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Chronicle;Zero  作者: 琴璃
2/2

I

暖かい光、心地良いそよ風。こんなに清々しい気分は何時ぶりだろう。


誰かの呼ぶ声が薄っすらと聞こえる。その声の主は少しずつ彼のもとへ近づいてきた。

「おーい、おーい」

彼は眼をゆっくりと開けた。透き徹るような蒼い空が眼に飛び込む。ゆっくりと上体を起こす。

「あ、いたいた」

声の主らしき背の低い少年が駆け寄る。

「えっと…」

「大丈夫か?お前。なんかぼーっとしてんぞ?」

「え?ああ…僕は大丈夫」

「珍しく寝呆けてるのか?」

「寝呆ける?この僕が?」

キョトンと首を傾げる。

「ああ、そうだ」

彼はまじまじと自分自身の手を見つめる。

「どうかしたか?」

少年はそんな彼の姿を見て、不思議そうにする。

「モト、何だか永い夢を見ていた気分なんだ」

すると、モトと呼ばれた少年は笑い転げながら尋ねる。

「それは面白い。どんな夢だったんだい?」

「さぁ?どんな夢だったんだろう。もう忘れてしまったよ」

「夢なんてそんなものさ」

「…そうだな」

「それよりもみんなが待ってる。早く帰ろう。日も落ち始めた」

「ああ」


賑やかな街へ出ると様々な灯が人々を照らし始めていた。

「遅かったなぁ、ふたりとも」

そこには明るい茶髪を揺らしながら、大きく手を振る少年がいた。

「ごめんごめん」

「なぁ、レド、聞いてくれよ。こいつ寝呆けてたんだぞ。珍しいだろう」

モトの話を聞くとレドと呼ばれた少年も大袈裟な態度をとる。

「それは珍しい」

「おいおい、そんなこと言うなよ。僕だってぼうっとしたい時ぐらいあるんだからさ」

突然、モトが小声で囁く。

「おい、あれ見ろよ」

モトが指差す方向を彼とレドに眼を凝らす。純白の布を頭から深く被って歩く小さな子どもの背中が遠くにあった。

「迷子かな?」

「さぁ?」

「ちょっと僕、声かけてみる」

彼はふたりの止めようとする声を背中に駆け出した。


「ねぇ、キミ?どうかした?」

肩に手を置かれた子どもはびくりと肩を揺らす。その子どもはゆっくりと後ろを振り向く。

「えっと…ごめんなさい」

そう言いながら、純白の布をそっと頭からとった。この世のものとは思えぬ程美しい顔立ちの少女に思わず息を飲む。

「お恥ずかしながら、私、仲間たちとはぐれてしまいまして…」

「仲間?」

「ええ。先程から此処らをウロウロとしていたのですが、気配もないので困っているのです」

「なるほどね。ところでキミは何処から来たの?」

「それは…秘密でございます」

「そっか…だったら、僕のところ来てみる?そしたら、何か手掛かりが見つかるかもよ?」

その瞬間、少女は目を輝かせた。

「本当に宜しいのですか?」

「もちろん」

「では、御言葉に甘えて。よろしくお願いします」

「あ、そうだ。僕たち折角だし、敬語は止めない?キミとは友達になりたいな」

「とも…だち?」

「そう、友達」

「わかりました…じゃなくて、わかった、わ」

あまりにぎこちない言葉に彼はくすりと笑った。

「僕はちゃんとした名前がないんだ。キミが好きなように読んでもらって構わないから。よろしく」

そう言いながら、右手を差し出す。

「私の名前はウリエル。よろしくね」

ウリエルと名乗った少女は可憐な微笑みを浮かべながら、彼の右手を握った。


四人は街の中心部へ向かう。そこには『最期の裁判』を行う神殿と共に天まで届く程の高い塔がそびえ立っている。

「お前、時間は大丈夫か?」

レドの言葉に彼はハッとなると、急いでウリエルを連れて神殿へ駆けた。そして、振り返る。

「モトォ!レドォ!また後でー‼︎」

彼は精一杯手を振る。

「うん!」

「おう」

それに応えるようにふたりも手を振り返す。


「母上!」

何とも言えない色彩を帯びた美しい衣に身を包んだ女性が彼を強く抱き締める。

「愛しい息子よ。今迄、何処へ行っていたのです?」

黒檀のような長髪がはらはらと溢れる。

「申し訳ございません、母上。少し眠ってしまいまして…」

彼は極まりの悪そうにはにかむ。女性は彼の顔を優しく見つめると、母親譲りの黒髪をそっと撫でる。

「怪我はしていないのですね?」

「はい」

「ならば、宜しい。さぁ、着替えてらっしゃい。晩餐の時間が来てしまいますよ」

「はい」

「実は今、友達を連れてきているのですが、友達も一緒で宜しいですか?」

「友達?」

ずっと彼の傍らで静かに立っていたウリエルが前に出ると深く頭を下げた。

「お初にお目にかかります。ウリエルと申します」

「ウリエル…何処かで聞いたことのある名のような気が…。あなたも着替えていらっしゃい」

「ありがたき御言葉。誠に感謝いたします」

そのまま、女性は奥へと姿を消していった。

「あなたのお母様…もしかして…」

「冥王だよ」

「まあ!私、こんなに馴れ馴れしくあなたと話してしまってよいのかしら」

「母上が冥王であろうとなかろうと、僕の友達であることは変わらないだろ?だったら、大丈夫だよ」

彼は元気よく答えると、そのまま召使いと共に奥へと向かった。


「ウリエル…まさか」

「陛下、先程確認して参りましたところ、本日はルシフェル殿とミカエル殿と共にもうおひとり、天界からいらっしゃるようでございます」

冥王の隣に付き従う男がそっと耳打ちする。

「そのような話は耳にはいっておりませんが?」

「申し訳ございません」

冥王はため息を吐く。

「あの子が『ウリエル』…。精一杯のもてなしをするように。わかりましたね?」

「畏まりました」

そう言うと従者は奥へと下がった。

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