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最終日 黒の亡霊

悲報・月刊ペース崩れる。待っててくれた方に百万の感謝を。

敵味方の騎士が入り乱れての戦いは続いている。

煙を上げて漂う飛行船、戦闘不能になった騎士とそれをカバーするように動く騎士。

下の方に視線をやると、アクーラはまだどうにか健在だ。甲板にいくつも穴が開いて黒煙が上がっているが。


主にアクーラを砲撃していたのは白の亡霊ヴァイスガイストなんだろう。

他に遠距離から高火力のカノンを撃てるような、特殊な騎士は居なさそうだ。


騎士団のレナスやフレイヤが周辺を飛んで海賊の騎士を牽制している。

海賊側としては攻めあぐねている感じだな。あっちは何とかなるだろう。


【あんたがホルストを倒したっていうディートレアか。俺はやつの様にはいかんぜ】


コミュニケーターから声が聞こえた。さっき邪魔してくれた奴だな。


「そんなことより大勢決したと思うんだがな。尻尾巻いて逃げたほうがいいんじゃないか?」


戦闘開始からかなり時間がたっている、というかせいぜい一時間ほどだとは思うが。それでも状況はかなり変わった。


こいつらの目的が何だかは分からんが。

砲撃艦や白の亡霊ヴァイスガイストで手薄なアクーラを奇襲して撃墜する、というのは、これだけ騎士団の護衛の数がそろったらもう無理だろう。


白の亡霊ヴァイスガイストのあの波動砲があれば別かもしれないが。機影はもうない。

右の砲台は壊したし、もうあれを撃てる状況じゃないだろう。


正直言ってもう俺としては逃げたいというか、ピットに下がって休みたい気分だ。

撤退してくれる方がありがたい。


【馬鹿言うなよ。お前さんを落とせば大戦果だぜ、逃がすなんてありえないだろ】


だが、残念ながら逃げるつもりはないらしい。状況が分かってないのか、自信過剰なのか。


【言っておくがよ、俺は女でも捕虜にするなんて手温いことはしねぇぜ。

覚悟はできてるんだろうな?】


「バカだろ、お前。状況見ろよ」


捕虜とか言っているが、こいつは現状が分かっているんだろうか。

この状況だと、俺を捕虜にするどころか、それこそ自分が包囲されて捕虜にされかねないんだが。


こいつらが余程の後詰を用意しているなら別だが、そんな暇なことするくらいならさっさと全軍突撃させているだろう。

もともと騎士団の方が乗り手の質は高い。形勢は完全にこっちに有利になりつつある


【お前を倒して、その後でも逃げられる。この俺と黒の亡霊シュヴァルツガイストならな】


自信満々な返事が返ってきた。

こいつの装備は灰の亡霊ブラウガイストのステルスのようなものなんだろうか。あれなら逃げに徹すれば多少の包囲は切り抜けれそうだが


もしくは、自信過剰な大馬鹿か。

最新鋭の車に乗ることはテストドライバーをしていればあったもんだ。高性能なマシンに乗ると気が大きくなるのは俺も経験がある。

だが、そう簡単に性能を引き出せるわけじゃない。


【おらおらぁ!時間が惜しい、さっさとやるぜ!】


黒の亡霊からカノンの光弾が飛んできた。大きく避けて距離を取る。


改めて機体を観察する。

黒く塗られた装甲。特徴的なのは、これも白の亡霊を思わせる、肩から張り出した左右の大きな装甲板だ。

二重に装甲を重ねた白の亡霊ヴァイスガイストの肩装甲と違って、盾のように長い先端がとがった装甲が一枚づつ左右の肩に取り付けられていて、なにか黒っぽい輝きを放っている。


