戦端
遅くなりました。すまない、すまない。
引き続き、キャラクター募集中です。詳しくは活報をご覧ください。
その日の食事は軽めになった。翌日の出発は早いらしい。
まあ早い遅いはおいておいても、出撃の前日に酒盛りして翌日に支障をきたすなんて真似はさすがに許されない。これはレースでも騎士の乗り手でも同じだ。
気分的には見たことがない街を見て歩きたかったが、それは帰りのお楽しみ、となればいい。
次の日の朝は確かに早かった。
目覚まし時計なんてものはないから騎士団の詰め所の団員が起こしに来てくれた。窓の外はまだ暗い。
身支度を整えて外に出ると、ランタンを持った団員が先導して騎士団用の埠頭まで案内してくれた。
開けた埠頭には飛行船か三隻停泊していて騎士もすでに搭載されている。
見慣れた夜の空。黒々とした雲の海はそこだけ見ていると地球の海にも似ている。
そして、水平線の向こうに白い太陽が昇りつつあるのが見えた。まさに夜明け前だな。
すでにバートラムはなんだかんだできちっとした顔をしているが、サラや他の乗り手たちはまだ眠そうだ。
夜に通して起きているのはもう慣れっこだが、朝叩きこされるのは中々しんどい。
「おはよう、諸君」
バートラムが昨日と同じ、しっかりした声であいさつする。
3席の飛行船には真電を含めた4機が係留されていて、残りの4機は暗い埠頭にしゃがみこんだ駐機姿勢で置かれていた
「俺とサラは1番船、ディートレアは2番船、アレックスは3番船に乗船して待機。
エドガー、カーライル、ゴードン、バーノンはレナスに乗って哨戒に当たれ」
バートラムの指示に皆が答えて、それぞれ騎士や飛行船に駆け足で向かっていく。
俺も震電が搭載されている飛行船に向かった。
さて、出港だ。
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準備万端だったようで、全員が乗り込んだらすぐに船が出た。
今回は、飛行船は騎士二体を収容できる大型3隻に絞り、4機はその飛行船に係留。騎士4機が偵察飛行するってことらしい。
飛行船は足が遅い。何がいるのか見当もつかないが、万が一戦闘になったら足手まといだ。かといって、浮き砲台まで結構距離があることを考えると騎士で飛び続けるわけにもいかない。
ある程度浮き砲台に近づいたら、飛行船は待機して騎士で出撃ってことになるんだろう。
国境線の浮き砲台の話は俺も少し聞いたことがある。
この世界は、正確な地図もないし、領域を分けるような山も川も地面もない。空が広がっていて島が点在するこの世界の国境線はかなりあいまいだ。
それに厳密に線を引いたとしてもレーダーで領空侵犯が感知できるような世界でもない。
まあ、フェルによれば魔法使いとの戦いが終わったあとは、大規模な戦争は起きていないらしいんだが。
ただ、建前とはいえ防衛線は必要、というわけで。浮島が密集している場所……変な表現だが小惑星帯のようなものを国境線の防衛ラインにしているということらしい。
大きめの浮島を掘りぬいて砲台と簡単な居住スペースを作っていて、砲台は概ね20から30ほど。それぞれに3人が配備されていて、新入りの騎士団員はまずそこで砲兵として経験を積むのだそうだ。
一応、ごく少数の騎士も配備されているらしいが。
この防衛ラインを越えたら即別の国の領空、というわけではなく。
似たようなものは向こうにもあって、防衛ライン同士の間は緩衝地帯のようなものになっているそうだ。
万が一襲撃を受けたら、搭載されたコミュニケーターで知らせるということになっているらしいが……正直言って、騎士での襲撃を受けたら浮き砲台なんてひとたまりもないだろう。こんなんでまともに防衛ラインが機能するとも思えない。
ただ、それでも今まで不都合がなかったってことは、つまり平和だったということで、だからこそ今回の騒動が予想外ってことなんだろうな。
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今回の出撃は普段とはいろいろと違うことがある。
