新たな機体、新たな戦場。
「で、どうするんじゃ」
「チャージウイングでお願いします」
2日後にレストレイア工房を訪ねてガルニデ親方に正式にお願いした。
色々と悩んだが、結局のところ、チャージウイング装備の近接特化タイプにすることになった。
理由はいくつかあるんだが、最大の理由は、いまさら汎用機を作っても仕方ないと思ったからだ。
現時点で俺が切り込んで、ローディやグレッグが援護してくれる、というスタイルが確立しているわけだしな。
勿論、射撃戦の稽古に励むって手もなくはないし、それはそれで無意味じゃない。だが、それは下手をすれば俺の長所を潰すことになりかねない。
1年くらい訓練に励めるならいいんだが、そんな余裕はさすがにないだろうし。なんだかんだでこっちに来て震電の乗り続けた経験値を伸ばす方がいいと判断した。
ただ、アル坊やが許可してくれるかがひとつ懸念事項ではあった。
当初の震電を極端なセッティングの機体にしたのは、海賊の騎士を不慣れな近接戦で倒して捕獲するため、という目的があったが。今はそれはもうない。
海賊の側が近接戦に対応しつつあるし、それに海賊の騎士を捕獲しなければいけないような経済状況は抜け出した。
となれば汎用性の高い機体の方がシュミット商会としても有益だと思う。
ということで恐る恐る聞いてみたんだが。
「ディートさんの好きにしてくれていいですよ。お任せします」
夕方の店主室で書類の整理をしていたアル坊やからは、なんともあっさりとした返事が返ってきた。
「いいのか?」
「ええ。ディートさんの乗る騎士ですから。
僕は騎士の乗り手じゃありませんから、僕が何か言うよりディートさんが決める方がいいと思います」
後ろに控えていたウォルター爺さんも口を出す気配はなかった。
経営者というかオーナーなんてものは現場に介入したがるもので、口を出さない経営陣なんて地球でもそうはいないってのに。まったく人格者だと思う。
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ともあれ、近接戦を主軸に考えるなら、切り込みをしやすい方がいい。
カノンのような射程の長い武器に対してブレードやショットガンで対抗するためには、如何にこっちの射程に入るかが全てだ。
ガトリングカノンや白の亡霊のような速射タイプの特殊なカノンを持っている騎士が現れた以上、距離の潰しやすさを優先したい。
「フェニックスウイングの方がいいんじゃないかな?」
今日もレストレイア工房に来ていたエルリックさんが聞いてくる。
心なしか残念そうだ。
詳しく聞くと、フェニックスウイングも魅力的な装備ではある。
展開した羽をブレード状にして敵を切るというフェニックスウイング。
高機動で距離を詰めて、交錯の瞬間の一撃に賭ける強襲型にとっては攻撃範囲は魅力だ。
ただ結局のところ。近接武器は、近づくという前提をクリアできなければ宝の持ち腐れだ。
「よし、分かったぞ。ただ、チャージウイングのエーテル回路を作るのでな。加工に数日といったところじゃ」
ガルニデ親方が言って、机の上に広げていた図面を畳む。
「わかりました」
「僕としてはフェニックスイングの方がよかったんだがね」
未練がましい口調でもう一度エルリックさんが言う。
「なんでです?」
チャージウイングもフェニックスウイングもどっちも強力な装備だと思うんだが。
なんでフェニックスウイング推しなんだろう。
「見た目がいいじゃないか……羽根をまとう震電。戦術に革命を起こした騎士に相応しいよ」
「見た目ですか……」
ちょっと恍惚とした顔でエルリックさんが言う。なんでそこまでこだわるのかと思ったらそういう理由か。
まあ言わんとしてることは分からなくもない。見た目は大事だと思うね。
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震電の補修には、新装備に稼働実験も含めて2週間程かかる。
待っている間は相変わらず暇なんだが、シュミット商会に騎士団から使いがきた。何か用があるらしい。
呼ばれるままに、港湾地区にある騎士団の本部に行く。
門衛に声をかけたら、本部の建物に案内してくれた。
騎士団の敷地は結構広くて、専用の工房や騎士を収納するハンガーもある。訓練の時やホルストとの戦いの後に入ったことはあったんだが。ただ本部の建物に入るのは初めてだ。
騎士団の本部は黒っぽく焼かれたレンガと同じく黒っぽい木と白い壁の組み合わせの3階建ての建物だった。
ツートンカラーの地味というか重厚な建物で、内装も装飾は少なく華美な感じはしなかった。
いかにも軍隊の設備って感じだな。なんというか、日本の古い役所とか学校のような印象を受ける。