右手には多数の銃身を束ねたガトリングカノンを持っている。

灰の亡霊ブラウガイストのものと違うのは、銃身が半分ほどに切り詰められていることだ。取り回し重視ってことか。

左手にはエーテルシールド。ブレードか何かに転換してくる可能性はあるが。


【お前を倒せば俺の名も挙がるってもんよ】


「あのな、今の俺に勝っても自慢にならねぇと思うぞ」


灰の亡霊ブラウガイスト白の亡霊ヴァイスガイストとの連戦の後だし、左手の武器は死んでいる。

戦力半減、とまでは行かないが。どうひいき目に見ても、ベストコンディションには程遠い。


【甘いこと言ってんじゃねえよ。機体のトラブルだの、知ったことじゃねぇ】


「はあ?」


【最後まで立ってるやつが一番強ぇのさ!それが実戦だろ!】


「この……ハイエナ野郎が」


とはいうものの。まあ、言ってることはある意味間違ってない。

レースも過程はどうあれ、最後にゴールラインを最初に走り抜けたやつが勝者だし、トラブルは言い訳にはならない。


だがなんというか、そういう手段を選ばずなタイプはあまり好かれないし、この世界の騎士の乗り手の価値観にも反してそうなんだがな。

清々しいまでの開き直りぶりだ。システィーナの爪の垢を煎じて飲ませたい。


迎え撃ちたいところだが、正直言って、体力も機体も限界が近い。


≪サー、ここは僕が!≫


俺の状況を察してくれたのか。ジョルナのレナスがカノンを撃ちながら突っ込んでくる。


【てめえなんか相手じゃねぇよ】


レナスを迎え撃つように、突進しながら黒の亡霊がガトリングを放つ。立て続けに光弾が打ち出されて、ジョルナのレナスが大きくそれを避けた。

避けたところを読み切ったように、黒の亡霊がレナスに迫る。


【でしゃばるなよ、雑魚!】


≪くそっ!≫


2機のラインが交錯して、レナスの銀色の装甲の一部が切り裂かれて飛んだ。

確かに、言うだけのことはある。

ガトリングを撃ちながら距離を詰める度胸に、ジョルナの回避を読み切ったこと。

それに交錯の一瞬でブレードを当てる腕と言い、接近戦でもかなりの手練れっぽいな。


レナスも左手を失っているからシールドが使えない。今のジョルナのレナスじゃ相手にならないか。


【おらぁ、ディートさんよ、後ろから撃たれたくないだろ。言っとくが俺は撃つぜ!】


こっちに向かって飛びながらカノンを撃ってくる。

何発かの光弾が震電をかすめた。たぶんわざと外してるな。いやな野郎だ


機体以前に俺の体力がもう持たない。おそらく集中して全速で飛べるのはあと数分だろう

仕方ない。こいつも特殊装備を持ってそうだが。それを出させる前にけりをつけてやる


「ああ、そうかよ。じゃあ相手してやるぜ」


逃げ切れない、というか、こっちに張り付いてくるなら対応せざるを得ない。

誰かがブロックに入ってくれればいいが、乱戦状態じゃそれも期待できないしな。仕方ない。

こうなった以上、さっさと終わらせることを考えたほうがいい。


「ジョルナ、援護を頼む!」


≪了解です、サー!≫


