最終日 彼女の流儀
またもスコ速さんに取り上げられたようで。新しく目にとめてくれる人がおられるのは有り難い限りです。
お楽しみいただけると幸いです。よろしければ感想などいただけると嬉しいです
長くなったので今回の投稿は2回に分けました。多分明日続きを投稿します。
『システィーナ?なるほど』
非常に不味い展開だ。
ただでさえ数で負けていて、しかも灰の亡霊を抑えなきゃいけないのに、ここでシスティーナのラサが加わったら。
『……システィーナですか。参加しているとは聞いていましたが』
≪ああ、何をしているかと思えば。ホルストですか……≫
『丁度いい。手伝いなさい。
あなたの御執心のディートレアですよ。仕留めるチャンスだ』
≪ふむ……≫
興味なさげな声がコミュニケーターから聞こえる。
『どうしたんですか』
≪どうしたもこうしたも……呆れているんですよ≫
『はあ?』
≪まったくあなたたちはいい度胸をしていますね、感心しますよ≫
言葉と同時に、唐突にラサがカノンを海賊の騎士達に撃ちかけた。
「え?」
完全な不意打ちだったんだろう。光弾に追い散らされるように、騎士たちがバラバラに散った。
『何のつもりですか!?』
≪分かってない阿呆ですね。戦いは対等でなくてはつまらないのです。
それを、多数で囲んで嬲るなどという無粋に私を巻き込もうとは≫
『我々を裏切るのですか?』
さすがにこの行動は予想外だったらしい。ホルストの声にもちょっと動揺っぽいのが混ざっている
≪私もあなたも海賊ではありますが共通点はそれだけでしょう。
あなた方とは仲間でもありませんし、行動を共にしてもいませんし、部下でもありませんが?≫
『なっ?』
≪裏切るとは心外ですよ≫
何をバカなことを言ってるんだ、って口調でシスティーナが言う。
前にも思ったんだが、あんまりこいつは海賊っぽくない。一匹狼の騎士の乗り手の方が似合ってるな。
『……正気ですか?』
≪勿論ですよ。
そして、私は私の楽しみの邪魔をするものは許しません≫
ラサのカノンから再び光弾が撃ちだされて、飛行船の気嚢に立て続けに突き刺さった。
気嚢の一部が爆発し被膜から火の手があがる。飛行船が傾いた。
≪ディートと遊ぶのは無粋な邪魔者を全員片づけてからにしますよ≫
『この!イカレ女が!殺しなさい!』
ホルストの号令で、海賊の騎士達がカノンを撃ちかけた。
何発もの光弾が空を切り裂き、狙われたラサが鮮やかに左右に切り返して飛ぶ。光弾がラサを追うように飛ぶが、ことごとく空を切る。まったく速さについて行けてない。
ラサがカノンを撃ち返すと、海賊の騎士達の軌道が乱れる。あのスピードで飛びながら狙いは的確だ。
震電と違ってラサはカノンを使っての中距離戦が主体だ。俺のように無理に突撃する必要はない。
そして、距離を開けて同種の武器での撃ち合いをするなら、動きが早い方が有利に決まってる。
二隻目の飛行船にラサが一気に迫る。
慌てたように飛行船の両舷の大砲が火を噴いた。砲煙が煙幕のように広がる。が、砲撃を予測したんだろう。降下してかわしているのが見えた。
煙を蹴散らすように急上昇したラサから、二隻目の飛行船にカノンの光弾が撃ちこまれた。
気嚢から真っ黒い煙と赤い火が吹き上がり、その炎の中をラサが駆け抜ける。
あっという間に二隻の飛行船がほぼ行動不能になった。こいつはなんてソロモンの悪夢ですか
「なんだこいつ……」
見ていると、ラサがくると反転して、追う騎士に対して赤い光弾を放った。ボムカノンの方だ。
完璧なタイミングで巨大な火球が膨れ上がり、追ってきた海賊の騎士が避けることもできず火球の中に突っ込む。
騎士の四肢が吹き飛び、装甲の間から火を噴きながら騎士が雲間に消えていった。
一撃必殺とは……シャレにならん威力だぞ、あれ。
知らぬが仏。あんな大火力と知っていれば前に戦ったときあそこまで大胆な戦い方はできなかった。
