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最終日 反攻、そして。

迫る光の束。

左手を差し出したのは冷静な計算が合ったわけでもレーサーのカンでもない。たまたまだ。多分運がよかっただけだと思う。


光の束に触れた左手がひしゃげるように折れ曲がってばらばらに吹っ飛び、キャノピーに金属の破片が突き刺さった。

強烈な衝撃が走って真電が殴られた様に弾かれる


「がぁっ!」


左右のペダルを踏んでバランスを崩した震電の姿勢を立て直す。

左手の操縦桿が完全に手ごたえを失った。だがどうせ構わない。カノンも逝かれてるし。バランスの崩れはどうにかする。

左手は亡くなったが、武装を失った左手より結果オーライとは言え距離が稼げたことの方が大事だ


光る鞭のような光の束が雲を切り裂いて文字通り光速で震電に迫ってくる。

かすめただけで左手を吹き飛ばすほどの火力だ。カノンの光弾どころじゃない。被弾したら終わりだ。


折角稼いだ距離だが、蛇のようにうねる光の束が猛スピードで迫ってくる。

線の攻撃という意味ではシスティーナの蛇使いサーペンタリウスに似てるが、これを前と同じ手で止めるのは無理だ。

しかも実体がない分蛇使いサーペリウスより速い。


「くそったれがぁ!!!」


アクセルを床まで踏み込んだ。震電が力を振り絞るように加速して、シートに体が押し付けられる。加速の瞬間、意識が遠くなりそうになった。

切り返しのラインが膨らむ。狙っていたライン通りに飛べない。


目で見えているわけじゃないが、自分の真後ろにあの光の鞭が迫っているのを感じる。アクセルは緩められない。

闇に飲み込まれそうな意識を口元の覆い布をかみしめて辛うじて保つ。視界が暗くなる。


≪サー!≫


「避けろ!ジョルナ!」


光の鞭がジョルナのレナスに向かう。これで一息つける、と言いたいところだが。

レナスが光の束をかろうじて避けたのが見えたが、まっすぐに伸びた光が上空を飛んでいた飛行船を薙ぎ払った。飛行船が真っ二つになるのが視界の端で見える


「てめぇ!」


大勢を立て直して白の亡霊ヴァイスガイストに向かって飛ぶ。

白の亡霊ヴァイスガイストの左の光球から光弾が飛んできた。すんでのところで上昇して躱す。


『どうだ!これこそが白の亡霊ヴァイスガイスト

フローレンスの凡俗の騎士ごときが及びもつかぬ力、思い知るがいい!!』


放たれた光が飛行船を薙ぎ払い、ジョルナを追いかけていく。


≪これは!なんなんですか!≫


「逃げろ!今は反撃とか考えるな!」


悲鳴のようなジョルナの声がコミュニケーターから聞こえる。


光の帯が飛行船や離れたところに居る騎士にまで、敵味方見境なしに襲い掛かる。

悲鳴のような声が聞こえて慌てて騎士達が散った。


どんな仕組みか知らないが……こんな無茶な大火力は長くはもたない。

それまで逃げ切れるか。


---


恐ろしく長く感じたが、実際はは多分精々で2分ほどだろうか。唐突に光の鞭が消えた。

一瞬、罠じゃないかと思ったが。


『バカな……』


動揺した声が、それは違うと教えてくた。


『これを……かわしきるとだと……』


これが演技なら大したもんだが、そんなことしても意味がない。

しかし、動揺があからさまに出るあたり、色々な訓練はしていそうだが、本当の意味での実戦経験は少ないのかもしれない。


白の亡霊ヴァイスガイストの左右の光球のうち、今の波動砲もどきを撃ってきた側、右の光球が消えていた。

光球の代わりに、なにやら文様のようなものが描かれた、金属の球状のものが浮かんでいるのが見える。


あの理不尽な高火力と継戦能力をどうやって実現してるのかと思ったが。

仕組みかまでは分からないが……あの左右の装甲はエーテルのチャージ機能のようなものなのかもしれない。

あの金属球はさしずめエーテルをチャージするための核ってところか。


恐らくエーテルをチャージして、そのチャージした分を撃ちまくれる、とかそんな感じなんだろう。それがあの大火力と継戦能力を生んでいる。

あれだけの威力の弾を打ちまくれば普通のカノンじゃあっというまに機能停止だ。