8機編成だから、というのもあるが、夜だけの見張りじゃないってことが大きな違いだ。
浮き砲台までは飛行船の速度で約1日と少し。海賊は夜襲ってくるのがセオリーだが、今回は海賊相手とは限らないから、普段の常識は通用しない。
時間的には昼前に目的地に着くように時間調整をしている。
今回の任務は偵察と状況把握だ。何が起きているにせよ、太陽の光がある時間帯に行ける方が状況の把握もしやすい。
今は俺は休憩中だ、といっても何かあれば飛び出せるように防寒具を着ているが。
まあこの辺はいつもとあまりかわらない。飛行船の最下層に準備された騎士の待機室は普段のシュミットの飛行船より広くて、備えられている家具も豪華だ。
出撃の時の補助のために二人の船員が待機してくれているのも変わらない。
騎士に乗り続けられるのは概ね3時間ほどだ。すでに2回俺も哨戒に回っている。
2時間弱ほどを哨戒飛行しその後は戻って休む、というのをローテーションを組んで繰り返している
一応休みの時に仮眠は済ませているが。今回は昼夜逆転じゃないだけ楽だ。
待機室のドアを開けて桟橋に出た。
足元の隙間から風が吹きあがってくる。少し向こうには震電が立ち姿勢のままで係留されていた。
そろそろ夕方だ。道のりは半分までもう少しってところだろうか。
青い空とどこまでも続く白い雲の海。少し沈み始めた太陽がわずかに赤い光を雲海に刺している。
ダークブルーの夜空と白い月、月光を反射する銀色に輝く雲海と大きな城を思わせる雲の塊。夜の空もなかなかいいもんなんだが、昼の空もなかなかいい。
周りにはごくまれに飛行船の影が見えるが、貨物船か漁船ばかりだ。この辺は貿易ルートでもないし、貨物を運ぶような島があるわけでもない。
メイロードラップの時も昼に飛んだが、あの時は景色を楽しむどころじゃなかったが。今はなんとなく遊覧飛行気分だ。
部屋に戻って、壁にかけられた時計を眺める。そろそろ交代か、と思ったとたん。
船が突然ぐらりと大きく傾いた。
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慌てて壁に手をつく。テーブルの上の木のカップがひっくり返った。
風にあおられたって感じじゃない。舵を大きく切ったんだ。
「なんだ?」
船員が立ち上がったその時。
ズンと大きな音がして飛行船が縦に揺れた。
「うわっ?」
俺と、船室に詰めていてくれた二人の船員がよろめいて、周りを見渡す。
同時にもう一度船が揺れて、エレベーターががくんと下がるように床が大きく沈んだ。
『気嚢に被弾!』
間髪いれず、伝声管からくぐもった声が響く。もう一度待機室のドアを開けると、吹き抜けの係留台から風が吹き込んできた。
飛行船の床がわずかに傾いていて、壁にかけられたワイヤーや防寒着が斜めになっている。ちいさなネジが転がって行って隙間から落ちていった。
『航行に支障なし!騎士は出撃を!』
声と同時に、入り組んだワイヤーと騎士の係留用のクレーンの向こうの空。そこを目視できるほどの距離で一機の灰色の騎士が駆け抜けていった。
それを追うように騎士団のレナスが飛んでいく。風が吹き付けて髪が逆立った。
飛行船から目視可能な距離ってのは、この世界の空戦の感覚からすると超至近距離だ……いつのまにこんな接近されたんだ。
騎士団の精鋭の哨戒と3隻の飛行船の見張りをかいくぐって飛行船に直接攻撃を仕掛けられる距離まで近づけるなんてあり得るのか?
「ディートさん!」
船員の声で我に返った。船員が震電を指さす。
「急いで!」
そうだ、此処で固まっていても意味はない。
傾ぐ床を蹴って、吊り下げられた震電のコクピットに飛び降りように乗り込んだ。
「忘れものです!」
声がして上からコミュニケ―タ―つきの頭巾が降ってくる。かぶって顎の下で紐を結んで、防寒着の襟を絞った。固定ベルトを壁の留め金にかける。
「すまない」
だが真新しいシートに座っていつも通りにベルトを調整したところで気づいた。
俺は出撃すればとりあえず助かる。だが、この船はどうなる?
