駄目なこと
〈今から帰りだよ!〉
これは、電話していいよのサイン。
通勤時間の25分。
それが、一日の内で私に与えられた時間。
車のバック音が聞こえたら、次の言葉は決まっている。
「それじゃ、おやすみ」
例え話の途中でも、それだけは変わらない。
だけど、今夜は話す言葉が見つからない。
だから、わざと帰宅する5分前に電話した。
当たり障りのないことを話すには丁度いい。
それならば、余計なことを話さずに済む。
忙しさと言いたいことが言えないせいで、段々不満が溜まっていた。
私はこの時とばかりに夢中で話しだした。
口に出すことですっきりして、また明日から頑張れる。
そんな浅はかな考えを許すほど、彼は私に甘くない。
「ちょっと待て!今のお前、誰かに似てないか?」
彼の言おうとしていることは直ぐに分かった。
「お前の一番嫌いなヤツにそっくりだ。」
やっぱり……
既に後悔してる私に追い打ちをかける。
「いつもそれで嫌な思いをしてるんじゃないのか?」
確かにそう、そうなんだけど…
「自分でされて嫌なことをなぜ人にするんだ?俺は今いつものお前と同じ気分だ。」
「ごめんなさい…」
こんなとき、他に言葉は浮かばない。
「決められた時間なんだから、楽しい話をしよう。」
今度は、さっきより優しく言った。
何も気にしてないように、なるべく普通に、なるべく…
頭に浮かんだ言葉を一度整理して、確かめながら口にした。
段々と頭の中に言葉は浮かばなくなった。
泣いちゃ駄目。
未来の話は駄目。
人を羨ましがっては駄目。
そして、また一つ駄目が増えた。
愚痴を言っては駄目。
これからは、楽しい話だけしよう。
それが彼の望みなら…。
でもさ、楽しい話ばかりではないと思うんだけどなぁ。
大切な人に聞いてもらいたいことって……。