包囲線突破。
連投すると言ったが、すまんありゃウソだった
……すみません(真顔
だが、今回は4連続投稿だぞ(すでに書きあがってて予約投稿済み
「バートラム!聞こえるか」
遠すぎるのか、それとも何らかの妨害を受けているのか、返事は帰ってこなかった。
空母のような飛行船群から10機近い騎士が飛び立ってくるのが見える。さっきの射手とやらか。
あいつらの騎士はこちらに集まってくるだろうが、俺たちに増援は期待できない。
時間をかければかけるほど不利になる。とにかく逃げたほうがいい。
「逃げるぞ!」
国の名前とかまでは俺には分からない。だが敵の所属が分かれば情報としては十分だろう。
通信が通じない以上、ここで捕まったらこの情報は意味がない。逃げ切るところまでが仕事だ。
ヴァナルカンドが慌てたように機首を巡らせる。
「そういえば……エストリンってなんだ?」
『フローレンスの隣国……魔導士領との接触を嫌っているから、我が国に侵攻する理由はない……なぜ奴らがここに』
「そうなのか?」
『……お前は何を言ってる?』
呆れたような口調で返事が返ってくる。
モノを知らなくて悪いが、フローレンスのことで手一杯な上に、シュミット商会は主にフローレンス域内で活動しているから、他国のことは全く分からない。
ただ、聞いたのがそもそも間抜けだった。
エストリンとやらが敵国か単なる隣国か、その辺は分からんが、今説明されても全く無意味だ。
あいつらは敵で、今やることは離脱することだ
「すまん、続きは後で聞かせてくれ、今は逃げる」
『そうだな!』
予想通りというべきか、何機かの騎士が集結するようにこっちに飛んできているのが見えた。
最初から罠で包囲されていた、というわけではないだろう。そんな暇なことをするくらいならさっさと押し包んでしまえばいいわけで。
恐らくあちこちに警戒部隊が配備されていてそれが集結してきたんだ。
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装甲とキャノピー越しに見える騎士の数がどんどん増えてきていた。目につく範囲内だけでかるく10機は居そうだ。
360度機動可能な空は二次元の地面ほど包囲されやすくはないとは言っても、数を頼みに包まれると逃げ切るのは難しい。
『切り抜けるぞ』
あくまでサラが強気に言う。
確かに包囲網を突き破りさえすれば震電とヴァナルカンドなら足の速さでなんとかにげきれそうではあるんだが。
2機がこっちに飛んできたが、他は俺たちの進路をふさぐように距離を空けて包囲網を敷くように飛んでいる。
いっそ全機で突撃してきてくれれば……危険はあるにせよ、すり抜けざまに何機か切り倒して逃げることも出来そうだが。
包囲の敷き方が上手い。相互の連携が出来ている。良い指揮官がいるんだろうか
いずれにせよ、多数相手に正面衝突するわけにはいかない、なんとか雲の隙間に入ってまくか、それとも急上昇で振り切ってしまうのがベスト。
包囲の輪を縮められてスピードを殺されたら完全に終わりだ。
今なら2、3機躱せば包囲の外に出れる。
「突っ切るぞ!」
『わかっている!』
射手が散発的に放ってきた光弾を避けてアクセルを踏もうとした瞬間、視界の端でヴァナルカンドの装甲に白い光が炸裂して、姿勢が乱れた。被弾した?
