国境線で待ちうけるもの
長くなったので分けます。近日中にもう一話アップします。
数日後、回収を終えてチャージウイングを装備した震電二号機が仕上がった。
騎士団の指示通りに、騎士団のハンガーにいったん搬入された。
新型機を見る時にはいつでも心が躍る、と言いたいところだが。
レーサーでのキャリアを考えても愛機と言えるのは震電だけだから、心躍る体験はこれが初めてだったりする。
意外と姿は変わっていないが、ウイングが少し大きくなっていた。チャージウイングの展開用だろうか。
装甲が全般的にスリムになって引き締まった感じだな。軽量化されていれば機動力の向上に有効なのは騎士もレースカーも変わらない。
風精のあのけた外れの機動力も軽さの恩恵は大きいはずだ。
ハンガーには、今回の任務用と思しき騎士団の騎士が並んでいるが、一機、見慣れない騎士がいた。
どことなくフレイヤやレナスとかの騎士団の騎士に似ているがちょっと違う。
フォルムが女性的というか細身で、頭部や肩に銀で装飾が施されていた。同じメーカーのプレミアム仕様の兄弟車って感じだな。
左手にはエーテルシールド、右手にはカノンが装備されているスタンダードな射撃戦機って感じだが。
カノンは銃身が長くて銃口が独特の形状をしている。なにか特殊な仕様があるのかもしれない。
「おい」
その騎士を眺めていると、声をかけてきたのは、赤毛の女だった。
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「お前がディートレア……そうだな?」
青い、冷たさを感じさせる目が俺を見ていた。火のように赤い長い髪を首の後ろで縛っている。長い赤い髪が白い服に映えていて華やかな感じだ。
クールな顔立ちと赤い情熱的な髪がちょっとアンバランスだが、なかなかりりしい美人だ……などと考えたらフェルに怒られるか。
クリス嬢の19歳と同じくらいだろうか。
気分的には、俺から見ると少し年下って感じだ。背は俺と同じくらいで、立ち姿勢がいい。いかにも訓練を受けた騎士の乗り手って感じだ
ただ、騎士団は全員同じ制服を着ていて、それぞれの服のラインが大体の階級を示しているが。こいつは明らかに違う。
衣装は自由騎士がよく着る動きやすい服装だ。ただ、白地のところどころに入っている装飾が結構手が込んでいる。結構高いだろうな。
自由騎士自体は珍しくも何ともないが……騎士団のハンガーにはいないだろう。
誰だろうか。記憶を探ってみたが……覚えはなかった。
「ああ、そうだが」
「やはりそうか。魔女の名を冠するお前の腕前、とくと見せてもらうぞ」
「……つーか、あんた誰だよ?」
「サラ・フェンリル、自由騎士だ」
ドヤ顔で名乗られたが、やはり俺は知らない名前だった。有名な自由騎士なんだろうか。
……今更なんだが、あまりにも物を知らな過ぎるのはさすがに問題あるな。
向こうはこっちのことを知っていて、俺は相手のことは知らず。そして、相手が結構有名人らしい、というこのシチュエーションはなんというか、話がつなぎにくい
俺の反応を見て、サラとやらがちょっと不機嫌そうな顔をする。
「やあやあ、お嬢さん方、おそろいで」
気まずい沈黙を破ってくれたのはバートラムだった。
これは助かった。
「お二方、今回の指揮官は俺なんでね。指揮には従ってくださいよ」
沈黙に気付いていたのかどうか分からないが。普段のカルい口調でバートラムが言う
「ああ、わかってるぜ」
「無論だ。指揮官殿。では、ディートレア、また会おう」
そういうと、サラがバートラムに敬礼する。そして俺を一瞥して騎士の方に歩き去っていった。
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「……で、なんなんだ、あれは」
「ああ、そうか、ディートちゃんは会うのは初めてか」
バートラムが相変わらずのちょっと軽い口調で言う、
本音というか本当の姿がばれてるんだから、このチャラい演技は止めればいいと思うんだが。
「メイロード家に連なるフェンリル家のお嬢様だ。
