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最終日 陥穽

ガールズラブが含まれます。嫌いな人はご注意ください。


ネット小説大賞、一次通過しました。

読んでくれてる皆様に感謝。

≪ディートさん‼どうするつもりですか?≫


コミュニケーターから騎士団員の声が聞こえた。


「あの機体は灰の亡霊ブラウガイスト。この間の討伐で取り逃がしたホルスト・バーグマンだ」


≪なんですって?≫


驚いた声が返ってくる。

知らないのか、と思ったが。あいつと直接交戦したのは俺とトリスタン公だけだから知らないのも無理はないかもしれない。


「あいつは俺をご指名だ。俺が相手する」


≪……了解しました≫


「一人で正々堂々と挑む、なんてタイプじゃない。周りに注意してくれ!」


周りは大きめの雲が点在しているだけで、見晴らしは割といい。

今のところ機影も飛行船の姿もないが……一人で来るタマじゃないし、こいつを搭載した飛行船は必ずいるはずだ。


『まったく随分な言われようじゃないですか』


コミュニケーターからホルストの声が聞こえる。コミュニケーターに割り込まれたか。

さっきの耳障りなハウリング、何だと思ったが。どういう仕組みかはわからないが、多分あれが回線ジャックのようなものなんだろう。


「なにか間違ったこと言ったか?」


高く上空に飛び上がった灰の亡霊の姿が見える。まだステルスは展開してない。なめてんのか?


『私は当然の策を巡らせているだけですよ』


「ああ、そうかい」


≪全機、周辺への警戒を怠るな!援護を要請しろ≫


騎士団員の声が聞こえて、アクーラから出撃したレナスが散開していく。


昨日までアクーラの周囲を固めていた飛行船の多くはすでにコースの方向に行ってしまっているし、さっき一隻沈められた。

だが、それでもまだ何隻もの飛行船とそれに搭載されたレナスが周りにいる。海賊が来たところで、多少の数では切り崩せない。


正直言って、ホルスト自身が出てくるとはかなり意外だった。こういう後ろで策を巡らすタイプの奴が表に出てくるとは。仕留める絶好の機会だ。

どうせ今後もろくでもないたくらみを巡らすだろうし、マリクの話を聞く限り今後も俺を狙ってきそうだからな。


「今度こそ沈めてやる!」


『そうはいきませんよ』


キャノピーのヒビを埋めた白いラインは邪魔ではあるが、灰の亡霊ブラウガイスト一機を追う分にはさほど支障はない。


灰の亡霊ブラウガイストが下がりながら右手のガトリングカノンを撃ってくる。

槍のように長かった前のバージョンより銃身が短い。取り回し重視にしたらしいな。


『あなたの忠告通りですよ、ディートさん』


「お役に立てて光栄だ。3度目は無いようにしてやる」


ステルスを時々展開しながら、逃げるように撃ってくる。前戦った時のようにステルスを展開したまま撃ってくるわけじゃない。

自分からわざわざ突っかかってきたのに、かなり消極的な戦い方だ。


……というよりあからさまに誘ってやがるな。

さっきまでは周りにレナスや騎士団の飛行船がいたが、見えなくなってしまった。アクーラの巨大な姿も雲の向うだ。


周りに誰も居ないところで正々堂々一機打ち、というのはシスティーナならともかく、こいつについては絶対にありえない。どこかに伏兵でも伏せてあるんだろうが。

周りは青い空が果てしなく広がっていて、大規模な飛行船や騎士を隠せるような大きな雲の塊とかは見当たらない。

少なくともこの辺りには伏兵はいないと見た。それに、あまりアクーラから離れて孤立するのも気分が良くない。


「ここで終わらせてやるぜ!」


ガトリングカノンの速射性は前に戦った時と変わらない。

だが、銃身を短くしたためなのかわからんが、弾がばらける感じだし、シールドで受けた感じ、単発の威力も下がっている。前のように一点集中でシールドを一瞬で割るような性能じゃない。