「大丈夫か?」
『問題ない。この私ともあろうものが』
一瞬肝が冷えたが、サラの声がコミュニケーターから返ってきた。ヴァナルカンドが旋回して体制を立て直す。
下から不意打ちで撃たれたようだが、致命的な被弾じゃなかったのは幸運だった。
この場であいつが動けなくなったら。あいつを見捨てるか、なんて選択をまた迫られることになる。それは御免だ。
息つく間もなく、雲海すれすれから3機の騎士が駆け上がってくるのが見えた。さっきの攻撃はあいつらか。
2機は射手とやらだが、その後ろから上がってくる一騎は違った。
射手より一回り大きい、ずんぐりした上半身と大きめのウイング。普通サイズの手足がちょっとコミカルだ。
自転車のヘルメットのように後ろに張り出すように伸びた頭部装甲は、胴と一体化しているかのように見える。
ロボアニメに出てくる球体の胴体を持つ機体っぽい。西洋の騎士、というか人間の鎧にちかいデザインのこの世界の騎士としてはかなり異質だ。
だが、それより問題なのは……左右の肩には鳥のくちばしを思わせる縦に重なった二枚の装甲版。
その先端、機体の両端には輝く光弾を従えていた。
あれは、忘れもしない……白の亡霊。
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一瞬で状況の不利が分かった。
亡霊シリーズはどれも厄介だったが火力的な意味ではこいつが一番やりにくかった。
『なんだ、あれは?』
「前に一度戦ったことがある。注意しろ。あのカノンは性能が桁外れだぞ」
同時に、左右に従えた球が一瞬光を放って、文字通りの弾幕のような光弾が飛んできた。
ヴァナルカンドが急旋回して光弾を躱す。
こっちにも白い光弾が雨のように飛んできた。左右の光弾からそれぞれに撃ってくる。しかも連射が止まらない。
「くそ!」
『なんだこいつは』
アクセルを踏み続けるが、真後ろに弾がかすめているのが分かる。
さっきの感じ、カノンの弾程ダメージは無いっぽいっが、急所に被弾したら終わりだ。
『ディートレア!』
コミュニケーターからサラの警告の声が聞こえる。
視界の端に射手が見えた。進路に割り込まれる。
考えるより体が先に反応した。ブレードを交錯させるように構えて、震電を下に向けアクセルを開ける。
視界が上に流れた。真下からGが体を押す。
至近距離を射手の黒い機影が通り過ぎて、同時に白い光がきらめく。
右の操縦桿を押すような手ごたえが伝わってきた。そのまま雲海を目指して急降下する。雲海が猛スピードで近づいてくる。
『気を付けろ!』
もう一度コミュニケーターからサラの声が聞こえた。とっさに震電を左右に切り返す。
同時にカノンの光弾が震電の横を貫いていった。雲海に着弾した光弾が、噴水のように雲を吹き上げる。
すり抜け様に一太刀浴びせたが、射手は落ちなかったわけか。手ごたえはあったが……装甲が厚いのか。
なんというかフローレンスの騎士はスマートだが、あいつらは質実剛健ってイメージだ。
白い雲海の間際でアクセルを抜いて同時に機首を上げる。その瞬間、目の前の雲海に光の弾が降り注いだ。
間欠泉のように雲が吹き上がる。
「クソ」
とっさに逆噴射をかけちまった。スピードが一機に落ちる。
白の亡霊が降下してきているのが見えた。
『ディートレア、援護する!』
その後ろからヴァナルカンドが降下してくる。そのさらに後ろには射手の複数の機影。
ただでさえ包囲されつつあるのに、白の亡霊と同格の騎士までいる。もはや2機で包囲網を破って一緒に生還なんて都合のいいことを考えてる場合じゃない
「逃げろ、サラ!」
『なんだと?』
「バラバラに逃げるんだ。その方が逃げやすい!」
さっきのチャージウイングの加速を考えると、単独で強引に逃げるなら俺の方がなんとかなる。
それに、こういっちゃなんだが少しは修羅場もくぐった。
サラは腕は立つようだが、経験面では不安だ。
ベテランドライバーみたいなことを言うのは俺のキャリアでは烏滸がましいが、なんというか血気盛んな新人ドライバーを見ているような危なっかしさがある。
「任務優先だろ?行け!」
『分かった、恩に着る、ディートレア』
わずかな間があって、迷いのない返事が返ってきた。
降下してきたヴァナルカンドが上昇に転じる。
何機かの射手がそれを追っていくが、大した数じゃない。白の亡霊は追う様子はなく、俺の頭を押さえるかのように上空を旋回している。
「大人気だな、おい」
白の亡霊も含めて、やたらとこっちのマークがきつい。こっちが目を引いていればサラは逃げやすくなるだろうが。
サラは何とか逃げ切れることを祈るとして、あとは俺がどう逃げるか。少し考えを巡らせるが難しいことじゃなかった。
射手の中に一機混じったこの白の亡霊は指揮官機とかだろう。
ケンカはまずは親玉に一撃入れてビビらせるのがセオリー。なら白の亡霊に一太刀入れて、そのまま逃げ切る。それがベストだ。
しかも乗り手がマヌケなのか、今はさほど距離がない。