旋回して来たレナスが黒の亡霊シュヴァルツガイストを挟むように位置取りする。


【やる気になったようだなぁ。そうこなくちゃな】


「勿論二対一でも文句はないだろうな?」


【勝手にしやがれ。こんな雑魚いてもいなくても変わらねぇよ】


普通なら多少なれども怯むはずだが。

ここで卑怯者とか言い出さないあたりは根性が据わってるな。


---


改めて黒の亡霊シュヴァルツガイストを観察する。


肩装甲が黒い光を放っていて、少し離れると黒い尾を引きながら飛んでいるように見える

何かしらのギミックはありそうだが、今のところは特に何か仕掛けてくる様子はない。

温存しているのか、勿体ぶっているのか。


ただ、その機能を出させないうちに倒せるなら、それが一番いい。

白の亡霊ヴァイスガイストのあの妙な飛び道具もかなりとんでもない性能だったしな。


【まずは名乗らせてもらおう!俺の名は……】


「知るか、そんなこと!」


アクセルを全開にして震電を加速態勢に移らせる。時々視界が暗くなりかけるが、あと少し持ってくれ。

黒の亡霊シュヴァルツガイストが軌道を変えて震電から離れる。


【おいおい、せっかちだな!】


「こっちは疲れてんだよ。さっさと終わらせてやる」


【自分を撃墜する男の名前くらい知っておけよ!】


黒の亡霊シュヴァルツガイストが震電から距離を取っていった。震電ほどじゃないが灰の亡霊ブラウガイストより速い。

普段なら強引に追うところだが、いったん距離を取った。


≪くらえ!≫


ジョルナがセオリー通りに黒の亡霊シュヴァルツガイストを俺と一緒に挟むように飛ぶ。白く輝くカノンの弾が立て続けに飛んだ。


【甘ぇな!】


レナスからのカノンを華麗に避けて俺の方に切り込んでくる。

不意にジョルナの射撃が止んだ。一瞬何が起きたか分からなかったが、レナスの位置を見て分かった。


「……やるじゃねぇか」


【ほお、この俺の技が分かるってわけか。さすがだな】


挟まれてはいるが、上手くジョルナの射線上に俺を置くような位置取りをしてきている。

回り込むような不自然な機動で切り込んできたと思ったが、これが狙いか。これじゃジョルナのレナスのカノンが活かせない。。


「ジョルナ!」


≪わかっています、サー!≫


此方は距離を取り、ジョルナのレナスが軌道を変える。だが、相手も上手い。

巧みにポジションを変えながら、レナスの射線に俺を乗せようとしてくる。


位置取りを見るだけでも、さっきの白の亡霊ヴァイスガイストのネルソンよりかなり戦い慣れてる。

亡霊シリーズともいうべき3機の中ではこいつが乗り手としては一番腕が立ちそうだ


ただ。だからこそ、さっさと終わらせないとまずい相手でもある。振り回せずに持て余すような高機能より、中程度であっても使いきれる性能の方が脅威だ。

俺自身がまさにそのパターンだと思う。機体性能なら震電は亡霊シリーズやスカーレットには劣る。だがそれでも戦えているのは、震電の性能を目いっぱい引き出せているからだ。