案内された団長室も、団旗が壁に飾られていて、一角には騎士を模した鎧が飾られていた位の質実剛健って感じの内装だった。
中央には会議用っぽい大きな長机が置かれている。
「すまないな、わざわざ」
部屋に入ると、トリスタン公が出迎えてくれた。
後ろにはイングリッド嬢と、パーシヴァル公がいる。彼に会うのは久しぶりだな。
椅子をすすめられたのでとりあえず座った。
「で、なにかあったんですか?」
わざわざお茶を飲むのに俺を呼んだ、なんてことはありえない。
しかも騎士団の本部で団長直々のお出迎えだ。
「話が速くて助かる。一つお前に頼みがあるのだ」
案の定だな。
後ろのパーシヴァル公は表情を変えずに立っているが、無表情な顔にはわずかに不服げな色が見える。
まあこの人の性格的には外部の騎士の乗り手に頼むのは不満なんだろう。
「内密に頼むぞ」
「ええ」
職業柄、というわけでもないが、レーサー時代もしゃべってはいけないことはあった。
こう見えてもそれなりに口は堅い方だと思う。
トリスタン公が合図すると、イングリッド嬢が一礼して丸めた紙を机に広げた。
空図だ。
フローレンスは本島を中心とした無数の島で成り立っていて、その外周を取り巻くように国境警備のための小島と浮き放題があるということは俺も知っている。
空図自体は何度も見たことが有る。
インターネットで地図が見れる世界とは違うし、写真をキー一つで簡単に印刷出来る世界じゃないから空図は結構貴重品だが、飛行船で貨物輸送をするシュミット商会にだって当然ある。
ただ、この空図はかなり精度が高いように見えた。
島をつなぐ線路や空路の書き込みも細かいし、普段みる空図と違って装飾が少ない。
実用一点張りって感じだな。
「この島、セスト島は主に農業と牧羊をしている。外周の浮島に一番近い場所だが」
そう言ってトリスタン公が地図の一点、西の端を指さす
「外周の浮島からの連絡が途絶えた。
定期的に食料や弾薬の補充をしているのだがその船も戻ってこない」
船が戻ってこないってのは重大な話だな。予想を超えた重い話に少し気が引きしまる。
「本来ならばある程度の規模の部隊を編成して確かめたいのだがな。
飛行船部隊はメイロードラップの時の損害が大きい。特にアクーラが損傷を受けていて大規模な遠征をするのは難しい状況だ」
苦々し気にトリスタン公が言う。
あれは浮きドッグみたいなもんだからな。確かにあれが無いと損傷した騎士を収納して長期的に戦う、ということはできない。
「大部隊の編成はできない。
よって騎士団の最精鋭の一隊を派遣する。それにお前も加わってもらいたい」
「まあそれは構わなくもないんですが……俺みたいな部外者をなぜ?」
自分の技術が騎士団の団員の中でどの辺の位置にいるかは分からない……まあそこまで低くはないと思うが。
ただ、それはそれとして、あえてイレギュラーな存在の俺を入れる必要がある程の人材不足とは思えない。
「バートラムの希望だ」
パーシヴァル公が渋い顔で言う。精鋭部隊とやらを率いるのはバートラムか。
エース格の一人らしいからその人選は意外じゃないが、あいつが俺を入れるように言うってのは何とも意外だな。
「そういうことだ。どうだ?」
「シュミット商会の方は?」
「店主殿には悪いが、今回はこちらの指示を通させてもらう。
騎士団と契約を結んで仕事を回す時にお前を借り受けることが有ることも言ってある」
そういえばそんな話もあった気がするが。
騎士団の仕事を請け負うようになってシュミット商会の経営は安定したし名前も挙がった。その分、こういう風に騎士団の方から多少の無理は言われるってことか。
「交戦があって機体に損傷を受けた場合は補修費用は負担する」
「分かりました。シュミット商会に問題がないならいいですよ」
ぶっちゃけ、震電の破損中も普通に仕事はしていたから俺が居なくても一応本業の方は回るはずだ。
まあそれはそれでなんか疎外感もあるんだが。
「では頼むぞ。震電の改装が済み次第出発だ。
工房に話を通して、機体を港湾地区に回してもらってくれ」
「分かりました……ところで、一つお願いがあるんですが」
「なんだ?」
「バートラムと少し話をしたいんですが、いいですか?」
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バートラムは案内されたハンガーにいた。
ハンガーにはフレイアやレナスが並べられている。整備台が掛けられているものも多い。
整備員と話していたが、案内してくれた団員と少し話すとこっちに手を広げて歩いてきた
「やあ、ディートちゃん……ここに来てくれるってことは俺の頼みを聞いてくれるんだよな、感謝するよ」