距離を取っての撃ち合いじゃ震電は下手すりゃ近づくこともできないが、この距離なら一度の切り返しで初弾を躱せばどうにかなる。
白の亡霊は射撃戦ならともかく、距離さえ詰めてしまえば付け入るスキはある。
白の亡霊の姿を視界にとらえてアクセルを踏んだ。こいつは逃げながらでも撃てる性能がある。だが足の速さならこっちの方が上。追い抜きざまに一太刀。あとは逃げの一手だ。
アクセルをさらに踏みこもうとしたが。その時、白の亡霊がまったく予想に反した動きをした。
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逃げると思っていた白の亡霊が距離を詰めてきた。一気に彼我の距離が詰まる。
何を考えている、と思うより早く。ごつい籠手のような形の左右の手の甲からブレードが伸びた。
「ブレード?なんだと?」
もう今更コースは変えられない。
ブレードを振り抜くが。ブレードをブレードで受け止められた。エーテルの反発で震電が後ろに飛んで失速する。
同時に光弾がきらめいた。シールドは間に合わない。
「チャージウイング!」
トリガーを引くと同時に、視界が白い幕で覆われる。一瞬おくれて、雨のような光弾がチャージウイングにぶつかった。
「くそったれが!」
多少の攻撃は止めてくれる、というエルリックさんの言葉は嘘じゃないかった。
震電を取り巻くように展開された薄い防壁に白い被弾の波紋が走る。
アクセルを踏む。エーテルの反応で後ろにはじくベクトルを押し返すように震電が加速して白の亡霊とどうにか距離を取った。
まさかのブレードを装備は予想外だった。しかもそれとほぼ同時に光弾も撃ってきた。
見た目とかそういう問題じゃなく、白の亡霊とは明らかに違う騎士だ。なんだ、あれは。
一度少し間を置いてもう一度キャノピー越しの大柄な姿を見る。そして、天啓のように唐突に閃いた。
あいつは……多分複座だ。あの不格好な頭部。なんであんな大きいのか分からなかったが、二人で乗っているのなら説明がつく。
乗り手一人で操縦と二個の光弾を操作することは難しかっただろうが、一人が通常の操縦と近接戦、もう一人が銃主になればあの騎士は本来の力を発揮できる。
戦闘機とかでも複座式のはあるらしいから正常進化といえばそうだ。だが。
俺はそれがわかるが、この世界では相当に飛躍した思考だ。
この世界の騎士の乗り手も作り手も、人型、単独騎乗という騎士の根本的な形に疑問を抱く奴はいなかった。それがこの世界の不動の常識なんだ。
あの新技術大好きのエルリックさんでさえも、そこを変えようとする発想はなかった。
一体誰だ、あれを作ったのは。
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白の亡霊と戦っているうちに、気づくと完全に周囲を固められていた。
震電を中心にして20機近い騎士が球を描くように飛んでいる。その向こうにも何機か居そうだ。
改めてみると、さっきに比べれば包囲網の騎士は減っている。一部はサラを追ったんだろう。うまく逃げきれていればいいんだが。
≪逃がしはしないが……我々にも慈悲はある。降伏は認めよう≫
がりがりと音がして、割り込むようにコミュニケーターに音声が入り込んできた。通信介入というか電波ジャックもできるのか。
≪震電とディートレア・ヨシュア。お前のことは聞いている≫
隣国まで名前が知れているのは名誉と言うかなんというか。
海賊の間で悪名がとどろいているのは分かっているが、随分俺も顔が広くなったもんだ。
≪女だてらによく戦ったがこれまでだ。降伏せよ。我が名はエストリン公国、龍種一等武官。アナトリー・アリスタリフ。
わが宝玉の騎士はすべての面で震電を上回っている。抵抗は死あるのみだ≫
海賊に降伏するよりはマシそうだが、侵略してきた相手に紳士的な扱いを期待するのは流石に能天気が過ぎるだろう。
それにフェルには戻ると約束したし、アル坊やを一人にはできない。できれば逃げ切りたい。
どうしようもなくて撃墜されるよりは降伏の方がましだが、最後にもう一つやってからだな。
「そのつもりはない!降伏するくらいならせめて一太刀浴びせてやるぜ」
震電を飛行船群の側に方向転換させた。そのままアクセルを踏み込む。スピードが落ちていた震電が加速する。
≪愚か者め!止めろ!撃墜しても構わん!≫
コミュニケーターからアナトリーとやらの声が響く。読み通り、視界の中で射手が包囲を解いて此方に距離を詰めてくるのが見えた。
ここまではおおむね狙い通り。だがこの先は出たとこ勝負。後ろも崩れたことに賭ける。
左足を目いっぱい上げてアクセルを抜く。ハーフスロットル。スピードを殺しすぎたらこの手は使えない。
震電がわずかに失速しながら宙返りした。天地逆さまになったキャノピー越しに飛ぶように流れる景色。その退路を見た。
まだ騎士がいるが球状の方位の編成は崩れて、全機こっちに向かってきている。
左足を捻ると震電がスクリューのように反転してに戻る。狙い通りスピードは維持できた。あとはワンチャンス!