騎士の乗り手の家の長女で、いずれは騎士団に入る予定だがね。今は武者修行中なのさ」
「なんで、そのお嬢様がここに?」
「お前さんが今回の任務に参加するって話をどこかから聞いたらしくてね
親を経由してねじ込んできたってわけさ。ディートちゃんと一緒に戦いたかったらしいぜ」
レーサー時代は無名だった俺としては、名前が売れるのは喜ばしいというか面はゆいものはある。
こういう風に知らないうちにライバル視をされるのは面倒ではあるが、まあこれも有名税というものかもしれない。しかたないか
「しかし……よくパーシヴァル公が許したな」
「まあ……あのお方も我が儘娘を抱える貴族には逆らえないってことだね」
バートラムがちょっと顔をしかめていう。
それは難儀な話だ。勿論地位は高いんだろうが、やはり中間管理職の悲哀を感じるな。他人事だが。
「強いのか?」
「腕は立つ、それは確かだ。でないと連れて行かないさ」
まあ確かに。
この辺は命がけの任務だからシビアに判断するだろう。
気に入らない、といいつつ俺を編成に入れたのもそういうことなわけだしな。
現場指揮官が絶対にNOといえば、さすがに貴族だろうがトリスタン公も止めるだろうし。
「あの騎士は?」
「あれはレナスをベースにした試験的に作られた改良機だよ。確か、ヴァナルカンドって名前だったはずだ」
騎士団の試験機か。
それを持って行って自分の騎士にしてしまってるあたりは騎士団への影響力の大きさを感じさせる。
「しかし……全く、アンタもあのお嬢さんも。
騎士団に入れるってのにそうしないなんて俺には理解できんよ」
真面目な顔になったバートラムが首を振る……本音が出てるな。
「まあ仲良くやってくれ、ディートちゃん」
「ああ、わかってるさ」
バートラムがそれを聞くと、うなづいて歩み去っていった
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その日のうちに騎士を飛行船に係留して出発になった。
目的のセスト島への道中は拍子抜けするほどに特に何事もなかった。
ただ、そもそも島までの航路はフローレンスの内部に近い領空だから比較的安全だというのもあるが。
騎士団の紋章付きの飛行船団に喧嘩を売りつけるバカはさすがにいないか。
セスト島に到着したのは夕方だった。
普段の貨物輸送任務は夜通し出撃に備えるから目的地についてもあんまり観光なんてできない、というか疲れ果てて寝ていることが多いんだが。
今日はさほど疲れていない上に、下船許可が出て騎士団の詰め所で食事して一泊することになった。
騎士の乗り手である俺たちはのんびり上陸して食事なんてできるが、船員たちは出撃に備えてまだ働いている。
なんとなく気まずいが、こんな事ができるのも騎士団に同行した役得かもな。
話によれば、ここはフローレンスでは一番国境線に近い島と言っても過言じゃないが。
農業中心というだけあって、どことなくのどかな雰囲気が漂っている。本島の農業地区に食事に行ったときを思い出す感じだ。
建物の高さも低くて、市街の道も広々としていてゆとりがあるつくりだな。
来たばかりだから分からないが、通りがかる人々の顔には特にも張りつめたような空気はなかった。
一方で、外周の浮島への連絡が途絶していて、そのために俺たちが来ていることは勿論詰め所の皆は知っている。
詰め所の雰囲気は前線の緊張した雰囲気に包まれていた。
こういう時は部外者はどうも肩身が狭い。
与えられた部屋で少し体を休めていたら呼び出しがかかって、詰め所にあつらえられた部屋で食事になった。
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「一応言っておくが、今回の任務で最も重要なのは」
騎士団の詰所の会議室のような殺風景な部屋でバートラムが口を開いた。
長テーブルには立派な料理が大皿に盛られて並んでいて、香草の香ばしいにおいを放っている。
テーブルに並べられた食事は珍しいことに魚が中心だ。こっちにくるときにも、雲海に網を入れて魚を取っているのが見えた。