いつも通りの明るい口調でバートラムが言う。
「で、どうかしたかい?」
「単刀直入に聞くが、なぜ俺を入れようとする?」
「そりゃあ、ディートちゃんは強いからね。今回の任務は危険そうだし、強い乗り手は……」
「……本音で話せよ、バートラム」
こいつが何を意図して俺をこの任務に入れようとしたのか分からない。
正直言ってあまり好意は持たれてないと思うんだが。
別にそれはそれでかまわない。レースチームでドライバー同士が仲が悪いなんてことは珍しいことじゃなかった。
大事なのは、こいつの意図だ。嫌い合っていてもチームプレーはできる。が、得体が知れないのは困る。
同じチームとしてともに戦うに足るのか。俺にだって見極める必要があるのだ。
「いやいや、強い乗り手が欲しいのは……」
はぐらかすように言うバートラムだが、さすがに俺の目を見て口を閉ざした。
いつもの作ったようなチャラい笑い顔が引っ込んで真面目な顔になる。眼光鋭い目が俺を睨んだ。
「……俺はお前が嫌いだ。はっきり言うがね」
「ほーう。なんでだ?」
直接的に嫌われるほどの交流は無かったと思うんだが。
「……お前さ……騎士団に入れる機会を蹴っ飛ばしたらしいじゃないか……まったく身の程を弁えろって思うよ」
顔を近づけてきて低い声でバートラムが言う。
そういえばホルストとの戦いの後に騎士団に誘われたな。
今のクリス嬢の体に入っているような状態だと好き勝手にはできないと思って断ったが。
「フローレンスの騎士の乗り手にとって、騎士団に認められるってのは名誉なんだ。
最強の集団、最高の機体……俺が此処までくるのにどれほど苦労したか……分かるか?」
そういえばこいつも自由騎士出身だって話だったな。それはお前の都合だろう、と思わなくもないが。
ただ、俺だって、燻ってたレーサー時代だったら、同じことを思ったかもしれない
素晴らしい機会があるのに蹴っ飛ばすなんて、なんて鼻持ちならない奴なんだと思っただろう。
そう考えれば反感を抱く気持は分からなくもない。実際、ビッグオファーなのは確かだったし、俺が吉崎大都のままなら喜んで応じただろう。
「じゃあ、なんでだ?」
「お前はムカつくやつだが……だがお前の実力は認める。
単にうまい乗り手ってだけじゃなく頭も回るしな。
それにお前は裏切ったり、手を抜いたりするタイプじゃないというのはメイロードラップの時に分かった」
表情を変えずに淡々とバートラムが続ける。
「今回の任務は得体が知れない。任務を果たすために戦力は多い方がいい。と、こういうわけだ」
「なるほどな」
「……これが本音だな。満足か?」
そう言ってバートラムが肩をすくめる。
「……いつものチャラい面よりは今の方がいいぜ」
「そうかい。で、どうする?」
「よくわかったよ……俺はあんたみたいなのは嫌いじゃない。よろしくな」
そういうと、バートラムが少し驚いた顔をした。
「良くわからん奴だな……まあ礼を言うぜ」
そういってバートラムが騎士の乗り手の礼をした。俺もそれに応じる。
「……だが、前みたいな独断専行は無しにしてくれ、いいな?
お前の実力は分かった、それを踏まえて指示をだす」
「いいとも」
俺の返事を聞いてバートラムが複雑な表情を浮かべる
「どうかしたか?」
「やっぱり……よくわからん奴だよ、お前は」
つぶやくと、バートラムが歩き去っていった。
まあこの世界の騎士の乗り手にとっては理解の埒外なのかもしれないが……同じチームのレーサーでも仲がいいとは限らない。
だが実戦で同じ目的、チームの勝利のためになら割り切るし、息を合わせる。それがプロだ。
好き嫌いを越えて俺をあえて編成に入れようとしたバートラムにも、なんとなくそういう面を感じた。
……まあ本当は仲がいいに越したことはないんだがな
・お知らせ
月刊更新状態のこの話をどれだけの人が読んでくれているのか謎ですが。
今後のストーリーの展開上、敵味方に騎士の乗り手が登場します。その乗り手のキャラ設定を募集したいと思います。
……キャラ設定を考えるのが面倒、というわけではありません、ええ。
ただ、自分一人で考えたキャラはある程度幅が狭まってしまいますし、もともとTRPG畑出身なのでこういうのをしてみたかったというのもあったり。
ということで、参加してくれる方は、キャラの名前、戦闘スタイル、容姿、性格、あと、ディートの味方側に立つのか(騎士団員、フローレンスの自由騎士)敵側に立つのかあたりを書いてメッセージをください。
ただし、展開に合わせてある程度のアレンジは掛けると思います。それはご了承ください。
ディートのような転移者はNGとします。あと、余りにもすっ飛んだ設定だと話に組み込めないのでほどほどに。