しかし、こうしてみると……桁外れの強さだ。対峙した時は夢中で戦ってるだけだが、はたから見るとその凄みがよく分かる。
おそらく震電で戦うならスカーレットよりラサの方が相性が悪いだろうが、そういう問題じゃない。もう一度やったら勝てる気がしない。中距離から完封されるのが目に見えている。
戦いを楽しむような行動をしなければ俺じゃとても歯が立たないな。
≪ディート、ぼけっと見ていないでさっさと手伝いなさい≫
「手伝うって……」
≪せっかくお膳立てをしてあるのに何をグズグズしているのですか≫
そう言ってカノンで火を噴く飛行船を刺す。
「まさか……あの炎の中に飛び込めってことか?」
≪何を恐れているのです。そのまま不自由な状態で戦う気ですか?死にますよ?≫
「だがな……」
≪それとも、まさか私が戦ってるのをのんびり見物しているつもりじゃないでしょうね?≫
さすがに炎の中を突っ切るのはかなり怖い。
震電には火薬とかは載せていないが、飛行船には大砲用の火薬が積んである。それが爆発したらさすがに耐えられない。
≪肉を切らせて骨を断つ、でしょう。腹をくくりなさい≫
まさか異世界人から日本のことわざで説教されるとは。
だが、確かにこのままでいるわけにはいかないのも事実だ。
まあこのまま放っておけばシスティーナが全部片付けてくれそうではあるんだが。曲がりなりにも俺の為に戦ってくれてるところで、高見の見物は気が引ける。
「ちっ、やったるわぁ!」
震電を火を噴く気嚢に向けてアクセルを踏んだ。茶色の巨大な気嚢と、その気嚢を焼く火の手が一気に迫る。
目をつぶりたくなるが、我慢して息を止めた。
茶色の気嚢の裂け目に突っ込むと、視界が火の赤と黒の煙に染まる。飛行船の気嚢の細い金属の骨組みが震電にあたって音を立て、振動が伝わってきた。
火の中を飛ぶのは背筋が冷えたが、熱は感じない。キャノピーと装甲があるんだから当然か。
バキバキという金属音と何かが焼ける音、長く感じた数秒の後、視界が青に戻った。
気嚢を抜けた。
キャノピーをの割れ目を埋めたパテが少し解けたらしく、にじんだようになっている。
左に重りをつけられたようなガタつく挙動が消える。
≪とれたようですね≫
袋のように風をはらんでいた布が一部焼けて抵抗がなくなったんだろうか、絡んでいた網が切れたのか。まだ風切音がおかしいが挙動はいつも通りに戻った。
翼についていた布が黒い墨になって散っていくのが見えた。ぶっつけ本番の無茶だったがうまく行ったか。
≪具合はどうです?≫
「なんとか行けそうだ」
≪結構。では片付けましょうか≫
「おうよ!」
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「いくぜ!」
今は左のシールドが使えないからあまり無茶はできないが、そんな心配は不要だった。
ラサのカノンが飛び、海賊の騎士の意識を其方に散らせてくれる。
カノンの弾に追われるように逃げる騎士を向けて一気に距離を詰めた。
「死んどけ!」
ブレードを振るが、間一髪でかわされた。やるな。
≪逃がしませんよ≫
コミュニケーターから声が聞こえて、わずかに遅れて爆発音が響く。今切り損ねた海賊の逃げる進路に火球が膨らんでいた。
爆風にあおられた騎士が火を噴きながら挙動を乱す。
カノンでこっちに追い込んでおいて、俺が仕留められなかったとみるや、即逃げ道をあのボムカノンでふさいだわけか。
≪仕留められないとは、まったく。腕が落ちてるんじゃないでしょうね?≫
「こっちは乗り手もつかれてんだよ、無茶言うな」
連戦の疲れもあるが、帆網榴弾で消耗させられたのが案外効いている。
姿勢制御がそろそろおぼつかなくなってきているな。
しかし、連携なんてタイプじゃなさそうなんだが、見事に俺の動きに合わせてくれている。