左に大きく回り込んでアクセルを全開にした。

シートに体が押しつけられるいつもの感覚、震電が一気に最大戦速まで加速し、灰の亡霊ブラウガイストが近づく。

慌てたように灰の亡霊がステルスを展開した。

空に溶け込むように姿が消える……が遅い。


操縦の腕が一足飛びに上がるなんてこともない。

おびき寄せるつもりだったんだろうが、悪だくみが発動する前に切り落とせばいいだけだ。


「食らいな!」


操縦桿にノックバックのような手ごたえがあった。

視界の端に灰色の装甲版が飛んでいくのがみえる。ステルスを発生させている装甲が切れて、切り取られた様に灰の亡霊の姿が一部分だけ見えた。

騎士の一部だけが飛んでいくのが見えるのは、なんかシュールな光景だ。


「わざわざ来たくせに随分お粗末だな」


『さすがにやりますね』


「罠に誘い込むつもりだったんだろうが、その前に終わっちまいそうだな」


前は夜だったが、今は昼だ。ステルスの一部が切れてしまえばなんとか追いかけれる。

それに、さっきの慌てた避け方を見る感じ、やはり操縦のスキルは大したものじゃない。

ただ、こっちも万全の状態じゃないし、今はいつものブレード二刀流じゃない。

完全に孤立する前にケリつけてやる。


≪ディ……さん……応…・…・・…・・…≫


「どうした?」


コミュニケーターから雑音が聞こえた。雑音の向こうにかすかに声が聞こえる。

電波状態の悪い所でラジオでも聞いているかのようだ。これは、アクーラからの通信か?


『いえいえ、計画通りですよ』


雑音が途切れ、やけにはっきりと、ホルストの声だけが聞こえた。

突然、先を逃げるように飛ぶ灰の亡霊の真横の、青空の一部がパネルが剥がれるように割れる。


「なんだ?」


『もはやあなたは私たちの手の内だ』


細い金属の骨組みと布がばらばらと落ちる。空に現れた亀裂から姿を現したのは4隻の飛行船だった。



---


前にも見たステルス飛行船か。

誘っているのは分かっていたが、こんな形で伏兵を置いていたとは。隠れられるものがないから、と油断してた。


「ちっ」


囲まれるのは不味い。が、さすがに震電もその場で回れ右できるような機動性はない。


震電の機首をいったん下げて、飛行船の間を縫うように一気に急上昇した。

天地が逆になったコクピット、宙返りした頭の下で雲海と飛行船が見えた。


それぞれの飛行船から騎士が次々と舞い降りて、飛行し始める。

逃げるか。単純な足の速さなら震電についてこれる騎士はそう多くない。

振り切って逃げる位は可能だ。


「アクーラ、応答してくれ」


一度後退して、騎士団と合流を図ってもいいんだが。しかし、そうなればホルストは逃げてしまうだろう

とはいえ、一対一ならともかく、単独で飛行船4隻と5機の騎士と戦うのは無理だ。出来ればレナスが何機か援護にきてくれるがベスト。

もう一度コミュニケーターで呼びかけるが……返事がない。


4機の騎士は、2機が俺の退路を塞ぐかのように距離を取って、アクーラの方向に飛んだ。

空は広いし、震電の機動力なら並みの騎士2機程度は強行突破して振り切ることはできなくはない。


もう二機は飛行船を守るかのように旋回する。こっちに向かってくる様子はない。

4機で包囲してくるか、と思ったが。


「手の込んだことをしてくれるな」


『何がですか?』


「たかが騎士の乗り手一人を罠にはめるのに、随分と戦力を動員したもんじゃないか」


ステルス飛行船に騎士5機まで動員して俺を罠にはめるとはご苦労なことだ。


『おや、何か勘違いをしているようですね』


「なんだと?」


『あなたを捕らえることも目的の一つではありますが、第一目標ではありません。自惚れてもらっては困りますよ』


第一目標?

だがこんなところで飛行船と騎士を展開させても何もならないと思うが。

敵の騎士もすぐに攻撃してくる気配はない。旋回しつつ様子を伺う。

改めて見ると、飛行船に一隻見慣れないものが混ざっていた。


4隻のうち3隻は見慣れたタイプの飛行船だ。

普段よく見る、というかフローレンスのほとんどの飛行船は貨物船と設計を共有しているから、割と形に共通性がある。

金属フレームで保護された巨大な気嚢。その下にはずんぐりとしたキャビンがあり、倉庫になっていたり客室になっていたりする。そして、最下層には騎士が係留されている、という形だ。