「ご無事で!」
声をかけようと見上げたが……上からのぞき込んでくる30歳くらいの船員にはこんな状況ででも、動揺の色はなかった。若い、20歳くらいの船員はこわばった表情をかろうじて隠している。
飛行船が時々大きく揺らいで、かすかに何かが燃える焦げ臭いにおいが鼻を衝いた。
……今は自分の仕事をするしかない。
「……必ず守ってやる、安心しろ!」
船員がわずかに微笑んでキャノピーを占めた。キャノピーを覆う格子状の装甲板が閉じて、コクピットに影が落ちる。
ほぼ同時にワイヤーがほどけて震電が降下し始めた。
アクセルを踏んで一気に震電を上昇させる。
久しぶりのシートが背中を押す推進の感覚。左足をひねって機体を左右振る。
心なしか挙動が軽くなっているような、レスポンスが速くなっているような気がした。出力が上がったのか、軽量化の影響か。
グリップを改めて握ってチャージウイングの稼働トリガーを確認する。
チャージウイングがどんなものか……またもやぶっつけ本番の実践投入だが……あまりよくないことではあるが、いい加減いつものことだ。
それに、訓練で使っても結局のところ、本当の性能は実戦でないと分からない。
それにチャージウイングを使わなくても、両手のブレード転換型のシールドの装備は変わらない。
何とかしてやる。
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上空から見下ろす。すでに戦闘が始まっていた。
飛行船は気嚢から煙を吹いているが、大型船だけあって、傾いてはいるが墜落の気配は今のところない。ちょっと安心だ。
ざっと見ただけで、レナスが二機が既に戦線離脱していた。ウイングに損傷を受けたらしい飛行船から離れたところでかろうじて浮いているって感じだな。
敵もとどめを刺しに行くほど暇じゃないらしい。
『捉えられない!こいつら一体何なの!?』
サラの焦った声がコミュニケーターから聞こえてくる。
赤く染まり始めた空に、レナスやフレイアの銀色のとは違う、灰色の機体が何機か見えた。飛び回っているから分かりにくいが……敵は4機ほどだろうか。
「バートラム!何してんだ!」
[いいから援護してくれ!船から遠ざけるんだ]
バートラムのフレイアが一機を追い回して飛行船から遠ざけようとしている。カノンの光弾が飛び交っていた。弾のいくつかが気嚢に当たって煙が吹き上がる。
相手はこっちの飛行船に当ててもOKだが、こっちは当てるわけにはいかない。戦況は不利。
「ああ、まかせろ!」
文句を言ってる場合じゃないな
4機とも見たことがない機体だが、前と違って寄せ集めじゃない、同じ型の騎士だ。
雲に溶け込むような薄い灰色の装甲と、少し大きめの盾のような肩装甲が特徴的だ。装備は右手には短めのカノンらしきもの、左手は多分シールドだろう。
距離を詰めて切り倒す……いつも通りだ。一機に狙いを定める。
「行くぜ!」
震電を真下に向けて急降下させた。アクセルを踏み込むと、シートに体が押し付けられる。キャノピー越しに迫る敵に向けて方向を調整した。
改良版震電は明らかに前より速い。俺の感覚も修正しないとな
わずかに敵の挙動が乱れた。おそらくこっちに気付いたか。だかもう遅い。
「ブレード!」
追い抜きざまに切り裂く。ブレードを構えたが、その瞬間。
機体が空と雲に溶け込むように消えた。
「……ステルス!」
クソ。やはりあいつらが噛んでいるのか。
騎士・ヴァナルカンド
建造・騎士団工房
騎士団の重鎮のフェンリル家の娘、サラ・フェンリルの専用機。
もともとはフレイアをベースにした高機動タイプの試作機で1機だけ建造された。それをフェンリル家が接収して娘の武者修行用に改装したもの。改装時に装甲を張り替えて女性的なフォルムにされている。
ヴァナルカンドはフェンリル家の命名で、騎士団工房では無銘だった。
武装は左手にエーテルシールド、右手にカノンのオーソドックスな構成。
ただし、カノンは特殊なもので、銃口にエーテルを収斂させて銃剣のようなものを形成し近距離戦にも対応できるようになっている。
ただし、接近戦でカノンの銃身を破損するとカノンが打てなくなるという欠点もある。カノンの銃身に補強は施されているが、根本的な構造として殴り合いには向いていない。
よって、機動力を生かしたカノンで中距離での射撃戦を主軸とし、隙を見て近距離に切り込み銃剣を使って戦うという、中距離戦よりの強襲型機に仕上げられている。
震電やスカーレット、風精ほどの絶対的な機動力はないが、扱いやすさと機動力を高次元で融合させることを主眼にしている。
震電やスカーレットは極端な高機動を乗り手の腕で振り回すピーキーなタイプに対して、取り回しの良さを重視した高性能機。
製造コストが高いことや、機体本体の消耗エーテルが大きくエンジェルウイング等の装備が維持できない等の理由で量産にはいたらなかった。
・武装についての設定
この世界の装備は、震電が装備しているようなシールドとブレード、ショットガン、カノン等を切り替えられるようなものと、エーテルブレードやカノンのように単機能のものが存在している。
当然ではあるが、単機能の装備の方が威力は高い。
一方でファ〇ネルのような攻撃補助の装備がなく、片手にひとつづつ装備を持つという制約があるため、ブレード転換型シールドのような攻守兼用の装備は需要が高い。
エーテルは空気中のエーテルと反応して拡散する。このため、カノンの光弾は射出後は拡散し威力や有効射程が下がって行く。
カノンは銃身が長くなればなるほど、銃身内でエーテルを収斂して高威力の光弾を遠距離まで飛ばせる。
カノン転換型シールドは、シールドとカノンの両方の機能を持つが、銃身がそもそも存在しないため、有効射程は一般的なカノンと比べると短い。
ブレード転換型シールドやショットガンは射程を捨てて近距離でエーテルを収斂させて攻撃を行うため、この弊害は少ない。
遠距離戦主体の時代が長くブレードやショットガンのような近距離用の装備自体がマイナーになっていたが、戦術の転換に伴い再研究が進んでいる。