光が消えたってことは、チャージした分を撃ち尽くしたってところか。


核の周りに白い光がまた集まり始める。またチャージをし始めたのか。

だが、幾らなんでもしばらくは撃てまい。今こそチャンス。


左手を操縦桿から引き抜いて自分の頬を張る。

ジンとした痛みとともにぼんやりした意識が少し覚醒した。


「行けるか、ジョルナ?」


≪はい、勿論です、サー!≫


シールドで受けても止めきれなかったのか、レナスの左腕の装甲がめちゃくちゃになっていて、肩の装甲や頭や胸の装甲にも傷がある。


頭部の装甲が壊れてるってことは、おそらくジョルナにとっても相当際どい攻撃だったはずだが。

コミュニケーターから聞こえる声には張りがある。闘志はまだありそうだ。大したもんだな。


「今度はこっちの番だ!行くぜ!」


≪お供します!≫


いずれにせよ今こそ最大のチャンスだ。何が何でもここで仕留めないとまずい。


「ジョルナ!援護頼む!」


≪了解です!≫


白の亡霊ヴァイスガイストの動きが悪くなった。

さっきまでの自信満々という感じの攻撃的な軌道から、焦ったように距離を取ろうとする。乗り手があわてているのが見えるようだ。


武装の片方が使えないってのもあるんだろうが。あの波動砲で仕留められなかったのがショックなんだろうな。

動揺があからさまに見えるあたり、やはりあいつはあまり場数を踏んでないのかもしれない。


プロは不利な状況であっても弱みを見せないのも大事だし、それに、どんな状況でもある程度余力を残すもんだ。

予期せぬトラブルならともかく、撃ちつくして弾切れってのは頂けない。


『くそっ、離れろ!』


左の光球から光弾が飛ぶが、片方だけではさっきまでの弾幕とは比較にならない。


≪食らえ!≫


レナスのカノンの光弾が立て続けに飛び、一発が白の亡霊の胴に命中した。ぐらりと機体が傾ぐ。


「ナイスだ!」


完全な死角になった右に回り込む。

わずかに輝きを取り戻した右の光球がまたたくくように光ったが、光弾は撃たれなかった。右の砲座はまだ死んでるな。


『ぬう!』


「もらった!」


アクセルを開けると、白の亡霊ヴァイスガイストとの距離が一気に詰まった。慌てて離れようとするが、逃げ道はジョルナのレナスが抑えている。

追い抜きざまにブレードを振りぬいた。


操縦桿に手ごたえがあって、右腕が飛んだのが視界の端で見えた。

致命傷じゃない。できればウイングを切って動きを止めたかったが、とっさに躱されたか。

経験は浅いのかもしれないが、特殊仕様機を任されるだけあってしぶといな。


だが。急旋回して切り返す。逃がしはしない。


『ちっ』


「逃がすな!ジョルナ!」


≪はい!サー!≫


上空に逃げようとする白の亡霊のラインをレナスのカノンが塞いだ。

今度こそ。ウイングを切って戦闘不能にしてやる。


アクセルを開けると距離が一気に詰まった。

機動性重視の震電との差や、乗り手の動揺もあるのかもしれないが。少なくとも灰の亡霊ブラウガイストよりは遅く感じる。機動力はそこまで高くないらしい。


「死んどけ!」


交錯の瞬間にブレードを振りぬく。右の操縦桿にガツンと反動が返ってきた。手ごたえあり、だ。

見ると、白の亡霊ヴァイスガイストの右の肩装甲の上半分が無くなっていた。

灰の亡霊ブラウガイストのステルスも肩装甲に損傷を負うと効果が薄れたが。こいつはどうだろうか


『許さんぞ!フローレンスの犬が!』


白の亡霊ヴァイスガイストが光弾をまき散らしながら上空高く舞い上がる。威勢のいいことを言ってるが、さっきから逃げ一辺倒だ。

万全の状態で、左右の光球を従えて攻勢に出ているときは強力な弾幕と広い攻撃範囲で強力な制圧力を発揮するが、守勢に回ると明らかに脆いな。


「逃がすかよ!」


特殊仕様の騎士に乗っているってことは、間違いなくこの海賊の部隊の隊長格だ。落とせば敵の士気にも影響することは間違いない。

それに、あの特殊な装備。拿捕できれば価値は高い。


だが、それ以上に大事な事がある。

多分この白の亡霊ヴァイスガイストの乗り手はただの海賊じゃない。