例外は、アクーラのような双胴気嚢で、気嚢の上に甲板をはっているようなもの。

もしくは、この世界に最初に来た時にみたウンディーネ号のような、気嚢のフレームに客席を設置したような、特殊な客船くらいだろうか。


そういう意味では、4隻のうち1隻は異質な形をしていた。

普通の飛行船より一回り小さい気嚢、そして、細長いキャビン。普通の飛行船なら両舷についている大砲も装備されてないらしく、砲口用の窓もない。

そして、他の3隻がこの一隻を守るように周囲に配されている。


「なんだ、こいつ」


前に回り込んだ。

期首は普通の飛行船は地球で言うところの船の舳先ようにとがっていたり、機種によってはガラス張りの操舵室だったりするが、そのどちらでもなかった。

機首には二本の角の突起が伸びている。その間には円筒のようなものが突き出していた。


---


あの円筒はなにか、一瞬考えてすぐ思い出した。


あれは……砲口だ。

飛行船によくあるような大砲じゃない、アストラや他の騎士がもっているようなカノンの砲口にそっくりだ。

カノンを搭載した飛行船なのか、あれは。


「砲撃艦……か?」


『その通り。お分かりですか?あなたはあくまで第二目標ですよ』


……狙いは俺じゃなかった。アクーラだ。


カノンは原理はよくわからないが、ビームとかレーザーのような光学兵器に近いものらしい。

騎士が使うものは、高機動で飛ぶ騎士同士での打ち合いに使うから、狙い撃ちできる、いわゆる有効射程はそこまで長くない。

それに、距離が離れれば威力も落ちる。


だが、ただカノンの光弾自体はかなり遠くまで届く。

そして、騎士に装備されたものよりはるかに大口径のあれならば。そして、的が大きければ。

大口径のカノンでこの距離から狙い撃ちもできるかもしれない。


補給と修理の拠点であるアクーラを落とされれば、騎士団の遠征にはおそらく多大な支障が出る。

普段はアクーラは騎士団の飛行船に厳重に守られているだろうが。メイロードラップの時はガードが薄くなる。

特に、今回のように、俺のようなダンラスがいて護衛の飛行船が先行してしまうときは。


『砲撃しなさい!』


「させるか」


近づこうとしたが海賊の騎士がラインをふさいできた。

厄介なことに二機とも灰の亡霊ブラウガイストと同じ、ガトリングカノンを装備している。


1機分でも大変なのに、2機から撃荒れると、文字通りの弾幕だ。流石にかわし切れない

しかも、狙い打って落としに来ている、というよりスペースを空けて、俺を飛行船い近づけさせない動きだ。


「アクーラ!砲撃が来る!」


言ってどうなる門でもないかもしれない。だが、せめて警告だけでも、と思ったが。

コミュニケータからまったく応答がない。通信範囲外ではないはずなのに、なぜだ。


「応答しろ!」


『ははっ、無駄ですよ』


あざ笑うかのような声が聞こえた。

コミュニケーター越しにでも、勝ち誇った感じが伝わってくる。


「何か……しやがったのか?」


『さっき飛行船を落とした時に置いてきたんですよ。

回線妨害装置ラインジャマー、というものだそうですが』


そんなもんまで作っているのか。

灰の亡霊ブラウガイストのステルス、槍騎兵ランツィラーのパイルバンカー、ステルス飛行船、そして回線妨害装置ラインジャマー

どれも、とてもじゃないが、海賊が作れるものとは思えない。一体なんなんだ。


『さあ、では。特等席で見物しなさい、騎士団の肺に刃が突き刺さる瞬間をね』


「てめぇ!」


砲撃用の飛行船がわずかに機首の方向を変える。

あれの砲撃を受けたら……アクーラには100人近くは乗り込んでいたはずだ。

救命ボートなんてものは無い。撃墜されれば……間違いなく全員死ぬ。


「撃たせるか!」


『なっ!!』


左右から近づくのは騎士と飛行船が邪魔していて無理だが。前からならどうだ。

アクセル全開で旋回して、前に回り込む。撃つ前に止められるか。


『砲撃やめ!やめなさい!』


慌てた声がコミュニケーターからから響く。

左手のカノンを構えたその時、砲口の中に光が瞬いた。ヤバい。

左右のブレードとカノンをシールドに切り替えて震電を上昇させる。


同時に目の前に光がはじけた。



……レースでスピンしたところで横っ腹に後続車が突っ込んできたときがある。

轟音と体がばらばらになるかと思うほどの衝撃、360度回る視界。車ごと地面にたたきつけられたところは覚えていない。あの時だけはさすがに死が見えた。


