心のスイッチ
貴方は驚いていた
「それじゃ、またね」
いつものように言っただけなのに
私の目からは
涙が勝手にぽろぽろぽろぽろ
「いきなり何で?」
うつむいて黙っている私に
慌ててティッシュを一枚手渡し
貴方はつまらない冗談で
涙のスイッチを切ろうと試みる
「スイッチはどこにあるのかな?」
私の体を手探りしながら
「暑いんだから着ぐるみは脱いだら?」
最近お気に入りの冗談だ
それを聞く度いつも笑ってしまう
「笑っているうちに帰ろうっと」
貴方はさっさと帰ろうとするけど
帰れるわけがない
後部座席には
今も私が居座っている
「早く車から下りて!」
今日はそんな言葉も
さすがになりを潜めているね
困った顔で見つめるから
手をドアに掛けてあげた
一瞬ホッとした顔をしたから
そのまま一分位動かなかった
私のちょっとした意地悪を
苦笑いして見守ってくれている
可愛そうだからここで終わり
私は貴方の目を見ずに車から下りた
そのまま自分の車に乗るのを確認すると
貴方は一度車をバックさせ
真っすぐ前を見て走りだす
私の顔は絶対に見ない
私の心のスイッチが
「またね」だとしたら
貴方の心のスイッチは
私が車を下りたとき
貴方の優しい「またね」に
私はいつも「うん」と言う
その2文字で精一杯なんだ
だから
貴方の走り去る車を見送りながら
「またね」と言っている
いつもはここで涙が出てくる
ごめんね
今日は少し早かった
だって思い出してしまったんだ
会いたくない人に会ったこと
想像したくないこと想像したこと
でも貴方にだけは
絶対言えないよ
それを聞いた貴方が
どんな顔をするか
おおよその見当はつく
そうしたら
もっと悲しくなるものね




