腐れ縁が身を救うという話
連続投稿、これがラストです。
縄梯子で舫綱をつなげた島に降りた。
頭目と他屈強な感じの男5人に囲まれているのはなかなかに圧力を感じる。
船を見上げると、竹林のように天に向かってたくさんの舫綱が伸びている。
その隙間に見える今まで乗っていた飛行船の下部に、震電がワイヤーで係留されていた。この辺の構造はシュミット商会に商船と変わらない。
接収されたりしないといいんだが……今のところ身の危険はあまり感じないが、震電がどうなるかは何も言われてないから気になるところだ。
だが変に聞くのも藪蛇になりそうだしな。
小島から伸びているつり橋はワイヤーで組まれたかなりしっかりしたもので、横幅も3人位が並べるほどだ。
歩いても風が吹いても多少揺れるが思ったほど不安感はない。といっても、足場の板の隙間や周りの手すりの向こうは目もくらむような高さの空で背筋が寒くなるのを感じるが。
フローレンスより少し肌寒くて、すぐそばを薄い雲が流れていく。もしかしたらこの島はフローレンスより高い位置にあるのかもしれない。
「案外おとなしいんだな」
横を挟むように歩いている海賊の男が声を掛けてきた。
こいつも背が高くて鍛えた体をしている。顔にはいくつも傷があって頭も剃り上げられているからなんとも迫力があるな。
なんというか、空手家というか武道家ってイメージだ。大ぶりの手斧を腰に下げている。
「もっと跳ねっ返りを想像してたよ」
「状況判断が出来る、と言ってくれ」
この場で暴れても全く意味がない。
空を飛び回る騎士同士の戦いなら機動力で多少の不利は打開できるが、地面に足をつけての戦闘だと数の差を覆すのは至難の業だ。
それに、どうしようもないならせっかくだから見れるものは見ていきたい。
レーサー時代に治安のよろしくない国にも転戦したからこの辺はある程度開き直りの経験が出来ている。
「しかし、よくこんな場所が見つからないもんだな」
つり橋を歩いて中継の島を超え、本島らしきところに近づくにつれて、だんだんつり橋が広く頑丈になっていく。
本島には、遠目でも港湾施設というか倉庫や簡易ドッグらしき大きな建物が見える。かすかに金属を打ち付ける音が聞こえるが、これは鍛冶の音だろうか。
うっすらと雲がかかっているが、丘を中心にした島のようで、斜面に張り付くように建物が立っているのが分かった。
建物からは煙が上がっていて大勢の人の気配が感じられる。島全体ならかなりの規模だろう。
当たり前ではあるが、こういうところ、というか拠点は絶対に必要だ。
騎士の修理、船の整備、乗組員の休息、海賊行為でうばった物資の集積と売買。
まともな港に寄港できない以上、こういう場所はあって当然なんだが。もっと個別の海賊が小さな島を拠点にしてるとか考えていた。だが想像以上に馬鹿でかい。
「空はとてつもなく広い。そして騎士団の数なんてたかが知れているからな」
船長がこっちを振り向かないまま言う。
確かに、空の広さはさんざん思い知った。
それに、騎士団は戦闘能力は高いが、騎士の数にせよ人員にせよそこまで多いわけじゃない。
リスクを考えれば単艦で手広く捜索なんてできないだろうから、ある程度まとまって行動するだろう。そうなれば捜索範囲はますます狭くなることは想像に難くない。
いずれは偶然見つかる可能性も有るが、能動的に探し出すのは難しいかもしれない。
「それに、みろよ」
そういって右手の男が指で周りを指し示す。
改めてみると、頭の上は空が広がっているが、周りは360度、壁の様な雲が島を囲んでいる。島はすり鉢のような雲のくぼみの底に浮いているのが分かった。
「この雲は一年通してほとんど消えないのさ」
成程ね。
ただでさえ広い空、そして遠くからは直接視認できない。これじゃそう簡単には見つからないか
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15分ほど歩いて、本島に入った。
フローレンスよりは雑然としているが、港湾地区の雰囲気はあまり変わらなかった。
係留された飛行船と、しゃがんで駐機姿勢を取った騎士。船員たちが荷物を運び、あちこちで大声が飛び交う。
「こっちだ」
頭目が騒々しい周囲の音に負けないような声で言って俺を促して、メインストリートっぽい大通りの方に歩いていった。
傾斜のある道を先導されるままについていく。道は簡易だが石で舗装されていた。周りの建物も武骨で飾り気はないが、しっかりした作りだ。
木の柱や石壁に染み付いた黒い色が建物の年季を感じさせる。
メインストリートはフローレンスの酒場街とかそんな感じに似ていた。
左右に並んだ店からはまだ太陽は高い時間だってのににぎやかな笑い声が聞こえていて、肉やパンを焼く匂い、酒の匂いが漂ってくる。
海賊の襲撃は基本的には夜だから、昼に飲むのかもな、などと思った。
