」
「それだけじゃあ証明になっていませんよ。ていうか、なんで他人の夢の中に潜り込むんですか? それこそ意味がわかりません」
「フフフ……私はね。君の恋人に一目惚れしてねぇ。君からその人を奪うために来たのだ!」
「……………………」
何を言っているんだ、この人。俺、変な人に声かけてしまったなぁ。
「俺、忙しいんで行きますよ?」
「何を言っているんだい? ここは夢の中だ。どこに行くというんだい?」
だんだん、あの人の相手をするのが嫌になってきたんだが。俺はつい、ため息を吐いた。
それに対し、男は……思いっきり空気をぶち壊す。
「おや、ため息なんぞ吐いてどうしたんだい?」
ニヤニヤしながら俺を見つめる男の表情に、俺は小さく歯噛みした。
はぁ? 俺の気持ちを理解しないあんたに苛立っているんだよ! 質問にきちんと答えてくれないし。
「もう一度、聞きます。なんで、俺の前に現れたんですか!? 今度はちゃんと答えてくだい」
「だから、君に会いたくてサイコダイブしたんだよ、福光真一君」
まさかの回答に訳がわからず、俺が「はぁ!? 俺は……」と言おうとしたが、男に遮られた。
「何も言わなくていいんだよ、真一君。君が角倉志乃ちゃんの恋人だっていうことは分かっているんだからね。私の目的は唯一。君の意識を倒し、君の体を乗っ取ること。そうすれば、志乃ちゃんは永遠に私のものだからねぇ。コンビニで見かけて一目惚れしたその日からずぅーーと毎日観察して、調べた結果だ。間違いないさ」
気持ち悪い! ストーカーかよ!? というか、夢の中なんだろう? 現実世界で体を乗っ取ることなんてできるんだろうか。
「でもここ、夢の中ですよね?」
「あぁ、そうだ。ここは、君の夢の中だ。夢の中でなら心置きなく決闘できるだろう?」
なんで夢の中で決闘するんだろう、と俺は思った。というか、早く夢から覚めてほしい。それなら。
「サイコダイブ。夢の中に入れるということは、出ることもできるってことですよね?」
「もちろんできるさ。私も現実世界で生きている。人の夢の中に入ったままなんて嫌だからねぇ」
男の話を耳にして、俺の頭の中に名案が浮かび上がった。
「じゃあ、その華麗なサイコダイブするところ、見てみたいです」
「今みたいのかい? ただ、今は……」
「でもこのままだとずぅーーと他人の夢の中に入りっぱなしで、大好きな志乃ちゃんに現実世界で会えなくなりますよ」
「それは困る! 毎日一時間、志乃ちゃんを観察するのが日課なのに、それは困る!」
男は慌てた様子でしゃべっていた。
「急ぎの用事ができた、決闘はまた今度だ! 真一君、アディオス!」
男が消えた瞬間、俺の意識はプツリと途切れた。やっと、解放される。心から感じた。
次の日の早朝。
夢から覚めた俺は起き上がり、ベッドをおりて、扉を開けた。同時に姉貴も自分の部屋から出てきたところだった。
姉貴は俺に気がつくと、にっこりと微笑んだ。
「あら、おはよう、翔一」
自分の名前をちゃんと呼んでくれることに、俺は嬉しくなった。
「志乃姉さん、おはよう」
「なんだか、顔色悪いわよ。眠れなかったの?」
姉貴の質問に、おれはこう答えた。
「変な夢を見たんだよ。ストーカー野郎と会う夢。人の夢の中に入るチカラを持っているとかなんとか言って。疲れる夢だったよ」
「そういう夢をみる時だってあるわよ。気にしない、気にしない」
俺は姉貴と一緒にリビングに向かった。部屋に入ると、朝食の準備をしているおふくろと、椅子に座ってテレビのニュースを見ている親父がいた。
『次のニュースです。今朝、○○町で複数の女性を付きまとっていた三十代の男性が逮捕されました。逮捕された男によると、夢の中に入って大好きな女性と会いたいから付きまとっていたと供述しているとのことです』
完
急ぎで執筆した為、短編小説というよりショートショートになっちゃいました。
今度短編小説書く時はもう少し文字数多めで書きたいです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。