トリスタン公も言っていたが、ホルストの灰の亡霊ブラウガイストや、あの砲撃用飛行船、それにこれだけの数の海賊たち。これを組織できるってのは、相当なもんだ。

こいつはその情報を持っているかもしれない。

飛行不能にして捕虜にできればいろいろと得るものが多いはずだ。


≪観念しろ!海賊め!≫


ジョルナのレナスがカノンを次々と放つ。

まだ光を放つ左の光球がシールド状に変化してカノンの光弾を受け止めた。エーテルの相殺で白の亡霊ヴァイスガイストが失速する。


右の肩装甲にはさっき浴びせた斬撃の傷跡が残っている。

くちばしの上の部分に当たる装甲が半ばから切れて、核のような金属球もなくなっていた。右の砲座は完全に死んだ。

右に回って白の亡霊ヴァイスガイストに機首を向ける。三度目の正直だ、今度こそ。


「とどめだ!」


『くそっ、この私が!』


失速した白の亡霊ヴァイスガイストにむけてアクセルを踏んだ瞬間。


【はっはぁ!お困りのようだなぁ!】


聞いたことのない声がコミュニケーターから飛び込んできた

同時にカノンの光弾が白の亡霊ヴァイスガイストとの間に割り込むように降り注ぐ。


慌ててブレーキを踏んだ。震電が急失速してベルトが体に食い込む。

体が締めあげられて吐き気が込み上げたが、かろうじて飲み込んだ。さっきからかなり無茶な飛び方をしてる。体力的にもう限界が近い。

疲れがたまった体にはこういう急制動は応えるが……今は弱音を吐いてる場合じゃない。


「誰だ?」


黒い騎士が急降下してきて白の亡霊ヴァイスガイストとの間のラインを横切った。急降下してから急上昇してきてこっちにカノンを撃ってくる。


「ちっ」


震電を切り返す。新手か。


【ネルソンさんよ、口ほどにもないなぁ!】


『……お前に助けられるとは……』


【まあ安心して下がってろや。あとはこの俺様が引き受けてやるぜぇ!】


黒く塗られた装甲版と、大きめの肩装甲を持つ騎士がくるりと軽やかに旋回する。

灰、白ときたが……今度は黒の亡霊って感じか。




騎士・白の亡霊ヴァイスガイスト


建造者・不明


灰の亡霊ブラウガイストの兄弟機として作られた騎士で、謎の乗り手、ネルソン・ダマスクスの乗機。

名前の通り、装甲は白く塗られている。。


灰の亡霊ブラウガイストと同じく大きめの肩装甲を装備している。

肩装甲は二枚重なっているような形状で、戦闘態勢になると上の装甲がせり上がり鳥のくちばしのように開く。

装甲内部には金属の核が収納されており、戦闘態勢になるとエーテルをチャージした核を左右に従えるため、左右に大きめの光球を伴うようにして飛ぶ。

見た目より機体重量があるため、機動力は灰の亡霊ブラウガイストに劣る。


この金属の核は、中心にコアの鉱石を内蔵した金属球であり、周囲のエーテルをチャージして安定させるためのもの。核にチャージしたエーテルで射撃を行う。

核は常時エーテルを周囲から集めてチャージし続けるため、強力な火力を長時間維持できる高火力射撃戦特化型の騎士。

一方で、チャージしたエーテルを完全に使い切るとリチャージするのにかなり時間がかかるという欠点も持っている。


単発の強力な光弾を撃つ、速射により弾幕を張る、ショットガンのような近距離の面制圧射撃、波動砲のようにエーテルを放出をし続けるなど、攻撃方法は多彩。

また、シールドのように盾状にも変化させられる。


手持ちのカノンではないため、関節の制約を受けず非常に広範囲に攻撃可能であり、背面への射撃もできる。

ただし、技術的に補助カメラとか射撃支援システムは存在しない。相手の位置が大まかにわかるサーチを複数装備しているため、相手の方向は分かるが乗り手の視界範囲外の目標を補足する術はない。

このため、背面や側面などの死角を打つ時は、ショットガンモードや弾幕のような弾を乱射するような撃ち方で対応せざるを得ない。


極めて高い火力を有するものの、乗り手単独で性能のすべてを引き出すことは困難を極める、火力試験機的な騎士。

乗り手のネルソンもかなりこの騎士で訓練を積んでいるものの、本当の意味で性能を使いこなせてはいない。






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