普段のグレゴリーやローディとの連携に不満があるわけじゃないが、システィーナのうまさはけた外れだ。
俺の動きを読むようにしてカノンで敵を追い込んでくれる。
エースドライバーとともにサポートドライバーが強いと早いチームができる、というのはよく聞く話だが、まさにその通りだ。
『くそ、一角獣!砲撃準備が出来次第すぐ打ちなさい!』
「させるか!」
あの砲撃をまたやられちゃかなわない。
機首を砲撃艦に向ける。
≪一機行きましたよ。自分で何とかしなさい≫
システィーナはホルストと撃ち合いをしている。
流石にガトリングカノンを持っている上に、ステルス付きの灰の亡霊を片手間で抑えることはできないらしい。
「ああ、大丈夫だ!」
砲撃艦の間に割り込もうとしてきた騎士が帆網榴弾を撃ってくるが。
タネが割れれば対処はどれだけでも出来る。
大きく広がる弾、ただし有効射程は短い、実弾武器だから連射は効かない、ということはさっきの攻防で分かった。
早い段階でラインを変え、初弾を大きめの回避機動でかわす。広がった網が震電のはるか横を通り過ぎていった。
二発目を撃つ前にアクセル全開で一気に距離を詰める。
騎士がグレネードランチャーのような帆網榴弾を捨てて慌ててカノンを構えようとするが。
「遅い!」
武装の選択が甘いな。シールドが一枚ない今は、最初からカノンを撃たれるほうが嫌だった。
右に避けてすれ違いざまにブレードで切り裂く。アームレバーに手ごたえがあって、ウイングの一部が飛ぶのが見えた。
砲撃艦の右舷が迫る。どこを切るべきか。気嚢を切るだけじゃ砲撃は止められないか。
機首を沈めて、飛行船の下をくぐるように飛ぶ。
「悪く思うなよ!」
交錯するときに、砲撃艦の船体を輪切りにするようにブレードで切り裂いた。
白いエーテルの光が明滅して、砲身の一部でカノンを被弾した時のように爆発が起きる。
砲身をぶった切った。流石にこれならもう打てまい。
周りを見ると、無傷だった1隻の飛行船も被弾して昨日から煙を噴き上げていて、騎士も灰の亡霊を除いてすべて消えてしまっていた。
2人で攻勢に出てわずか3分足らず。大勢はあっという間に決した。
騎士・ラサ
建造者・不明
海賊団・クリムゾンのリーダー、システィーナ・ファレイの専用機の内1機。赤錆色に塗装された中型機。
本人は、血の色、と称している赤錆色の機体で空戦ではかなり目立つが、自分が目立つことによって相手の戦意を失わせるという意図もある。
機体自体のスペックは震電ほど極端ではないものの、軽装甲で機動性を重視したタイプ。
特殊な装備や何かに特化したピーキー性能ではない、スタンダードな高性能機。
システィーナの操縦技術の高さも相まって、機動力を生かして間合いを掌握し近接戦、遠距離戦のいずれにも対応できる
武装は時折変更されるが、メイロードラップ参加中の現在は左手はシールド転換型ブレード、右手はカノンとエーテルボムカノンの縦の二連装式カノン。
右手のカノンは上下二連装式で、上の銃口は普通のカノンで、その下にグレネードランチャーのようにボムカノンの砲口が装備されている。
装備の関係で現在は左右のバランスが良くない。
エーテルボムカノンは工業ギルドで開発がすすめられている、発射後に一定距離を飛ぶか何かに着弾すると爆発して火球を滞留させるもの。
本機のものは、それを騎士に搭載するために小型化したものである。入手ルートは不明。
もともと海賊の騎士を追い払うための艦砲用に作られているため火球の威力は高く、直撃のみならず、近距離で爆風を浴びれば通常の騎士ならほぼ一撃で戦闘不能となる。
機体のコアのエーテルを使って撃っている通常のカノンとは異なり、エーテル砂を使った弾丸を使用しており、この点では我々の世界の銃に構造が近い。
4発まで連射可能。弾倉を変えればまた撃てるが、飛行中に弾倉を入れ替えるのは難しいため実質的には4発のみ。