この辺は、この世界の漁場なのかもしれないが……地球の海や空を知っている俺からするとなかなかにシュールな光景だったな。
「……この事態の正体を探ることだ。何がいるのかわからんが」
何がいるのかわからない。
バートラムはそう言っているが。俺にしても、騎士団員にしても、まるで見当もつかない、ということはない。
メイロードラップの時、ホルストたちがあの規模でアクーラを狙ってきたのは、当たり前だが暇つぶしのはずはないし、偶然の遭遇戦でもない。
あの装備を考えても十分に準備を整えてきたことは確実だ。
それにこの間も、マリクとフローレンスで会っている。あいつらがなんらかの形でかかわっている、と考えるのが妥当だろう。
ただ、これについては一方でわからないところもある。
ホルストは周りの話を聞く限り、間違いなく海賊だ。
実際にあいつが揃えた騎士も数はいたが、装備には統一性はなかった。練度もまちまちで寄せ集め感があった。
もともと自前の兵力を持たずに裏に回るタイプらしいから、この間襲ってきたのがあいつが組織した海賊連合軍というなら辻褄は会う。
ただ、海賊が騎士団に正面から喧嘩を売りつける目的は見当もつかない。
それに、あの亡霊シリーズは海賊に用意できる騎士じゃない。これは騎士団の連中とも意見が一致した。
マイナーなプライベーターがワークスを超えるようなマシンを用意することが……絶対にないとは言えない。天才的なエンジニアがいれば稀にだがそういうことはある。
俺がむしろ気になるのは、灰の亡霊を再建造できたことだ。
一機の特殊な騎士をワンオフで組む、というなら海賊でも可能かもしれない。
だが、短期間に特殊な騎士を組みなおす、となると継続的な生産能力があるってことになる。そのためにはそれなりの施設とか資金とかが必要だ。
つまり、あいつらはそもそも海賊ではない、何らかの国レベルの組織と結びついているという可能性はある。
ただ、それはそれとして、もう一つ謎が生じる。
どこかの国レベルが後ろについた、としても。あえて海賊と組む意味があるんだろうか。普通に正規軍を使えばいいだろう。
いろいろと考えてしまうが、情報が足りな過ぎるな。推理の材料が少ないのに考えていても結論は出ないか。
結局この辺は行って敵の姿を見てみないとわからないだろうな。
「浮き砲台が狼煙を上げる間もなく沈黙し、その後の補給も偵察も戻ってきていないのは由々しき事態だ。
普通なら考えられない」
その間にもバートラムの話は続いていた。バートラムの言葉に全員がうなづく。慌てて俺も意識をそっちに戻した。
口調は真剣だ。当たり前だが、こういう時は真面目モードというか、本音モードなわけだな。
「指揮は俺が出すが、起きたことの正体を突き止めることと同じくらいに情報をもって戻ることを重視する。必要なら単騎での撤退も厭うな。
此処にいる全員に、その遂行のための覚悟を求める。仲間を見捨てて逃げることも、撤退のための捨て石になることも含めてな」
全員が緊張した面持ちでうなづく
部外者である俺とサラの方を意味ありげに見るが。
「無論だ、指揮官殿」
「その位は分かってるぜ」
サラがきっぱりと返事をした。この辺は何だかんだで騎士団の関係者って感じだな。
俺も部外者ではあるが……仕事を受けた以上プロとしての仕事はする。バートラムがうなづいて、グラスを取って立ち上がった。
「では、風の乗り手たちよ……皆に炎の武勲があらんことを」
そう言ってグラスを掲げる。全員がそれに倣ってグラスの中のワインをあおった。
中央の大皿から魚の香草焼きを一切れ取って口に入れる。ちょっとほろ苦い香草の味が、鱈を思い出させる淡白な身によく染みていて、美味かった。
……またここで祝杯を上げたい。誰一人欠けることなく。
サラ・フェンリルは、前回後書きに書いた、新しい騎士の乗り手のアイディア募集に応じてくれた、楽しんでますさんのキャラクターが原案になっています。ありがとうございます。
引き続き募集中なので、興味がある方はメッセージでアイディアをお寄せください。
募集内容については活報をご覧ください。