通りには、昼間だってのに、すでに飲み過ぎて出来上がった海賊たちが歩き回っていた。呼び込みの声が聞こえて何とも活気がある……海賊の町が活気があるのは良くない気もするが。
道端で酒瓶片手に倒れて寝ている海賊がいたり、武器を提げているのが普通だったりと、フローレンスでは目を顰められそうな光景だが、この辺が海賊たちの町ってことだろうか。
「俺をここに連れてきてよかったのか?」
俺は明らかに海賊じゃない、というかむしろ海賊の敵側だと思うが。
「なら、お前はここまで船を先導して航風ができるのか?」
こともなげな、というか、どうせそんなことは出来ないだろと言わんばかりの返事が返ってきた。
ごもっともだ。ずっと部屋に閉じ込められていたし、ブリッジにいてもそれができるかは怪しい。
GPSなんて便利なものが無い世界、空の真ん中で方向を定めて飛ぶのも技術を要する専門家の仕事だろう。大航海時代とかだってそうだっただろうし。
そうこうしているうちに、船長が斜面の半ばほどにある、宿屋のような2階建ての建物の前で止まった。
ドアをノックして何事か言葉を交わすと、ドアが開く。船長が入っていって、俺もそれに続いた。
建物の中はホールのようになっていた。
壁が厚いのか、中に入ってドアを閉めると表の喧騒は遠ざかって静かな感じだ。
部屋には応接セットのような机と椅子が並んでいる。こう言っちゃなんだが、意外に整理されているな。宿屋というより、シュミット商会の一階のロビーのような雰囲気を感じる。
部屋の壁の一角には赤い幕が張られて、赤地に白い蛇の紋章が書かれていた。
部屋の中には何人かの男がいた。俺を見て、船長を見てうなづきあう。
「頭!お越しです」
一人が大声で呼びかけると、少しの間があって部屋の奥のドアが開いて、中から1人の女が出てきた。
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誰だコイツ、と思ったが。
メイロードラップであった時とはかなり違って一瞬誰かと分からなかったが……よく見るとシスティーナだった。
前と違って、とび色のウェーブした髪を布で纏めている。
騎士の防寒着を着ていないが、コルセットのようなタイトな皮鎧を着ている。皮鎧には赤と黒の糸で刺繍が施されていた。
短めな皮鎧にスリット入りのスカート。引きしまったウェストと細いが鍛え上げたって感じのしなやかな足がちらりと覘く。
腰には鎧と揃いの刺繍が入った皮のベルトと飾り紐を巻いていて、ベルトには宝石で飾られたサーベルが下げられていた。
前とは一転して凛々しい感じだが、これがこいつの本来の姿なんだろうな。
「やあ、ドミニク船長」
「システィーナ船長。久しぶりだな」
そういって二人が腰に差した剣を帯からほどいて、さやの半ばを持ったまま柄頭の部分を二三度振れ合わせた。
そのまま剣を腰に戻す。海賊流の握手みたいな感じなのかもしれない、と何と書く思った。
「いきさつは聞いていますよ。ディートレア。まったく嘆かわしい。私の敵ともあろう者が、不時着して動けなくなるとは」
システィーナがこちらを見てやれやれって口調で言う。
「まあ、こういうことだ。海賊狩りというより、今はお前はシスティーナの認めた乗り手として有名なんだよ」
そういえばようやく名前が聞けた、ドミニク船長とやらがにやりと笑いながら言う。
「お前を騎士戦で撃墜したならともかく、落ちたところを捕まえて嬲り者にした、なんてことがばれたら俺の命がない」
ドミニクが言うと、システィーナが意味ありげに、というかそれを肯定するかのように薄い笑みを浮かべた。
それを見たドミニクが肩をすくめる。
「まったく、怖い女どもだぜ。これで借りは返したぜ、システィーナ船長」
「ええ、分かっていますよ。感謝します」
そういってシスティーナが小さな袋をドミニクに放り投げた。
ドミニクがそれをキャッチすると、コインの触れ合うような音が聞こえた。袋を覗き込むとドミニクが満足げに笑う
「震電は港湾の倉庫に入れておいてやるよ」
ドミニクが言う。ようやく心配事が消えた。ありがとうと言うべきか悩む場面だな。
「じゃあな、ディートレア。俺はドミニク。海賊団フランチェスカのドミニク・ロードヴェルだ。俺の船を見ても見逃せよ」
俺が言うより早く。そういって、ドミニク達が出て行った。
今年の更新は多分これで最後だと思います。
ブクマをつけてくれた方、読んでくれている方、評価してくれた方、感想を書いてくれた方、皆様に感謝を。
引き続き登場キャラも募集しています。詳しくは活動報告をご覧ください。
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なろうにあるまじき超不定期更新ですが、頑張って書くつもりです。今後ともよろしくお願いします。
ちょっと早いですが、皆さまよいお年をお迎えください。 夏風ユキト