その時を超える一撃。頭が振り回され、口の中に血の味が広がる。あの時と同じように目の前が真っ暗になった。


『なんというバカだ!信じられない!』


最後に、誰かの声が聞こえた。


『なんてことだ、捕らえろという……』



---



……


温かい吐息が顔にかかって、唇からやわらかい感触が離れた。

額が触れそうなほど近い所にフェルのいつも通りのすました顔。頬がちょっと赤く染まっているのは酒のせい、では多分ないな。


機械油亭の俺の部屋。背中には洗い立ての白いシーツとちょっと硬いベッド。

あおむけになった俺に覆いかぶさるようにフェルが体を寄せてきていて、その向こうには天井からつりさげられたがランプが見えた。


滑らかな肌が触れ合うのが心地いい。ちょっと体温が低いフェルのひんやりした体が酒とかいろんなもので火照った体を冷やしてくれる。

四つん這いみたいな姿で俺を見下ろすフェルの銀色の瞳がちょっと険しかった。

耳が寄るようにピンと立っている。怒ったときの仕草だ。


「上の空……」


「……あ、いや」


明日の仕事のことを考えていたんだが、どうやらバレたらしい。

ちょっと怒った顔でフェルがもう一度顔を寄せてくる。逃げようにも、俺はあおむけで上にのしかかられているから逃げようがない。


下唇にキスされた、柔らかい感触が下唇を包むが……やばい、これは。

このあとに何が起きるか分かって身をよじろうとしたが……遅かった。


精霊人独特なのか、フェルのものがそうなのか他とキスしたことがないから分からないが、ちょっととがったフェルの犬歯が唇に刺さった。


「いってぇ」


針で刺されたような痛みが敏感な唇から脳天に突き抜けた。

怒るとこれをフェルはよくやってくるのだが、甘噛みくらいならともかく、本気で噛まれるとこれが本当に痛い。


「お前な……」


いくらなんでも、と抗議しようと思ったが……悲しそうな、というか寂しそうなというか、そんな目で見つめているフェルを見ると何も言えなくなった。


「……あたしのことを見てよ……ダイト」


そう言って、俺にのしかかるように肩に顔を埋めてきた。ぴったりと肌と肌が触れ合う。

さっきより体温が下がってる気がする。


「……二人きりで居るんだよ?」


「ああ……」


保守的な社会、というか地球でも歴史的にはそうだったらしいが。同性愛に対するフローレンスの住人の目はかなり控えめに言っても温かくない。


俺は男だが見た目は女ということで、無意味なトラブルを避けるために公共の場所ではベタベタしない、という約束をしてある。

代わりに二人きりになる時間は普段の澄ましたというかクールな印象はどこへやら、という感じで甘えられるんだが。


「……一人にしないでよ」


涙でちょっと湿った頬とさらさらした短い銀髪が俺の頬に触れる。泣いているような、震える声が耳元で聞こえた。

2人きりの時間は、俺が思う以上にフェルにとっては貴重で大事なんだろう。


「……御免な」


黙ってフェルが俺の首に手を回してくる。俺もしなやかな体を抱き寄せた。


そうだっけ。約束したんだった。



一人にはしない、と。




設定などを描いて見ようと思います。



飛行船・一角獣アインホルン


建造者・不明


小型の砲撃用飛行船。通常の飛行船と比べて一回り小さい。


通常の飛行船は大砲を両舷に備えているが(ただし、騎士に対してはほとんど当たらないため申し訳程度の威嚇の色合いが強い)それらを排し、船体に専用のエーテル炉と大口径のカノンを装備している。

長い砲身を船体に縦に通し、機首から砲撃を行う。

騎士に搭載されたカノンと比べ威力はかなり高く、通常の貨物船程度であれば胴体を貫通するほどの威力がある。


エーテル炉を使用した砲撃艦自体は技術的には実用可能で、フローレンスでも建造できるが、エーテル炉の製造コストが高いこと、騎士団は海賊討伐を主任務としており、大口径大火力の砲撃専用艦の需要が高くないこともあり、実際は建造されていない。



なお、本作中世界では飛行船同士の砲撃戦は通常は発生しない。

これは至近距離から大砲の打ち合いを行うと、高確率で共倒れになるためである。


飛行船同士が近接した場合は、お互いに牽制し合いつつ離脱するか、上を取る等として相手の飛行船に乗り込みをかけることになる。


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