≪何を!≫
「行くぜ!」
アクセルを床まで踏み込んでチャージウイングのトリガーを引く。
震電が蹴飛ばされるように加速して、わずかな間の後、視界がウイングに覆われて白くなる。同時にもう一段震電が加速した。シートに体が押し付けられる。
こっちの飛ぶ速度、向かってくる向こうの速度、両方が合わさって、こっちに向かってくる騎士が、一瞬で間近に迫った。
左足を捻る。操作に応じて右にズレるように震電が飛んだ。射手のすぐそばをすり抜ける。視界を覆うわずかな白いウイングも目障りだが。これを消すわけにはいかない。
このスピードになると旋回はほぼできない。相手と避ける方向が重なれば死ぬ。
風鳴りと装甲の軋み音が耳を打つ。右足のアクセルと左足の姿勢制御ペダルががたつく。左右の腕のペダルが重い。
息つく間もなくもう一機。今度は左。幸運にもラインが被らなかった
だが、よけたライン上にもう一機。
「クソが!」
相手も意図してふさいだわけじゃないだろう。アクセルを抜いて、目いっぱい左足を捻る。
レースの時さえ感じたことがない、体を左右から絞られるようなGを感じる。
同時に白い光が瞬いて殴られるような衝撃が来た。フェンスにぶつかった時のような衝撃。
制御を失うかと思ったが、スピードに乗っていたのが幸いしたのか。震電は直進を辞めなかった。流石わが愛機。
接触したが、チャージウイングがおそらく致命傷を防いだんだろう。白いウイングが消える間際のように薄くなっている。
その向こうには広い空と雲海が見えた。敵影なし。
「あばよ!」
≪待て!全員追げ・き・…せ……≫
あとはまっすぐいけばいい。もう一度アクセルを床まで踏む。
開けたところでの単純なスピード勝負なら震電に勝てる騎士は、おそらく風精かスカーレットくらいだ。
震電が加速して、小さめの雲の塊が次々と後ろにすっ飛んでいく。コミュニケーターの言葉は途中から聞き取れなくなった。
どのくらい飛んだか分からないが……シールドの装填状態を示すコクピット内のコアが赤くなって、チャージウイングの白い光が消える。周りは見渡す限りの大空。敵影はない
どうにか逃げ切ったか。
宝玉の騎士
工房・エストリン公国国立騎士工房及び黒歯車結社
白の亡霊をベースとして建造された騎士。白の亡霊より一回り大きく、装甲も厚め。
重装甲による多少の被弾をものともしない継戦能力はエストリン公国の騎士の設計の基礎であり、射手もフレイヤやレナスと比較して重装甲で、かわりに機動力では劣る。
エストリン公国貴族、アリスタリフ家の当主、竜種一等武官アナトリーの乗騎として提供されたもの。
最大の特徴は複座であることで、このため大きめの上半身と特徴的な後ろに張り出すような頭部を備えている。
操縦と飛行、近接戦を操縦手が行い、左右の光弾による射撃は後部座席の銃主が行う。
操縦と射撃を切り離したことにより、左右の光弾による全方位射撃が本来の性能を発揮できることになっている。
また、近接戦にはブレードで対応できるうえに、ブレードと弾幕の両方での攻撃が可能なため、懐に飛び込めば切り崩せる騎士ではなくなった。
継戦能力と白の亡霊の敗北の反省、現時点の銃主の練度等を考慮し、攻撃は威力より弾幕の形成と射撃の持続力を重視した連射タイプのみとなっている。
ただし、セッティングの変更により、ショットガンモードや波動砲、単発高火力の光弾などに切り替えも可能。
この世界の騎士は人型、単独騎乗が常識として定着していること、騎士の乗り手が銃主の訓練をうけることはなく、また誰もが騎士を操縦したい、と望むこともあり、複座タイプというのは歴史上存在していない。
装備以上に機体コンセプトが極めて異質な騎士。