【ちまちま撃ち合うなんてまどろっこしいぜ】


散発的に飛ぶジョルナのカノンの光弾を鮮やかにかわしながら、黒の亡霊シュヴァルツガイストが一気に加速して突っ込んできた。

ガトリングの光弾が雨の様に飛んでくる。距離をあけて撃ち合うためのガトリングカノンじゃなく、突撃の補助用なのか。


「俺と接近戦をやる気か?」


今は仕切り直してもこっちが不利になるだけだ。完全に切り込んでくるなら、迎え撃ってやる。

盾を構えて震電を左右に切り返して突進する。

光弾が震電をかすめるが盾には当たらなかった。


「ブレード!」


ツキはあるな。震電の右手のシールドがブレードに変化する。

ブレードと黒の亡霊シュヴァルツガイストのシールドがぶつかり合った。相殺し合うエーテルが光を放つ。


【突っ込んでくるとはな!噂通り勇ましいな!】


黒の亡霊シュヴァルツガイストが切り返してガトリングを放つ。とっさに震電を上に飛ばして躱した。

離脱するかと思ったがそのまま突っ込んでくる。左手のシールドがブレードに変化した。


「いい度胸してんな!」


【接近戦でお前をねじ伏せりゃ、俺の名も挙がるってもんだろうが!】


今は震電の左腕は無いから、飛び道具がない。

俺を倒すだけなら距離を開けてカノンを撃ってくる方がいいんだが、あえて近距離に飛び込んでくるとは。


今は時間が過ぎれば過ぎるほど、騎士団の方が有利になる状況だ。

それを踏まえてあえて短期決戦を挑んできているのかもしれないが。


【俺こそがナンバー1だぜ!】


あんまりそういう深い考えはなさそうだな、こいつ。

鮮やかに切り返してブレードを振ってくる。でかい口をたたくだけのことはある。狭いエリアで切り返しや加速をして上手くスピードを殺さないように位置取りをしてくる。


そういえばガチで近距離での切り合いをするのは珍しい。俺相手に積極的に突っ込んでくる相手は中々いなかった

それに、震電自体が一撃離脱を得意とする強襲型だから、足を止めて切り合いをするってことはほとんどなかったってもあるが。


≪サー!≫


「下がってろ!ジョルナ!」


レナスにも近接戦用の装備はあるかもしれないが、だからといって2機で接近戦を挑むのは危険だ。

味方同士でラインが交錯して同士討ちになったら笑い話にならない。


それに、この至近距離だとジョルナも援護が出来ないだろう。俺に当たりかねない。

空戦で多対一の不利を覆す一番いい方法は至近距離のタイマンに持ち込んでしまうことなのかもしれない。

こいつが計算づくでやっているかは分からないが。


だが……震電をフル加速させてもう一度突っ込む。


「死んどけ!」


【片手で俺様に勝てると思ってんのかぁ?】


あえて接近戦を挑むのは、こっちが片手だから優位と見ているのか。それとも俺の得意分野でねじふせたいのか。

だが、接近戦のエキスパートを甘く見てもらっちゃ困る。

こういう相手が出てくることも想定済み。イメージトレーニングはしてあるぞ。


「片手で十分さ!坊や!」


ブレードを立てるように構えてそのまま震電を突っ込ませる。

一気に距離が詰まって黒の亡霊のブレードと震電のブレードが交錯した。反応するエーテルが白い輝きを放つ。

アクセルを即座に全開にする。相殺で失速した震電が加速してまた黒の亡霊シュヴァルツガイストが一気に近づいた。


【強引に来やがるな!】


黒の亡霊シュヴァルツガイストの左手のブレードが再びシールドに変化した。震電のブレードがシールドにぶつかる。

が、防がれてもかまわない。

黒の亡霊シュヴァルツガイストがエーテルの相殺の反動で失速した。


これが狙いだ。エーテルシールドで何度も受けさせれば。シールドは割れなくても反動でスピードは殺せる。


相殺で後ろに跳ねる震電を強引に突進させて、吹き飛んだ黒の亡霊シュヴァルツガイストを追う。

白いエーテルシールドにブレードをたたきつけた。エーテルの相殺でまた黒の亡霊シュヴァルツガイストが弾かれた様に下がる。


【そういうことかよ!】


ようやくこいつも俺の意図が分かったらしい。だがもう遅い。

こっちの狙い通り。スピードは殺した。


キャノピーには黒の亡霊シュヴァルツガイストが間近に見える。距離はおそらく20mもない。騎士の機動力なら無いに等しい距離だ。

万全の状態の震電でもここから加速して避けることもできない。左右に旋回するスペースもない。チェックメイトだ!


「もらった!」


【ちっ!仕方ねぇな】


黒の亡霊シュヴァルツガイストの肩装甲の黒い光が強くなった。何か仕掛けてくるか。だが、今更もう遅い。

アクセルを床まで踏み、ブレードを構える。同時にフットペダルを左にひねった。

左に切り抜けて胴を薙ぎ払う。


震電が操縦に応じて左にすっ飛んだ。横Gがかかって体がシートに斜めに押し付けられる。

同時に、黒い膜のようなものが広がり視界を遮った。だが、あの必殺の間合いでは避けることは絶対にできない。

操縦桿を握る右腕に力を込めて衝撃に備えた。


が、1秒以内にあるはずの手ごたえがなかった。


「なんだと?」


視界を遮った黒い膜は突き抜けるように一瞬で消えたが。キャノピーには白い雲と青い空と、激しく打ち合う騎士たちと戦場の煙が広がっているだけだった。

黒の亡霊シュヴァルツガイストの姿は見えない


「そんなバカな?」


騎士の視界はいいとは言えない。

そして、あの一瞬視界を遮った黒い膜。あれが何だか分からないが、幾らなんでもあの至近距離で、接触もしないなんてことはありえない。


どこへ消えた?ステルスか?だが失速したあの状況でラインを変えれるわけがない。

切り返そうとアクセルを抜いたその瞬間。


【背中ががら空きだぜ!】


声と同時に、後ろから衝撃が来た。シートから飛び出しそうになる。

追突された車のように大きく揺れた震電のスピードが落ちて、バランスがぐらりと崩れた。右足のアクセルの踏みごたえが唐突に消える。


……被弾した。



次の話は今週中にはアップします。

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